02197_「コンプライアンスは万全」?!_監査役弁護士が“盾”になるという幻想

多くの経営者は、著名な法律事務所から弁護士を監査役として招き入れさえすれば、安心できるという甘い常識を持っています。

「金融機関にも『コンプライアンス体制は万全』と説明できる」
「いざというときは、彼らが盾となって最前線で守ってくれるだろう」

弁護士が
「会社を守る盾」
になってくれると信じているからです。

しかし、実は、その
「盾」
は極めて脆いという真実を、あなたは知っていますか?

その弁護士が、あなたの味方でいてくれる保証など、どこにもありません。

企業不正が起きたとき、最も鋭く責任を追及されるのは、
「不正を止められたはずの立場だったのに、止めなかった人」
すなわち、見張る側の人間が見逃したときの責任なのです。

「コンプラの盾」が崩壊する決定的な瞬間

あるケースでは、粉飾に関与した社長本人だけでなく、監査役、顧問弁護士、そしてその法律事務所にまで、強い疑義の目が向けられました。

銀行は、
「社長本人に会うには弁護士の同席が必要だ」
と主張する顧問弁護士に対して、
「ふざけたことを言うんじゃない」
と激怒。

さらに、
「監査役である弁護士にも、民事・刑事での責任追及が必要ではないか」
とまで踏み込みました。

・ハンコを握り会社の動きを掌握している顧問弁護士
・粉飾を「見張るべき立場」でありながら黙認している監査役
・その監督不行き届きを問われかねない法律事務所

こうした立場の人間は、銀行が激怒したとたん、最優先事項が
「会社」
から
「自身の弁護士資格(バッジ)と、所属する法律事務所の存続」
へと即座に切り替わります。

要するに、
「盾」
は、彼らの
「自己保身のスイッチ」
が入ることで、一瞬にして機能停止するのです。

(1) 「コンプラ体制」ではなく「懲戒リスク」

監査役弁護士は、会社法第429条に基づく巨額の民事賠償請求と、弁護士会による懲戒処分という
「究極のリスク」
に直面します。

「バッジが飛ぶ」
すなわち弁護士資格を剥奪されるリスクが現実になったとき、監査役弁護士は一瞬で態度を変えます。

(2) 「味方」から「裏切り者」への転換

監査役弁護士は、自らの資格が危うくなった瞬間、
「粉飾を見逃した共犯者」
という疑いを晴らすため、真っ先にあなたを見捨てます。

「私は止めようとした」
「経営陣の独断で、私も被害者だった」
そう語りながら、銀行側の証人に“転身”していくのです。

場合によっては、
「不適切な顧問」
として撤退し、法律事務所としての責任から逃れる動きに出ることもあります。

「法律事務所自体が、粉飾加担協力、粉飾見逃しについて責任があり、賠償請求の被告となってもおかしくない立場だ」
「刑事告訴も辞さない」
という銀行団の攻撃が始まれば、法律事務所はもはや再建支援などしません。

「どうやって自分たちの責任を有耶無耶にするか」
だけが、彼らの最優先になるのです。

防御の起点は「盾」への期待を捨てること

経営者にとっての究極の防御策は、不正に手を染めないことに尽きます。

いかに名のある法律事務所の肩書きであっても、それがあなたの自由を守ってくれるわけではありません。

しかし、もし、あなたがすでにその一線を越えてしまった、あるいは、その責任追及が不可避となったのなら、まず捨てるべきは、
「コンプラの盾」
という幻想です。

外部の
「盾」
に頼るのではなく、あなた自身が銀行団と向き合い、自発的にクリーンな再建体制を提示することです。

あなたが期待する
「コンプラの盾」
は、あなたの不正が発覚した瞬間、自らのキャリアを守るために、あなたに不利な証言をし、あなたの責任を追及する側にいち早く回る、という現実を直視せよ、ということなのです。

本当の「盾」は、あなたを止めてくれる人

監査役。
顧問弁護士。
社外取締役。

彼らがいることで安心できると思うのは、幻想です。

彼らの真の価値は、
「いること」
ではなく、
「何をしたか」
「何を止めたか」
で評価されます。

もし、その人たちが
「中立だから」
「経営判断には深入りしないから」
などと言って、不正の兆候を見て見ぬふりをしたとしたら、最終的な責任は、経営者であるあなた一人にかかってきます。

経営者にとっての
「本当の盾」
とは、
・その場で「これはまずい」と止めてくれる人です。
・「それは違法ではないか」と口にする勇気を持つ人です。
・そして、それを記録に残す覚悟がある人です。

ただ名前を貸してくれる人や、形式的に議事録に名前が載るだけの人、経営に口を出さないと念を押してくる人は、
「盾」
ではありません。

むしろ、最後にあなたを刺してくる
「抜け道のない責任リスク」
そのものです。

だからこそ、あなたが経営者であるなら、
「コンプラは万全」
と思っているその時こそ、自分に問い直してください。

その監査役弁護士は、いざというとき、
「止めてくれる人」
なのか?

それとも、
「自己保身に走る人」
なのか?

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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