2 不祥事関連情報の管理と制御及び保秘の徹底
有事対応下においては、情報はトップに全てを集中させ、トップで処理し、決定を発信するということを徹底して行わなければなりません。
特に広報と法務はそれぞれ独自の価値観を有している場合が多いのが実情です。
広報は企業イメージや報道機関との良好な関係維持を考えるあまり、必要以上の情報開示に及んでしまう危険があります。
他方、法務スタッフとしては、情報開示に過剰な防衛本能が働いてしまうあまり社会的視点や常識人としての視野を欠いて危機を拡大してしまう危険があります。
法務と広報を互いに独走・暴走をさせず、トップの明快な指示により責任分掌させた上で、効果的に連携させなければなりません。
なお、最大の問題は調査の過程で不利な事実が発見されたときです。
基本的な対応としては、開示によって現在拡大中の損害が抑止・軽減されるのであれば、不作為による損害拡大に対して追加的に不法行為責任を課せられるべき危険性も考えて積極的に開示すべきですが、すでに損害が拡大すべき状況になければ、後の訴訟・監督行政機関への対応も含めて、顧問弁護士(契約法律事務所)を参与させて慎重に対応すべきことになります。
なお、この種の有事対応をコンサルタント等に委託する企業もありますが、その場合、厳格な守秘義務契約を締結する必要があります。
そもそも弁護士は法律上の守秘義務を負っており、機密漏洩には行政処分(業務停止や弁護士会からの退会等)のほか刑事罰(刑法の秘密漏示罪)のリスクが伴いますので、弁護士から情報が遺漏することはまずありませんが、この点があいまいなコンサルタント等の場合、そこから情報が漏洩するリスクが存在します。
この理は、証券会社やファイナンシャル・アドバイザーや金融機関も同様で、不祥事関連情報を伝える際は、必ず守秘義務契約を締結すべきです。
また、企業の命運に関わる情報を扱う以上、その有事対応業務を請け負うコンサルタント会社に関しては、法人との守秘義務契約のみならず、当該コンサルタント会社の個々の従業員からも守秘義務誓約書を徴収する必要があります。
3 情報収集における現場主義
有事調査の基本として、常に現場主義を念頭に置く必要があります。
特に、事故現場では責任回避のために、隠蔽や情報の握りつぶしもありえますので、迅速に現場に赴き、必要な証拠を保全する必要も出てきます。
そして、現場で調査する場合、調査担当者の能力・資質も重要となります。
すなわち、当該調査担当者は、現場のことがよくわかる目の利く者を派遣して調査にあたらせなければなりません。
4 虚偽報告や隠蔽のリスクを想定する
適切な情報収集を終えた後のアナウンス戦略としては、
「嘘をつかない」
ということが重要となります。
広報戦略において、嘘は退路を断つなどといわれることもありますが、嘘は絶対ばれますし、嘘がばれた場合には、さらなる企業信用の低下を招いてしまいます。
このことは度重なるリコール隠しで企業ブランドが傷ついた三菱自動車の例をみれば明らかです。
経営陣も組織人であり、嘘をついて信用ダメージを少しでも低下させたい誘惑にかられることも多いかと思われますが、嘘をついてばれたときのことをよくイメージし、その怖さを想像して、くれぐれもこの誘惑に負けないようにしたいものです。
ただ、
「何でも正直にいえばいい」
というものでもありません。
法的危機が発生した後は、官庁対策や訴訟対策等において企業を防衛するというステージが残っており、この段階においては、事実の全面的開示が戦略的和解交渉の可能性を全て奪ってしまうことになりかねません。
したがって、法務と広報が効果的に連携することによって、アナウンス方法や内容を慎重に考えて対応することが必要になります。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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