00958_企業法務ケーススタディ(No.0278):その合併、待った!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2013年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」五十の巻(第50回)「その合併、待った!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 米国子会社 WakiAma(ワキアマ)エレクトロニクス

相手方:
詰甘(ツメアマ)電機株式会社 米国子会社Tテクノロジー

その合併、待った!:
当社の子会社が、相手会社の子会社と合併することになりました。
合併するのは米国の会社同士ですから、日本法は関係ありませんので、すべて現地の者に任せています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:企業結合がもたらす競争制限効果
ある市場において、一定以上のシェアを占める企業同士が、合併や株式移転、事業の譲受等(以下「企業結合」)を行って企業規模や市場シェアを大きくすることは、市場全体の活性化、企業の競争力アップというメリットが生じますが、その分、競争相手が減る、あるいは消滅するという結果を生じさせることになり、結果、消費者は、その企業の商品を購入せざるを得ないこととなります。
このように、特定の企業がある程度自由に価格等を左右することができてしまう状態を、独禁法では
「競争が実質的に制限された状態」
といいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:独禁法による企業結合規制
わが国においては、独占状態をもたらすような企業結合を禁止し、一定の
「国内売上高」
を有する企業同士が企業結合を行う場合は、公正取引委員会(以下「公取委」)に対し、30日前までに企業結合の概要を届け出なければなりません。
これに違反した場合、公取委から合併無効の訴えを提起され(独禁法18条)、合併の効力自体が否定されてしまう場合もあります。
企業結合はタイミングが重要ですし、当事者が上場企業の場合、せっかくの合併が無効にでもなれば、株価に悪影響が生じ、最悪の場合
「経営陣は経営責任を追及されて総退陣」
ということになりかねません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:事前相談の廃止
平成23年に、公取委は、審査の期間短縮と透明化を狙って、
「届出がされた後の法定の審査」
を一本化することで、事前相談を廃止しました。
独禁法の企業結合規制に関しては、公取委が
「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」
等のガイドライン、さらにウェブサイトで各種事例等も公表しており、企業は、あらかじめ要件に該当するか調査可能な仕組みが整備されています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:グローバル化の中で
独禁法上の届出手続は、企業結合を行う当事者の一方又は双方が外国企業であっても、当事者の親会社等も含めた企業集団全体で日本国内における売上高が一定規模を超えていれば、適用対象となります(独禁法15条)。
このような事前届出手続の制度は、世界中の相当な数の国・地域で取り入れられ、同じような制度が定められています。
したがって、日本企業同士の企業結合であっても、海外における事前届出を検討しなければならない場合もあり、一定規模以上の企業が絡む企業結合においては、各国における売上高や資産規模等を洗い出し、各国の事前届出制度の要件に当たるかどうかの確認をしなければならないことになります。
そのうえ、事前届出の要否を判断するだけでもかなりの手間がかかるうえ、所要期間が各国でまちまちで、すべての期間が満了しなければ実行できませんから、一番時間のかかる国に合わせてスケジューリングする必要があります。

助言のポイント
1.企業結合の効果はメリットだけではない。競争制限効果という社会全体にとってのリスクもある。
2.企業結合する場合、公取委に事前に届け出なければならない場合があることも忘れない。
3.当事者が外国の会社だからといって安心するな、事前届出の適用対象になる場合がある。
4.複数の国で事前届出をする場合、余裕をもってスケジューリングをすること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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