02245_ケーススタディ:「訴訟=リスク」という常識を疑え。あえて「法廷」という土俵に乗ることで、法外な手切れ金を“適正価格”まで暴落させる「訴訟活用型」値切り術

「訴えてやる!」 
この言葉を聞いて、震え上がる経営者は二流です。

百戦錬磨の法務参謀にとって、相手からの提訴は、時に
「ラッキー」
な展開となり得ます。

というのは、密室での
「言ったもん勝ち」
のゆすり・たかりが、法廷という
「衆人環視の理性の場」
に引きずり出された瞬間、その法外な要求は魔法が解けたように色あせ、しぼんでいくからです。

本記事では、経営権を巡る泥沼の争いにおいて、あえて
「訴訟リスク」
を飲み込み、相手の弁護士のやる気すら削ぎ落として勝利をつかむ、
「司法エコノミクス(経済学)」
の極意を解説します。

【この記事でわかること】

• 「経営する気がないのに権利を主張する者」に対する裁判所の冷ややかな視線
• 相手の弁護士の戦意を喪失させる「期待値コントロール」のメカニズム
• 訴訟が「最大のリスク」ではなく「最大のディスカウントツール」になる瞬間

【相談者プロフィール】 

相談者: 医療法人社団 氷壁会(ひょうへきかい) 理事長 雪解 待人(ゆきげ まちと) 
業種 : 医療・介護事業
相手方: 海千・山千(うみせん・やません)(経営の実権を持たない名ばかり社員・元理事)

【相談内容】 

先生、頭が痛いです。 

法人運営の正常化を目指して、既得権益にしがみつく古参メンバー(海千氏・山千氏)を排除し、私と親族中心の体制にする
「社員変更手続き」
を粛々と進めています。

ところが、彼らは
「俺たちの権利を奪うな」
「俺たちをやめさせたいなら、相応の金銭を要求する」
と猛反発し、
「地位確認訴訟を起こすぞ」
と脅してきています。

彼らに経営する気も能力もないことは明白ですが、もし訴訟になって負けたらどうしようと不安です。 

早期解決のために、彼らが要求する法外な
「解決金」
を支払ってでも、示談で済ませるべきでしょうか?

「どうぞ訴えてください」が最強のカード

雪解理事長、ここでビビってはいけません。 

相手が
「訴えるぞ」
と言ってきたら、満面の笑みでこう返してください。

「ぜひ、そうしてください。裁判所の公正な判断を仰ぎましょう」

なぜなら、今回のケースにおいては、訴訟は
「リスク」
ではなく、
「相手の要求を強制的に値切るためのフィルタリング装置」
だからです。

裁判所は「ゴネ得」を許さない

海千氏・山千氏の目的は何でしょうか? 

理事長のお話を伺い、証拠となりそうな書類をみている限り、
「崇高な医療の理念を実現したい」
わけでも
「経営に参画して汗をかきたい」
わけでもないようですね。

彼らの目的は、ただ1つ。

「カネ」
でしょう。

裁判所という場所は、この手の
「経営する意思も能力もないのに、権利だけ主張してカネをせびる人間」
を、生理的に嫌悪します。

もし彼らが、裁判官の前で、法外な金額をふっかけたらどうなるか。

「あなたは経営に関与しないのに、そんな大金を要求するのですか? それは権利の濫用ではありませんか?」 
と、裁判官から冷たい視線を浴びせられ、心証を悪化させ、自滅するのがオチです。

密室の交渉では
「ゴネ得」
がまかり通っても、法廷という
「理性のリング」
では、不合理な要求はただの
「ワガママ」
として切り捨てられます。

相手の弁護士を「兵糧攻め」にする

さらに、ここからが
「司法エコノミクス」
の真骨頂です。

こちらの
「示談目線(払うつもりの金額)」
が、相手の要求よりはるかに低いことを、訴訟を通じて明確にします。

すると、相手方の弁護士はどう思うでしょうか。 

「この事件、勝てるかどうかも怪しいし、仮に勝っても取れる金額はたかが知れている。成功報酬(歩合)は期待できないな・・・」 
と計算します。

弁護士もビジネスです。 

「儲からない案件」
に、全力を注ぐ弁護士はいません。

期待値が低いとわかれば、相手の弁護士は真剣に戦う意欲を失い、あるいは依頼者(海千・山千)に対して
「この辺で手を打った方がいいですよ」
と、低い金額での和解を説得し始めます。

つまり、訴訟を歓迎することで、相手の弁護士を
「こちらの味方(説得役)」
に変えてしまうのです。

【今回の相談者・雪解理事長への処方箋】

雪解理事長、小切手を切る必要はありません。 

以下の実行を提案します。

覚悟を決めましょう。

1 社員変更手続きをすすめる 

脅しに屈せず、手続きを粛々と進め、既成事実を作ります。

2 訴訟を待つ 

相手が訴えてくるのを待ちます。

訴訟になれば、相手の
「法外な要求」

「常識的な相場」
へと強制的に修正されます。

3 和解で手打ち

相手の弁護士が
「割に合わない」
と悟ったタイミングで、こちらの想定する低い金額での和解を提示し、手打ちにします。

「訴訟」
というプロセスを通すことで、不純物をろ過し、適正価格で平和を買う。

これが、泥沼の争いをスマートに制する、大人の解決法です。

※本記事は、架空の事例をもとに、法人間や個人間の紛争における交渉戦略および訴訟戦術の一般論を解説したものです。 
実際の契約関係や権利義務の帰趨、訴訟の勝敗見込みについては、契約書の文言や詳細な事実関係、裁判所の判断により異なります。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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