「大企業に理不尽なイジメを受けた! 警察も裁判所もアテにならないなら、マスコミに駆け込んで世間に訴えてやる!」
巨大な権力や資本に踏みにじられた中小企業の経営者が、最後の望みを託してテレビ局や新聞社の門を叩く。
ドラマではよくある熱い展開です。
しかし、何の戦略も持たずに
「私の可哀想な話を聞いてください」
とマスコミの扉を開けるのは、手ぶらでハングリーな肉食獣の檻に入るような危険な行為です。
彼らはあなたの
「お悩み相談室」
ではありません。
本記事では、大企業との泥沼の紛争において、マスコミという
「第四の権力」
を最強の同盟軍(飛び道具)に仕立て上げるための、プロの法務戦略と
「極上のエサ(ネタ)」
の仕込み方について解説します。
この記事でわかること:
・マスコミが求める「ニュースバリュー(報道価値)」の冷徹な本質
・大企業の「表の顔」と「裏の顔」のギャップを突くストーリー構築術
・相手方弁護士の「法のベールを被った攻撃」を打ち返す、メディアを利用したカウンター戦略
相談者プロフィール:
株式会社 サブミクロン・ダイナミクス 代表取締役社長 町田 鉄工(まちだ てっこう)
業種:精密部品開発・製造
相手方:株式会社 メガロ・インダストリーズ(取引先である東証プライム上場の巨大メーカー)、および オメガ放送協会の報道ディレクター
相談内容:
先生、ウチの会社を倒産寸前まで追い込んだメガロ社を、絶対に許せません!
ヤツら、ウチの独自技術を盗んだ挙句、一方的に取引を打ち切ったんです。
抗議をしたら、メガロ社の代理人弁護士から
「文句があるなら裁判でも何でもどうぞ。当方は一切の法的責任を負いません」
と内容証明が届きました。
こうなったら世論を味方につけるしかありません。
幸い、知り合いのツテをたどって、大手テレビ局であるオメガ放送協会の敏腕ディレクターにアポが取れました。
来週、挨拶がてら、私がメガロ社から受けた理不尽な仕打ちと悔しい思いを、涙ながらに全〜部ぶちまけてこようと思います!
これでメガロ社も社会的に抹殺できますよね!?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「お悩み相談」で行くか、「極上のエサ」を持参するか
町田社長、その熱いお気持ちは分かりますが、ただ
「悔しい思いをぶちまける」
ためだけにテレビ局に行くなら、今すぐアポをキャンセルしてください。
オメガ放送協会は、民放よりはコンプライアンス的に余裕があるとはいえ、彼らには彼らの
「思惑や狙いや打算」
があります。
彼らが求めているのは、町田社長の個人的な愚痴や涙ではなく、
「視聴率が取れる、ニュースバリュー(報道価値)のあるネタ」
です。
忙しい敏腕ディレクターに対して、どこにでも転がっている
「よくある下請けイジメの苦情」
を延々と聞かせれば、
「無駄な時間をつぶさせやがって」
と忌避され、二度と会ってもらえなくなるのがオチです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「社会悪」を浮き彫りにするストーリーの構築
ディレクターを前のめりにさせるには、
「これはただの企業間トラブルとは違う、社会の闇を暴く特ダネだ」
と思わせる
「極上のエサ(報道価値のある社会実体を伴う情報)」
をきっちり調理して持参する必要があります。
たとえば、以下のようなギャップ(落差)を提示するのです。
・【偽善の暴露】
表向きは「SDGs」や「共存共栄」を声高に掲げ、テレビCMで愛や平和を説いている超優良企業が、裏では下請けの血肉をすするような無茶苦茶な搾取と技術盗用を行っている。
・【冷徹な対応】
ひとたび問題が起きると、大手事務所の弁護士を立てて「法のベール」をすっぽり被り、中小企業に対して過酷で陰険極まりない圧力(内容証明等)をかけてくる。
・【常習性と隠蔽】
過去にも同様の被害に遭って倒産した下請けが複数存在し、今回も明白な予兆があったにもかかわらず、組織ぐるみで隠蔽している。
・【反撃への妨害】
町田社長がこの被害から立ち直り、下請けいじめ撲滅のネットワーク(NPO)を作ろうと奔走しているが、大企業側から露骨な妨害を受けたり黙殺されたりしている。
こうした
「報道価値のあるストーリー」
とそれを裏付ける
「客観的証拠」
をパッケージ化して、初めてマスコミのツボにハマるのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:最強の「飛び道具」を温存する戦略的同盟
メガロ社側には強力な弁護士がついており、今後、裁判や交渉の場でさらに辛辣で法的にエグい対応をしてくることが容易に想定されます。
我々としても、相手が
「法という剣」
で容赦なく斬りつけてくるなら、
「返す刀」
として
「マスコミという重戦車(第四の権力)」
を使って反撃する準備をしておかなければなりません。
そのためには、オメガ放送協会のディレクターを
「いざという時に、即座に、全面的に味方につけられるキーパーソン」
として確保しておく必要があります。
単なる
「挨拶」
ではなく、彼らが欲しがる情報を的確に提供できる
「使える情報源」
としての関係を、したたかに築き上げてください。
モデル助言:
町田社長、マスコミ訪問は
「情に訴えるお白州」
ではなく、
「戦略的同盟を結ぶための外交交渉」
です。
以下のプランで臨んでください。
1 「お涙頂戴」を封印し、ニュースバリューを提示する
感情論を横に置き、メガロ社の行為が単なる一企業の問題にとどまらず、業界全体や社会に対する
「巨悪」
であることを客観的に示すプレゼン資料(証拠群)を準備します。
相手のツボにはまる状況を企図して会いに行ってください。
2 相手の「打算」を逆手に取る
ディレクターが
「これは番組の特集で使える!」
と直感するような、メガロ社の
「表の顔(キレイゴト)」
と
「裏の顔(えげつない実態)」
の強烈なコントラストを強調して伝えます。
3 長期的な「情報提供ルート」を確立する
1回の訪問で番組にしてもらおうと焦るのではなく、
「今後もメガロ社のエグい法的対応の証拠等、逐一おいしいネタを提供できる有益なパートナー」
として、太く強固な接点を作ってきてください。
結論:
マスコミは
「無条件で助けてくれる正義の味方(水戸黄門)」
ではありません。
しかし、彼らの
「欲求(ニュースバリュー)」
を正確に満たす極上のネタを提供できれば、相手企業を震え上がらせる最強の
「第四の権力」
として機能します。
権力者に会うときは、裁判所に緻密な書面を出すのと同じように、周到な
「プラン」
を練り上げること。
これこそが、巨大資本の暴走に対抗するための、プロの
「情報戦(インテリジェンス)」
の極意なのです。
※本記事は、架空の事例をもとに、企業間紛争におけるマスコミ対応や広報戦略(訴訟外の紛争解決手法)に関する一般論を解説したものです。
実際の報道機関への情報提供や取材対応においては、名誉毀損や信用毀損、営業秘密の漏洩等の重大な法的リスクを伴うため、個別の事実関係や証拠状況に基づき、必ず弁護士にご相談の上で慎重にご判断ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
