02243_ケーススタディ:「強硬な債権者」が会社を潰す前に。事業だけを別船に移し、借金の泥舟を沈める「第二会社方式」という名の“脱出ポッド”戦略

「全額払え。さもなくば差押えは取り下げない」
経営再建中の企業にとって、一部の強硬な債権者は、再建の道を閉ざす巨大な岩石です。

話し合い(特定調停)で解決しようとしても、彼らは聞く耳を持ちません。 

ならば、発想を変えましょう。 

「岩」
をどかすのではなく、私たちが
「別の道」
へ進むのです。

本記事では、強硬な債権者を置き去りにし、事業と従業員、そして大切な資産だけを新しい器(会社)に移して生き延びる、究極の再生スキーム
「第二会社方式」
について解説します。

【この記事でわかること】

• 「話し合い(調停)」に応じない債権者に対する、次の一手
• 事業を新会社に移し、旧会社を法的に処理する「第二会社方式」のメカニズム
• 交渉決裂の経緯を客観的に示し、再建手法変更の正当性を主張する広報戦略

【相談者プロフィール】 

相談者: 株式会社 ライフ・ストレージ・デポ 代表取締役 内 蔵人(うち くらんど) 
業種 : リサイクルショップ・倉庫業(全国チェーン展開)
相手方: カーライフ・セブン社(大手カー用品チェーン・大口債権者)

【相談内容】 

先生、もう限界です。 

経営不振からの脱却を目指し、裁判所の
「特定調停」
を使って、銀行や取引先とリスケ(返済猶予)の話し合いを進めてきました。

しかし、大口債権者である
「カーライフ・セブン社」
だけが、強硬な態度を崩しません。

「一時金として1500万円払え。さらに毎月100万円払え。それができなければ、社長個人の資産への差押えは取り下げない」
と、無理難題を突きつけてきます。

彼らは調停の席にも着こうとしません。

このままでは、彼らの差押えが引き金となって、会社全体が倒産してしまいます。 

理屈の通じない相手に、どう対抗すればよいのでしょうか?

「話し合い」がダメなら「ルール(法律)」で強制する

堀之内社長、相手は
「話し合い(調停)」
のテーブルに着く気がないようです。

彼らは
「強気でいれば、音を上げて払ってくるだろう」
と高を括っているように見受けられます。

このまま調停を続けても、時間を浪費するだけです。 ここは方針を大転換し、
「法的整理(民事再生)」

「第二会社方式」
を組み合わせた、より強力な外科手術に踏み切るべきです。

借金の「泥舟」から、事業という「宝」だけを移し替える

現在の会社(ライフ・ストレージ・デポ)は、巨額の負債を抱えた
「泥舟」
です。

このままでは、カーライフ・セブン社という
「重り」
によって沈没させられます。

そこで、以下の手順で
「第二会社方式」
を提案します。

1 新会社の設立(受け皿の用意): スポンサーの支援を得て、全く新しい会社(例:株式会社LSD新社)を設立します

2 事業譲渡(宝の移動): 現在の会社から、店舗、在庫、什器、従業員など、事業継続に必要な「中身」だけを、新会社に譲渡します。
この対価(譲渡代金)は、適正価格でなければなりませんが、今の状況なら安価に設定できる可能性があります

3 旧会社の処理(泥舟の廃棄): 中身が空っぽになった旧会社(借金だけが残った会社)は、民事再生法(または破産)の申立てを行い、法的に清算します

これにより、事業は新会社で継続され、カーライフ・セブン社を含む債権者は、空っぽになった旧会社の残余財産からわずかな配当を受け取るだけになります。 

彼らが強硬に回収しようとしていた債権は、法的にカット(免除)されるのです。

再建プロセスの「不成立理由」を明確にする

このスキームの肝は、
「大義名分」
の構築です。

通常、会社を潰して別会社で事業を続けることは
「借金逃れ」
と批判されるリスクがあります。

しかし、今回は違います。

「我々は、特定調停で全債権者と話し合い、誠実に返済しようとした。しかし、カーライフ・セブン社だけが法外な要求をし、差押えを強行したため、調停による円満な解決が不可能になった。事業と雇用を守るためには、この方法しかなかった」
という経緯を明確にするのです。

つまり、特定の債権者を攻撃するのではなく、 
「円満な話し合いによる解決が不可能となった原因は、一部債権者による強硬な回収措置にある」
という客観的な事実経過をステークホルダーに説明することで、今回のスキーム(第二会社方式)の不可避性と正当性を主張し、世間や他の債権者からの批判をかわすのです。

店舗と不動産の処理:居座り戦略

店舗の家賃や、担保に入っている不動産についても、ドライに割り切ります。 

民事再生に入れば、弁済禁止の保全処分により、家賃などの支払いをストップできます。 

その間に、新会社名義で新たに賃貸契約を結び直すか(家賃の踏み倒しと居抜き契約)、あるいは家賃をリスケジュールして新会社が保証する形で継続するか、有利な方を選択します。 

担保付きの自社物件については、銀行が競売にかけるまで、新会社が事実上タダ同然で使い続ける(居座る)ことも、交渉のカードとして有効です。

【今回の相談者・内社長への処方箋】

内社長、もはや
「お願い」
する段階は過ぎました。

以下の手順で、強権的に事業を守り抜きます。

1 スポンサーの確保と新会社設立 

支援表明を取り付け、事業の受け皿となる新会社を早急に設立します。

2 事業譲渡と民事再生の同時決行 

主要な事業資産を新会社に移し、即座に旧会社について民事再生を申し立てます。

これにより、カーライフ・セブン社の差押えは効力を失い(または中止され)、彼らの回収手段を封じます。

3 「経緯」の説明 

債権者説明会等において、
「一部債権者の強硬な回収行動により、特定調停が頓挫した」事実
を淡々と説明し、今回のスキームの正当性を主張します。

「損して得取れ」
と言いますが、今回は
「泥舟を捨てて命(事業)を取る」
局面です。

冷徹な法的戦略こそが、従業員と事業を守る唯一の盾となります。

※本記事は、架空の事例をもとに、企業再生における第二会社方式および法的整理の手法に関する一般論を解説したものです。 
実際のスキーム実行においては、詐害行為取消権の対象とならないよう適正な対価設定やプロセスが必要となり、高度な専門的判断が求められます。
個別の事案については必ず再生実務に精通した弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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