00085_企業法務ケーススタディ(No.0039):デット・エクイティ・スワップを活用せよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社グレート・ムトウ 社長 武藤 敬一(むとう けいいち、45歳)

相談内容: 
先生、銀行が訳わかんないこと言ってて、チンプンカンプンです。
どうか、お知恵を貸してください。
いえね、今度展開する当社新事業のために資金が必要なので、長年付き合いのある全日本銀行に事業資金の借入れを打診したんですが、当社の決算書をみた新しい銀行の担当者から
「負債が多くてバランスが悪いですね」
なんて言われまして難色を示されています。
負債つっても、私や妻の役員報酬の未払がたまっているだけで、こんなの身内の借金ですし、当社の事業基盤はしっかりしていますよ。
そんな中、銀行の担当者がいきなり何を言い出すかと思ったら
「スワッピングしてくれたら、貸すことができるかもしれない」
なんて言い始める。
一体なんのことやらさっぱりですよ。
私は、そんな変な趣味ないですよ。
銀行の連中ってのはストレス溜まって病んでるんでしょうが、こんなことまで要求しますかね。もう泣きそうですよ。
とりあえず、
「わかりました。
前向きに検討します」
なんつって帰ってきたんですが、俺、やですよ。
親父の代から付き合いある古くからの税理士さんも銀行との相談に同席したんですが、チンプンカンプンなようですが、わかったようなフリをしてました。
帰り道、
「ま、会社のためですから、奥さんの了解も得られては」
なんていいやがる。
先生、どうしたらいいんですか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:債務株式化
会社のバランスシートをみると、右側(貸方)には、上段に負債、下段に資本の項目が並んでいます。
法律的にみると、負債は返さなければならない借金で、資本は返さなくてもいい出資金ということで、顕著な違いがあります。
しかしながら、
「会社の運転資金の調達先はどこか」
という観察においては、負債であれ、資本であれ、調達先が債権者か株主かというだけであり、どちらも似たようなもの、ということになります。
今から10年前ほどから、負債でクビが回らなくなりはじめた企業や、負債が大きくなり過ぎて資本とのバランスが悪くなった企業において、負債を資本に振り替えることにより、企業再建に活用したり、企業が健全にみえるようなお化粧直しの方法として、債務株式化という手法が検討されはじめました。
債務(デット)を株式(エクィティ)に交換する(スワップ)という意味で、デット・エクィティ・スワップとかDES(デス)なんて言い方をされますが、武藤さんが想像するような口に出して言えないような恥ずかしい類のものではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:債務株式化の具体的手法
債務株式化は、
「大手企業の再建の際に金融機関の支援策として使われるような大規模で難しい手法」
として考えられてきましたが、新しい会社法施行に伴い、簡単に実施できるようになりました。
最近では、中小企業においても、金融機関や取引先に対してバランスシートの見栄えをよくするための財務改善の手法としてよく用いられます。
債務株式化の手法、債権者が債権を元手として出資して増資する手続になります。
武藤さんに対する未払役員報酬が1000万円になっていたとします。
会社がこの1000万円を社長に返済し、他方、武藤さんは返してもらった1000万円で会社の株式を買います。
現金がいってかえっての話になるので、実際には、お金を一切動かさずに処理をする。
この結果、会社としては借金が減り、資本が増え、自己資本比率が改善する。
簡単に言うと、こういう話になります。

モデル助言: 
お年を召した税理士さんとかでデット・エクィティ・スワップを知らない人もいるでしょうけど、
「ま、会社のためですから、奥さんの了解も得られては」
はないですよね(笑)。
銀行の指導としては、至極真っ当ですね。
というか、そういう点も含めてアドバイスしてくれるなんていいバンカーじゃないですか。
御社の場合、確かに過去の未払役員報酬や創業初期のころの自宅兼事務所の未払家賃とかが溜まっているようですね。
他方、売上規模が大きくなったわりに、資本金は設立時の1000万円のままでその後増資をしていない。
ですので、債務株式化で財務改善できる典型的なケースといえますね。
ちょっと前までは、額面での現物出資にいろいろ議論があったのですが、幸い新会社法になって額面そのままの出資ができるようになりましたので、かなり早く実施できますよ。
一度、銀行の担当者の方も交えて、具体的なスケジュールを組んで進めていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです