01952_契約書のチェックの工程その4_著作物制作

知的財産権の世界では有名ですが(知的財産権を取り扱い経験がないと全くそのような知識もないかもしれませんが)、過去、映画等の制作主体や著作権帰属について、かなり争われた歴史があります(ゲームも、著作権法上は映画の著作物と考えられますので、映画著作権に関する紛争事例は先行事例ないし先行規範として参照可能です。

そもそも、著作者は上述のように著作権法2条1項2号に定義が規定されていますが、映画(映像と音楽等が組み合わさったもの)については、
「映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする」(著作権法16条本文)
と規定しています。

原作者や脚本家、音楽家などは
「映画の」
著作者にはならず、プロデューサーや監督、演出者、カメラマン、美術デザイナー等が映画の著作者になりうるということです。

この点、
「美術等」

「等」
の意味については、解釈によるとされており、著作権法16条によって映画の著作者となる者の範囲が厳密に確定しているとはいえません。

「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した」
というのは、一貫したイメージをもって映画制作の全体に参加している者をいうと解するのが通説的な見解です。

宇宙戦艦ヤマト事件と呼ばれる判例では、アニメーション作品の監督であってもメカニックデザインやキャラクター設定等の美術・設定デザインの一部に関与しただけの者は、映画の著作者にあたらないとする一方で、企画書の作成から映画の完成までのすべての製作過程に関与し、具体的かつ詳細な指示をして、最終決定を行ったプロデューサーが映画の著作者にあたると判示しています(東京地裁平成14・3・25判タ1088号268頁・判時1789号141頁)。

他方で、超時空要塞マクロス事件と呼ばれる判例では、テレビ用アニメ―ション作品において、具体的関与なく、スタッフに対して指示をあたえたこともなかったプロデューサーは映画の著作者に当たらないと判示しています(東京地判平成15・1・20判タ1123号263頁・判時1823号146頁)。

このように、肩書がプロデューサーであっても、映画制作への寄与度やその内容によって、映画の著作者にあたるか否かが左右されます。

明らかに、
「著作物の全体的形成に創作的に寄与した」
のであれば、デフォルト状態では、
「著作物の全体的形成に創作的に寄与した」
者に、強大な権利が発生します。

ところが、
「職務著作」
というカテゴリーに入ると、法人著作になるシナリオも生じ得るのです。

個人が、
「著作物の全体的形成に創作的に寄与した」
にもかかわらず、法人である相手方と、著作権の帰属が不透明な契約書を交わしてしまったのであれば、別の論理やロジックで上書きをしておく必要があります。

その場合、規律設計において、
「職務著作」
に該当しないようなギミックを設計・創出・ビルドインする、ということになります。

要するに、個人であれ、法人であれ、
「著作物の全体的形成に創作的に寄与した」
のであれば、契約書には、
「必ず、制作物の著作権の帰属は明確に記述しておくこと」
が肝要だ、ということです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01951_契約書のチェックの工程その3_著作物制作

契約は上書き自由です。

たとえば、著作物制作について、すでに契約を交わしていたとしても、
「不安だし、重複しても構わないので、差し入れてくれ」
「重複があったり、矛盾抵触があったら、選択的に有利な方を採用するので」
という論理で、さらに
「著作物制作に関する確認書」
を交わすことは差し支えありません。

確認書には、以下のような内容をいれると、不安は減るでしょう。

1 著作物等の権利処理を万全に行っていることを表明し保証すること

2 著作物等が、いかなる第三者の著作権、肖像権その他いかなる権利をも侵害せず、かつ、合法的なものであることを表明し保証すること

3 著作物等が、権利侵害の有無を問わず、社会的に非難されるようなものではなく、かつ、そのようなおそれもないことを表明し保証すること

4 万が一、著作物等について、法律上・非法律上を問わず、何らかの請求・異議・クレーム・訴訟等が生じた場合、その費用及び責任で○○を防御し、○○を免責せしめること
無論、著作物等により権利侵害などの問題を生じ、その結果○○または第三者に対して損害を与えた場合は、その責任と負担においてこれを処理すること

5 著作物等については、一切の権利を保有することを表明し保証するとともに、著作物等の権利が○○にのみ排他的に帰属することを確認し争わないこと
また、著作物等について、著作者人格権を行使しないこと

要するに、
「以上のようなことが書いてあることは、いずれも当たり前のことだろう」
「当たり前のことなら、いつでも署名できるだろう」
「逆に、当たり前のことなのに署名できないのは、不当なことややましいことがあるのか」
という論理で、こちらにとって有利な安全保障の道具を手に入れる、ということです。

お手本は、あちこちで目にすることができます。

たとえば、銀行等は、そのような論理で、のべつ幕なしに、一方的にいろいろな文書を差し入れさせています。

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01950_契約書のチェックの工程その2

契約書チェックの具体例をあげますと。

ラフレビューの一例

1 基本骨子は○○契約でよくみられる合意形態

2 起案した弁護士は、○○の実務経験があり、企業法務スキルのある弁護士

3 ビジネスモデルをよく理解した上で、また、ストレステストを加えつつ、あり得べき合意条件や有事状況が想定されている

4 以上を前提に、○○的状況の記述、想像される○○的状況の記述ともに、観念上の事態や機序・作用を、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化している

5 当方の義務(裏返せば相手方の権利)は、具体的かつ明確にかかれている(逃げ口上が許されないように明確かつ厳格に記述されている)

6 他方、相手方の義務(裏返せば当方の権利)は、(状況がいくつかの前提ないし条件に依存する、ということも作用しているが)やや不明瞭な記述がみられる

7 ストレステストをする上で、「当方が想定外の行動をした場合や、相手方にとって不利な想定外事態が生じた場合」は極めてよくスタディされているし、事態想定、事態対処メカニズムともに十分

8 他方で、(当たり前ですが)「相手方が想定外の行動をした場合や、当方にとって不利な想定外事態が生じた場合」は全くスタディされていないし、事態想定、事態対処メカニズムともに十分とは言えない

と、なります。

そのうえで、今後の修正に至るプロセスを組み立てますと、通常の工程を入れ替えることとなり、

1 大前提:ドラフトレビューの閲読と詳細確認

2 小前提1:ビジネスモデル、取引モデルの再検証・再確認(ドラフトのレビュー・スタディから推察したものに加え、インタビュー含む)

3 小前提2:不安事項、懸念事項等の確認
特に「相手方が想定外の行動をした場合や、当方にとって不利な想定外事態が生じた場合」のスタディ含む(ドラフトのレビュー・スタディから推察したものに加え、インタビューを含む)

4 小前提1と大前提との齟齬の確認:
・確認された「ビジネスモデル、取引モデル」が、合理的に、疑義の余地なく、契約書ドラフトにミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化されているか?
・疎漏や齟齬がある場合の不備箇所の抽出
・特に、相手方の義務(裏返せば当方の権利)は、(状況がいくつかの前提ないし条件に依存する、ということも作用しているが)やや不明瞭な記述の具体化・明瞭化箇所の特定

5 小前提2と大前提との齟齬の確認:
・「相手方が想定外の行動をした場合や、当方にとって不利な想定外事態が生じた場合」のスタディを通じて発見・抽出された「不安事項、懸念事項等の確認」が、合理的に、疑義の余地なく、契約書ドラフトにミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化されているか?
・疎漏や齟齬がある場合の不備箇所の抽出

6 それぞれの疎漏や齟齬について、これを上書き・修正するロジックやアイデアの抽出・構築

7 上記ロジックやアイデアのミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化と、契約書ドラフトへのビルドイン(移植・校正)作業

と、なります。

契約書のチェック1つをとっても、工程をミエル化すると、以上のようになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01949_「販売を伴う預託等取引は原則禁止」ということについて

「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」は、令和4年6月1日から施行されました。

預託等取引に関する法律は、販売を伴う預託等取引(以下「販売預託」といいます。)を原則として禁止しています。

ビジネスモデルを構築しようと検討する場合、
1 預託法という規制規範を把握了解し
2 その上で、スタディを行い、預託法クリアランスを了し
3 規約及び規約による解釈は、預託法に照らしてもなお、有効性を維持するか
という諸点を確認し、抵触しないことが
「肝要」
です。

預託法は、極めてマイナーな法律であり、企業法務界隈においては、B2Cセールスという特定プロセスに固有の特殊な法務課題であり、検討が漏れる場合がたまに生じるものと考えられます。

とはいえ、預託法そのものは、消費者サイドや「(ややアグレッシヴな)B2Cビジネス」を営む企業法務においては、著名な法律であり、例えば
https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202112_02.pdf
といった形で、かなり活発に議論されているものです。

尚、現時点において、内閣総理大臣の確認を受けた事業者は存在しません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01948_契約書のチェックの工程

弁護士による契約書のチェックは以下のような工程ですすめます。

1 小前提1:ビジネスモデル、取引モデルの確認

2 小前提2:不安事項、懸念事項等の確認

3 大前提:現状の契約書の閲読

4 小前提1と大前提との齟齬の確認:
 ・「ビジネスモデル、取引モデルの確認」
  が、合理的に、疑義の余地なく、契約書ドラフトにミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化されているか?
  ・疎漏や齟齬がある場合の抽出

5 小前提2と大前提との齟齬の確認:
  「不安事項、懸念事項等の確認」
  が、合理的に、疑義の余地なく、契約書ドラフトにミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化されているか?
  ・疎漏や齟齬がある場合の抽出

契約書が変更不能で、リスク抽出するのみであれば、5までで終了

契約書が変更可能で、対案や校正案を示す場合は、

6 それぞれの疎漏や齟齬について、これを上書き・修正するロジックやアイデアの抽出・構築

7 上記ロジックやアイデアのミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化と、契約書ドラフトへのビルドイン(移植・校正)作業

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01947_定年を過ぎた従業員との雇用関係を切断・排除するということ

就業規則上の定年は60歳、継続雇用は65歳までとなっている会社で、満65歳を過ぎた従業員を雇用していました。

当該従業員については戦力として必要ない、と考えたオーナー経営者は、
「問題があってね。退職勧告を含めて、どのような段取りですすめたらいいだろうか」
と、弁護士に相談をしました。

「退職勧告をして当該従業員に辞めてもらう」
ために、弁護士にカネを払って、その段取りの相談をと考えたようです。

実はこれは、
「問題」
ではなく、明らかな
「事件事案」
です。

まず、段取り云々の前に、オーナー経営者において、
「不要有害な戦力を、定年後も漫然と雇用続けていた」
という経営判断上の致命的なミスを、受け入れなければなりません。

この反省の上に、
「経営判断ミスをどう尻拭いするか」
という
「事件事案」
として捉えることとなります。

オーナー経営者は
「退職勧告」
を解決すべき問題の前提として相談を持ち込んでいますが、これは、
「対話一辺倒」
という戦略手法であり、
「圧力」
「強制の契機」
を背後に設定しない限り、相手が拒否したら、それでゲームオーバーになります。

いわば、極めて粗雑なゲーム設計です。

これから行うべきプロジェクトデザインとしては、
1 定年退職後、何らの手続き経由することなく、漫然と雇用を続けていた場合、雇用契約がどのようなものとして捉えられるのか、という点のスタディ
2 その上で、上記雇用関係を切断・排除する、強制的手法が構築可能か、のスタディ
3 当該手法について、判例・裁判例として、争われた事例があるか、のスタディ
4 上記判例・裁判例を総括整理した場合、どのような手法を構築すれば、裁判に持ち込まれた場合であっても、当方に有利な状況を設定出来るか、のスタディ
5 上記構築手法を前提にした、相手方への法的意思表示の設計・構築と、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化と発出
6 相手方の出方に応じた、交渉の展開
という形で進めていくことになります。

これは、オーナー経営者が予想する以上の事件事案であり、解決には相応の資源(時間・カネ)が必要である、ということを意味します。

場合によっては、会社経営・存続の根幹を揺るがすほどの難事であることを認識すべきなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01946_紛争事案を依頼する前の作業

紛争の原因は1つと思われがちですが、ほとんどの紛争は、複数の事象が複雑に絡み合って起こります。

裏を返せば、1つの紛争には複数の事象が存在します(*)。

さて、紛争事案を弁護士に相談する際、依頼者が予め準備するものの1つとして、
「事実関係を時系列で整理する」
というものがあります。

「なんだ、そんなことか」
と言う依頼者も少なからずいるのですが、この作業は重要です。

相手方に対するものであれ、公的機関(裁判所、捜査機関、行政機関)に対するものであれ、自分の身に降り掛かった事件に関し、自分の立場や正当性を適切に主張し、事件の相手方に法的な請求を行い、あるいは相手方からの不当な請求を排除する主張を構築する上で、必須の前提となるからです。

あとから、事実関係の
「証拠」
が必要となる場合もあります。

ですから、この作業は、簡単そうであって、実は大変手間がかかります。

時間との関係もありますが、この作業を丁寧にすればするほど、相談を受けた弁護士は、依頼者の抱える紛争事案から事象(テーマ)を因数分解しやすく、相手の出方(相手のミスやエラーや心得違いや違法行為を含む)や、筋の見立てがつきやすくなります。

逆にいえば、雑であれば雑であるほど、あとになって
「新たな事実」
が出てきた場合、
・認識にも認容にもつながらない
・話の筋としておかしい
・「新たな事実」の意味や評価を争う
ことになりかねません。

作業の手順としては、依頼者は、当方と相手方の行為を事実ないし状況として5W2Hの形(「How」だけでなく、「how much」「how many」という定量的・数額的な特定を含む)で特定し、整理し書き出していきます。

5W2Hの形で特定に至らないものは、言わば、単なる噂や罵詈雑言・独り言のレベルということになり、つかいものになりません。

現実として、最小限の時間とお金で最大限の効果を望む依頼者は、この作業の必要性・重要性を認識し、丁寧に準備します。

この作業が雑な依頼者は、紛争事案の解決に多大な時間とカネを費消する傾向にある、のは言うまでもありません。

我々は、この作業を
「ファクト・レポート」
と呼んでいます。

(*) 訴訟となった場合、同一の原告が同一の被告に対し、1つの訴えをもって複数の請求をなすこともあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01945_雇用保険被保険者離職票修正におけるトラブルの対処行動

雇用保険被保険者離職票は、離職者における失業保険算定上の基礎資料となります。

従業員が退職意思表示を示し、雇用保険被保険者離職票の交付を会社にもとめてきた場合、会社は速やかに交付の手続きをしなくてはなりません(ハローワークが発行しますが、会社を通じてその手続きをすることとなります)。

さて、ある会社において、関連会社に出向していた従業員が退職の意思を表明し、オーナー経営者は合意しました。

総務担当者は、退職の手続きをすすめました。

雇用保険被保険者離職票とともに、給与関係書類として、(当該従業員が関連会社に出向していたことから)賃金台帳ではなく給与台帳をハローワークに送り、ハローワークでは、送られてきた給与台帳をもとに雇用保険被保険者離職票の修正を行いました。

その結果、書類上、当該退職者の給与は、オーナー経営者の認識より高額となりました。

この過程で、当該従業員は、所定労働時間および時間外手当について、会社側と認識の齟齬があったことを知り、その後、当該従業員は、会社に対して、
「未払いの賃金」
があると、請求してきました。

労働法務においては、このように、日常の業務の一環が、ある日突然、トラブルとなることが少なくありません。

この件については、誰が、どういう認識と存念で行ったかはさておき、
「会社の認識と異なる認識内容がミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化されて公務所に提出された」
という状況であり、そのこと自体が事件です。

事件を
「事件」
として認識したのであれば、
「通常、事件被害に遭った合理的人間」
として対処すべき一連の行動、すなわち、犯人探しや、犯人に対する責任追及や、是正措置といった対処行動をしておくべきことになります。

もちろん、対処行動をせずに放置することも可能ですが、その場合、
放置=黙認=追認=「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化されて公務所に提出された認識内容と会社の認識内容には齟齬がなかった」
ということを、会社が自認したものとして扱われます。

裁判となった場合、当然、当該従業員も、裁判所も、そのような言い方で、会社を責め立ててくるでしょう。

会社が、
「『通常、事件被害に遭った合理的人間』として対処すべき一連の行動、すなわち、犯人探しや、犯人に対する責任追及や、是正措置といった対処行動」
をプロジェクトとして遂行するには、まずは、対処行動のための動員資源(知的資源・事務資源)が必要になります。

本件の場合、対処行動上の相手方がハローワーク(公務所という強大で無謬性を絶対視する存在)となるので、対処方針と行動計画を策定し、着手・遂行する一連の手続きには、相当の時間がかかります。

腹立たしいことこの上ないでしょうが、難事となることを想定しなければならず、相応な予算が必要となり、かつ、予算がかかっても満足な成果が得られない危険もあり得ます。

まずは、会社として、
1 立件するのか(事件認識するか=対処行動を取る覚悟を決めるか=予算動員の覚悟を決めるか)、
2 放置容認するのか(予算を懸念して捨て置くか)
3 立件するとして、どのような体制(予算規律)で対処するのか
1)弁護士に丸投げするのか
2)一部を弁護士に外注するに留めるのか
3)弁護士の助言のみで自力対処するのか
4)すべてを内製化し、自力対処するのか
という論点で、オーナー経営者が、速やかに決定することが必要となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01944_補助金事業における会計検査院による実地検査が入るとは

会計検査院の実地検査とは、会計検査院の調査官が、検査対象機関の事務所や事業が実際に行われている現場に出張し検査を行うことです。

対処を間違うと、公金詐欺としての事案立件、社名公表、今後の補助金事業からの締め出し等のリスクもあり得ます。

1 前提認識

「話せばわかる」
「多少のことに目をつぶってくれる」
「温和で、協力的な組織である」
という前提認識に立脚することも可能でしょう。

他方で、実務経験に照らした状況評価や展開予測からすれば、日立製作所ですら不備を指摘され、返金を強要され、晒し者にされている厳然たる事実からして、
1)会計検査院は、凶暴な組織
2)とにかく不備を摘発し、因縁をつけ、それを以て手柄とするような組織
3)日立製作所はおろか、中央官庁ですら嫌悪・忌避する凶悪な検査組織
という認識を前提とすることもできます。

「会計検査院」
という存在をどう捉え、何をリスクとして考え、当該リスクの重篤性をどう捉えるか、ということを前提に、対処することとなります。

2 ゴールデザインは以下のように想定できます。

ケース1:指摘事項等なく平穏に終了
ケース2:口頭注意に留まる
ケース3:(具体的返金指示等を含まない注意・警告に限定された)文書による行政指導(先方の内部情報として注意先・ブラックリスト入り
ケース4:内々の措置で収束(社名公表や書類送検等もなく、事実上の返金で収束することを前提とする、具体的返金指示等の不利益処分ないしその指導
ケース5(ワーストケース):社名公表、公金詐欺による書類送検、その他今後の不利益処分(今後の補助金事業からの締め出し等のリスク)

「大事を小事に、小事を無事に近づけ、なんとか切り抜ける」
という強い要望を持つのであれば、
「最大限の警戒と準備を行い、最大限の安全保障行動を展開する」
という前提で、計画を立案することとなります。

3 準備と安全保障行動の展開について

1) 準備その1 法的意見書の作成
ア)前提としてのゲームロジックやルールの理解(手引書の読解・精読・評価・解釈)
イ)該当規範(規範や概念、論拠構築を含む)の特定
ウ)該当規範の解釈(内包と外延の特定と射程範囲の設定)・規範定立
エ)規範へのあてはめ・結論誘導
オ)以上の検討内容の成文化(ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化)

2) 準備その2 株主総会等による議議事録の作成

3)想定問答の検討・作成・実施

想定するリスクによって、対処の選択肢がある、ということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01943_従業員の退職撤回リスク

従業員の退職撤回・覆滅にまつわる事件は枚挙にいとまがなく、裁判例も数多く存在します。

これらトラブルは、会社からの退職勧奨が起因となっていることが多く見受けられます。

裁判となって会社が勝訴したとしても、会社側にとっては経過そのものがリスク、となり得ます。

年単位の裁判に関わらされ、薄氷を踏むような勝利であった事実は、経営そのものに影響がなかったとはいえないからです。

たとえば、以下の事件では別の論理で最終的に会社が勝訴しています。

引用開始==========================>
【事件番号】大阪地方裁判所判決/平成26年(ワ)第8169号
【判決日付】平成27年11月26日
(前略)
2 争点1について
(1) 争点1
ア(原告が,7月29日の面談において,本件退職の意思表示を撤回したか否か)について
(中略)
本件退職の意思表示は,合意退職の申込みであると解されるところ,原告は,7月22日及び同月29日の面談を通じ,原告が働き続けたいという意向を有する限り,これに反して退職させることはできず,妊娠・出産に伴い休暇を取得したいというのであれば,原告の要望を容れるので辞めないでほしいという監査役の言葉に感謝するとともに,これを受け入れ,その具体的な日程・段取り等については監査役に任せると述べたものと認められる。
そうすると,原告は,上記両日の面談をもって(最終的には,7月29日の面談をもって),合意退職の申込みである本件退職の意思表示を撤回したものと認めるのが相当である。
イ 被告は,本件退職の意思表示は,被告の退職勧奨なしに原告が自発的に行ったものであることをもって,これは合意退職の申込みではなく,これが被告に到達した時点で退職の効果が発生し,撤回することができないと主張する。
しかしながら,被告の退職勧奨がなかったことから,直ちに,退職願の提出をもって退職の効果が発生するとはいえないし,また,その後の原告の対応を見ても,退職願を提出したことの一事をもって被告との労働契約が解消されるという前提で行動していないことは明らかであり,被告の就業規則における退職の手続(前提事実(2)エ)にも併せ鑑みると,本件退職の意思表示が被告主張のようなものであると解釈することはできず,被告の上記主張は採用することができない。
(以下、略)
<==========================引用終了

労務問題対処実務においては、
「揉めてから考える」
のではなく、
「揉めないようにするため、事前に出来ることは、全て疎漏なく尽くしておく」
という不文律が確立しています。

「揉めた」
場合、その時点で、すでに解消困難なリスクが出現している可能性があり、対処行動上の選択肢が非常に限定された状況となります。

話を戻すと、 会社側が退職勧奨をする場合、
「揉めないようにするため」
のお作法がある、ということになります。

さらにいえば、従業員に退職勧奨する前の段階において(たとえば、休職中や定年など)、
会社は、
「事前に出来ること」

「全て」
洗い出すなど、心づもりしておくこと(人事担当者の教育を含めて)も、リスクを軽減する、という意味と意義においては有効でしょう。

労務問題対処を適切に行う経営者の多くは、 平時より、実務経験に照らした状況評価や展開予測とこれに対する対処行動上の
「選択肢」
について、弁護士と密接にやり取りを交わしています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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