01020_企業法務ケーススタディ(No.0340):海外独禁法の恐怖(2)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十二の巻(第112回)「海外独禁法の恐怖(2)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘社長の甥 グループ会社 脇甘アメリカ 社長 脇甘 亜米太郎(わきあま あめたろう)

相手方:
アメリカ司法省

海外独禁法の恐怖(2)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?
脇甘アメリカの社長が逮捕されたそうです。
当社社長は
「何かの手違いだ、話せばわかる」
と、予定を変更してワシントンに行こうとします。
日本企業の独禁法抵触行為について、なぜ米国の当局がいきなり出張ってくるのでしょう。
具体的には、どういった摘発が行われているのでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:法律の「ナワバリ」
法律は、社会のルールという性質上、人間や企業の行為を制約します。
刑法に違反すれば、罰金や懲役を科されますし、民法に基づいて裁判を起こされ敗訴して強制執行をかけられれば、財産を召し上げられます。
このように、法律は、ある種、暴力装置としての側面を有しているため、いかなる人、いかなる場所で法律が適用されるかについては、主権国家が独自にコントロールするという仕組みになっているのです(「属人主義」「属地主義」などといいます)。
要するに、各地域の主権国家が、それぞれの
「ナワバリ」
で、それぞれの
「掟」
を定め、他国の干渉を排除して、規制運用しています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「ナワバリ」にも例外はある
何ゆえ、米国の独禁当局が、ときに、
「ナワバリ」
を飛び越え、日本企業を摘発したりできるのでしょうか。
日本では、
「法の適用に関する通則法」
という法律があり、米国の各州法においてもロングアーム法というものがあり、ミニマム・コンタクト(最小限の関連)があれば、その州法を適用するという規定があります。
これらの法律は、日本法と外国法、あるいは米国の州法が抵触する場合における、どちらの法を適用するかのルールを定めています。
これらはいずれも、民法のような私法に関する規定で、独禁法のような取締法規には当てはまりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「効果理論」
「効果理論」
とは、スタートとゴールがかけ離れていても、因果関係が何とかつながっていれば、処罰を行う考え、といえます。
独禁法に照らし合わせていうと、
「他国でカルテルが行われた場合でも、その結果、自国民が高値の商品をつかまされて損するなら、自国の法律で他国のカルテルを罰するのもOK!」
というものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:米国反トラスト法
日本の独禁法に相当するものを、米国では
「反トラスト法」
といい、
「シャーマン法」
「クレイトン法」
「連邦取引委員会法」
という関連法規の総称をいい、次のように所管、規制となっています。
1 シャーマン法:司法省が所管、カルテルなどの取引制限や私的独占を規制
2 クレイトン法:司法省とFTC(連邦取引委員会)が共同所管、企業結合などを規制
3 連邦取引委員会法:FTCの所管、不公正な競争方法などを規制

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:摘発の真相
反トラスト局は、日本企業にサピーナ(召喚令状)を送りつける場合、日本本社ではなく、米国内の出先機関に送付します。
これは、刑事罰の適用が規定されているサピーナを日本の領土内に何の断りもなく送ることは、日本国に対する主権侵害になりかねないからです。
したがって、米当局から出頭要請を受けた事実を知っても、日本にとどまっている限り、普通に生活できますし、アメリカンポリスや連邦捜査官やCIA局員に手錠をかけられ連行されることもありません(日本当局が、米当局の召喚令状を、米当局に代わって執行する、という判断がされれば別ですが、これはかなりレアです)。

助言のポイント
1.法律の世界は、ビジネスと真逆。グローバル化に思いっきり背を向けていて、スーパードメスティックであるという原則を理解すること。
2.この原則ゆえ、基本的には、法律に1個の国際ルールはない。国家間における法律の適用は、暴力団の「ナワバリ」と同じと考えよう。
3.とはいえ、「効果理論」という、ある意味ムチャな理屈で、日本国内で日本企業が犯したにすぎないドメスティックカルテルが、海外当局からグローバルに摘発される可能性があることを頭に叩き込もう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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