02244_ケーススタディ:「節税」のつもりが「上場廃止」の引き金に? “名目”の変更が招く、法務ロジック崩壊の恐怖

「役員報酬を、個人の懐に入れるか、自分の資産管理会社に入れるか。単なるポケットの違いだろう?」 
経営者やオーナーは、しばしば税務メリットや資金繰りの観点から、こうした
「おカネのルート変更」
を安易に提案してきます。

しかし、その
「単なる変更」
が、過去に金融庁や証券取引所に対して行った
「命がけの釈明」
を、根底から覆す“自白”になるとしたらどうでしょうか?

本記事では、目先の利益(節税・資金還流)に目がくらみ、自ら
「私は嘘つきでした」
と公言してしまいそうになる経営者を、法務担当者がいかにして止めるべきか、そのロジックを解説します。

【この記事でわかること】

• 「役員報酬」と「経営指導料」の決定的違いとは
• 当局や取引所に対する「建前(ストーリー)」を一貫させることの重要性
• 整合性を無視した「つまみ食い」が、企業の命取りになる理由

【相談者プロフィール】

相談者: 株式会社 メメ・ホールディングス 法務部長 論理 守(ろんり まもる) 
業種 : 自動車関連サービス(東証上場)
登場人物: 剛田会長(メメHDのオーナー会長)、
ゼータ・アセット(剛田会長の個人の資産管理会社)

【相談内容】 

先生、また会長が思いつきで危ないことを言い出しました。 

現在、剛田会長は当社(メメHD)から「役員報酬」をもらっています。 

これを、会長個人への支払いではなく、会長の資産管理会社である
「ゼータ社」
への
「経営指導料」
という名目に切り替えて支払えないか、と言ってきたのです。

どうやら、ゼータ社がメメ株を取得した際の借入金返済や、税務上のメリットを考えてのことのようです。 

「私が指導しているのだから、私の会社に払っても同じだろう」
と会長は言うのですが、法務としてこれを通してしまって良いものでしょうか?

確か、ゼータ社がメメ株を持った時の
「建付け」
が気になっていまして・・・。

「名目」はただのラベルではない

論理部長、会長のそのアイデア、実行すれば
「自爆スイッチ」
を押すことになります。

全力で止めてください。 

経営者にとって、おカネは
「水」
のようなもので、Aというコップ(個人)に入ろうが、Bというバケツ(資産管理会社)に入ろうが、中身は同じに見えるかもしれません。

しかし、法務の世界では、AとBは
「別人格」
であり、その名目は
「法的性質」
そのものを決定づけます。

「救世主」か「支配者」か? 過去のストーリーを思い出せ

ここで重要なのは、過去の経緯です。 

かつて、ゼータ社が御社(メメHD)の株を持った際、証券取引所や当局に対して、どのような
「ストーリー(建付け)」
で説明したか覚えていますか?

おそらく、こう説明したはずです。 

「ゼータ社は、経営支配を目的として株を持ったわけではありません(=純投資)。経営に口を出すつもりはないが、メメ社が『どうしても助けてくれ』と泣きついてきたので、会長職を『しぶしぶ』引き受けたのです」
と。

つまり、ゼータ社は
「物言わぬ、静かなるスポンサー」
という仮面を被ることで、支配株主としての厳しい規制や審査をクリアしてきたはずです。

「経営指導料」=「私は支配しています」という自白

ところが、今回会長が提案している
「経営指導料」
とは何でしょうか?

これは文字通り、
「ゼータ社が、メメ社に対して、経営の指図(指導)を行い、その対価をもらう」
という契約です。

もしこれを締結してしまえば、これまでの
「静かなるスポンサー」
という説明は真っ赤な嘘だったことになります。

「経営には関与しないと言っていましたが、ガッツリ指導して、対価まで取ってますよ」 
と、自ら取引所に自白状を送りつけるようなものです。

これは、
「私はベジタリアンです」
と宣言しながら、堂々とステーキハウスで肉を焼き、その代金を請求書に乗せようとしているのと同じです。

当局の「お目こぼし」を無にするな

もし、御社がすでに対外的な危機を完全に脱し、取引所との関係も良好で、
「もう誰に何を言われても痛くも痒くもない」
という完全無欠の状態(危機は去ったとみる状況)なら、会長のワガママを通しても良いかもしれません(それでも会社法上の利益相反取引等の問題は残りますが)。

しかし、
「あまり下手なことをすると、お咎めがあるかも」
という緊張関係がまだ残っているなら、答えは明白な
「NG」
です。

「節税」

「資金繰り」
という些細なメリットのために、企業の存立基盤である
「コンプライアンス(対外的な説明の整合性)」
を売り渡してはいけません。

【今回の相談者・論理部長への処方箋】

論理部長、会長にはこう伝えてください。

「会長、それは『法的な自殺行為』です。ゼータ社は『物言わぬ株主』という約束で、今の地位にいます。ここで『指導料』を受け取れば、過去の取引所への説明がすべて『虚偽』とみなされ、最悪の場合、上場廃止基準に抵触します。税金を安くするために、会社を潰すおつもりですか?」

経営者は、数字(カネ)の計算は得意ですが、ロジック(理屈)の整合性には無頓着なことが多々あります。

「カネのなる木」
を守るためにこそ、今はその
「果実」
を我慢すべき時です。

※本記事は、架空の事例をもとに、上場企業のガバナンスおよび開示規制に関する一般論を解説したものです。 
実際の役員報酬の変更や関連当事者取引においては、会社法上の利益相反取引規制、金融商品取引法上の開示規制、および法人税法上の取扱いなど、多角的な検討が必要です。
個別の事案については必ず弁護士や税理士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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