どんな人間も、人間である限り、カネの欲には勝てません。
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宗教法人の高野山真言宗(総本山・金剛峯寺、和歌山県高野町)の宗務総長が宗団の資産運用を巡り交代した問題で、外部調査委員会が損失額を当初の約6億9600万円から約17億円に訂正していたことが明らかになった。
(2013年9月11日の毎日新聞「高野山真言宗」「損失額、大幅に増」「外部調査委)」。 その他、2013年4月22日付「朝日新聞」朝刊「高野山真言宗30億円投資 浄財でリスク商品も 信者に実態伝えず 『粉飾の疑い』混乱」など多数の報道)
高野山真言宗の八事山興正寺(名古屋市昭和区)の住職らが19日、名古屋市内で記者会見し、前住職が関わった土地の売却代約138億円のうち約68億円の運用に不審な点があり、背任容疑で前住職らを告訴することを検討していると明らかにした。
会見を開いた添田隆昭住職らによると、前住職は平成24年に寺の土地約6万6千平方メートルを学校法人に売却。売却代金のうち約41億円が寺の関係者が代表取締役を務めたコンサルティング会社(東京都港区)に支払われ、前住職が設立に関わった英国の法人にも約14億円が渡ったとしている。
高野山真言宗の宗務総長も務める添田住職は「多額の金員を流失させたのは許し難い」と述べた。
前住職の代理人弁護士は「会見の詳細は把握していないが、理解に苦しむ」と話している。
高野山真言宗は承認を得ずに土地を売却したなどとして前住職を26年に罷免しているが、前住職は興正寺を立ち退いていない。
興正寺は名古屋国税局の税務調査を受け、27年3月期までの3年間に約6億5千万円の申告漏れを指摘された。 (産経WEB 2016年8月19日19:08配信記事「約68億円の運用に疑惑、背任容疑で前住職告訴検討 名古屋の寺」より)
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千日回峰行(空海が教えた密教の修行)を完遂した阿闍梨(仏陀の「完全な人格」にかぎりなく近づいているはずの高僧)がおわします立派で高潔な団体ですら、カネの欲には勝てないくらいですから。
ましてや、カネを継続的に増やすという本能をもった
「企業」ないしその責任者
となれば、カネに対する執着と欲は異常なほど強力なものとなります。
そもそも、カネという経営資源の特徴ですが、決裁手段として使うならともかく、カネを運用手段として自己増殖的に増やそうとした途端、不可視性、抽象的かつ複雑、高度の技術性という点が如実に現れます。
要するに、 バカでは扱えないし、バカが扱うとエライ目に遭う、という危険を内包しているのです。
ところが、カネの欲は、冷静さや理性的判断や謙虚さを吹き飛ばします。
カネに対する強い欲望と、
「オレはバカではない」
と謙虚さのない知ったかぶりが昂じると、聞いてはいけない人間の助言(有害なノイズ)に踊らされ、ゲームのルールを理解しないまま、危険な立場を取らされ、リスクを取らされ、損害を被り、損害を隠蔽するため、さらに危険なマネを強いられ、最後は会社を傾かせることになります。
これほどまでに運用が困難な時代に、
「リスクが少なく、リターンが大きな、安全な投資」
などあり得ませんし、仮にそういうものがあっても、
「資産といってもほどほどの額しかなく、金融に関する知識にも乏しい、そこらへんの一般企業」
のところには決して回ってきません。
一般的に申し挙げて、
「余剰資金運用や節税にエネルギーを使う企業」
は、
「健全な成長・発展してきちんと納税する企業」
との比較において、短命といえます。
企業が
「一発逆転」
を狙って自分の頭脳で理解できない利殖商品に手を出したり、何度聞いてもよくわらかない節税商品に手を出すのは、方向性としても、実際問題としても大きなリスクがあり、企業生命を危うくするものと考えられるのです。
おカネないしファイナンスというものは、サイズが大きくなっていくにつれ、その価値の構成や仕組が抽象化され、時間やリスクというファクターが複雑に組み合わさっていき、どんどん理解が困難な代物になっていきます。
また、
「銀行は、晴れた日に傘を貸して、雨が降ったら取り上げる」
などといわれますが、おカネを扱う方の品性や野蛮さは、着用しているスーツの品のよさや学歴の高さと見事に反比例しています。
無論、これは褒め言葉です。
「百獣の王と呼ばれ、動物の世界で頂点に立つライオン」
が、知的で、狡猾で、慎重で、自己中心的で、冷酷で、残忍であるように、
「金融資本主義が高度化した現代において、経済社会の頂点に立つ、金融関係者」
も、強靭で、知的で、狡猾で、慎重であることは当然です。
金融のプロからみれば、
「知ったかぶりで、無防備な企業の社長」
をひねりつぶすなどいとも簡単なのです。
バブル期の不動産担保ローン、変額保険、高額会員権、為替デリバティブ等、
「カネの知識のない一般企業」
が銀行や金融機関によって経済生命を奪われた例は枚挙に暇がありません。
「身の丈を知る」
という言葉がありますが、実業に徹し、ラクをすることを考えず、慎重かつ保守的に行動し、理解できないものには手を出さず、手を出すなら売る側の金融機関担当者を上回るくらいきっちり勉強して、諸事疑ってかかれば、おカネやファイナンスで失敗することはありません。
以上のとおり、おカネにまつわる仕事をする際は、おカネやファイナンスの難しさや、おカネやファイナンスをとりまく人間のずる賢さや恐ろしさといったものを適切に理解し、勉強を怠らず、慎重に行動していくことが求められるのです。
特に、法務部もしくは法務担当者としては、複雑な専門用語や高度で難解な表現が散りばめられた資料の奥底にある、本質とメカニズムをきっちり把握した上で、
「カネの知識のない一般企業」が
知的で、狡猾で、慎重で、自己中心的で、冷酷で、残忍な金融プレーヤーや危険な節税提案をする方々の食い物にされることのないよう、 リスクをきちんと把握し、これをしっかりとカネを取り扱う責任者に警告することが役割として求められます。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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