特許法改正案が2011年5月31日に可決され、2012年4月に施行されました。
経済産業省による説明によれば、同改正は、
1 事業の安定性を確保するため、企業が社外の技術を活用するために必要なライセンス契約の保護を強化する
2 企業や大学等で一般化している共同研究・共同開発の成果等を適切に保護する
3 中小企業等の負担を軽減するため、知的財産制度のユーザーの利便性向上を図る
4 知的財産を巡る紛争のコストを低減するため、紛争の迅速・効率的な解決を図る
という観点に基づいたものであり、当時の特許法(「当時の」とは、2011年6月1日現在施行されている改正の内容を含まない、との意味で用います。以下、同)に対して大幅な修正を施すものです。
1について概説します。
当時の特許法においては、ある特許のライセンスを受けた者(実施許諾権者)は、自己の実施許諾権を第三者に対抗(権利者であると主張すること)するためには、特許原簿への
「登録」(特許法98条1項)が必要とされています。
簡単に言えば、当時の特許法上、不動産の登記制度のように
「ライセンス契約を受けている(通常実施権を得ている)という権利を公示」
しておかない限り、ライセンサー等以外の第三者に権利を主張できないということです。
具体的なケースでいうと、ライセンサーが、実施許諾を与えた後、当該特許権を許諾権者以外の第三者に譲渡してしまったような場合、当時の特許法においては、当該実施許諾権者が登録をしない限り、特許権を新たに譲り受けた者との関係で侵害者とされる危険がありました。
これが、改正によって、実施許諾権者は、特段登録などをしなくとも、
「ライセンスを受けており、当該特許権を適法に利用することができる地位」
にあることを譲受人にも主張できるようになったのです。
当時の特許法における通常実施権登録制度ですが、
「(登録の)手間がかかる」
という理由から、これまでほとんど利用されてきませんでした。
また、主要諸外国の特許法においては、
「ライセンス契約等により通常実施権を受けた者については、登録がなくとも当該ライセンスを第三者に対抗できる」
と定められていることもあり、日本の特許法でも、改正により、これと同様の取扱いに移行した、というものです。
本改正施行後は、ライセンス契約の締結さえすれば、登録なくして第三者に対抗することができるのですから、例えばM&A等によってライセンサーの地位が移転した場合であっても、問題なく当該特許を利用し続けられるものとなり、実施許諾制度の使い勝手が大幅に増すものと期待されています。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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