「黒字だから法的整理は無理」。
それは誤りです。
法的整理の可否は、黒字かどうかの損益ではありません。
債務超過の有無と、資金が尽きる速度、この2点で決まります。
会計は、一定期間の成果を示す道具にすぎません。
法は、いま・この時点での支払能力と財産状態を問います。
軸が違う以上、PL(損益計算書)の数字がいくら整っていても、不十分です。
PLの黒字に安心し、BS(貸借対照表)と資金繰りを見ない。
この誤った優先順位が、再建の選択肢を狭めます。
実務でやるべきことは単純明快です。
・資金繰りを週次で把握する。可能なら日次まで精緻化する。
・純資産を月次で検証する。
この2つを継続すれば、危険水域に入るタイミングが見えてきます。
さらに、任意対応から法的手続へ切り替える条件を、役員会で数値基準として決めておくこと。
これを議事録に残し、全員が拘束される形にすることです。
実例をあげると、同じ業種、同等程度の規模のA社とB社がありました。
当期黒字のA社は売掛金の回収が遅れ、支払日に現金が不足しました。
この時点で倒産法上の基準に接近し、金融機関との交渉は一気に不利になりました。
一方で、小幅赤字のB社は純資産が厚く、資金の持ちも確保されていたため、スポンサー探索と部分譲渡を同時に進められました。
差を生んだのは損益ではありません。
資金と純資産の運転でした。
要するに、見るべきは損益ではない。
手許資金の残存週数と純資産の厚みです。
判断は非情なほど単純です。
法的整理の入口は、損益ではない。
債務超過と資金繰り――この2つで決まります。
だからこそ、PLの良い数字に酔わない。
資金と純資産の現実に目を凝らす。
これが、再生を左右する唯一の運用です。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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