損害賠償請求訴訟における被告弁護とは、 平たくいえば、相手の法的要求に
「ケチや難癖をつける」
ことです。
逆に原告側は、いかに相手にケチをつけさせないようにするか、そのために相手方としても争いようのない事実や客観的な明らか証拠により証明できる事実に整合する形で法的主張を考える、ということになります。
例えば、取締役が、債権者から不法行為に基づく損害賠償請求訴訟が提起されて、被告となり、
「会社が倒産したのはお前が取締役としての責任を果たさずさぼっていたことが関係しているのだから、倒産したことによる損害を賠償せよ」
といわれた場合、相手の言い分を鵜呑みするのではなく、ケチをつける、すなわち相手の言い分に逐一疑問を抱き、疑ってかかる姿勢が必要です。
たとえば、債権者の主張している債権額はほんとに主張どおりなのでしょうか?
ひょっとしたら、この債権者って倒産直前期にとんでもない利息で貸し付けた悪徳業者であり、主張している債権額のうちほとんどは違法な金利によるものかもしれません。
そうだとすると、実際の損害額は債権者と称する悪徳金融業者の主張している金額よりはるかに低いかもしれません。
また、ひょっとしたら、この債権者は、倒産直前期のごたごたに外注担当者と結託して、ほぼ背任に近い状態で、ロクな仕事もせずに適当な金額で企画発注しているだけかもしれません。
さらには、一見まともな取引に基づく債権を主張しているような場合でも、納入したものがとんでもない欠陥品でそもそも債権額の半分も主張できないような事情があるのかもしれません。
加えて、果たして、被告の取締役が代表取締役の暴走を止めなかったことが会社倒産の引き金なんでしょうか?
よくよく事実を調べると、倒産の引き金は、特定のプロジェクト推進とかそんな特定一部の事業推進が問題ではなく、構造的問題として、マーケット自体がすでに衰退期にあり、どんなに努力をしようが会社はつぶれる運命にあったのかもしれません。
このように、被告弁護において、損害発生や因果関係とかについて疑ってかかり、これらを争ってみる姿勢、日常的な言葉を使えば
「相手のいっている法的シナリオに徹底してケチや難癖をつける姿勢」
というのが非常に重要になります。
ただ、なんでもかんでもケチ・難癖をつければいいか、というと、裁判所に受け入れられるようなケチ・難癖であることが必要です。
被告代理人としてケチや難癖をつけるのであれば、(すでに解説したしたところですが)裁判所がもっている、日常生活におけるものとはかけはなれた、特殊な経験則とか法律の解釈適用則とかを踏まえなければなりません。
そして、裁判所もお役所である以上、
「お役所共通の客観的事実の尊重(当事者の主観の排除)」
や
「保守的なまでの文書偏重主義」
に沿った形でのケチ・難癖を構成する必要があります。
とくに、客観的裏付けもなく単に相手の主張に疑問を呈するだけだったり、相手の揚げ足取りをするだけの反論は裁判所は忌み嫌います。
このような点を考えながら、被告取締役側の弁護士としては、相手方の主張がすんなり受け入れられないよう、さまざまな反論を試みることになります。
そして、このような主張の応酬過程を経て、裁判所に本件の争点(ポイントとなる事実についての言い分の食い違い・意見の隔たり)が見えてきて、土俵が固まり始めます。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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