「事業を売却した後、設備に不備が見つかったらどうしよう・・・」
M&Aや事業譲渡、不動産取引において、売却後の
「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」
は、売り手経営者にとっての重い十字架です。
何年も経ってから、
「話が違う」
「欠陥がある」
と損害賠償を請求されるリスクがあるからです。
しかし、もしその十字架を背負わせるべき相手、つまり
「買主」
が、忽然とこの世から消えてしまったとしたら?
「権利の鎖」
は、繋がっていて初めて意味を成します。
真ん中のリングが外れれば、その先の重りは落ちてしまうのです。
本記事では、SPC(特別目的会社)が介在するプロジェクト取引において、買主が清算結了(法人消滅)したという事実がもたらす、売り手にとっての
「偶発的な免責」
のロジックと、その際に踏むべき「賢いクロージング作戦」について解説します。
この記事でわかること:
・買主(法人)が消滅すると、なぜ転売先からの追求が止まるのか
・「債権者代位権」を行使させないための「死人に口なし」のロジック
・高額な弁護士費用をかけずに、安全に会社をたたむための記録術
相談者プロフィール:
株式会社 シリウス・エナジー・クリエイト 専務取締役 桂木 健一(かつらぎ けんいち)
業種:再生可能エネルギー発電所開発・販売
相手方:テラ・ホライズン・ファンド(買主・SPC)、ギャラクシー・トラスト信託銀行(最終権利者)
相談内容:
先生、朗報です!
先日ご相談した、当社が開発・売却した太陽光発電プロジェクトの件ですが、なんとなんと、買主であったSPC(テラ・ホライズン・ファンド)が、先月末にすでに清算結了(法的に消滅)していることが判明しました!
これ、ものすごく大きな意味を持ちますよね?
第一に、最終的な所有者であるギャラクシー・トラストなどの投資家は、通常なら買主の権利を使って(代位して)、当社に設備の不備などの責任追求をしてくるところですが、その買主が消滅している以上、代位しようがありません。
第二に、残るは信託銀行との直接契約ですが、契約書を皿のようにして読み返しても、
「売主は買主に責任を負う」
とは書いてあっても、
「当初売主(当社)が最終受託者(信託銀行)に直接責任を負う」
とは書いていません。
つまり、当社がこのまま解散・結了してしまえば、買主も売主もこの世から消え、最終投資家も誰にも文句を言えない状況になるはずです。
「買主不在」
という事実により、役員や清算人が
「過失」
を問われるリスクも消えました。
高額な弁護士の意見書(フェアネス・オピニオン等)なんて取らなくても、このままサクッと会社をたたんでしまって問題ないですよね?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「権利の鎖」は真ん中が切れたら繋がらない
桂木専務、鋭いですね。
その読み通りです。
法律の世界では、権利関係は
「鎖」
のようなものです。
通常、最終的な転売先(投資家や信託銀行)は、直接の契約関係がない売主(御社)に対して文句を言うために、間に挟まった買主(SPC)が売主に対して持っている権利を
「代位(代わりに使う)」
することで、攻め込んできます。
しかし、真ん中の買主が清算結了して法人格を失ったということは、この世に存在しない
「死者」
になったということです。
死者は権利を持ちません。
したがって、転売先が代位するための
「足場」
そのものが消滅したことになります。
「死人に口なし、死人に権利なし」。
これが今回の勝因です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:契約書に「書いていない責任」は負わない
信託契約書についても、ご指摘の通りです。
ビジネス契約、特に金融機関やファンドが絡むプロ同士の契約では、
「書いていないこと」
は
「合意していないこと」
です。
「なんとなく製造者として責任を取るべきだ」
という道徳論は通用しません。
契約書に
「受託者に直接責任を負う」
という文言がない以上、そこから矢が飛んでくる法的根拠はありません。
モデル助言:
桂木専務、ここは一気に幕を引きましょう。
1 静かに、そして素早く会社をたたむ(清算結了の完了)
相手が状況に気づいて、何らかの奇策を打ってくる前に、自らも速やかに解散・清算手続きを進め、法的な
「死者」
となってしまうのが最善の防御です。
2 意見書(オピニオン)代の節約
当初予定していた、高額な弁護士による
「問題ないですよ」
というお墨付き(リーガルオピニオン)は、もはや不要です。
「相手がいない」
という事実が、最強のオピニオンです。その予算は、最後の打ち上げ代にでも回してください。
結論:
買主がSPC(特別目的会社)だったことが幸いしましたね。
彼らはプロジェクトが終われば消える
「使い捨てカメラ」
のような存在です。
今回は、相手が勝手に消えてくれたおかげで、御社は無傷で戦場を去ることができます。
堂々と、しかし迅速に、幕を引きましょう。
※本記事は、特定の契約関係および事実関係(買主の清算結了等)を前提とした戦略的判断の一例です。
個別の事案における責任の有無や清算人の善管注意義務、法人格消滅の効果については、具体的な契約条項や事実経過により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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