02234_ケーススタディ:「板挟みの悲劇」は思考停止の証拠?  “返品”という名の「甘え」を断ち切り、真の敵を討つ“矛先転換”の極意

「メーカーの都合で代理店契約を切られた。そのとばっちりで、顧客から理不尽な返品を迫られている・・・」 

商社や販売代理店ビジネスにおいて、メーカー(仕入先)とユーザー(顧客)の板挟みになるのは宿命です。

しかし、メーカーの身勝手な裏切りによって生じたトラブルの尻拭いを、なぜ御社が自腹(返品・返金)で負わなければならないのでしょうか? 

「お客様だから」
といって、法的義務のない要求を飲み続けるのは、経営判断ではなく
「思考停止」
です。

本記事では、理不尽な板挟み状態から脱却し、
「顧客の怒りの矛先」を
御社から
「真の悪者(メーカー)」
へと転換させ、ピンチをチャンスに変える“法的・政治的”交渉術について解説します。

【この記事でわかること】

• 「リーガルマター(法的義務)」と「ビジネスマター(お願い)」の冷徹な峻別
• 「敵の敵は味方」理論を応用した、顧客との共闘関係の構築術
• 海外メーカーを動かすための「現地の弁護士」というカードの使い方

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社ボレアス・トレーディング 代表取締役 須田 仲(すだ なか) 
業種 : 高度医療機器・システム輸入商社
相手方: 株式会社ゼピュロス・メディカル(大手医療機器販売会社)、テウトニア・システムズ(ドイツのシステムメーカー)

【相談内容】 

先生、胃が痛い毎日です。 

当社は長年、ドイツの
「テウトニア社」
の日本総代理店として、同社のシステムを国内大手の
「ゼピュロス・メディカル」
に卸してきました。

ところが先日、テウトニア社が一方的に当社との契約を打ち切り、あろうことか、業界でも評判の悪い名古屋のブローカー
「ナニワ・トレーディング」
に代理店を変更したのです。

怒ったのは顧客であるゼピュロス・メディカルです。 

「ナニワ社のような怪しい会社と付き合えるか。サポートも不安だ。ついては、御社から買った在庫品(数億円分)をすべて返品・返金したい」 
と言ってきたのです。

当社としては、売買契約は完了しており、製品に欠陥があるわけでもありません。 

しかし、ゼピュロス社は重要顧客ですし、無下にもできず・・・。 

やはり、ここは泣く泣く返品に応じるしかないのでしょうか?

「お願い」と「義務」を混同するな

須田社長、まず頭を冷やしましょう。 

ゼピュロス社の要求は、法的に見れば
「返品請求権」
に基づくものではありません。

売買契約は適法に終了しており、御社が納品したモノ自体に瑕疵(欠陥)はないのですから、御社に返品を受ける法的義務は1ミリもありません。

つまり、彼らの要求は、 
「困っているから助けてくれ(そのために御社が数億円損してくれ)」
という、単なるビジネス上の
「お願い(ビジネスマター)」
に過ぎません。

数万円の菓子折りならともかく、数億円の損失を伴う
「お願い」
を、義理人情だけで受け入れる必要などありません。

それは経営判断の域を超えた
「ギフト(贈与)」
です。

「真の悪者」は誰かを再定義せよ

今回の騒動の元凶は誰でしょうか? 

御社ですか?

ゼピュロス社ですか?

違いますよね。

「長年日本市場を支えてきた信頼できる東京のパートナー(御社)を切り捨て、目先の利益のために怪しげなブローカー(ナニワ社)に乗り換えた、ドイツのテウトニア社」 
こそが、諸悪の根源であり、非難されるべき対象です。

ゼピュロス社が文句を言うべき相手、そして請求書を回すべき相手は、御社ではありません。 

「あり得べからざる判断」
をしたテウトニア社であるべきです。

現在、御社がサンドバッグになっていますが、その構図自体が間違っています。

「敵の敵」は味方にする

ではどうするか。 

ゼピュロス社の怒りを、御社に向けさせるのではなく、テウトニア社(および新代理店のナニワ社)に向けさせるのです。

御社は
「加害者」
ではなく、彼らと同じ
「被害者」
なのですから。

ゼピュロス社に対して、ただ
「返品は受けられない」
と拒絶するだけでは角が立ちます。

そこで、 
「返品は受けられないが、その代わり、テウトニア社に責任を取らせるための『武器』と『知恵』を提供する」
という提案をするのです。

これが
「ファシリテーション(協働支援)」
です。

【今回の相談者・須田社長への処方箋】

須田社長、御社が取るべき戦略は
「サンドバッグからの脱出」

「司令塔への就任」
です。

1 「返品不可」の通告(リーガルマターの確定) 

まず、ゼピュロス社に対しては、 
「法的にも契約上も、返品を受ける義務はない。また、金額的にも一企業の『お付き合い』として受容できる限度を超えている」
と、きっぱり断ります。

ここで曖昧な態度をとると、つけ込まれます。

まずは
「無理なものは無理」
と線を引きます。

2 怒りの矛先の誘導(政治的解決) 
その上で、彼らに対し、こう提案します。 
「悪いのは、不当な契約解消をしたテウトニア社であり、我々も被害者だ。 ゼピュロス社が被る損害や不利益については、
(1)テウトニア社に金銭賠償させるか、
(2)ナニワ社ではなく、信頼できる当社を代理店に復帰させるか、
この二択をテウトニア社に迫るべきだ」

3 「ドイツの弁護士」という武器の提供 

ゼピュロス社がその気になったとしても、ドイツ企業相手にどう戦えばいいかわからないでしょう。 

そこで、御社の出番です。 

「我々はテウトニア社と戦う準備ができている。ドイツの強力な弁護士へのアクセスも提供できる。 エンドユーザーからのクレームとなれば、テウトニア社も無視できない。 一緒に圧力をかけよう」 
と持ちかけるのです。

4 結論: 

御社は
「金を払う」側
ではなく、
「戦い方を教える」側(参謀)
に回るのです。

これにより、数億円のキャッシュアウトを防ぎつつ、うまくいけばテウトニア社への代理店復帰の道筋すら見えてくるかもしれません。 

これが、法務を武器にした
「転んでもただでは起きない」
経営戦略です。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業グループ内のガバナンス強化手法や紛争解決戦略に関する一般論を解説したものです。 
実際の契約締結や運用においては、会社法上の権限規定や下請法などの関連法令に留意する必要があります。 個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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