文書を送って海外に赴任中の従業員を制御する、ということは、そのこと自体、他者制御課題です。
制御対象である相手方の認識や思考に立って、観察して、展開予測をしないと、戦理にかなった行動は難しいといえましょう。
制御対象である相手方の認識や思考に立って観察すれば、送ろうとする文書が、
・(相手方にとって)承服しがたい内容
・(相手方にとって)承服することにメリットがない
・(相手方にとって)承服しなくても、何か具体的なダメージやリスクやデメリットが感得できない内容
であるならば、合理的展開予測として、相手方においては、
・黙殺
・反論
・不当な援用
・強烈な逆撃を招来する契機(これまで沈黙による均衡を保っていたが、琴線に触れたため、相手方から当方への本格的な訴訟提起を誘発することにつながる)として捉え、逆撃を開始する
という行動が想定されます。
特に、文書という、
「発出後は、取消不能で、明確な痕跡を残すコミュニケーション手法」
は、当事者だけでなく社内外関係者や、(将来)訴訟を担当する裁判所の目に触れることも想定され、これら外部の閲覧者の感受性を想定すると、禍根を残すことにつながりかねません。
弁護士が、相手方とのコミュニケーションを設計・構築する場合、
・相手に対して、「相手方が、一定の期限内にレスポンスに関する態度決定をすることが、相手の利害に関わる」という環境設定を整える。したがって、黙殺してもいいが、黙殺すると、一定の不利を招来する可能性がある、という状況構築を行う。
・契約上の義務や法律上の義務に基づかず、いきなり、請求や要求を行い、その痕跡を残したままにすると、将来、裁判所から「この人たちは、契約上の義務や、法律上の義務をきちんと明示せず、相手方に対して、およそ承服しがたい内容を高圧的に要求する、理不尽で筋の通らない方々だ」という悪印象を持たれることを強く想定し、懸念する。したがって、その種の要求は、一定の根拠がはっきりするまで、具体的に明示することを留保する。
という制約条件を意識しながら、細密に、設計し、文書表現として具体化していきます。
とはいえ、プロジェクトオーナーの意向として、
「以上はすべて了解するが、これらをふまえてもなお、その意思表現の手法として、敢行せざるを得ない」
ということであれば、弁護士のコメントとしては、
「今後の展開予測について、法律上はもちろんのこと、事実上の責任を含め、一切負担しない。また、当方の不愉快な想定どおり、状況が悪化したことによって、ゴールや解決の可否・条件が悪化しても、『却って、事前に、懸念やリスクを提示して、抑制的な見解を提出した弁護士』には一切の責任がない」
との前提ないし条件において、
「意見なし(賛否明らかにせず)」
ということで留めることとなります。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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