02223_企業法務ケーススタディ:債権回収の鉄則_仮差押えによる資産凍結の威力

 「相手の会社が危ない! すぐに裁判を起こして回収だ!」
と息巻く経営者。

しかし、ちょっと待ってください。

悠長に裁判など起こしている間に、相手の財産は他のハイエナたち(債権者)に食い荒らされてしまいますよ。

日本の裁判は時間がかかりすぎます。

「勝訴判決」
という名の立派な紙切れを手に入れても、相手の財布が空っぽなら1円も取れません。

本記事では、倒産寸前の取引先から確実に売掛金を回収するための必須テクニック
「仮差押え」
の威力と、その魔法を使うための
「代償(コスト)」
について、カレーライスに例えてわかりやすく解説します。

裁判を始める前に知っておくべき、プロの債権回収のお作法を大公開します。

この記事でわかること:

• 「訴訟(本裁判)」と「仮差押え」の決定的な違いと、両者が揃って初めて意味をなす理由
• 債権回収は椅子取りゲーム。危ない会社から回収するための「スピード勝負」の鉄則
• 仮差押えを発動するために必要な「3つの武器(疎明資料・ターゲット情報・軍資金)」

相談者プロフィール:

株式会社 ロック・ソリッド建材 営業本部長 石橋 叩(いしばし たたく) 
業種: 建築用特殊資材の卸売業
相手方: 株式会社 ファントム・ビルダー(資金繰り悪化の噂が絶えない地場ゼネコン)

相談内容:

先生、緊急事態です。 

取引先のファントム・ビルダーへの売掛金3000万円が焦げ付きそうです。 

あそこ、下請けへの支払遅延で、現場が完全にストップしているんです。

社長とも連絡がつきにくく、夜逃げ寸前というか、もう半分逃げているような状態です。 

すぐに裁判を起こして白黒つけたいんですが、ウチの法務担当者が
「裁判の前に『仮差押え』をした方がいい」
と言い出しました。

でも、
「仮」
のくせに、法務局に多額の保証金を積まないといけないし、手間もかかると聞きました。

面倒なので、いきなり本裁判(訴訟)を起こして、勝ってから堂々と差し押さえればいいんじゃないですか? 

どっちがいいのか、ズバッと決めてください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「訴訟」と「仮差押え」は“カレーとライス”の関係 

石橋本部長、根本的な誤解があります。

「訴訟(本裁判)」

「仮差押え」
は、ランチのメニューで
「A定食にするかB定食にするか」
と迷うような二者択一の関係ではありません。

訴訟は
「私が正しい(債権がある)」
ことを公的に認めてもらう手続き(権利の確定)です。

一方、仮差押えは、その権利が認められるまでの間、相手が財産を隠したり、他の債権者に食い荒らされたりしないように、現状を凍結する手続き(保全)です。 

これは
「カレー(訴訟)」

「ライス(仮差押え)」
の関係にあり、両方あって初めて
「カレーライス(確実な回収)」
という目的が達成できるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「勝訴判決」は現金引換券ではない 

「いきなり訴訟を起こして勝ってから差し押さえる」
とおっしゃいますが、日本の裁判は時間がかかります。

早くても半年、長ければ1年以上かかります。

現場がストップしているような体温の低下した企業が、半年後まで生き延びていると思いますか? 

勝訴判決を得た頃には、相手の銀行口座はすっからかん、不動産は競売にかけられ、文字どおり
「もぬけの殻」
です。

法律の世界では
「無い袖は振れない」
が最強の盾になります。

裁判で勝つことと、実際にお金を回収できることは、全く別の次元の話なのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「仮差押え」という強力な魔法の代償(担保金) 

仮差押えは、裁判で勝つ前に、裁判所の権力を使って相手の財産(銀行口座など)を凍結する、いわば
「合法的なフライング攻撃」
です。

相手の口座が凍結されれば、相手にとっては心肺停止レベルの致命傷になり得ます。 

だからこそ、裁判所もタダではその魔法を使わせてくれません。

「もしあなたの勘違いで相手の口座を凍結し、迷惑をかけたら、これで賠償します」
という人質(担保金)を要求します。

通常、請求額の20~30%程度の現金を法務局に積む必要があります。

一時的にキャッシュが寝てしまう覚悟(軍資金)が不可欠なのです。

モデル助言:

石橋本部長、結論を申し上げます。

「四の五の言わずに、今すぐ仮差押えをやりましょう」。

債権回収は情け無用の椅子取りゲームです。

音楽が鳴り止んでから(判決が出てから)動いたのでは、座る椅子(財産)は残っていません。 

至急、以下の
「武器」

「弾薬」
を準備してください。

1 疎明資料:契約書、注文書、納品書、請求書など、「ウチにお金を払ってもらう権利がある」ことを証明する書類一式 
2 ターゲット情報:相手のメインバンクの支店情報など、どこを凍結するかという的(まと)
3 軍資金:申立費用等の実費と、担保金(今回の場合は数百万円〜一千万円程度)

探偵ごっこをしている暇はありません。

これらを揃え、最短ルートで相手の首根っこ(銀行口座)を押さえに行きましょう。

結論:

ビジネスにおいてスピードは命ですが、債権回収においてスピードは
「すべて」
です。

悠長に裁判の準備をしている間に、虎の子の資産が逃げていってしまっては元も子もありません。 

まずは
「仮差押え」
で相手の急所をガッチリと掴み、逃げ道を塞いだ上で、堂々と裁判(あるいは交渉)に臨む。

これが、プロの債権回収の作法であり、悪夢を回避する唯一の手段なのです。

※本記事は、架空の事例をもとに、一般的な民事保全手続(仮差押え)の概要と法的効果、および債権回収の戦略的視点を解説したものです。
個別の事案における保全の必要性の判断、および担保金の額については、裁判所の裁量や事案の具体的事情により異なりますので、実際の法的手続きにあたっては必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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