02221_企業法務ケーススタディ:回収不能と思われた債権を蘇らせる「隠し資産」と「奇策」_供託金調査と“敵の敵”を利用するBプラン

「取引先からの支払いが止まった。連絡も取れない」
「噂では、あの会社、別のトラブルで法務局に供託金を積んでいるらしい。それを差し押さえれば回収できるのではないか?」

債権回収の現場では、正面からの請求が行き詰まったとき、こうした噂に一縷の望みをかけることがあります。

しかし、法律の壁は厚く、単に
「お金を貸している」
「売掛金がある」
というだけでは、相手の懐(供託金)を覗き見ることすら許されません。

では、諦めるしかないのでしょうか?

実は、正面突破が無理な場合でも、搦手(からめて)から攻め込む法的アプローチが存在します。

本記事では、回収困難な事案における
「見えない資産(供託金)」
へのアプローチ方法と、
「三角関係を利用した回収テクニック」、
そしてそして最終手段としての
「債権者破産」
について解説します。

この記事でわかること:

• 自力では見えない隠し資産も、弁護士の持つ合法的な調査ツール(虫眼鏡)である弁護士会照会(23条照会)を使えば見破れる可能性があること
• 「敵の敵」を味方につけて回収を図る「債権譲渡×相殺」のスキーム
• 煮え切らない債務者に引導を渡す「債権者破産申立て」の効用と、費用倒れのリスク

相談者プロフィール:

株式会社 プロテクト・サイバー 営業本部長 鉄壁 守(てっぺき まもる) 
業種: セキュリティシステム開発・卸売
相手方: 株式会社 イリュージョン・システム(支払いを滞納し、連絡が途絶えている取引先)

相談内容:

先生、取引先のイリュージョン・システムからの支払いがパタリと止まり、連絡もつかなくなりました。

正面からの回収は難しそうなのですが、業界の噂で
「あそこは別の特許トラブルを抱えていて、法務局に数千万円の供託金を積んでいるらしい」
と聞きました。

この供託金を差し押さえて回収できないでしょうか? 

いきなり法務局に乗り込んでも、
「個人情報だ」
「守秘義務だ」
と教えてもらえないと思いますが、先生のお力でなんとかこの
「開かずの金庫」
を開けられませんか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「自力では見えない隠し資産も、弁護士の合法的な「虫眼鏡=弁護士会照会(23条照会)」で見破る

鉄壁本部長のおっしゃる通り、債権者といえども、他人の財産状況を勝手に調査することは原則としてできません。

法務局の窓口で
「イリュージョン社が供託金を積んでいるか教えてくれ」
と頼んでも、門前払いを食らいます。 

しかし、弁護士に依頼して訴訟や差押えを準備している段階であれば、弁護士法23条の2に基づく
「弁護士会照会(23条照会)」
という合法的な調査ツールを使うことができます。 

自力では見えない隠し資産も、この弁護士の持つ調査ツール(虫眼鏡)を使えば見破れる可能性があるのです。

まずはこのルートで、噂の埋蔵金が実在するかどうかを確認するのが第一歩です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:奇策「敵の敵は味方」スキーム

仮に供託金がなかったり、差し押さえが困難だった場合でも、諦めるのは早計です。

噂にある
「別の特許トラブルの相手方」
を探し出すのです。

その相手方は、イリュージョン社に対して
「損害賠償を請求したい」
あるいは
「ライセンス料など絶対に払いたくない」
と敵対しているはずです。

そこに、御社が持っている
「イリュージョン社への売掛債権」
を安値(割引価格)で譲渡(売却)するのです。

債権を買った相手方は、自らがイリュージョン社に払うべき債務と、御社から買った債権を
「相殺(チャラにする)」
させることができます。

これにより、御社は不良債権をキャッシュに換えることができ、相手方も支払いを免れるという、まさに
「敵の敵を味方につける」
回収戦術が成立します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:ゾンビ企業のお葬式「債権者破産」

相手が完全に死に体で、どうにもならない場合、最終手段として
「債権者破産」
という大鉈(おおなた)を振るう方法があります。

通常、破産は自ら申し立てるもの(自己破産)ですが、法律上は、債権者からも
「この会社はもう死んでいます(支払不能)。お葬式(破産手続)をあげてください」
と裁判所に申し立てることが可能です。

相手を法廷に引きずり出し、管財人という公的な管理人を送り込んで隠し資産を洗い出させる強力な手段ですが、申立てには数十万〜数百万円の
「予納金」
という安くないお布施(費用)が必要です。 

相手が本当にスッカラカン(無資産)であれば、予納金分だけ赤字が拡大する
「費用倒れ」
に終わるリスクを孕んだ
「諸刃の剣」
でもあります。

モデル助言:

鉄壁本部長、お気持ちは痛いほどわかりますが、感情に任せて突撃しても
「開かずの金庫」
の前で立ち尽くすだけです。

まずは冷静に、以下のBプランを実行しましょう。

1 調査ツール(虫眼鏡)による隠し資産の確認

まずは弁護士会照会を活用し、供託金の実在を確認します。

噂の真偽を確かめ、空振りであれば無駄な労力を省きます。

2 「敵の敵」への接触(債権譲渡スキーム)

供託金が見込めない場合、特許トラブルの相手方に水面下で接触し、
「ウチの債権を買って相殺に使いませんか」
と持ちかけ、キャッシュの回収を図ります。

3 最後の切り札(債権者破産へのチラつかせ)

予納金のリスクがあるため実際に申し立てるかは慎重な判断が必要ですが、
「このまま逃げるなら、債権者破産を申し立てて徹底的に資産を洗うぞ」
という最強のプレッシャーカードとして懐に忍ばせ、相手を交渉のテーブルに引きずり出します。

結論: 

正面突破が不可能な
「回収不能」
と思われる債権であっても、法律という名の道具箱をひっくり返せば、搦手(からめて)から攻め込むルートは残されています。

自力では見えない隠し資産を弁護士の
「虫眼鏡」
で見つけ出し、
「敵の敵」
を利用し、あるいは
「引導」
を渡すか。

泣き寝入りする前に、知恵と奇策を総動員して、したたかに回収の可能性を探るのが、真の企業法務の姿です。

※本記事は、架空の事例をもとに、債権回収における弁護士会照会、債権譲渡および相殺、ならびに債権者破産等の一般的・戦略的アプローチを解説したものです。
実際の回収可能性や法的手段の有効性、予納金の額等は個別の事実関係や相手方の資産状況により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。
また、債権譲渡や相殺の実行においては関連法令を厳格に遵守する必要があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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