00855_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム1:甘い負荷予測と杜撰な調査、そして繰り返される失敗

古くは豊臣秀吉の朝鮮出兵、また、時代が近くなると、満州で一旗上げる話や、ハワイやブラジルへの移民話、さらには、バブル期のロックフェラーセンターやハリウッドの映画会社買収話など、日本人は、国際進出というものを安易に考えすぎる気質があるようで、毎度毎度バカな失敗を繰り返してしまいます。

国際進出は、情報収集も情報分析も国内では考えられないくらい難しく負荷がかかるものです。

これはあくまで感覚ですが、国際進出して成功するには、国内で成功するより20倍難しいといえると思います。

「国内で成功し尽くした会社が、国内での市場開拓より20倍のリスクがあることを想定し、周到で綿密な計画と、十分な予算と人員と、信頼できるアドバイザーを整え、撤退見極めのメルクマール(基準)を明確に設定して、海外進出する」
というのであればまともな事業判断といえます。

しかし、(アウェー戦ではないホーム戦である)国内ですら低迷している会社が、
「新聞で読んだが、中国ではチャンスがある」
という程度のアバウトな考えで、適当に海外進出して成功する可能性はほぼゼロに近いといえます。

本業が痛んでいるにもかかわらず、起死回生の海外進出策などと称した、現実味のない話が出てきて、浮ついているような会社に未来などあるはずもなく、こういう知的水準に問題のある会社が、中途半端に“国際進出もどき”をおっぱじめても、儲かるのは、現地のコーディネーターやコンサルティング会社や旅行関連企業(航空会社やホテル)や現地会計事務所等だけで、たいていはお金と時間と労力の無駄に終わってしまいます。

フィージビリティスタディ段階で自らの無能を悟り、進出をあきらめてくれれば、損害は軽微なもので済みます。

しかし、頭の悪い人間ほど自らの無能を知らないもので、実際は、多くの中小企業が、実に“テキトーなノリ”で、いきなり、現地法人を作ってしまい、その結果、自分の首を締め、死期を早めてしまうようです。

日本企業のアジア進出ですが、多国籍展開経験のある一部の巨大企業を除き、ほとんどの中堅中小企業は、すべからく残念な結果に終わっているようです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00854_ビジネスにおける「起死回生の一発逆転策」の危険性

企業において、起死回生の一発逆転の秘策が奏功した例はほぼ皆無であり、余計なことをすると却って死期を早める結果に終わる例が多い、というお話を申し上げました。

実際、スポーツもののドラマやヒーローものをみていると、主人公が起死回生の秘策を編み出し、土壇場で一発逆転を行うシーンがみられますが、これはあくまで虚構の世界の話であって、ビジネスの世界ではこのような起死回生の一発逆転劇というのはあり得ません。

破綻間近の企業が無理をして行うその種のプロジェクトは、経験値の無さがわざわいし、ほぼすべて、無残に失敗し、かえって死期を早める結果になります。

というのは、事業というのは、一朝一夕に立ち上がるものではなく、
「発案→企画→試作品の完成→商品化にこぎつけ→営業の成功→取引成約→代金回収」
という長期間の地味のプロセス(しかも各プロセスにおいてそれぞれ相当な試行錯誤があること)によって成立するものだからです。

このような地味で面倒なプロセスを嫌って、楽に結果を求めようとすると、かえって、足元を掬われ、より損害が広がってしまいます。

事業はゴルフというスポーツに似ており、ボギーやダボ(ダブルボギー)しか出せないプレーヤーが最終ホールでいきなりバーディーやパーを連発することはあり得ません。

逆に、実力のない者がバーディーを無理に狙うと、逆にダブルパーやそれ以上に悲惨なスコアでホールアウトするのと同様です。

すなわち、パっとしない企業がいきなり
「国際進出だ」
「大型提携だ」
と騒ぐのは、
「それまでボギーすらとれていないゴルファーが、たまたまティーショットがそこそこいいところに飛んだといってはしゃぎ、それまでまともに当たったことのないロングアイアンを振り回す」
のと、まったく同じ状況で、より悲惨な結果が予測されるのです。

「ご臨終になりそうな企業が一発逆転を狙うと称して手を出して大やけどを負ってしまう」
というストーリーにおいて、登場するお約束のプロジェクトが、3大アイテムが国際進出とM&Aと投機・投資です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00853_「法務課題の発見と対応」における「法務担当者の役割」3:法務課題対応における対応処理基準

法務課題を発見・特定した後、法務担当者は一定の対応を行うこととなりますが、これらがアドホックに行われると、営業実務を行う事業担当者の予測可能性を奪うことになりますし、重要性・緊急性の高い法務対応が後回しになってしまう危険も生じます。

そこで、法務担当者が法務課題を発見した後、発見した課題の重要性に応じて、ある程度定型的な対応ができるように、基準を定立しておくことが重要となります。

特に、
1 社内(法務部内)で貫徹すべき事項、
2 外部の法律事務所の助言を得て社内で実施すべきこと、
3 外部の法律事務所に実施まで委託すべきこと、
の3つを明瞭に区別する基準を設けることは、法務予算を適切に管理・配分する上でも有益です。

この基準策定にあたっては、
定量的な基準(一定額以上のディールサイズの取引に関して法務部として承認するには外部の弁護士の助言を得る等)に加え、
定性的な基準(ディールサイズにかかわらず、非典型契約や会社がそれまで取り扱った経験のない取引や事業の構築・遂行に関しては外部の弁護士に委託する等)を設け、
これを併用することが推奨されます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00852_「法務課題の発見と対応」における「法務担当者の役割」2:法務課題発見・特定後の対応の種別

法務課題が発見・特定された後の対応措置は、いくつかの対応に分類されます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00851_「法務課題の発見と対応」における「法務担当者の役割」1:法務課題の発見・特定

法務担当者の活動は、法務課題の発見に始まります。

取引法務課題に関しては、取引生成のどの段階から法務担当者が関わるかにより発見のタイミングが異なります。

すなわち、取引構築については、以下のような各段階をたどりつつ形成されていきます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

無論、法務担当者の関与は、契約段階の早期であればあるほど選択肢が広がり、質的にも十分な対応が可能となります。

法務リスクの発見は、漠然とした不安であったり、リーガルマインドと整合しないという違和感であったり、というレベルから、大前提たる法規範の特定の上で企業の行為ないし計画との齟齬が明確に把握されているものまで、様々なレベルがありえますが、いずれにせよ、
「法務課題として資源動員をして解消やリスク低減といった何らかの働きかけをすべき対象」
と認知される程度まで、リスクが具体化されていくことになります。

なお、上記取引プロセスにおいて、契約書調印段階に至ってもなおリスクが発見・特定されず、取引が開始されてから、はじめてリスクが浮上する、という
「遅きに失した」形で
リスクが明らかになる場合ももちろんあります。

電機メーカー東芝は、7125億円もの損失を原子力事業全体で発生させ、2016年4~12月期の最終赤字は4999億円となり、同年12月末時点で自己資本が1912億円のマイナスという、債務超過の状況に陥りました。

この状況の原因となったのは、東芝傘下のウェスティングハウスは、2015年末に買原発の建設会社、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスターを買収した際、買収直後に、ある価格契約を締結したことにあります。

複雑な契約を要約すると、
「工事で生じた追加コストを発注者の電力会社ではなくWH側が負担する」
というものでした。

原発は安全基準が厳しくなり工事日程が長期化し、追加コストは労務費で4200億円、資材費で2000億円になりました。

しかし、問題は担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していなかったことにあり(機能的非識字状態)、さらに言えば、この
「価格契約」
が極めて不利で合理性がない契約、すなわち狂った内容であったにもかかわらず、このリスクを発見・特定・認知できず、リスクに気づかないまま契約締結処理を敢行したことにありました。

原子力担当の執行役常務、H(57)らは
「米CB&Iは上場企業だったし、提示された資料を信じるしかなかった」
と悔しさをにじませた、とされます。

この事件をみていただければおわかりかと思いますが、
「課題が発見されないこと」
の恐ろしさが明確に書かれています。

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00850_企業法務総論におけるフェーズ区分とリーガル・プロセス・チェーン・フレームワークの融合による論点マトリックスの細密化

企業の各活動毎に生じうるリスクを検知するためにイシュー・スポッティング・ツール(論点マップ)を作成する際、著者が
『企業法務バイブル2009』(弘文堂)
等において提唱したリーガル・プロセス・チェーン・フレームワーク分析(連鎖型企業法務プロセスモデルによる課題分析法/Tetsumaru Hatanaka’s Legal Process Chain Framework)を前提に構築することが、疎漏なく合理的な方法として推奨されます。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

以上のフレームワーク上の個別プロセスに特有の各法務課題を検討・遂行する場合、さらに緻密に見ていきますと、法務活動(法務オペレーション)の総論的課題として区分される4つのフェーズごとに議論の質や方向性が異なってくることが理解されます。

そこで、フレームワークと法務活動の総論的各フェーズ分析の視点を組み合わせることにより、より緻密な法務課題マトリックスを含めたイシュー・スポッティング・ツールを作ることができます。

すなわち、企業活動毎の連鎖的フレームワーク上の個別論点フレーム内部において、さらに、
0 フェーズ0:課題概要と全体構造
1 フェーズ1:アセスメント・環境整備フェーズ(法令管理や文書管理に関する法務課題)
2 フェーズ2:経営政策・法務戦略構築フェーズ(経営政策、事業方針策定や、法務戦略構築に関する法務課題)
3 フェーズ3:予防対策フェーズ(契約法務や、コンプライアンス法務・内部統制構築に関する法務課題)
4 フェーズ4:有事対応フェーズ(契約事故を処理するための民商事争訟法務や、刑事事件、行政処分、大規模消費者被害あるいはその他企業の存続に影響を及ぼす大規模不祥事に対応するための有事対策法務)
5 その他、特殊な課題・新たな課題
といった形にさらに細分類された法務課題を、各プロセス内のサブカテゴリーとしてあてはめることにより課題マトリックスをより緻密なものとすることができるのです。

【図表】(C)畑中鐵丸、(一社)日本みらい基金 /出典:企業法務バイブル[第2版]
著者: 弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00849_ビジネス活動・営業12:現代のB2B営業(5)営業不振企業が一発逆転を狙って大失敗するケース

2015年から、
「デフレ脱却のため、異次元ともいえるレベルで金融の量的緩和(通貨供給量の増加)で、経済が再び成長する」
という社会実験(アベノミクス)が行われはじめました。

しかしながら、この政策によって
「高度経済成長時代のような継続する右肩上がりが再来する」
という事態に至ることは、およそ想定困難です。

確かに、アベノミクスにより若干景況感が改善し、株価も上昇しましたが、東証全体のPER(Price Earnings Ratioの略称。株価収益率。バブル期は60倍となっていた)は12倍程度というフツーの水準になったに過ぎず、相変わらず、利用価値が高い一部不動産を除き不動産価格は低迷したままです。

フェラーリやベントレーが飛ぶように売れたり、ゴルフ会員権やリゾート会員権が高騰したり、といった話もあまり聞かれません。

バブル経済崩壊後、
「モノ余り、 低成長時代」
を迎えて成熟した日本の経済社会においては、 すでに、監督官庁の保護育成も、業界同士の横のつながりも、今までの大量消費(販売)を前提とした大量生産もまったく機能しなくなっています。

金融緩和云々は別にして、産業社会は、
「品質と価格に基づく、シビアな能率競争」
を前提に、縮小しつつあるパイを苛烈に奪い合う競争社会に突入したのです。

このように、環境がシビアなものに変化する中、営業不振に仰ぐ企業が増えてきています。

そうした営業不振にあえぐ企業において出てくる話が、
「起死回生の一発逆転」
という施策です。

しかし、企業において、起死回生の一発逆転の秘策が奏功した例はほとんどなく、むしろ、無駄なことをせずひたすら競争に耐えていれば、残存者利益を得るか、身近で地味な分野に業態転換して、しぶとく生き残れていた可能性があったにもかかわらず、いたずらに死期を早める結果に終わる例ばかりです。

「起死回生の一発逆転の秘策」
の例でいいますと、国際進出やM&Aといったものです。

そのいずれも、日本企業の不得意中の不得意分野で、多大な経営資源を費消した挙げ句、さらに死期を早めることになる、ということになるケースが散見されます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00848_ビジネス活動・営業11:現代のB2B営業(4)意味もなく流通経路に居すわっていると「中抜き」される

問屋(卸売販売業)もB to B流通業の代表選手のような業界ですが、この業界においても再編合理化の大きな嵐が今後吹き荒れることが予想される業界です。

「きちんとした役割や付加価値を提供するわけでもなく、意味もなく流通経路に居座り口銭をはじいているだけの問屋業態」
などは、突然淘汰される危険性が高いと思われます。

「そうは問屋が卸さない」
という諺があります。

江戸時代の服飾流通業界においては、呉服問屋がメーカー(呉服職人)から商品を一手に集め、委託販売形式で小売業者に卸しており、卸売価格の決定権を握ることを通じて、流通支配を行っていました。

したがって、新規参入を考える者が問屋に断りなく店舗を構えようとしても、商品を卸してくれません(現在では「ボイコット行為」として独禁法違反に問われますが)。

このことから、
「相手のある話に関しては、相手がどう考えるかによって変わるので、すべてあなたの思うとおりには行かない」
ということを表すものとして、
「そうは問屋が卸さない」
という諺ができあがったのです。

しかしながら、現在では、小売業者へさらに進んで、消費者に価格決定力がシフトしております。

流通業においては、
「消費者に安くて品質の良いものを、合理的経路で、迅速に届ける」
ということが唯一かつ絶対の正義となっております。

具体的には、小売業者をネットワーク化し、これをコントロールするバイヤーと呼ばれる者が、
「消費者に安くて品質の良いものを迅速に届ける」
という正義を旗印に、卸業者(問屋)、さらにはメーカーにまで、流通の合理化を要求するようになってきています。

その結果、
「意味もなく流通経路に居座り口銭をはじいているだけの問屋」
はことごとく排除されるようになってきているのです。

今後は、ネット取引の拡大とともに、流通業がますますシビアに整理合理化されていくことになります。

したがって、
「何の特徴もなく、単に特定のメーカーと取引がある、あるいは特定の小売業者の口座を有しているだけで、商品ないし伝票を右から左に流しているだけ」
という類の流通業はある日突然姿を消す可能性が高いといえます。

むしろ、小売店舗向けに高度なコンサルティングを行ったり、コモディティ化していない商品や、付加価値の高い商品を発見して独占的に流通するなどして、自社の価値やコアコンピタンス(絶対的差別化要因)を増強していくのか、あるいは、いっそのこと、徹底したコストダウンによって、小売とメーカーの双方の奴隷となって、
「早く、安く、効率的にモノを届ける」
だけのシンプルな機能に徹するか、といった方向性を顕著に出していくことが、BtoB流通業の生き残りの選択肢となると考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00847_ビジネス活動・営業10:現代のB2B営業(3)一社依存取引の危険性

江戸時代以前から、「○○御用達」というものが商人のブランドの一つを形成してきたことからも判るように、「役所から仕事をもらえる」ということは商売人にとって一種のステータスとなっていました。

公共工事その他の役所とのビジネスというのは、B to B取引の中でも最も大きな法人組織相手の取引(その意味では、B to G、Business to Governmentとでもいうべきでしょうか)ですが、取引発注者の予算が無制限であることもあり、どことなく

「役所と取引があるということは企業の安定の証」 という考え方が今でも、ビジネス界の中にあるように思われます。

しかしながら、
「取引先が特定の企業に依存していることは危険である」
という話は、仕入れ先や取引相手が「官公署」という場合も同様にあてはまります。

赤字国債が連発され、財政破綻の危険が具体化する中で、民主党政権下になって、事業仕分けというものが大々的に行われるようになりました。

現在の財政上、もっとも重荷になっているのは間違いなく公務員の人件費です。

その意味では、財政健全化において、公務員、特に地方公務員の削減こそがもっとも急務の課題と言えます。

かつて、民主党が政権を担っていた時代がありました。

民主党も、公約として、財政健全化を掲げていたところから、民主党なりに正しいと考えた財政健全化策に着手しました。

前述のとおり、財政健全化において、公務員、特に地方公務員の削減こそがもっとも急務の課題であることは、知性を働かせれば、だれでも理解できる事柄でした。

同時に、自治労が支持母体である民主党に、財政健全化策として、地方公務員の数や人件費に手を付けることを期待しても無理であることもまた、誰の目にも明らかでした。

結局、民主党は、「パフォーマンス」として、「事業仕分け」なる財政健全化策を行うことでお茶を濁すこととし、その矛先は、「切り捨てても文句を言わないところ」、すなわち、官公署や独立行政法人との取引を行っている業者に向かうことになりました。

すなわち、民主党が行った「財政再建パフォーマンス」としての「事業仕分け」は、官公署や独立行政法人と民間企業の取引を止めたり合理化したり、という方向に行き着くことになります。

このように、官公署との取引に依存している企業は、取引相手方たる役所の都合によって、突然、取引自体が消失したり、消失しないまでも相当程度、規模を縮小することになったりして、不幸に見舞われることがありうるのです。

また、コンプライアンスという観点からも、役所は些細な不祥事であれ、少しでも問題があれば、問答無用で取引を停止します。

すなわち、談合その他の法令違反があれば、軽重を問わず、指名停止扱いとなり、以後、役所との取引から徹底して排除されることになります。

役所からの仕事に依存しているような企業がこのような事態に直面した場合、その企業の命脈は直ちに尽きてしまいます。

実際、筆者が仕事として経験した事案ですが、ある会社において、地方の一営業所の営業マンが自治体職員を接待する、ということが明るみになり、これが贈賄事件に発展して、新聞に報道されてしまいました。

それからまもなく、当該自治体のみならず、ほかの自治体の取引も一切できなくなり、役所からの発注に依存していた主要営業部門が機能停止に陥りました。

その会社は、役所依存から脱却しようと、民間からの受注も開拓していた矢先であったのですが、結局、主要営業部門の取引停止をカバーするだけに成長しておらず、たちまち破綻状態に陥りました。

結果、会社は、再生を断念し、破産に至ったのです。

役所と取引するのは大いに結構です。

しかし、役所との取引の依存割合が極度に高いと、役所の予算の都合で突然取引そのものが廃止されたり、些細な事件や事故がきっかけで事業が全て停止に追い込まれる危険があるのです。

したがって、漫然と役所からの受注に全て依存するというスタンスの企業は、企業の行く末に大きな危険をはらんでいるものと言えます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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00846_ビジネス活動・営業9:現代のB2B営業(2)一社依存取引の危険性

中小企業などで、
「ウチは一部上場企業の□□社が上得意だ」
「当社は世界展開している○○社の取引口座を持っている」
「わが社は、△△社の系列だ」
などと自慢するところがあります。

いずれも、大きな会社が主要取引先であり、
「よらば大樹の蔭」
という諺のとおり、
「そこに依存している限り、我々も倒れないから安心できる、ということを自慢したい」
ということだと思います。

しかしながら、これまで
「世界の工場」
として世界中の製造加工を一手に担い我が世の春を謳歌してきた日本は、冷戦の終結とともに、中国や旧東欧といった、考えられないような低コストで製造加工を請け負う新興勢力との競争にさらされるようになりました、ということは何度か申し上げました。

後発組は、新しい技術を既存のものとして取り入れ、設備も全面的に更新できますし、かつて日本で行ってきた
「傾斜生産方式」
などのように国を挙げての保護支援を受けています。

このような環境の変化を受けて、日本の多くの企業は、部品や関連製品の調達コストの合理化を常に検討しています。

取引先に対してコストを下げる圧力を強めるほか、調達先自体を多様化し、互いに競争させるような施策を取り始めています。

このような状況下においては、
「取引先が大手1社」
ということは、将来の安全を保障するものではなく、逆に、
「その大手に切られた場合、たちまち経営不安に陥る」
という意味で、きわめて危険な状況と評価できるのです。

下請けや系列の立場でありながら、生き残りを真剣に考えている企業は、このような変化を敏感に感じ取り、新たな仕入れ先を開拓したり、培った技術でまったく新しい製品を作る可能性を検討し始めています。

逆に、こういう状況下で
「取引先が大手だから安泰」
などと考える企業は、認識不足が甚だしいというほかなく、こういうおめでたい企業の将来は芳しいとはいえません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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