「子会社に『報告しろ』と言っても、上がってくるのは事後報告ばかり。都合の悪い情報は隠されている気がする……」
M&Aで買収した子会社や、遠隔地の拠点の管理において、多くの経営者がこのジレンマに頭を抱えています。
「ルールを作れば守るはずだ」
という性善説に基づいた遠隔操作には、限界があります。
現場の暴走を食い止めるには、書類上のルールではなく、物理的な
「関所」
が必要です。
本記事では、契約書という
「紙」
の中に、ファイナンシャル・コントローラーという
「生きた人間」
を送り込み、資金と契約の蛇口を物理的に握ることでガバナンスを効かせる、泥臭くも強力な統制手法について解説します。
【この記事でわかること】
• 「報告義務」がいつの間にか「事後通知」に劣化するメカニズム
• 金額基準だけでは防げない「分割発注」と「質的リスク」の抜け穴
• 現場に「お目付け役(FC)」を常駐させるための具体的な契約条項
【相談者プロフィール】
相談者: 株式会社ゼウス・ロジスティクス・グループ 経営企画室長 権田 巌(ごんだ いわお)
業種 : 総合物流・倉庫業(持株会社)
相手方: 株式会社ヘルメス・トランスポート(買収したばかりの地方運送会社)
【相談内容】
先生、先日買収した子会社ヘルメス・トランスポートの件で相談です。
彼らは
「現場の判断」
を言い訳に、稟議も通さず独断でトラックを購入したり、危なっかしいリース契約を結んだりする傾向があります。
月次報告を義務付けてはいますが、上がってくるのは
「契約しちゃいました」
「払っちゃいました」
という事後報告ばかり。
これでは管理になりません。
今回、彼らと改めて
「経営管理契約」
を結び直してガバナンスを強化したいのですが、単に
「報告せよ」
と書くだけでは、また無視されるのがオチです。
現場のスピード感を殺さずに、しかし、彼らの財布の紐とハンコをこちらが実質的に握るような、そんな強力な縛り方はできないでしょうか?
「報告」は必ず「事後通知」に劣化する
権田室長、多くの企業が陥る罠がそこにあります。
契約書によくある
「甲は乙に対し、事前に報告しなければならない」
という条項。
これは実務上、往々にして
「事後通知」
へと劣化します。
現場は
「急いでいたから」
「社長と連絡がつかなかったから」
と理由をつけて既成事実を作り上げます。
一度締結された契約や、外部へ支払われた金銭を覆すのは、
「覆水盆に返らず」
で、法的に極めて困難です。
必要なのは、
「報告」
という受動的なアクションではなく、
「承認(確認)」
という能動的な
「関所」
を設けることです。
「金額」の網だけでは、小魚もサメも逃がす
「1000万円以上の取引は親会社の承認を要する」
といった金額基準も一般的ですが、これには抜け穴があります。
990万円の契約を10回繰り返して1億円使ったり、金額は小さくても
「無制限の保証予約」
のようなリスクが無限大の契約を結んだりするケースです。
網をかけるべきは、
「金額」
だけでなく、
「質(新規・非定型)」
です。
ルーティン以外の動きをすべて補足する網が必要です。
「遠隔操作」ではなく「常駐監視」が必要
親会社からたまに連絡して釘を刺す程度の
「遠隔操作」
では、現場の熱気や隠蔽工作を見抜けません。
刑事ドラマの張り込みと同じで、現場に
「目」
を置く必要があります。
それが
「ファイナンシャル・コントローラー(FC)」
です。
「ルールを守れ」
と叫ぶのではなく、
「ルールを守らざるを得ない物理的状況」
を作るのです。
【今回の相談者・権田室長への処方箋】
権田室長、単なる
「ルールの押し付け」
ではなく、
「人間監視カメラ」
を導入しましょう。
契約書に以下の条項を盛り込み、物理的に彼らの自由を制限するのです。
1 「ファイナンシャル・コントローラー」という名の“関所”
契約書に、御社(ゼウスHD)から子会社へ
「ファイナンシャル・コントローラー(FC)」
を派遣することを明記します。
そして、重要なのはここからです。
子会社の役職員が行う取引について、
「FCに直接打診し、合理性・合法性の確認を経なければならない」
というプロセスを義務付けます。
つまり、FCのハンコ(確認)がなければ、彼らは対外的な契約もできないし、銀行から1円も引き出せないという
「物理的制約」
を課すのです。
2 網の目は「金額」だけでなく「異物」も捉えるように
FCがチェックする対象を、単に
「**万円以上」
とするだけでは不十分です。
・新規取引(新しいことはリスクの塊)
・非定型取引(いつものルーティン以外はすべて怪しい)
・**万円以上の取引(金額的インパクト)
この3点セットを
「一切」
確認対象とします。
これにより、
「金額は小さいが、反社勢力との新規取引」
や
「奇妙な条件のついた覚書」
といった、
「異物」
を入り口でシャットアウトします。
3 「親会社」による最終承認権の留保
FCはあくまで現場の駐在員です。
FCが現場に取り込まれて
「なあなあ」
になるリスクもゼロではありません。
そこで、FCによる確認を経た上で、
「最終的には親会社の確認を受けなければならない」
という二段構えにします。
これにより、FCは
「私の判断だけでは決められないので、本社に上げます」
と言って、現場からの不当なプレッシャーを回避する口実を得ることができます。
4 結論:
以下の条項案で、子会社の血管(資金と契約の流れ)にステントを入れるが如く、コントロール権を確保してください。
「第三者との契約締結等の行為について、親会社は子会社へファイナンシャル・コントローラー(FC)を派遣し、子会社役職員が行う新規取引、非定型取引あるいは**万円以上の取引一切については、FCに直接打診し、同人による合理性・合法性の確認を経て、最終的には親会社の確認を受けなければならないものとする」
※本記事は、架空の事例をもとに、企業グループ内のガバナンス強化手法に関する一般論を解説したものです。
実際の契約締結や運用においては、会社法上の権限規定や下請法などの関連法令に留意する必要があります。 個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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