02262_企業法務ケーススタディ:担当者の不祥事が、なぜ社長の責任になるのか_欧米当局の“ディスカバリー”が暴く組織の闇

「あれは現地の担当者が勝手にやったことです」。 

海外子会社での不祥事発覚時、日本では通用しがちなトカゲの尻尾切りの弁解ですが、欧米の規制当局(特に米国司法省など)には絶対に通用しません。 

それどころか、この日本式の
「自己保身ロジック」
を唱えることは、
「我が社は一介の担当者が勝手に違法行為を行えるほど、内部統制(コンプライアンス・プログラム)が崩壊している『無法地帯』です」
と自白し、
「自爆スイッチ」
を押す行為に等しいのです。

さらに欧米の当局は、
「ディスカバリー(証拠開示手続)」

「デポジション(証言録取)」
という情け容赦のない強権的な捜査手段を持っており、不用意な隠蔽工作を行えば、あっという間に数百億円の制裁金や経営幹部の刑務所行きという最悪の結末を招きます。

本記事では、欧米国際法務の視点から、一担当者の不正がトップの罪へと延焼していく冷徹なロジックと、過酷な海外当局の捜査から会社を守る防衛術について解説します。

この記事でわかること:

・「担当者の暴走」という言い訳が、欧米当局には「ガバナンス不全の自白」と受け取られる理由
・日本企業の隠蔽体質を丸裸にする「ディスカバリー」と「偽証罪」の恐怖
・欧米の過酷な捜査から会社と情報を守る「秘匿特権(プリビレッジ)」と初動対応の極意

相談者プロフィール: 

株式会社 メビウス・インダストリアル・サプライ 代表取締役社長 海越 渡(うみこし わたる) 
業種:産業用機械・資材の輸出入および海外事業展開
状況:米国子会社の現地責任者が、売上欲しさに反トラスト法(独占禁止法)違反や外国公務員への贈賄(FCPA違反)を疑われる取引を行ったことが発覚。米国司法省からサピーナ(召喚令状)が届き、本格的な調査のメスが入り始めている。

相談内容: 

先生、米国子会社に米司法省から
「サピーナ(召喚令状)」
なる恐ろしい書面が届きました。

現地の担当責任者が、大口契約欲しさに競合他社と不適切な価格調整(カルテル)を行ったり、現地の公務員にリベートを渡したりした疑いがあるようです。 

もちろん、日本の本社はそんな違法な指示は一切出していませんし、完全に現地担当者の独断による
「暴走」
です。

さっそく、当局には
「本社は被害者であり、担当者が勝手にやった個人的な非行だ」
と説明し、担当者を懲戒解雇して終わらせるつもりです。

また、当局に目をつけられないよう、都合の悪い社内メールは今のうちに全部消去しておいた方がいいですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「担当者の暴走」=「経営陣の怠慢(ガバナンス不全)」 

海越社長、その
「トカゲの尻尾切り」
の弁解と証拠隠滅を米国の当局に対して行った瞬間、御社は焼け野原になります。

欧米の規制当局の耳には、
「担当者が勝手にやった」
という言い訳は、
「御社は一介の担当者が会社のカネで賄賂を配り、カルテルを結べるほど、監督体制や決済プロセスが全く機能していない『水槽の欠陥(組織的欠陥)』を放置していたのですね」
という最悪のカミングアウトにしか聞こえません。

また、米国の法令は
「効果理論」
を採用しており、米国外での行為であっても米国の市場に影響を与えれば、容赦なく米国法で裁かれます。

担当者の行為は
「会社の行為」
とみなされ、それを防げなかった
「経営陣の責任」
へと、ドミノ倒しのように容赦なく延焼していくのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「ディスカバリー」と「偽証罪」によるアウェイの洗礼 

さらに恐ろしいのは、米国の強権的な捜査手法です。

「ディスカバリー(強制的な証拠開示手続)」
によって、関連する膨大な社内メールや通話記録の提出が求められます。

ここで
「都合の悪いメールを消す」
などという証拠隠滅(司法妨害)を行えば、それだけで致命的な重罪(ハリセンボン級のペナルティ)になります。

また、
「デポジション(証言録取)」
では、宣誓の上でカメラの前で凄腕の弁護士や当局から尋問を受けます。

ここで少しでも矛盾した発言や嘘をつけば、即座に
「偽証罪」
に問われます。

「覚えていない」
「担当者が勝手にやった」
といった、日本の裁判でまかり通るような曖昧な言い逃れは、客観的証拠の前に粉々に砕け散り、百億円単位の制裁金や、役員個人の刑事訴追を招く結果となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「秘匿特権(プリビレッジ)」という強力な防具 

欧米当局の過酷な捜査に対抗するには、日本の
「なあなあ」
な常識を捨て、欧米の法制度のルールに則って戦う必要があります。

たとえば、英米法体系には
「弁護士・依頼者間の秘匿特権(Attorney-Client Privilege)」
という強力な防御の盾が存在します。

弁護士に相談した内容やアドバイスを、開示手続きから合法的に守ることができる制度です。 

社内で素人判断の調査を行い、あちこちにヤバい証拠(メールやメモ)をまき散らすのではなく、初期段階から欧米法務に通じた外部弁護士を起用して調査を指揮させることで、当局への不用意な情報流出を防ぎつつ、戦略的なダメージコントロールを行うことが不可欠です。

モデル助言: 

海越社長、安易な自己保身と
「メールの削除」
という最悪の自爆行為は今すぐやめてください。

以下の手順で、欧米基準の本格的な防衛戦に移行します。

1 証拠保全と独立調査の即時実施 

データの消去は言語道断(明確な司法妨害)です。

直ちに関連する全データを保全(リーガルホールド)し、弁護士の指揮下で客観的な内部調査を実施して、当局より先に
「不都合な真実」
を正確に把握します。

2 「秘匿特権」を活用した情報統制 

社内の不用意なコミュニケーションはすべて証拠として提出させられ、命取りになります。

社内調査や対策のやり取りは必ず外部弁護士を介在させ、
「秘匿特権」
の鉄壁のバリアの中で行い、情報のコントロールを徹底します。

3 司法取引も視野に入れた交渉戦略 

米国の当局を甘く見て
「知らぬ存ぜぬ」
の穴熊戦法を貫くのは極めて危険です。

違反事実が濃厚な場合は、早期に協力姿勢を示して制裁金の減額や経営陣の免責を探る
「司法取引」
も視野に入れ、現地の強力な弁護士と共に当局とのタフな外交交渉に臨んでください。

結論: 

海外、特に欧米圏でのビジネスにおいて、
「部下が勝手にやった」
という日本のムラ社会的な言い訳は、
「私は経営者としての職務(ガバナンスの構築)を放棄していました」
という赤裸々な自白であり、致命的な悪手です。

圧倒的な権限と過酷な捜査手法を持つ欧米の規制当局に対しては、逃げ隠れするのではなく、現地の法制度と強力な防衛手段(プリビレッジ等)を熟知し、正面から理詰めで立ち向かう
「グローバル基準のガバナンスと有事対応力」
が経営トップには求められているのです。

※本記事は、架空の事例をもとに、欧米国際法務における規制当局の調査(反トラスト法、FCPA等の域外適用、サピーナ、ディスカバリー等)への実務対応や経営者責任に関する一般論を解説したものです。
実際の各国の法令適用、規制当局による調査の手法や制裁の内容、司法取引の手続き等については、国や地域、個別具体的な事実関係により大きく異なります。
個別の事案については必ず海外法務に精通した弁護士にご相談ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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