02268_企業法務ケーススタディ:弁護士の「小難しい法律論」の裏にある生々しい本音_難解な方針は「ギャラが足りない」のサイン?

弁護士が突然、事案解決のハードルを上げ、話を複雑に広げ、難解な法律論をこね回し始めたとき、企業法務担当者は
「何か法的な大問題が起きたのか!」
と身構えがちです。

しかし、その難解な
「法務の霧」
を晴らしてみると、実は
「ギャラ(報酬)が少なくてモチベーションが上がりません」
という、極めて人間臭く生々しい本音が隠れていることが多々あります。

本記事では、プロフェッショナル(弁護士)が発する
「難解なシグナル」
の真意を読み解き、不毛な方針論争を避けて、膝詰めの
「調整課題(お金のハナシ)」
としてスマートに解決する大人の交渉術について解説します。

この記事でわかること:

・弁護士が話を複雑にし、漠然とした方針を語り出す「真の理由」
・法理の対立と見せかけた「報酬の不満」を見抜く高度なリテラシー
・こじれかけた弁護士との関係を「膝詰めの交渉」で修復する実務的アプローチ

相談者プロフィール:

医療法人社団 ヒポクラテス・メディカル・グループ 理事長 癒田 仁(いやだ じん)
業種:広域クリニック運営(内科・皮膚科)
相手方:現在依頼しているX法律事務所の担当弁護士

相談内容: 

先生、現在依頼している別の法律事務所のX先生のことでご相談です。 

当法人が抱えている賃料返還請求の件で、X先生から今後の
「方針と依頼金」
に関するメールが来ました。

ところが、その内容がどうにも腑に落ちません。 

X先生の主張はどんどん話が広がり、事案の解決を無駄に複雑にし、時間がかかるような方法ばかりを提示してきます。

当然、こちらのメリットに繋がるとは思えず、
「そのような方針や報酬希望は呑めません。こちらの提案通りに進めないなら、一度着手金を精算して仕切り直すしかない」
と強気の返信をしてしまいました。

相手は法律のプロですが、どうも話が噛み合いません。

このまま契約解除(解任)の方向で進めるべきでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:難解な「法務ロジック」の皮を被った「経済的欲求」 

癒田理事長、相手の
「小難しい法律論」
を真に受けて、真っ向から法理で斬り合うのは、ビジネスマンとして少々ピントがずれています。

弁護士の先生が、話をどんどん広げ、漠然としたややこしい方針を語り出したとき。

それは多くの場合、
「法的な新発見」
があったからではありません。

要するに、
「理事長、この仕事量とリスクに対して、提示されているギャラ(報酬)が少なすぎます」
という不満を、プライドの高い士業特有の
「わかりにくい、もったいぶった言葉」
で表現しているだけの話なのです。

一流のフレンチシェフが
「この食材では私のインスピレーションが湧きません」
と哲学的なことを言い出したら、それは単に
「予算が足りない」
と言っているのと同じです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「絶対やらない」のではなく「調整してほしい」というシグナル

「ギャラが足りないなら、はっきりそう言えばいいじゃないか」
と憤る気持ちはわかりますが、そこは
「高潔な法と正義の番人」
という建前で生きている専門家です。

「もっとお金をください」
とストレートに言うのは、彼らの美学(あるいは職務上の矜持)が許さないのです。

しかし、X先生も
「こんな安いギャラなら、絶対にこの仕事は引き受けない!」
と完全にへそを曲げているわけではありません。

彼らの頭の中には、
「せめてこれくらいは欲しい」
という具体的な相場感(希望額)が確実に存在しています。

つまり、これは
「高度な法的課題」
などではなく、単なる
「ビジネス上の価格調整課題」
に過ぎないのです。

モデル助言: 

癒田理事長、ここで
「方針が違う! 解任だ!」
とちゃぶ台をひっくり返すのは、下策です。

別の弁護士を探す手間とコスト、これまでの経緯を説明し直す労力を考えれば、今の先生と折り合いをつける方がはるかに経済的です。以下の手順で進めましょう。

1 メールでの「文字の応酬」をやめる 

弁護士を相手に、メールで
「方針の是非」

「着手金の精算」
といった理屈の応酬をするのは危険です。

相手は
「言葉のプロ」
ですから、理論武装で反撃され、意地になられて事態が泥沼化するだけです。

2 「調整課題」として膝詰め(直接面談)で話し合う 

「いろいろと複雑な論点があるようですので、一度じっくりご相談させてください」
と持ちかけ、必ず直接お会いしてください。

3 本音(ギャラ)の着地点を探る 

面談の席では、法律論は横に置き、
「先生が最善のパフォーマンスを発揮するために、当法人としてどのように環境(=費用面)を整えればよろしいでしょうか」
と、大人の余裕をもって懐に飛び込みます。

「どのあたりで調整できるか」
を探り合うことで、霧が晴れたようにスムーズに方針が一致するはずです。

結論: 

専門家が発する
「難解で複雑な理屈」
の裏には、往々にして
「生々しいカネの本音」
が隠れているものです。

企業のリーダーや法務担当者に求められるのは、相手の言葉を額面通りに受け取って論破することではなく、その背後にある
「本当の要求(インセンティブの不足)」
を察知するリテラシーです。

法律という分厚いヨロイを着た専門家を動かすのは、最終的には
「論理」
よりも
「納得のいく対価」
という、極めてシンプルなビジネスの原則なのです。

※本記事は、実際の内部相談事例をもとに、専門家(弁護士等)との委任契約や報酬に関するコミュニケーションのあり方、および企業法務における交渉・調整術の一般論を解説したものです。
実際の弁護士報酬や事件処理方針は、個別の契約内容や事件の難易度等により異なります。
個別の事案については、担当する弁護士と十分な協議の上でご判断ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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