02255_出向社員トラブルの出口設計

出向は、便利です。

人材を活かし、取引先との関係を強め、グループ内の最適配置を実現できます。

経営にとっては、実に使い勝手のよい制度です。

ところが、トラブルが起きた瞬間、その便利さは一転します。

出向元、出向先、本人。

三者が絡み合い、責任の所在が曖昧になり、感情だけが先行する。

そして飛び出すのが、
「懲戒解雇だ」
という言葉です。

しかし、ここで反射的に動けば、会社は火傷をします。

出口を設計しないまま強行突破すれば、ほぼ確実に紛争化します。

出向社員トラブルは、感情ではなく、構造で処理しなければなりません。

1 まず、懲戒権の帰属をミエル化する

最初に整理すべきは、誰が処分できるのか、という点です。

出向は、労働契約が出向元に残る形が原則です。

つまり、懲戒権は通常、出向元にあります。

出向先が日常的な指揮命令をしているとしても、懲戒解雇までできるとは限りません。

出向契約で懲戒権がどこまで委譲されているか。

ここを文書で確認しなければなりません。

にもかかわらず、出向先経営者が激昂し、
「即刻クビだ」
と叫ぶ。

その瞬間に、法務の役割が始まります。

感情をなだめることではありません。

契約と法理を提示することです。

解雇権濫用法理は、想像以上に強固です。

横領や重大な犯罪であれば別ですが、勤務態度不良や能力不足では、いきなり懲戒解雇は極めて困難です。

最高裁判例が繰り返し示してきたとおり、社会通念上相当といえなければ無効になります。

ここを曖昧にしたまま話を進めると、後で足をすくわれます。

2 出口は三層で設計する

出口設計は、三層で考えます。

1 出向関係の終了
2 本人の処遇
3 将来紛争の遮断

この3つを同時に動かします。

1つだけ整えても意味がありません。

まず、出向契約の終了理由をどう整理するか。

「契約期間満了」
なのか、
「合意解約」
なのか。

形式を誤ると、後で不利益処分と評価される可能性があります。

文書化が必須です。

次に、本人の処遇です。

・本体復帰か
・配置転換か
・転籍か

ここで注意すべきは、転籍は労働契約の主体が変わるという点です。

原則として本人の自由な同意が必要です。

給与が下がるのであれば、その合理性と説明プロセスを丁寧に積み上げる必要があります。

追い込んでサインさせる。

これは最悪の一手です。

後から無効主張される余地を自ら作る行為だからです。

最後に、紛争遮断です。

三者間で、未払賃金や損害賠償請求が存在しないことを確認する。

将来請求をしない旨を合意する。

守秘義務を定める。

ここまで落として、はじめて出口になります。

3 転籍は「罰」ではなく「再設計」にする

転籍を使う場合、発想を変える必要があります。

追放ではありません。

再設計です。

能力が合わなかっただけかもしれない。

環境との相性の問題かもしれない。

たとえば、対外折衝が苦手な社員を、バックオフィス業務に移す。

現場向きでない人材を、研修担当にする。

こうした配置転換の延長線上に、グループ内転籍を位置づけます。

そうすれば、本人の同意も得やすい。

実質的な合理性も説明できます。

「ここで終わりだ」
ではなく、
「ここから立て直す」
という物語に変えるのです。

法務は、物語を設計します。

ただし、感情論ではなく、契約と合理性に裏付けられた物語です。

4 法務の役割は、白黒をつけることではない

出向社員トラブルは、しばしば対立構造になります。

出向先は怒り、本人は防御し、出向元は板挟みになる。

ここで正義を振りかざすのは簡単です。

どちらが悪いかを断定することもできるでしょう。

しかし実務は、そこでは終わりません。

会社は、明日も取引を続けなければならない。

社員も生活を続けなければならない。

法務の仕事は、勝ち負けを決めることではなく、損失を最小化することです。

火を消し、延焼を防ぎ、次の一手を打てる状態を作ることです。

出向という制度は、便利な道具です。

しかし、道具は使い方を誤れば凶器になります。

だからこそ、あらかじめ出口を設計しておく。

トラブルが起きてから慌てるのではなく、起きる前提で契約を整えておく。

出向契約の段階で、懲戒権の所在を明確にする。

トラブル時の協議条項を入れておく。

転籍の可能性を見据えたグループ内制度を整備する。

これができていれば、修羅場は激減します。

出向社員トラブルの本質は、人の問題ではありません。

設計の問題です。

ミエル化されていない関係は、必ずもつれます。

カタチ化されていない合意は、必ず争われます。

出口を先に描く。

そこから逆算して制度を組む。

それが、企業法務の腕の見せどころです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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