「人間は、生きている限り、法を犯さずにはいられない」
ということは、歴史上証明された絶対普遍の真理だと考えます。
もし、この点について、腑に落ちない、絶対認めない、納得しかねる、という方は、まず、人は生きている限り、法を犯さずにはいられないを御覧ください。
この命題を前提としますと、次に、議論すべき課題が出来します。
すなわち、
「人間は、生きている限り、法を犯さずにはいられない」
として、 人の集合体ないし組織である企業や法人はどうでしょうか?
「たとえ、赤字転落しても、正直に赤字決算を発表しようよ」
「どんなに切羽詰まっても、また、どんなに実質的に影響がないということがあっても、杭打ちデータのコピペは良くないからやめとこうよ」
「会社がつぶれても、我々の生活が破壊され、家族一同路頭に迷うことになっても、守るべき法や正義はある。ここは、生活を犠牲にしても、法令に違反したことを反省して、社会や外部からいろいろいわれる前に、非を認めて、責任をとって、会社を早急につぶそうよ」
企業に集う人間たちが、そんなご立派なキレイ事を、意識高く話し合い、高潔に、自分の立場や生活や財産を投げ打って、家族を犠牲にしてでも、法を尊重していくのでしょうか?
ちがいますね。
まったく逆ですね。
人が群れると、
「互いに牽制しあって、モラルを高め合い、法を尊重する方向で高次な方向性を目指す」
どころか
「赤信号、みんなで渡れば怖くない」
という方向で、下劣な集団意識の下、理念や志や品性の微塵もない集団行動が展開していきますね。
では、
「企業の目的」、
すなわち、
企業を「人間」となぞらえた場合の「本能」
に相当するものはなんでしょうか?
それは、
「営利の追求」
です。
弱者救済でも、
差別なき社会の実現でも、
社会秩序の形成・発展や倫理の普及でも、
健全な道徳的価値観の確立でも、
世界平和の実現でも、
環境問題の解決でも、
人類の調和的発展でも、
持続可能な社会の創造でも、
ありません。
そんなことは、ビタ1ミリ、会社法に書いてありませんし、株主も、徴税当局も、そんなことを根源的な目的として望んでいるわけではありません。
会社法のどの本をみても、例外なく、株式会社の目的を
「営利の追求」
としております。
企業としての
「本能」
すなわち
「営利の追求」
と、法やモラルが衝突した場合、人の集合体として人格をもった企業は、どのような選択を行うか。
「企業は、普通の人間と同じく、いや、普通の人間をはるかに大胆に、法やモラルを無視あるいは軽視し、本能を優先させる」
ということもまた、歴史上証明された事実であることは、不愉快ながら、ご納得いただけると思います。
刑法における共同正犯理論において、こんな議論があります。
「一部しか実行に加担していないのに、ひとたび、『共同正犯』とされたら、なにゆえ、全部の犯罪責任を負わされるのか」
という法律上の論点があり、この問題について、共同正犯理論は、
「犯罪を成功させる相互利用補充関係があり、法益侵害の危険性が増大するから、一部しか犯行に加担したという人間であっても、全部責任を食らわせてもいいんだ」
と正当化します。
企業組織も同様なのです。
「自分個人が、自分個人の利得のために、自分個人が全責任を負担する形で、大胆に法を冒す」ということはおよそ困難であっても、
「自分がトクするわけではないし、企業のため、組織のためなんだ」
と自分に言い聞かせ、
「皆やっているし、皆でやるんだし、昔から続いてるやり方だし、これまで問題にしなかったし、そうやって、長年やってきたし」
という状況において、
お互いがお互いを励まし合い(?)、
「ひょっとしたらヤバイんじゃないか」
という疑念を鼓舞し合いながら振り払い(?)、
手に手を取り合って、チームとして高い結束力(?)でがんばることによって、
「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン。さ、みんなでチャレンジ[1]だ!」
「決算チャレンジ[2]、皆で力を合わせれば怖くない」
といった感じで、法のハードルなどかなりラクに超えられます。
こういうことから、
「人が集まる組織である企業も、存続する限り、法を犯さずにはいれない」
といえるのです。
このことは永遠不滅の絶対的真理であり、このどの企業も逃れようがない真理に基づき、今後も法令違反事例が多発するものと思われます。
[1]一部の企業では、法令違反行為をこのような特殊な方言で表現することがあるようです
[2]一部の企業では、粉飾決算をこのような特殊な方言で表現することがあるようです
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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