00609_法務予算の分類

法務予算(安全保障対策予算)の分類としては、マネジメントの観点から、まず、
定常的(経常的、平時)支出費用か、
非定常的(特別、有事)支出費用か、
という分け方が意識されるべきです。

会計上も、
前者は、
いわゆる販管費(販売費及び一般管理費)の中の一般管理費として認識・計上される
と思われますが、他方、
後者は、
訴訟損失引当金として認識・計上される
ことになろうと思われます。

1 定常的(経常的、平時)法務予算

定常的(経常的、平時)法務予算は、

配賦先1:社内サービス提供部門としての法務部
配賦先2:外部調達先としての法律顧問(顧問弁護士)の予防法務サービス予算

に配賦されることになります。

これは、企業の安全保障活動のうち、
「 企業内活動の言語化・記録化・文書化(株主総会や取締役会の議事録作成)や取引活動の文書化(契約書作成)や治安維持活動(コンプライアンス教育)や危機管理意識の向上改善のための啓発活動(法務教育)」
という、平時に展開・運営される後方支援活動を、内製(インソース)、外注(アウトソース)のいずれの調達が、
価格・品質・(供給の)安定性及び継続性という観点から合理的かどうか
によって配賦決定されるべきものと考えます。

2 非定常的(特別、有事)法務予算

こちらについては、
・企業の安全保障を担う部署であり、
・有事において直接カウンターパートと対向して働きかける外部の顧問弁護士とは異なり、
・平時において、有事を想定しながら、「大事が小事に、小事が無事に」なるよう、文書作成や記録管理を中核としたルーティンを担当する組織、
という本源的性格を有する、安全保障活動の後方支援部隊としての法務部に配賦されることは原則として生じ得ないと考えます(有事状況において、法務部員の残業が発生したり、文書整理等の作業補助のため派遣社員を増強したりする場合の費用は、経営管理上、有事法務予算として認識することもあろうかと思いますが、会計上は、営業費用の中の間接労務費としての認識・計上となるものと思わわれます)。

非定常的(特別、有事)法務予算は、企業の安全保障活動のうち、
企業外の敵対勢力(取引トラブルや法令違反に対する当局による不利益措置など)企業内の敵対分子(労働問題や内部統制問題など)が生じた場合に直接これらカウンターパートと対向して解決を働きかける
という有事対応活動を展開する際、
起用する外部専門家組織(実働傭兵集団)に対する費用や、
紛争解決費用(敗訴の場合の賠償金や和解の場合の解決金や示談金、課徴金、罰金)
に配賦されます。

なお、海外で訴訟を提起された場合の対応や、規制当局から調査や処分を通告された場合の対応といった事件・事案については、想像以上に計上予算(や会計的に認識・計上すべき引当金)が巨額になる可能性がありますので、マネジメント上も、会計上も、注意が必要です(特に、海外の事件・事案に経験値のない企業の場合、計上予算ないし引当金が想像を超えた額になることを実感できず、恐慌を来す場合があります)。

特に、訴訟等においては、日本では
「民事法秩序としては容認できない」
とされ排除されている懲罰的損害賠償が制度として認められています。

その結果、想定賠償額が巨額なものとなりますし、これに比例してディフェンスコスト(弁護士費用)も巨額なものとなりがちです。

また、例えば独禁法違反事件等に対する罰金や和解金についても、欧米当局から百億円単位の支払を求められる場合がありますし、当然、これに比例してディフェンスコスト(弁護士費用)も巨額なものとなる傾向があります。

さらに、数億円、あるいは数十億円単位にのぼる巨額な支払を実施する外国法律事務所を漫然と信頼して、丸投げして、ブラックボックス化を放置すると、
「タイムチャージ(時間制報酬)という費用が無秩序に増大化するモラルハザードの危険を内包した費用体系」
が採用されることが一般的であることも重なり、費用対効果を喪失し、
「莫大な費用をかけた挙げ句、ゲームを管理・制御できないまま、壊滅的な結果を招き、しかも、説明も総括もできない」
という悲惨な状況に陥る場合が生じ得ます。

このようなリスクを防ぐためには、
・委託先の外国法律事務所を競争調達する
・委託先の外国法律事務所との間でしかるべき緊張関係を保ちながら、予算管理、品質管理を行う
・事件や事案をブラックボックス化しないようにするため、リアルタイムの状況の可視化・状況解釈を行う
とともに、
前線部隊(外国法律事務所)へのしかるべき指揮・命令・統括、状況に合わせた戦略の変更(ゲーム・チェンジ)の適時の実施、といった司令部機能を保持するため、別途、企業内に設置された特別有事対応組織(危機管理コミッティー等)が直接統括する専門集団(具体的には、国際経験のある日本の弁護士や法律事務所)を、前線部隊管理や督戦や連絡将校(リエゾン・オフィサー)として、起用する
場合もあります。

このような、前線部隊である外国法律事務所の活動について、予算や品質の面で管理し、あるいは戦略の実施状況の確認やしかるべき指揮統括(連絡や督戦)を行うために起用される日本の国際弁護士や国際法律事務所の活動費用(こちらもタイムチャージに基づき巨額化する可能性があるので、競争調達や予算管理・品質管理が必要となる)も、非定常的(特別、有事)法務予算として、認識・計上されることになろうかと思います。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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