多くの経営者は、著名な法律事務所から弁護士を社外取締役や社外監査役として招き入れさえすれば、安心できるという甘い常識を持っています。
「金融機関にも『コンプライアンス体制は万全』と説明できる」
「いざというときは、彼らが盾となって最前線で守ってくれるだろう」
社外役員となった弁護士が
「会社を守る盾」
になってくれると信じているからです。
しかし、実は、その
「盾」
は極めて脆いという真実を、あなたは知っていますか?
その弁護士が、あなたの味方でいてくれる保証など、どこにもありません。
といいますか、社外取締役であれ、社外監査役であれ、彼らのクライアントは、社長や経営陣、すなわち、社長や経営陣を選任した多数派株主ではありません。
むしろ、社外役員らに期待されるのは、少数派株主の、少数派株主による、少数派株主のための会社の監視や不正や不当な経営執行の是正を行うことです。
要するに、社長や経営陣を仮想敵として、野党的な掣肘をする役割なのです。
企業不正が起きたとき、最も鋭く責任を追及されるのは、
「不正を止められたはずの立場だったのに、止めなかった人」
すなわち、見張る側の人間が見逃したときの責任なのです。
「コンプラの盾」が崩壊する決定的な瞬間
あるケースでは、粉飾に関与した社長本人だけでなく、社外取締役や社外監査役、顧問弁護士等にまで、強い疑義の目が向けられました。
貸付が焦げ付きそうな事態を知った銀行は、
「社長本人に会うには弁護士の同席が必要だ」
と主張する顧問弁護士に対して、
「ふざけたことを言うんじゃない」
と激怒。
さらに、
「社外役員である弁護士にも、いろいろお伺いをして、場合によっては責任追及が必要ではないか」
とまで踏み込みました。
・粉飾を「見張るべき立場」でありながら黙認している社外役員
・経営陣と一体化している顧問弁護士
こうした立場の人間は、銀行が激怒したとたん、最優先事項が
「会社」
から
「自身の弁護士資格(バッジ)を守ること」
へと即座に切り替わります。
要するに、
本来経営陣の「盾」となってくれるはずの社外役員や弁護士
は、彼らの
「自己保身のスイッチ」
が入ることで、一瞬にして機能停止するのです。
(1) 「コンプラ体制」ではなく「懲戒リスク」
社外役員は、代表訴訟等のターゲットにされることや、さらには弁護士会による懲戒処分という
「自身が人生を失うリスク」
に直面します。
「バッジが飛ぶ」
すなわち弁護士資格を剥奪されるリスクが現実になったとき、社外役員弁護士は一瞬で態度を変えます。
(2) 「味方」から「裏切り者」への転換
社外役員弁護士は、自らの資格が危うくなった瞬間、
「粉飾を見逃した共犯者」
という疑いを晴らすため、真っ先にあなたを見捨てます。
「私は止めようとした」
「経営陣の独断で、私も被害者だった」
そう語りながら、経営陣の責任を追及する側に“転身”していくのです。
「社外役員に、粉飾加担協力、粉飾見逃しについて責任があり、賠償請求の被告となってもおかしくない立場だ」
「刑事告訴も辞さない」
という債権者や利害関係者の攻撃が始まれば、弁護士は、我先に逃げ始めてもおかしくありません。
「どうやって自分たちの責任を有耶無耶にするか」
だけが、彼らの最優先になっていくのです。
防御の起点は「盾」への期待を捨てること
経営者にとっての究極の防御策は、不正に手を染めないことに尽きます。
いかに名のある弁護士や、立派な肩書きであっても、あなたが自由放埒にやらかした結果の尻拭いを最後まで、完璧にやってくれることを意味しません。
しかし、もし、あなたがすでにその一線を越えてしまった、あるいは、その責任追及が不可避となったのなら、まず捨てるべきは、
「弁護士=最後まで自分を見捨てない、頼りになる盾」
という幻想です。
あなたが期待する
「弁護士=最後まで自分を見捨てない、頼りになる盾」
は、あなたの不正が発覚し、あなたが不正の責任を負うべき人間としてクローズアップした瞬間から、自らのキャリアを守るために、あなたに不利な証言をし、あなたの責任を追及する側にいち早く回るかもしれません。
その現実を直視せよ、ということなのです。
本当の「盾」は、あなたを止めてくれる人
社外監査役。
顧問弁護士。
社外取締役。
彼らがいることで安心できると思うのは、幻想です。
彼らの真の価値は、
「いること」
ではなく、
「何をしたか」
「何を止めたか」
で評価されます。
もし、その人たちが
「自分たちは中立的な立場なので、経営判断には深入りしませんから」
などと言って、一線を引いてしまえば、最終的な責任は、経営者であるあなた一人にかかってきます。
経営者にとっての
「本当の盾」
とは、
・その場で「これはまずい」と止めてくれる人です。
・「それは違法ではないか」と口にする勇気を持つ人です。
ただ名前を貸してくれる人や、形式的に議事録に名前が載るだけの人、経営に口を出さないと念を押してくる人は、
「盾」
ではありません。
さらには、最後には、責任を追及する側と同調して、あなたを刺してくる(ガバナンスとかコンプライアンスとか、さぞや耳障りのいい美辞麗句が並べ立てながらでしょうが、やっていることは、恩義や仁義に悖るようなおぞましく下品な振る舞いです)
「小早川秀秋」
のような、恐ろしい敵、とも言えます。
だからこそ、あなたが経営者であるなら、
「名前が通っていて、肩書が立派な、社外役員や顧問弁護士がたくさんいるから、私は守られているし、自由に、気ままに経営ができる」
と思っているその時こそ、自分に問い直してください。
その社外役員弁護士たちは、
「あなたのことを本当に心配して、辞める覚悟で諫言してくれる人」
なのか?
それとも、
「形勢が変われば、自己保身に走り、さらにはあなたを攻撃するような人」
なのか?
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
