02227_企業法務ケーススタディ:対ドイツ企業訴訟_日本を主戦場にする国際債権回収戦略_“地の利”と“時間”を味方にせよ

「ドイツの取引先とトラブルになった。でも国際訴訟なんて金と時間の無駄だ。泣き寝入りするしかない」 

そう諦めて、回収できるはずの数千万円の債権をドブに捨てようとしていませんか? 

もし契約書に
「日本の裁判所」
という魔法の言葉(管轄条項)が刻まれているなら、その判断は早計に過ぎます。

実は、ドイツ企業との訴訟は、最初の難関である
「送達」
さえクリアすれば、こちらが圧倒的に有利な
「ホーム戦」
に持ち込める、勝算の高いゲームなのです。

相手にとって、言葉も法律も通じない極東の島国での裁判は
「悪夢」
でしかありません。

本記事では、ハードルが高いと思われがちな対ドイツ企業訴訟において、
「ホーム(日本)開催」
のメリットを最大限に活かし、有利な和解や回収を引き寄せるための法務戦略について解説します。

この記事でわかること:

・スポーツと同じ「ホーム・アンド・アウェイ」の残酷なまでの格差が裁判にもある理由
・最大の難所「訴状の送達」という“長くて面倒な入場ゲート”を突破するための心構えとコスト感
・日本の判決がドイツで「紙切れ」にならない歴史的かつ法的な理由

相談者プロフィール: 

株式会社 フロンティア・ポリマー グローバル戦略統括部長 盾山 譲(たてやま ゆずる) 
業種:先端医療用ポリマー開発・製造
相手方:ファルケン・マテリアルズ社(ドイツの素材メーカー)

相談内容: 

先生、頭が痛いです。 

共同開発を行っていたドイツの取引先が、契約を一方的に破棄し、分担金の支払いを拒否して音信不通になりました。 

契約書には
「紛争は東京地方裁判所を専属的合意管轄とする」
と書いてあるので、日本で裁判はできるはずです。

しかし、社内会議では
「国際訴訟なんて泥沼だ」
「勝ってもドイツの資産を差し押さえられる保証がない」
「翻訳費用や弁護士費用で赤字になる」
と、弱気な意見ばかりです。

やはり、わざわざドイツ企業を相手に回収手続きをするのは現実的ではないのでしょうか?

泣き寝入りすべきでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:訴訟は「ホーム」が天国、「アウェイ」は地獄 

盾山部長、スポーツの世界を思い出してください。

サッカーでも野球でも、
「ホーム有利、アウェイ不利」
は鉄則です。

訴訟も全く同じです。

もし、御社がドイツに行って裁判をするとしたらどうでしょう? 

ドイツ語の書類、ドイツの法律、ドイツ人の裁判官、そしてユーロ建ての高額な弁護士費用・・・想像するだけで胃が痛くなりますよね。 

しかし、今回は東京地裁が管轄です。

つまり、相手を
「ホーム(日本)」
に引きずり込めるのです。

これは、御社にとっては
「いつものグラウンド」
ですが、相手にとっては
「言葉も法律も通じない完全なる敵地」
での戦いとなります。

この圧倒的なアドバンテージを自ら捨てる手はありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「送達」という名の“長くて面倒な入場ゲート” 

ただし、この有利な試合を開始するためには、1つだけ厄介なハードルがあります。

それが
「訴状の送達」
です。

日本の裁判所からドイツの会社に
「お前を訴えたぞ」
という手紙(訴状)を、条約に基づいた正式なルートで届けなければなりません。

これには訴状のドイツ語翻訳が必要ですし、外務省や大使館を通じるため、数ヶ月単位の時間がかかります。 

多くの日本企業は、この
「入場ゲート」
の面倒くささと翻訳コストに心が折れてしまいます。

しかし、ここさえ突破すれば、あとはこちらのものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:日本の判決はドイツでは「紙切れ」にならない 

「勝っても執行できないのでは?」
という懸念ですが、執行のハードルは比較的低いと判断できます。

実は、日本の法律(民法など)は、明治時代にドイツ法をモデルにして作られました。

いわば親子のような関係で、法体系が非常に似ています。 

そのため、
「相互の保証」
があり、日本の確定判決は、ドイツの裁判所でも
「承認・執行」
の手続きを経ることで、比較的スムーズに強制執行の効力を持つことができます。

 つまり、ドイツでゼロから裁判をやり直す必要はなく、日本の判決文を持ってドイツの裁判所に
「これ、よろしく」
といえば、相手の資産を差し押さえられる可能性が高いのです。

モデル助言: 

面倒くさい
「送達」
の手続きさえ我慢すれば、あとは勝てる可能性の高いゲームと言えます。

1 相手を「土俵」に引きずり込む 

まず、数ヶ月かかろうとも、翻訳費用をかけて粛々と訴状の送達プロセスを進めます。

これは、相手をこちらの土俵(ホーム)に引きずり込むための、必要な儀式(先行投資)です。

2 「和解」という名の白旗を待つ 

有効に訴状が送達された瞬間、ファルケン・マテリアルズ社はパニックになるでしょう。

「極東の島国で、ワケのわからない日本語による裁判が始まった!」
彼らは、日本の法律を理解し、日本語を操る高額な弁護士を雇い、わざわざ日本まで来て対応しなければなりません。

まともな経営判断ができる相手なら、
「こんなコストがかかるくらいなら、和解金を払って終わらせたほうがマシだ」
と考える確率が非常に高いです。

結論: 

国際訴訟は、突き詰めれば
「どちらがより面倒くさい思いをするか」
の我慢比べです。

ホームで戦える御社と、アウェイで戦わされる相手。

どちらが有利かは明白です。 

「泣き寝入り」
という選択肢を捨て、翻訳と送達という最初の手間だけを惜しまず、相手に
「アウェイの洗礼」
を浴びせることができますよ。

※本記事は、一般的な国際民事訴訟の管轄、送達、および外国判決の承認執行に関する実務的知見を解説したものです。 
個別の事案における送達の可否、準拠法の適用、および外国での執行可能性については、条約や現地法制により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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