01005_企業法務ケーススタディ(No.0325):信用供与は慎重にすべし!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年4月号(3月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十七の巻(第97回)「信用供与は慎重にすべし!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
成田 金造(なりた きんぞう)

信用供与は慎重にすべし!
見本市で知り合った相手と取引をする、と社長。
法務部長は、見かけや身なりがよくても信用履歴が不明な会社相手にいきなり多額の売掛取引を行うのはリスクがあるのではないかと諫言しますが、社長は、
「契約書を取り交わせば大丈夫。
相手の気が変わらんうちに、請求書といっしょに商品を出荷せよ」
と息巻いています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:B2B(BtoB)セールスと、B2C(BtoC)セールスのプロセスの違い
企業は、自社で製造するか、あるいは製造元などから仕入れて在庫商品を調達して、適正な利益を付加した売価にて販売し、迅速にカネに転換して、営業サイクルを展開していきます。
これを、
「セールス」
といいます。
B2C取引においては、セールスを実施すると、
「商品(ないしサービス)」
は、すぐにカネに転換されます。
ところが、B2B取引におけるセールスは、互いに契約書を取り交わすことによって商品(ないしサービス)を引き渡す義務を履行します。
売る側は、引渡し義務と引き換えに、現金そのものではなく、
「売掛債権」
を手に入れ、問題がなければ、期限内に買う側の支払義務履行のプロセスをたどって、セールスが完了します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:売掛債権
B2Cセールスの場合、
商品(ないしサービス)→カネ
に即座に転換されますので、売ればいいだけで、あれこれ考えて機会損失を生じさせるのは、愚かだ、ということになります。
B2Bセールスの場合、現金取引のような特殊なケースを除き、
商品(ないしサービス)→「売掛債権」→カネ
と、間に余計なものが挟まる格好となります。
売掛債権がすべて遺漏なく、遅滞なく、過不足なく、完全無欠な形でカネに転換されれば問題ありませんが、散々待たされた挙句、減額要請があったり、任意整理や法的整理といった倒産騒ぎで、とりっぱぐれ、なんてこともあったりします。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:売掛債権とは無担保債権
売掛債権とは、売主が買主に対して有する
「無担保債権」
にほかなりません。
株式会社同士の取引で、株式会社に対して有する無担保債権ほど、アテにならないものはありません。
株式会社は法人であり、株式会社のオーナーたる株主は、間接有限責任しか負担しません。
ここでいう
「有限責任」
とは、
「会社が破綻しても出資分を放棄すればあとは責任なし」
ということであり、
「無責任」
とほぼ同義です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:与信管理
あまりに警戒心をむき出しにして、ありとあらゆる取引にビビってしまうと、機会損失が大きすぎ、商売自体が成り立たない、ということもあります。
特に、利幅の大きい商品を扱っていて、ビジネスが拡大基調にある場合など、多少の貸し倒れがあっても、どんどん販売を増やしていくことによって、全体の利益は積み上がります。
与信管理を考えた上で、セールスを行うべきといえますね。
法務と信用管理とは別次元の問題であり、契約書をどんなに精緻にしたところで、債務者の財産状態を確実にしたり、与信の管理状況が改善したりするわけではありません。

助言のポイント
1.B2Bセールスにおいては、商品やサービスと交換に頂戴するのはカネそのものではなく、「売掛債権」にすぎない。
2.株式会社を債務者とする売掛債権とは、明確な責任を負う個人が存在しない「無責任な幽霊」に対する「無担保債権」ともいえる。
3.どんなにリッチにみえても、新規営業先に対する与信管理は適切に行うこと。見かけや身なりだけで、よく実体がわからない、信用履歴も不明な会社相手に、いきなり多額の売掛取引を行うと、焦げ付いて、後で大変な目に遭う可能性もある。
4.新規に大口の取引を展開する場合、段階的に信用を増やす、適切な保証を徴求する、相手の信用力を調査する、取引保証金を設定する、「信用力ある裏書きのある手形」その他厳格な支払手段を求める、といった各種信用補完手段を考えて、適切に対応すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01004_企業法務ケーススタディ(No.0324):何がキャンセルだ! 全額返金なんてムシのいい話などあるか!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十六の巻(第96回)「何がキャンセルだ! 全額返金なんてムシのいい話などあるか!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同グループ会社(ブライダル事業) ニュー・ウェーブ・スプリング
同グループ会社(高級ホテル) ホテル・レベッカ

相手方:
下司田 文春(げすた ふみはる)

何がキャンセルだ! 全額返金なんてムシのいい話などあるか!
グループ内で展開するブライダル事業で、結婚の破談を理由に消費者が結婚式のキャンセルと申込金の返金を願い出てきましたが、社長は、
「約束を守るのは大人のモラル。
相手の破談は、当社には関係ない。
契約書には、違約金の条項もあったたのだから、 相手には違約金を払わせろ。
弁護士が出てくれば裁判だ」
と、申し出をはねつける勢いです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:B2C取引(コンシューマー・セールス)の特徴
企業対個人の取引、B2Cにおいては、
「取引の約束をした以上は、きっちり果たせ」
という企業側のメッセージは、ときに不公正で不正義を招きかねません。
企業側は、経済的にも情報面でも優位に立ち、マーケティングによって消費者のバイアスを昂じさせ、認識を操り、取引関係を支配できるような状況にあるといえるからです。
そんなわけで、B2Cの取引において、一定の条件が整えば、消費者側の取引キャンセルを容認する法的メカニズムが存在します。
具体的にいえば、消費者契約法における取消権や、特定の契約条項の無効措置、あるいは特定商取引法のクーリングオフ制度といったものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:B2C取引の各種消費者保護措置における企業にとってのインパクト
消費者保護措置は、消費者にとってまことにありがたい制度ですが、B2Cビジネスを展開する企業にとっては厄災以外の何物でもありません。
最近では、消費者問題に詳しい、企業を相手としたケンカのプロ集団である
「適格消費者団体」
が助太刀をして、紛議に介入することを可能とする消費者団体訴訟制度が導入されました。
加えて、消費者庁には、社名公表措置等、強力な行政上の措置が与えられていますし、司法の世界においても、今まで消費者側において諦めていたような各種取引が次々と裁判所に持ち込まれ、消費者契約法等の解釈を通じて企業側がイタイ敗訴を被る事例が登場しています。
問題は、当該企業にとって、まるで
「悪徳企業」
といったイメージが広がることで、ビジネスに有害な影響が出てしまうことです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「法律で勝って、商売で負けても意味がない」のが、消費者向けビジネス
相手に弁護士がついて、裁判となろうが、最終的に勝訴判決を得られる可能性もゼロではないでしょうが、適格消費者団体の介入を招き、各種風評を拡散し、せっかくうまくいっている商売が台なしになっては元も子もありません。
総合的な戦略判断として、弁護士の介入に至る前に、相手の申し出を受け入れ、一部返金で解決してしまうのも十分検討に値すると思われます。
とはいえ、ナメられてしまっても困ります。
和解に際しては、本来は法的には契約書に書かれたとおりの金銭的請求権が異議なく明確に存在することを消費者サイドとして承諾するも、企業側の配慮による特別な措置として、企業側の好意を堅持した文書で表現すべきですね。
加えて、和解条項の守秘を厳密に約させ、その守秘を違約したら、高額の違約罰を支払わせる、といった、手厳しい措置も和解書に盛り込み、消費者側がネットやSNSやリアルな噂話で拡散しないよう、釘を刺しておき、企業側の防衛を完璧にしておくことが推奨されます。

助言のポイント
1.B2C取引は、消費契約法、特定商取引法といった消費者保護のための法的措置が整備されており、消費者に優しく、企業側にとって無茶苦茶厳しい形で、契約関係が修正されている。
2.仮に、争って最終的に企業側が勝訴したとしても、それ以前に、「エゲツないことをする悪徳企業」といった風評がネットやSNSを通じて情報拡散し、ビジネスが崩壊するリスクもあるから注意しよう。
3.「相手は一消費者」と思ってナメていると、足をすくわれる。適格消費者団体に、消費者庁、自治体、消費者問題エキスパートの弁護士といった、腕に覚えがあり、組織力・情報力を有する強力な敵対勢力ににらまれると、たちまち、事業そのものの存続が脅かされる。
4.「法律の理屈で勝っても、商売がボロ負けしては、意味がない」といった成熟した戦略判断で、風評リスクが表面化・巨大化しないよう、うまいことネゴし、ちゃっかり解決して、トラブルを押さえ込もう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01003_企業法務ケーススタディ(No.0323):なぬ!? それが独禁法違反とな!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十五の巻(第95回)「なぬ!? それが独禁法違反とな!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 通販サイト ジャングル・ドット・コム

相手方:
公正取引委員会

なぬ!? それが独禁法違反とな!?
グループ傘下で急成長しているネット通販サイトの出品ポリシーが私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」)に抵触したようで、 公正取引委員会(以下「公取委」)から、お叱りメッセージが届きました。
しかし、社長は、
「ウチで出品する以上、他のサイトで、ウチの出品価格より安く出品しないことを誓約させことの何が悪い、他のサイトを大事にするような出品者など門前払いにして、公取委と本腰を入れてケンカする」
と、いいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:最恵国待遇条項(MFN)
設例において、当社通販サイトが出品企業に要求している取引上の措置は、
「最恵国待遇条項(most favored nation clause、あるいは「MFN条項」)」
と呼ばれるもので、当社通販サイトに出品する企業は、他のサイトに出品しても構わないが、もし他のサイトで当社サイトより安い価格で出品した場合、当社サイトでの出品価格もそれに併せて安く変更する、というものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:拘束条件付取引
問題となるのは、拘束条件付取引を禁止する独禁法のルールです。
「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」
は、拘束条件付取引として、独禁法上の不公正取引の1つの類型(一般指定12項)として、違法視されています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:独禁法が、企業が取引相手に、「浮気」や「二股」や「正妻をおざなりにした自由交際」を推奨する趣旨
わが国においては、企業の経済活動の自由が保障され、自由な競争が体制保障されいますし、国家が企業間のビジネスにあまりにも過度に干渉するのはおかしいように思えます。
しかし、歴史上証明された真実として、
「強者が、自分たちにとって都合のいいルールを作って、好き勝手やりたい放題、なんでもアリの、野放図な競争」
を放置すれば、強者が市場を自由に支配できるようになり、そうすると、やがて、
「高くて粗悪なもの」
が流通・蔓延し、しかも新規参入によって是正する機会も失われ、最終的には経済が衰退し、国が滅びます。
そういうこともあり、独禁法は、自由な競争基盤を確保するため、排他条件付取引や拘束条件付取引を
「ご法度」
として禁圧しているのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:公取委の強硬なアクションへの対応策
独禁法の指定条項をつぶさにみますと、拘束条件がついた取引はすべて違法、ということではないようです。
取引の内容や拘束の程度等に応じて公正な競争を阻害するおそれを判断し、競争を人為的に歪めて公正な競争秩序に悪影響を及ぼすような例外的な場合に限定して違法視される建付けをとっています。
そこで、
「競争を制限する意図は毛頭なく、むしろ、より競争を活発にしようとして、『もし有利な条件闘争をしかけるところがあったら、弊社にも反対条件を提案する機会を保障させてください』と、取引相手にお願いして、より、健全に競争を活発化させる意図によるものでした」
と弁解し、他方で
「行き違いとはいえ、失礼しました。
でも意図せざるを得ないものなので、どうすれば、誤解を受けないで、より、他社と弊社が激しい競争ができるようになるか、逆にご教示、ご指導ください」
と低姿勢にご指導を仰げば、警告や指導で沙汰止みになる可能性はあるでしょう。

助言のポイント
1.独禁法は、しびれるくらい自由でガチンコの競争環境を確保するため、取引相手の「浮気、二股、新しい愛人作り」ともいうべき、自由交際を保障している。
2.一般の恋愛関係のように、取引相手の浮気や二股をガッチガッチに禁圧すると「独禁法の保障する、スーパーフリーの自由恋愛、自由交際を不当に損ねる」として、公取委からお叱りを受けることもあり得る。
3.万が一、公取委ににらまれた場合、取引環境を理解し、空気を読み、「成熟した大人の外交交渉」でうまいこと切り抜けよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01002_企業法務ケーススタディ(No.0322):大手法律事務所から商標権侵害の内容証明?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年1月号(12月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十四の巻(第94回)「大手法律事務所から商標権侵害の内容証明?」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
グループ会社 サイド・スイーツ株式会社
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
同社 顧問弁護士 先陀 木津夫(ぽんだ こつお)

相手方:
石頭製菓
ジャニー・吉本&周防法律事務所

大手法律事務所から商標権侵害の内容証明?
大手法律事務所から
「商標権侵害だ、即刻、販売をやめろ」
と内容証明が届きました。
グループ会社が3年の歳月と莫大な予算と社運をかけて販売した新商品の名前が、オマージュではなく丸パクリ、ととらえられたようです。
顧問弁護士は、相手が大手法律事務所と聞いて、
「とにかく頭を下げて、商品を回収して、なかったことにして、穏便に」
と助言します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:商標権
トレードマーク、サービスマーク、ブランドロゴなど、登録した者だけが使える文字、図形、記号(最近では、立体的形状や音や匂いといったものも含まれます)を権利化したものが、商標権です。
商標権を取得した者以外の個人や法人が、無断で、登録されたカテゴリーに属する商品サービスの、同一あるいは類似の商品名で販売すると、侵害行為として、販売禁止や商品破棄さらには損害賠償といった各種アクションを受けます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:知財紛争では、「とりあえず、いっちょ、争ってみる」という姿勢が“吉”
ある日、突然、知財ホルダーの会社の代理人弁護士から、
「侵害警告」
「即時販売停止」
「模倣品廃棄」
「損害賠償の要求」
といった言葉が並ぶ内容証明郵便による通知書が送られてくる企業が増えています。
この場合、知財ホルダーの主張を丸呑みする選択肢もありますが、逆に、因縁をモノともせず跳ね返し、権利自体を潰したりする法的対抗策も選択肢としてあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:面白い恋人事件やフランク三浦事件に見られる裁判所の姿勢
吉本興業の子会社である株式会社よしもと倶楽部が、石屋製菓が販売する
「白い恋人」
の商品名とパッケージを模倣した
「面白い恋人」
という菓子を販売したところ、石屋製菓は、吉本興業ら3社に対し、商標権侵害および不正競争防止法を根拠とする商品の販売禁止および破棄を求める訴訟を札幌地方裁判所に提訴しました。
最終的には和解が成立し、吉本興業は
「面白い恋人」
のパッケージ図柄を変更し、販売を関西六府県に限定する形で、既存商圏維持に成功しました。
また、スイスの高級時計製造販売会社
「フランク・ミュラー」
が、大阪の時計メーカー
「フランク三浦」
の登録した商標の無効性を争った事件がありましたが、裁判所は、フランク三浦を勝訴させました。

助言のポイント
1.知財をむやみやたらに恐れない。海賊版やデッドコピー商品以外の、類似品やパロディ品やオマージュについては、裁判所はわりと寛容。
2.対抗策については、商標法に列挙されている。条文をよく読んで、無効理由や抗弁をひねり出そう。わからなければトコトン聞くこと。
3.商標権はマボロシだ、全く似てない、抗弁がある、といったことを言い続け、相手の主張に一切耳を貸さず、最後までジタバタして、粘って、裁判までもつれ込ませよう。話のわかる裁判官から和解を勝ち取る可能性もあり得る。とにかく、ビビって、降伏して、相手の言うなりになるのは危険と心得よう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01001_企業法務ケーススタディ(No.0321):海外投資で、シビれるくらいボロ儲けじゃ!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十三の巻(第93回)「海外投資で、シビれるくらいボロ儲けじゃ!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
投資会社 HARRY歩手田(ハリーボテダ)インターナショナル

海外投資で、シビれるくらいボロ儲けじゃ!?
資産運用に頭を悩ませている社長に、突如、目がくらむようなオイシイ投資話がもたされたようです。
「ケイマン、タックスヘイブン、LCC・・・」
社長の口から、耳慣れないコトバが飛び出します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:投資活動における重要点
投資というのは、
「安く買って、高く売る」
というシンプルなものが基本戦略となります。
先が読めない世の中で、3年先、5年先のことなんて、わかりっこなく、それに、何といっても、現在の日本は、デフレ真っ只中。
デフレーション、すなわち、モノの値段が下がるということは、手持ちのカネの価値が上がるということ。
年間2%のデフレの状況で、カネを使わずタンス預金や定期預金で持っておく、ということは、何もしなくても2%で運用できる、ということですから、これほどラクな投資はありません。
いずれにせよ、投資という活動を行う上で最も重要なのは、情報の真偽を見極め、正しいスタンスによって、いい加減な話に踊らされないようにするリテラシーが重要といえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:複雑怪奇な投資話
投資には、緻密な理論を構築して、安全で高収益を生むような商品もありますが、すべての商品がまともであるという保証はありません。
「デリバティブ」「クーポンスワップ」「ヘッジ取引」「モーゲージ債」「ハイイールドボンド」「サブプライムローン」「SPC」「ケイマン」「LLC」「LLP」「BVI」
言葉はいろいろありますが、いずれも元本が保証されず、値動きの仕組みがなかなか理解できず、しかも投機性が高い商品であり、あえていうなら、過激なバクチです。
バクチというのは、客が必ず損をし、胴元が必ず儲かるようになっています。
これらの投機的商品も、投資家がよほど値動きを注視し、勝ち逃げするタイミングをみていない限り、骨の髄までしゃぶられる仕組みになっています。
そして、参加者がどんなに辛い目に遭っても、商品を紹介したり、商品を設計したり、商品を運用しているような人間(バクチでいうと、“胴元”や“合力”)は必ず儲かるようになっているのも特徴です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:LLCって何?
LLCとは、Limited Liability Companyの略であり、日本語に訳すと
「有限責任会社」
わかりやすくいいますと、
「会社が潰れた場合の負債まで負わせると、誰もカネを出さないから、投資家を集めにくいので、『会社がぶっつぶれても、出資した連中は出資分をスるだけでおしまい。あとは、一切責任を負わない』という仕組みにした会社」
というものです。
LLCは、会社の本店は、ケイマンをはじめとするタックスヘイブン(租税回避地)にある本店所在地にしていても、数十億円を預かるにふさわしい巨大なビルや豪奢なオフィスがあるわけではなく、私書箱しかない、といった状況です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:実際発生した事件
A投資顧問という会社は、大企業の企業年金から中小企業の厚生年金基金の運用をしており、2011年9月末時点で、124社の企業年金から1984億円の資産の運用を受託しました。
年金運用を開始した2003年時点において預かった資金の半分をすでに喪失し、2008年には損失が500億円にまで膨れ上がっていたにもかかわらず、当時のA社長は損失を隠し続けました。
2015年12月に破産開始が決定され、また刑事事件にも発展し、社長に対する懲役15年の実刑判決を含め、役員2名にも懲役7年の実刑判決、追徴金として計156億円(といっても当然支払いは期待できません)を命じられました。
要するに、約2000億円のおカネが、ロクな確認をされないまま、
「カリブ海の小島の私書箱にしか存在しない、幽霊のような無責任な法人」
の財布に突っ込まれ、よくわからないまま、その大半が消えてなくなった、というあまりにお粗末な話です。

助言のポイント
1.知ったかぶりをしない。売る側の金融機関担当者を上回るくらい、きっちり勉強しよう。
2.わからなければ、トコトン聞くこと。波風を立てても、嫌われても、わからないことは、しつこく聞くこと。
3.トコトン聞いても調べてもわからなければ、手を出さない。手を出すなら、おカネやファイナンスの難しさや、おカネやファイナンスを取り巻く人間のずる賢さや恐ろしさといったものを、適切に理解すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01000_企業法務ケーススタディ(No.0320):任せる際には、トコトン相手を疑え!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十二の巻(第92回)「任せる際には、トコトン相手を疑え!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
東南アジアの食品加工工場

ライバル企業への人材流出を防げ! 従業員の自由を剥奪せよ!
これまで国内で調達していた冷凍食品を、社長の知り合いの紹介で、東南アジアにある圧倒的な低コストを売りにした食品加工会社に製造委託するプロジェクトが持ち上がりました。
契約条件、契約書、現地の工場視察や品質管理や安全体制等も未了であることから、法務部長は、スタートにはあと半年くらいはかかると見積もったところ、社長は、
「そんなことは後からでいい。
こういうのは信頼関係で進めるもんだ。
とにかく、来月までにはすべて済ませるように」
と、指示を出しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:中国産冷凍餃子農薬混入事件
数年前、大きな社会問題となった
「中国産冷凍食品に有毒性の農薬が混入していた」
事件は、原因の特定が困難で問題の長期化を招きました。
当時、テレビ等で紹介された中国現地における加工ラインの衛生状況は、現代の日本人の衛生感覚からは、明らかに容認の限界を超えている、と感じられるようなもので、
「そもそも、日本人の口に入るものを中国の工場で生産するということに、相当な無理があったのではないか」
との論調さえありました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「委ねる」ことの難しさ
物事には、委託になじむものとなじまないものとがあります。
また、委託になじむものであっても、委託するにふさわしい相手先とそうでないところというものがあります。
法律の世界においては、
「委ねる」
ことにまつわる失敗が原因となった事件が実に多く存在します。
「委ねる」
という決断をする多くの当事者は、安直な理由で、ロクな検証もフォローもせず、見ず知らずの人間に、財産や権利や印鑑を委ねてしまい、その結果、委ねられた方が勝手な行動をして、大きなトラブルが発生します。
大抵のケースでは、第三者を巻き込んで取り返しのつかない状態に陥っており、権利も財産も失くすことがほとんどですし、身に覚えのない債務まで負わされるケースすらあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「海外食品製造委託」はさらに難しい
スペックが定量的に決められ、スペックからの逸脱が目に見える形で判別でき、長期間の在庫によって品質が劇的に劣化することもないようなものであれば、コスト面の最適化だけで頻繁に調達先を変更しても、大きな問題は生じにくいと考えられます。
しかし、口に入るものや、品質低下・劣化が生命や健康に悪影響を及ぼすような製品には、一定の品質、それも衛生状況における絶対的な基準というものが存在しますし、これをクリアしない限り、どんなに廉価に生産・加工できても意味をなしません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:目先の人間関係に波風を立てておかないと、後から津波がやって来るぞ!
「委ねる」
ことを、コスト面の利点だけを捉えて安直に考えることはリスクです。
不安や危険を正しく認識し、物事を安直に考えるという悪い思考上のクセ(楽観バイアスや正常性バイアス)の補正を行い、
「不愉快な事態を想定したムカつく議論」
を事前に徹底して行い、考えられるリスクはすべて解決シナリオを想定して、文書化(契約書化)していく必要があります。
大きなリスクが生じかねない大事なプロジェクトであれば、キックオフ前に、きちんと人間関係に波風を立てておくべきです。
「より良き人間関係を構築するために最も必要なことは、相手を徹底的に信頼しないこと」
です。
それで、話が壊れるなら、多少のコスト面の有利性も吹き飛ぶようなリスクが潜んでいることがうかがえるわけですから、現状維持や、さまざまな課題に対処しうる別の委託先の開拓も含めて、再検討した方がいいかもしれません。

助言のポイント
1.製造委託、加工委託、信託、委任、代理など、他人に何かを「委ねる」ときには、リスクが不可避的に発生すると心得よう。
2.長期的で良好な信頼関係を構築したいなら、関係構築前に、「本当に大丈夫か」「オレを納得させる確証を持ってこい」「もし話が違ったら、どう責任をとるんだ」と、相手をトコトン信用しない、不愉快な議論を投げかけ、思いっ切り、目先の人間関係に波風を立てておくこと。
3.スペックの保証、条件遵守の確約、万が一の場合のケツの拭き方、といった取引実施にまつわる「相手がムカつくような議論」を徹底して行ったら、それを逐一文書で記述し、契約書化しておくこと。
4.「相手を信用しない、万が一の場合でも自身の身を守る功利的な意味での正論」を感情的に拒絶するようであれば、交渉破談・現状維持も視野に入れて考えよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00999_企業法務ケーススタディ(No.0319):中途採用は、ノリと勢いだけで、テキトーにやっちゃダメ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年10月号(9月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十一の巻(第91回)「中途採用は、ノリと勢いだけで、テキトーにやっちゃダメ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 中途採用希望者 市田 鈍一(いちだ どんいち)

中途採用は、ノリと勢いだけで、テキトーにやっちゃダメ!
みるからに仕事のデキそうな自称・スーパーエリートの中途採用希望者に舞い上がった社長は、採用に意欲満々です。
法務部長は、経歴詐称や、年数が合わないことや、誤字脱字、同居家族もいないことを案じますが、社長は、
「仮に、万が一にでも想像を絶するデキソコナイだったら、とっととクビでいいだろ」
といっていますし、その希望者本人も、
「エリートとしての矜持にかけて、必ずや成果を出します。出せなければ、すぐにクビにしていただいて結構。いくらでもオファーはありますので」
と、社長にいったというのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:中途採用
中途採用とは、
「終身雇用を本来的・原則的雇用形態としてみた場合、新卒採用から定年に至る“中途”の時点で採用される」
ことから、この名称が付けられています。
バブル崩壊後、一般化し始めたことから、中途採用が王道・原則となり、新卒からそのまま終身雇用されるようなタイプの雇用関係の方が異常かつ例外的となりました。
中途採用といっても様々な形態があるようです。
・即戦力としてすぐに実践配備される、プロの傭兵のような趣のキャリア採用型
・ほぼ新卒といって差し支えない、ほとんど従業員としては実践スキルのない若者の育成を前提に採用する若手・第二新卒型
・昇進を前提とした幹部候補生や総合職ではなく、補助的労働力を提供する期間・時間・地域限定型
・シニアパート・アルバイトに近い要員採用型

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:中途採用のリスク
日本の企業で働く従業員の労働スキルは、個別企業との親和性が高く(カンパニー・スペシフィック)、ある企業で使えるナレッジやスキルやノウハウも、他の企業ではまったく使えず、その蓄積が無駄になることも多いのが現実です。
さらに、
「同業他社間での転職」
となると、
「企業の機密漏えいや、ノウハウ移転を手土産にした、裏切りの匂い漂う、怪しさ大爆発の転職ではないか」
という勘繰りも出てきます。
学歴や経歴や転職理由について中途採用希望者を鵜呑みにすることはリスクです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:中途採用したが、おそろしく仕事がデキなかった場合の対処方法
一度採用した以上、企業の自由かつ任意の解雇はほぼ不可能となり、定年まで雇用し続ける義務が生じることになり、企業側としては、中途採用された労働者の能力を生かせる業務が会社に存在するかどうかを調べ上げ、他の適性職種への配転可能性の検討などを要求されることとなります。
しかし、労働契約上、職種・職務が特定されている労働者については、その雇用の仕組みの違いを考慮して、解雇がやや柔軟に認められる傾向があります。
「特定された職種が消滅すれば、基本的には解雇されてもやむを得ない立場にある」
という裁判所の基本的・根源的な発想があるためです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:職種・職務が特定された労働契約
設例においては、本人の宣言どおり、経営企画本部長としての地位や職務・職種・職責を特定した雇用契約とし、後日の紛議を避けるため、その旨明確に文書化した契約書を取り交わしておくべきでしょう。
学歴・経歴その他、本人の労働者としての価値を基礎づけるバックグラウンドについては、本人の了解と同意の下、すべて入念に、真実性と正確性の裏づけ調査を行った方がいいでしょう。
残業代の取り扱いも、管理監督者として、残業代が出ないことについて本人の同意・確認・了解ももらっておいた方がよいでしょう。

助言のポイント
1.中途採用といえども、雇用契約は普通の雇用契約と同じ。採用は自由だが、解雇は不自由。それもシビれるくらい不自由で、事実上不可能。
2.「オレはできる」「オレは優秀」「部長の地位しかやる気はない」などと大口を叩く中途採用希望者には、地位・職務等を特定した雇用契約を締結しておこう。この「地位・職務等を特定した雇用契約」を締結した労働者は、当該地位・職務が果たせなくなった、との理由を持ち出して、スマートな解雇が可能。
3.一見すると、有能でデキそうな人間であっても、中途採用は、慎重に行うべこと。経歴・素性・その他労働力の評価・測定基準の根拠となるデータに虚偽はないか等々、本人の同意の下、きっちり調べ上げた上で、雇用条件等もしっかりと交渉すること。

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00998_企業法務ケーススタディ(No.0318):株主からのキッツイ質問を、うまいことやりすごせ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十の巻(第90回)「株主からのキッツイ質問を、うまいことやりすごせ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘商事株式会社 上場子会社 脇甘交通

相手方:
イケイケ・ファンド 異毛田 逝男(イケダ イケオ)

株主からのキッツイ質問を、うまいことやりすごせ!
投資家ファンドが上場子会社の株式をひそかに市場で買い集め、すでに保有割合は5%を超え大量保有報告が出されている状況です。
きたる株主総会にて、そのファンドが経営陣に厳しい質問攻めをする計画があるようですが、社長は、
「同じ日本人、話せばわかる」
と、のんびり構えています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主総会
株主総会とは、株式会社における最高意思決定機関です。
定時株主総会は、3月を決算期とする多くの上場企業で、年に1回、6月末ごろ株主に集まってもらい、株式会社の基本的な方針や重要な事項を決定するために開催されます。
定時株主総会の議題は、決算承認、配当の決定、取締役人事などが基本的なものとして上程されます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株主総会の実際
「株主は会社のオーナー」
とはいえ、株式は株式市場でいつでも売買でき、カネさえ払えば誰でもすずに株主になれ、イヤになったらすぐに辞められることもあり、株主総会にくる株主は、本来の株主数に比して非常に少ないです。
実際の株主総会は、実にドライで個性がないものです。
1票の動向によって方針が大きく変わるようなドラマチックな場面もなく、平穏に、退屈に、
「シャンシャン」
と進んでいきます(このように、波乱要素のない、小学校の朝礼のような、つまんない、眠くなる、面白みのない株主総会が、「シャンシャン総会」と言われ、企業側がもっとも希う模範的総会の姿とされます)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:株主総会対策のトレンドの変化
現在では、株主総会対策上のメインターゲットは、経営者の経営責任を追及すべく財務諸表を読み込み、理論武装を徹底したプロの投資会社や買収者といったプレーヤーです。
総会対策においては、役員の退職金や役員個人の動向、さ細な不祥事追及を想定した運営準備だけでなく、余剰資産の活用、特定取引の経済合理性、各事業の採算性・妥当性、買収防衛策の内容と是非等、MBOや上場廃止発表後の総会における買取価格の妥当性等、経営合理性に関する相当突っ込んだ質問に対する適正な説明の準備が必要となります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:配当増額など「株主利益の最大化」を主張する株主への対策
株主主張への対抗論理をつくり上げる際のポイントは、
「株主利益最大化を求める投資家」
の質問の趣旨である
「会社は、シェアホルダー(株主)の短期的利益追求の要請に応えるべきだ」
に企業経営陣が乗らず、別の理念・哲学を基礎にした説明をすることです。
具体的には、
「会社は、シェアホルダー(株主)の短期的利益追求の要請のみに応えるものではなく、株主を含む多数のステークホルダー(利害関係者)のために存在するものであり、短期的利益追求もさることながら、ゴーイングコンサーン(継続的存続)を最大の存在目的とする。
したがって、短期的利益追求のみを指向した貴ご質問は、前提において当社の目指すべき方向性と異なるものと考えます」
等といった説明となります。

助言のポイント
1.株主総会対策のメインターゲットは、今や、総会屋ではなく、「経営者の経営責任を追及すべく財務諸表を読み込み、理論武装を徹底したプロの投資会社や買収者といったプレーヤー」。
2.株主総会において、会社側は、法的根拠に基づく合理的な株主からの質問をシカトできない。説明義務をおろそかにすると、株主総会決議取消騒動になり、大事になる。
3.うかつに相手の土俵に乗らず、「短期的利益追求」と「ゴーイングコンサーン(継続的存続)の追求」という根源的な価値対立の議論に「論争の場」をシフトし、最後は、「見解の相違」「価値観の相違」「企業経営に関する哲学の違い」という形で整理し、議論を終わらせ、決議に持ち込もう。
4.うるさい株主にカネや利益を供与する、など言語道断。最悪、逮捕、勾留、起訴され、前科持ちになる危険が出来する。

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00997_企業法務ケーススタディ(No.0317):脇甘グループにスキャンダル発生! 早速、週刊誌の取材が・・・

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年8月号(7月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十九の巻(第89回)「脇甘グループにスキャンダル発生! 早速、週刊誌の取材が・・・」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
写真週刊誌

脇甘グループにスキャンダル発生! 早速、週刊誌の取材が・・・
週刊誌が取材と称するFAXを送ってきましたが、社長は法務部長に、
「誤解されたなら、誤解されたこと自体を恥じ入るべき。
世間をお騒がせしたとしたら、それも含めてトップたる脇甘の不徳の致すところと考え、遺憾に存じますとか何とか書いておけ。
それと、過去の話については、すべて認めて謝っとけ。
相手も立派な報道機関、惻隠の情もあるじゃろ。
あとは、自ずと理解される」
と、誠心誠意対応するように言いつけました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:つまらない真実より、刺激的でワクワクさせる「ストーリー」が独り歩きする危険
事件や醜聞などを報道するとき、十分確認されていない内容を、あたかも確実な事実であるかのような装いをもって報道をしたり、編集の過程で誇張して報道したりすることを通じて、報道対象となった者の名誉や声望、社会的・経済的信用等を破壊してしまうような
「報道被害」
という事象が、近年、浮上してきました。
報道には、
「国民の知る権利に奉仕する、高い社会的役割と意義」
という光の面もありますが、
「ときに暴走し、被害者を作り出し、被害者の生活や社会的地位を根底から破壊する」
という
「暴力的な側面、ダークサイド 」
もあり得る、ということを理解しておくべきです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「見立て取材手法」による報道被害の実例
厚生労働省の女性局長らが関与したとして起訴され、後に無罪となり、逆に、捜査担当検事らが罪に問われる、という特異な経緯で有名になった
「郵便不正事件」
に関する取材、報道の在り方では、裁判では、記事内容の真実性に加え、
「記事が真実でなかったのであれば、この誤報について、担当記者としてどのような取材を行って、当該記事に記載された事実を真実と誤信するに至ったのか」
という部分が争点となりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「見立て取材によって、おもしろおかしく事実を歪曲されそうな危険」は早めに察知し、迅速・適切に対応すべき
前述の原告勝訴は、多大な時間とエネルギーとコストをかけ、また、報道機関との熾烈な法廷闘争の末、ようやく手にできた結果に過ぎません。
時間やエネルギーをかけることができず、あるいは法廷闘争に失敗し、誤解されたたまま報道被害が回復できず、世間から見放され醜聞まみれとなって社会的生命が失われた方も少なからず実在します。
上場企業ともなると、当該企業に関わる利害関係者は実に幅広く、たとえ誤解に基づくものであれ、一時的なものであれ、経済的信用や社会的信用に悪影響が出ると、その損害は、想像を絶するほど広範に拡大していきます。

助言のポイント
1.企業の経済的信用や社会的信用や社会的信用は、一度破壊されると、回復に多大な時間と労力が必要となるし、回復できない場合もある。レピュテーション・マネジメントを甘く、軽く、見ることのないように。
2.「天網恢恢疎にして漏らさず。誤解は、やがて解ける」といった楽観的な考えは禁物。たとえ、誤解であっても、関係ない過去の不祥事も援用され、バッシングが始まる危険もある。「醜聞」は発見されるだけでなく、創作されたり、誇張されたり、歪曲されたりして、制御不能になるタイプのものもあるから、注意しよう。
3.「見立て取材」の放置や適当な対応は禁物。誤解は糺し、無関係な話の援用は牽制をかけ、時間的冗長性を確保し、相手のストーリーに嵌められないよう、徹底して防御しよう。
4.あまりに酷い誤解がばらまかれそうであれば、フォーマルなリリース文を作って、「対抗言論」として、きちんと反論し、反撃しておくこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00996_企業法務ケーススタディ(No.0316):債権が焦げついた!?  債務者を相手に裁判!?  やられてもやり返すな! 泣き寝入りだ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十八の巻(第88回)「債権が焦げついた!? 債務者を相手に裁判!? やられてもやり返すな! 泣き寝入りだ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
社長の知人 某

債権が焦げついた!? 債務者を相手に裁判!? やられてもやり返すな! 泣き寝入りだ!
知人を信じて貸し付けた債権が焦げついたうえ、相手はもう文なし状態です。
契約書はありますし、相手は弁護士すらつけられない様子ですが、社長は、
「絶対許さない、カネを返さないでタダで済むと思うなよ!」
と、怒り心頭です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:どんなに優秀な弁護士でも、コワモテの債権者でも、「カネのないところからはとれない」
資本主義社会において、破綻状態に陥り、債務を支払えなくなったとしても、債務者としては、 特段、生活に支障はありません。
債権者は、訴訟を提起し判決を取得して強制執行することもできますが、強制執行をするにしても、
「預貯金なし、目立った財産なし」
状態の債務者を相手に強制執行したところで、差押換価に値する財産がなければ、
「執行不能」
として空振りに終わります。
債権者が恐喝や暴力や拉致監禁するような回収行為をしたら、債権者の方が犯罪者となり、債務者側が、逆に、刑事告訴できますし、債権者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることもできます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:大金を貸すときは、決して情にほだされず、銀行ばりに相手の返済能力を確認しなくちゃ駄目ですョ~。結局、カネのない債務者相手にどんなに回収の努力をしても無駄
債権者として差し押さえようにも、不動産は銀行ローンの抵当権がついていたりする蓋然性が高く、車も同様です。
家財道具については押禁止財産の範囲が広く、29インチ以下のテレビやエアコンは差押不可ですし、仮に32インチのテレビを差し押さえたとしても経済的にはゴミとしか評価されません。
さらに、給与債権差押えについては全額できるわけではありません。
破産させようにも、破産申立費用に加え、債権者側において破産管財人の費用まで立て替える必要があり、しかも、もともとカネがなくて破産したのだから、配当されるカネはビタ一文ありません。
結局、債権回収の世界において、
「カネのない債務者」
は最強・最悪の強みを持ったプレーヤーであり、債権者は、契約書があろうが、判決文を持っていようが、強制執行をしようが、これらをきっちり遂行できるスゴ腕の弁護士を何人そろえようが、歯が立ちません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:カネのない債務者相手の債権回収は、相手の任意の弁済にすがるほかない
債権回収実務においては、債務者側に
「債務は争わないが、払うカネはないし、ない袖は振れない」(「手元不如意の抗弁」)
が提出されると、 債権者としてはどうすることもできません。
カネのない債務者に対する債権の価値はゼロで、
「泣き寝入り」
が正しい場合もあり得ます。
もっといえば、返済能力に疑問のある人間に金を貸さなければいいのです。

助言のポイント
1.カネのない債務者相手に裁判をやっても、強制執行をやっても、強制破産を申し立てても、すべて無駄で、意味はない。債権回収実務においては、「カネのない債務者」が「手元不如意の抗弁」を持ち出した瞬間、どんなに有能で強力な債権回収戦略も無力化される。
2.そもそも、返済能力に疑問のある債務者にカネを貸すなら、担保をとるとか、「回収不能になっても諦められる」範囲でしか貸さないとか、注意と警戒をもって対応すべき。
3.「カネのない債務者」が、近親者や縁故の協力を得て、少しでも返してくれるなら、迷わず、話を前に進めること。結局、任意に返済に協力してもらう以外、債権を回収する方法は皆無と心得よう。
4.債務者が一切返済に協力してくれなければ、とっとと回収を諦めること。時間や労力やコストをつぎ込めばつぎ込むほど、損がかさむ。なお、無税償却を考えるなら、税務の専門家ときちんと相談して実施すること。

※運営管理者専用※

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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