02259_企業法務ケーススタディ:低コストで叩くネット風評被害:探偵業の弱点を突く“お上活用絡め手戦術”

「ウチの会社の悪口をネットに書きやがって! 弁護士の先生、すぐに犯人を特定して、損害賠償と刑事告訴のフルコースをお願いします!」 

怒りに震える経営者は、すぐさま弁護士という名の
「重戦車」
を前線に投入しようとします。

しかし、ネットトラブルの法的解決という戦場は、皆さんが思っている以上に泥濘(でいねい)に満ちた消耗戦です。

真正面から突破しようとすれば、あっという間に数百万円の軍資金と数年の月日が溶けていきます。 

でも、ちょっと待ってください。

その悪意あるサイト、ご丁寧に
「公安委員会届出済 探偵業」
なんて看板を掲げていませんか?

本記事では、コストのかかる王道の裁判手続きに突入する前に、敵が自ら晒している
「アキレス腱」
を狙い撃ちにし、監督官庁という
「お上」
の威光を使って相手を震え上がらせる、インテリジェンス(情報戦)に満ちた風評被害対策について解説します。

この記事でわかること:

・ネットの書き込み削除と犯人特定にかかる「身の毛もよだつリアルなコスト」
・相手が掲げる「探偵業届出番号」や「電話番号」から身元を割り出す裏ルート
・裁判所ではなく「公安委員会(警察)」にチクることで行政指導を誘発する牽制術

相談者プロフィール: 

株式会社 ノヴァ・エステティック・サイエンス 代表取締役 美肌 輝子(みはだ てるこ) 
業種:美容機器開発・サロン運営
相手方:自称・探偵業のネットリサーチサイト「シャドウ・ウェブ・インベスティゲーション」

相談内容: 

先生、至急の相談です! 
「シャドウ・ウェブ・インベスティゲーション」
とかいう怪しげなネット記事で、当社の新サービスと私のことがボロカスに書かれています。

「悪徳エステ」
「詐欺まがい」
などと、完全に事実無根の言いがかりです。

こんな便所の落書き、一日も早く消し去りたいですし、書いた犯人を特定して損害賠償請求と名誉毀損で刑事告訴をしてやりたいです! 

弁護士に頼めば、サクッとIPアドレスを開示させて、一発で解決できるんですよね?

すぐに手続きをお願いします!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「サクッと解決」という幻想と、最低200万円の入場料 

美肌社長、お怒りはごもっともですが、まずは深呼吸をして、冷水を頭からかぶってください。 

ネットの被害回復は、テレビドラマのように
「エンターキーをターンッ!」
と叩いて即解決、とはいきません。

極めて泥臭く、テクニカルで、気の遠くなるようなプロセスが必要です。 

王道の手続きを説明しますと、
①プロバイダを特定し、
②プロバイダへ個人情報の開示を要求し、
③拒否されれば開示の法的手続き(裁判)を行い、
さらに並行して
④書き込み削除の仮処分等の法的手段を取り、
犯人が特定できたら
⑤損害賠償請求訴訟を起こし、
最後に
⑥名誉毀損で刑事告訴する・・・というフルコースになります。

これらを全て実施するとなると、相手の出方にもよりますが、弁護士費用や実費だけで最低でも200〜300万円は覚悟しなければなりません。

純粋な費用として重たいだけでなく、時間という貴重な経営資源も大量に奪われる、まさに
「終わりの見えない泥仕合」
なのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「お願い」で済ますか、敵の「尻尾」を踏むか 

数百万円の軍資金を投入するのが経済合理性に合わないと判断した場合、通常は
「どうか消してください」
という単なるお願いベースの交渉にトーンダウンせざるを得ません。

しかし、今回は相手のサイトをよく観察すると、非常に面白い
「尻尾」
が見え隠れしています。

サイトの隅に
「東京都公安委員会届出済 探偵業届出番号 第〇〇号」
と誇らしげに記載されており、さらに
「住所」

「電話番号」
までご丁寧に載っているではありませんか。

匿名を気取って石を投げているつもりでしょうが、自ら身元を晒している
「脇の甘いスナイパー」
です。

このアキレス腱を使わない手はありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「お上の威光」を利用した合法的な嫌がらせ 

わざわざ数百万かけてIPアドレスからプロバイダを辿る裁判などしなくても、行政機関である
「東京都公安委員会の届出文書」
を閲覧等すれば、運営者の本人はあっさり特定できる可能性があります。

電話番号の加入者情報を調べることでも特定は可能です。 

さらに強力な牽制方法があります。

探偵業を名乗っている以上、彼らの生殺与奪の権を握る監督官庁は
「公安委員会(警察)」
です。

「おたくで届出を受理している探偵業者が、ネットで事実無根の誹謗中傷をして営業妨害を行っている」
と公安委員会に苦情を申し出るのです。

お上から
「あんた、ちょっと何やってるの?」
と行政指導の電話が一本入るだけで、この手の自称リサーチ業者は震え上がり、慌てて記事を削除する可能性が高いのです。

モデル助言: 

美肌社長、大金をつぎ込んで重戦車で進軍する前に、まずは相手の弱点を突くゲリラ戦を展開しましょう。

以下の手順で進めることをおススメします。

1 「カネと時間」の現実を直視する 

真正面からの法的手段(フルコース)は、最低でも200〜300万円のコストと膨大な時間がかかることを経営的視点で理解し、まずは別のルートを探ります。

2 敵の「尻尾」から身元を特定する 

サイトに記載された
「探偵業届出番号」

「電話番号」
を手掛かりに、公安委員会の届出情報等を調査し、まずは相手の
「顔と名前(本人)」
をピンポイントで特定します。

3 監督官庁(お上)を使った牽制攻撃 

特定した情報をもとに、監督官庁である公安委員会に苦情を申し出ます。

行政指導という
「飛び道具」
を誘発し、相手に強烈なプレッシャーをかけて削除と沈静化を図ります。

結論: 

ネットトラブルにおいて
「裁判」
は最強の武器に見えますが、発射するだけで莫大なコストがかかる
「金食い虫」
でもあります。

相手がうっかり落とした
「探偵業の看板」
のような弱点を見逃さず、行政という別ルートからプレッシャーをかける。

そんなインテリジェンスに富んだ
「絡め手」
を使えるかどうかが、風評被害を低コストかつスマートに鎮火させるプロの法務戦略ですね。

※本記事は、架空の事例をもとに、インターネット上の誹謗中傷への対応策および探偵業法等に基づく行政機関への苦情申出等の一般論を解説したものです。
実際の発信者情報開示請求の成否や、行政機関による指導の有無は、個別の事実関係や証拠状況、および各機関の判断により異なります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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