本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十の巻(第110回)「役員登記ほったらかしのペナルティー!」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
裁判所
役員登記ほったらかしのペナルティー!:
裁判所から、役員の重任の登記が遅れたということで、
「過料決定」
という通知が届きました。
「毎回登記するなんぞ、ムダ以外の何ものでもないから、異議の申立てをする」
と、社長はいいます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:そもそもなぜ登記が必要か
会社には、顧客、従業員、銀行、仕入先、納入先といったさまざまなステークホルダーがいます。
特に、BtoB取引を行うステークホルダーにとって、相手方の経営者がどんな人物かは与信管理を行う上で重要事項です。
そこで、会社法では、当該役員に何らかの変更事項が生じた場合には、登記をするように義務づけ、法務局へ直接間接にアクセスしさえすれば、誰でもその会社の経営陣の現況がわかるようにすることで、安心して商取引ができるようにしているのです。
ここで重要なことは、登記は、
「登記すべき事柄を生じた者が、速やかに、きっちりと登記を行う」
という前提が確保されていないと機能しない、という点です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:再任の場合も登記が必要
役員が就任した場合には、登記が必要です。
そして、再任(法律的には「重任」という)の場合も再度の就任といえることから、登記が必要になります。
登記のたびに登録免許税がかかり、変更申請には手間もかかり、司法書士に代行してもらうと、都度、費用がかかります。
そして、再任の場合であっても登記を怠ると、過料というペナルティーが発生するのです(会社法976条)。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:過料? 科料?
「科料」
とは、刑法などに規定された刑罰です。
刑事訴訟法が適用され、対象者は
「被告人」
と呼ばれます。
科料を科すには、原則的に、裁判所が被告人を呼び出して裁判を行う必要があります。
過料とは、
「法律違反だけど、刑法で罰せられるほどへヴィーじゃないちょっとしたミスに対するペナルティー」
という性質のものです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:過料はある日突然やってくる
過料は
「行政罰」
というカテゴリーに分類され、非訟事件手続法という法律が適用されます。
対象者は
「被審人」
と呼ばれます。
過料を科すには、裁判所に呼び出さずに決定してしまってよい場合があります。
その結果、通知が、ある日突然やってくるのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:払わなかったらどうなる?
過料の支払いを怠った場合、税金を滞納した場合と同様、最悪、強制執行で差押えられることもあり得ます。
ただ、やむを得ない理由でどうしても登記ができなかったという場合を考慮して、登記が遅れたことについて
「特別の理由」
がある場合には、1週間以内に限って異議申立ができることになっていますが、よほどでない限り、異議申立は認められないと考えてよいといえましょう。
助言のポイント
1.役員の再任であって、メンバーに実質的な変更がなかったとしても、法律的には「重任」なので、登記申請が必要になることを忘れないように。
2.社内で役員の選解任や株式譲渡など、登記に関係しそうなことが発生したら、条件反射的に、登記申請を思い浮かべよう。
3.ポカを見逃してくれるほど、お上は甘くない。単なるミスで登記の申請が漏れたのなら、「無駄に争う」などというアホな考えは捨て去り、さっさと納付して、事態を早期に収束すること。そして、これを教訓として、役員任期を長くするか、登記を毎回適時に行い、漏れや抜けをなくそう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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