02076_初回法律相談の主眼

初回の無料法律相談では、相談者に
「法常識と一般常識のギャップ」
を、よく理解してもらうことに主眼が置かれます。

これは医療で言えば、
「自分の病状や病気の概要を、極めて大雑把に認識した」
というレベルに過ぎません。

すなわち、医療という比喩を用いると、
・詳細な病気のメカニズムや
・治療ないし改善すべき課題の特定や
・治療方針(治療方針がいくつかの選択肢に整理出来る場合、各選択肢の功利分析を含む)の策定・把握や
・治療実施
といったところまでは、初回法律相談においては、全く到達しません。

法的なトラブルに関しては、そもそも課題の発見・特定すらできていないまま、ゲームのルールもよくわからないまま(あるいは”知ったかぶり”が災いして)、シビアな状況に追い込まれる方が多い、という特徴があります。

そのような状況を考えると、初回法律相談において、
「法律上の問題の発見・特定ができた」
こと自体は、相応の価値がありますが、これで解決したと安心するのは危険です。

病院で問診を受けただけで
「自分が病気に罹患していることがわかって一歩前進した」
と安堵するのと同様です。

法的なトラブルに関しては、問題の全体像や具体的な対応策にはまだ到達していない段階であり、それがそのまま問題の解決につながるものではなく、問題の本質に取り組むには引き続き検討が必要である、ということです。

また、
「ハインリッヒの法則」
にもある通り、1つの重大事故の裏には29の軽微な事故があり、さらに300の異常が潜んでいるとされます。

この視点から見ても、事業を営む場合、
・ガバナンスの不全
・労働関係(ヒトの取引)の問題
・モノすなわち各種調達取引にまつわる問題
・カネにまつわる問題
・チエやノウハウに関わる問題
・営業取引にまつわる問題
・債権回収にまつわる問題
・会計税務にまつわる問題
その他各種取引プロセスにおいて、
「現状、顕現せざるも、その萌芽が発生している法的に異常な状態」
が存在することも十分想定されるところです。

今後、継続して、相談者の企業経営のありかたや法務の取組の現状を弁護士が把握して、問題ないしその萌芽が発見された場合に、状況に即応し、問題の特定と改善する体制が必要とも考えられます。

無論、
「営業を重視して管理や法務を軽視する」
というスタンスで、法的なリスクマネジメントを充実しない形で経営を継続する方向性も純論理的にあり得ましょうが、事業を可及的永続的に存続させる観点からは、採用しえない方向性と考えられます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02075_M&Aを検討する全ての企業経営者がふまえておくべき教訓

2017年4月、日本郵政は、2015年5月に買収した豪州の大手物流会社、トールホールディングスについて4003億円の特別損失を計上すると発表しました。

買収の際には、のれん、商標権として52億7600万豪ドル(5048億円)を計上していました。

例え話を使って、ざっくりいいますと、5048万円の3LDKの投資用マンションを買ったところ、2年投資運用しても全然家賃収入が入ってこないので、よく調べたら、実は、ボロいワンルームの部屋で、1000万円程度の価値しかなく、4000万円ほど損していたことが判明した、という趣の話です。

経営陣が敗戦の弁を語る様子が、
https://www.logi-today.com/286558
に克明に記されています。

記録って重要ですね。

過去の愚行を克明に記し、未来に向けて晒すことで、歴史に学び、愚行を避け、賢く行動することができる。

上記会見の中から、M&Aを検討する全ての企業経営者がふまえておくべき教訓とすべき印象的なやり取りをピックアップしておきます。

なお、ツッコミどころ満載なので、筆者注、という形で筆者の意見等を付記しております。

――日本郵政は無謀なことをやっている認識があるのか郵便配達と国際物流はまったく別物で、物流をわかってる人はトール社にどれだけいるのか親会社として子会社をきちんとチェックできていたのか。

長門氏:自社にないノウハウを持つ会社を買えるのか、という指摘だと思うが(←筆者注:ノウハウの問題ではなく、土地勘の問題ではいか。)、自動車工場を買ったわけではない 筆者注:自動車工場なみに違う分野ではなかったか。そもそも、土地勘すらなかったことを理解していなかったのではないか)。さらに成長するために、自分たちと近いところを買ったほうがいいのなら買うという判断だった。準備できてから買うというのは順番が逆( 筆者注:準備できていないのに買い物をするからこそ失敗する。それこそ順序が逆)。トール社は自社の事業に割と近いと思っていたので、手を出した。ただそもそも6200億円という買収金額は高かった(←筆者注:「高い」ではなく、「凄まじく高く」、かつ、カモられた、とみるべき)

横山氏素人だから見えることもある(←筆者注:素人だからこそ、鉄火場に来てはダメ)。日本郵便は宅配を手がけているが、トールも豪州の宅配事業が中核事業の一つだ(←筆者注:それほどよくわかっている事業分野というなら、なぜ凄まじい高値掴みをしたり、PMIに失敗したのか?)



――今後も国内外でM&Aを継続するといったが、高値づかみポストマージャー戦略が描けていない証券会社の「カモ」にされている面もある。なぜ日本企業はこんなに買い物が下手なのだと思うか。

長門氏高値づかみは欲がそろばんに勝った場合に起こる(←筆者注:ローンでブランド物買って自己破産する若者じゃないんだから、もうちょっと理性的になるべきだったのでは?)。ポストマージャ―戦略については、買った方の企業も(買われた方と)同じ血を流す気でやらないとできない(←筆者注:買われた方は、新しいオーナーが「どこか遠くの国の、目が節穴の、ド素人」とわかったら、学級崩壊よろしく、サボリまくるもの)

――今回の欲は何だったのか

長門氏「海外もできるといい」ということだったと思う(←筆者注:大きな海外進出は、地味で小さな失敗を積み重ねて、できるようになってから、にすべき)

横山氏自社の身の丈よりも高ければ、身の丈に合うまで待つべきだった(←筆者注:これはその通り。ただ、大きな買い物の前に知っておくべきだった)統合を決めるまでに、シナジーが何なのかを買うまでにはっきりさせる必要があった(←筆者注:結婚して何をしたいか、というのは結婚前に考えておくべき) 。PMIはこれでやるんだということをはっきりさせるべきだった。


「今まで車など見たこともない金を算出する某国の王子様が、はじめて日本にやってきて、人生ではじめて軽自動車をみて、凄まじい便利さに感動し、随行していた通訳兼アドバイザーに相談した上で『その軽自動車を適価で買いたい』と伝えたところ、『持参していた500万円相当の金のインゴットと中古軽自動車とを交換する』という形で話がまとまり、得意絶頂で、母国に軽自動車を持って帰り、2年間乗り回していた。しかし、その軽自動車が時価100万円を下回ることを知り、400万円損したことが判明した」
のと類似した状況が浮かび上がってきます。

値段や相場がよくわからないものを、よく調べないまま、あわてて買って、カモにされた、という話ですね。

以上を、教訓として単純化すれば
1 よくわからないM&Aには手を出さない
2 買った後の投資回収シナリオを考えて買う
3 買ってからどうしたいか、準備できてから買う
4 身の丈のあった買い物をする
5 買い物においては、

 ①「カモ」にされる現実的リスクと、
 ②「ニコニコしながら、揉み手をしながら味方や仲間のふりをして近づき、当事者の横にいて『カモ』にしようとして周囲に蠢いている方々」の存在する現実的可能性、
の両方をわきまえておく
6 5をわきまえた上で、「カモ」にされないようにする

ということになりますね。

以上は、海外にいって、よくわからない骨董や民芸品を買うときの注意点とほぼ同じです。

他方で、ニッポンの社長さんたちは、そういう小さな失敗経験をしたことがないためか、あるいは他人のカネで買い物できる、という気軽さからか、数千億単位で、ロクでもない骨董や民芸品のような企業を買って、取り返しのつかない大失敗をよくされます。

皆さん、気をつけましょうね。

者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02074_弁護士とクライアントの共闘のために必要な情報共有の重要性

訴訟が始まり、相手方から訴状が届くと、弁護士はまず、クライアントに対して相手方の主張に対する反論を求めます。

しかし、この際にクライアントが感じやすいのは、
「弁護士は高い料金を取るのに、自分で何もせず、すべてをこちらに押し付けている」
という不満です。

これは、弁護士とクライアントのコミュニケーションのズレが原因であり、実際には、弁護士はクライアントと共に戦うために、まずはクライアントからの情報提供が不可欠であるという現実があります。

弁護士の役割は、法的知識と技術を駆使してクライアントを守ることですが、事件の事実関係を最もよく知っているのはクライアント自身です。

弁護士が効果的な弁護を行うためには、クライアントから正確で詳細な事実を聞き取る必要があります。

これを
「上工程」
と呼ぶこともできます。

すなわち、クライアントが持つ情報をしっかりと弁護士に伝えることが、訴訟の準備における最初の重要なステップなのです。

弁護士は、クライアントから得た事実をもとに、それらを有利な事実と不利な事実に分けます。

有利な事実については、多角的に分析し、裁判で最大限有利に働くような主張を構築します。

不利な事実については、なるべく目立たないようにするか、または事実の解釈を微妙に変えて、相手の攻撃を防ぐようにします。

つまり、弁護士は情報という素材をもとに、最適な戦略を練り上げる
「完成品」
を作り上げるわけですが、その素材が不十分では、どんなに優れた弁護士でもその力を発揮することはできません。

このため、クライアントには、
「相手方が主張している事実が本当かどうかの確認」
「事実と異なる部分や誤解を招く表現への反論」
「訴訟に関連して伝えたい追加のエピソード」
などを、できるだけ詳細に文書化してもらうことが求められます。これは、ただ単に
「反論を書いてください」
という漠然とした要求ではなく、具体的に何を確認し、何を伝えるべきかを明確にしたうえでのお願いです。

弁護士がクライアントにこのような作業を依頼するのは、決して怠けているわけでも、仕事を放棄しているわけでもありません。

クライアントにしかわからない事実をもとに弁護士が全力で戦うための準備を整えているのです。

「がんばって上工程をやってほしい」
というのは、弁護士とクライアントが一緒になって、訴訟という難敵に立ち向かうための必要不可欠な協力要請です。

このように、訴訟準における情報共有は、弁護士とクライアントの
「共闘」
を実現するための第一歩です。

弁護士が持つ法的なスキルと、クライアントが持つ事実の情報がしっかりと結びついて初めて、強固な防御と攻撃が可能になります。

お互いの役割を理解し、しっかりと協力することで、より良い結果を引き出すことができるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02073_「初手の設計」と戦略的リスクの見極め

プロジェクトにおいて、目的軸の設計、課題の抽出、そしてシナリオ(仮説)や実施上の問題について、まだ明確な責任者が決まっていない時点で、
「弁護士が出る必要はない」
という判断をくだすのは、早計に失するといえましょう。

この
「弁護士が出る必要はない」
という判断が、適切であるかについて一考する必要があります。

具体的には、
“「(弁護士が出るのではなく)クライアント本人が先方に出向いて話を聞く」初手”
が戦略的に正しいかどうか、また、それが誤っていた場合のリスクやその対処については、十分に議論が必要です。

もし戦略として、この
「初手」
が誤っている場合、次のような事態が起こるリスクが考えられます。

1 目的設計や課題抽出、シナリオ策定が不十分なまま、表面的な対応を重ねる

2 その結果、プロジェクトの中盤で深刻な問題が浮上し、計画が迷走する

3 最後には弁護士に全ての修正を依頼し、「初手から相談しておけばよかった」となる

このような事態になると、弁護士としても
「初手の段階で戦略的助言ができていれば」
と感じざるを得ません。

そのため、弁護士がこの段階で関わっていない場合、後から修正に関する期待値を大幅に下げてもらう必要が出てくるかもしれませんし、場合によっては依頼をお断りすることもあるでしょう。

プロジェクトの初動から戦略設計が十分でなければ、クライアントが思わぬリスクを招き入れることになります。

このリスクに備え、
「あの手、この手、奥の手」
など多様な戦略が予め議論されているか、再確認が必要です。

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02072_請求放棄は裁判における実質的な「敗訴判決」

「請求放棄」
という訴訟手続きの終わり方は、表面上は自ら裁判を取り下げる形を取っていますが、実質的には
「敗訴」
に等しいといえます。

これは、裁判に負けたという事実を暗に認める行為であり、
「勝ち目がない」
「もう戦い続ける意味がない」
との判断から行われる場合がほとんどです。

ですから、請求放棄は単なる裁判からの
「手引き」
ではなく、
「私たちは間違っていました」
との意を含んだ行動と言えるでしょう。

このような形で訴訟が終わる背景には、裁判所からの
「強い勧告」
があった可能性が高いでしょう。

裁判所が
「このままでは敗訴判決が出る」
と告げ、続けることで
「無様な姿を晒すことになる」
と諭すように進言することがあります。

つまり、事実上の
「敗訴」
を予告されたといっても過言ではありません。

特に、もともと訴えを起こした側が
「詐欺だ」
「横領だ」
と騒ぎ立て、激しい主張を繰り返していたにもかかわらず、最終的には自ら請求を放棄する形で訴訟を終えたような場合、弁護士が相手方の弁護士から何らかの圧力を受けて
「そろそろ依頼者と縁を切れ」
と説得に回り、請求放棄に至った可能性も考えられます。

いわゆる
「無能な味方は敵よりも怖い」
とも言える状況で、依頼人(訴えを起こした側)の立場はどんどん悪化していったのかもしれません。

さらに、請求放棄には深刻な波及効果も生じます。

つまり、
「訴えを起こした側の主張は虚偽だった」
「相手方の主張が事実だった」
と周囲からも見なされるようになります。

訴訟の争点自体が
「訴えを起こした側の虚偽」
であり、相手方の主張が正しかったことを、最終的に証明する形となってしまうのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02071_企業法務ケーススタディ:弁護士のつかいかた_弁護士に対する明確な指示の重要性

<事例/質問>

ある交渉案件について、
「当方が多少の条件面での不利を我慢しても、時間優先で早期に講和したい」
という方針のもと、弁護士をつかって、すすめてきました。

そうしたところ、相手方が折れてきました。

そこで、社内で強気にすすめることにしようかと、弁護士に相談したところ、弁護士は、何やら不満顔です。

こんなことで、足踏みしていると、不利に傾くことになりかねません。

社長は、
「そんな弁護士は変えろ」
と言い出す始末です。

何が悪かったのでしょう。

どうしたらいいでしょう。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

交渉の方針として
「早期講和を優先する」
方向で進めてきたものの、相手方が歩み寄りの姿勢を見せたため、急遽
「強気に進めるべきか」
と社内で議論が起こったのですね。

しかし、ここで弁護士が不満顔を見せたのは、
「指示変更が曖昧なままで進めるのはリスクが高い」
と判断したためです。

弁護士にとって、交渉方針や戦略を明確に示されることは非常に重要です。

急な判断変更が発生した場合、特に
「戦局や情勢判断に基づく方針の変更」
には、クライアントからの具体的な指示が必要です。

曖昧な意向や推察の余地のある指示の下では、弁護士としては、戦略上のリスクを一方的に引き受けることが難しいためです。

もしこうした場面で足踏みしてしまうと、交渉は思わぬ方向に進んでしまいかねません。

そこでクライアントが行うべきことは、次の2つの選択肢のうちどちらを優先するかを、弁護士に文書で明確に示すことです。

1)要望を再優先し、時間がかかっても交渉条件の達成を目指す
2)時間を優先し、多少の交渉条件の妥協を許容する

もし、指示が不明確であったり、指定した期限までに指示が示されなければ、弁護士としては
「1)要望を再優先し、時間がかかっても交渉条件の達成を目指す」
従前の方針を保持せざるを得なくなります。

これは、結果としてクライアントの利益を守るための対応にもつながります。

弁護士に
「黙示の意向を察してほしい」
など、解釈に余地があるような要求をされる方も時折いらっしゃいますが、こうした曖昧な指示のもとで進めることはリスクが高く、弁護士としても責任転嫁や非難を避けるためにも、明確な方針指示をお願いしたいところです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02070_弁護士の役割とクライアントの協力体制その2_「総括と振り返りと反省」の必要性

法律専門家の意見や評価が欠けたまま交渉が進められ、暗礁に乗り上げそうだと判明したとたん、弁護士に相談するケースは、実は少なくありません。

その場合、弁護士として、クライアントと交渉関係やプロジェクトの進行を円滑にするために、必須の前提と考えるのは、

1 交渉前に形成された状況や不利な立場となる判断をくだした経緯を、クライアントがどの程度反省し総括できるか

2 問題解決のために「正解」を求めるのではなく、(弁護士が)考え抜いた戦略を正しく理解し、複数の選択肢からベストな対応を、いかに柔軟に考えられるか

3 有事の対応として、チームの構成や運営方法を正しく理解しているか

4 稼働工数について仕事になる程度に(弁護士が損しない程度に)費用が頂戴できるか

5 (弁護士がやる気の出る程度に)適切なインセンティブが設定されているか

ということです。

特に、裏方で助言を行う場合、弁護士は、リスクを勘案の上で選択肢を提示することとなりますが、
・唯一無二の選択肢を信じこんで、その実現にすべてのリソースと勝機を注ぎこむ、というものではなく、
・(相手の出方によってめまぐるしく変遷が予定される)状況と限られた認識と情勢分析能力と不確実な未来予測能力を前提として、「最善の選択を選び、うまくいかなったら、経験値によって、少し賢くなった頭脳をもって、立ち戻り、よりマシな選択や、その際に浮上した新たな修正選択肢を加えて、検討と実施を続ける」という最善解模索アプローチを前提として、
選択肢の形で提示します。

弁護士の重要な役割のひとつは、判断の幅を広げることです。

常識にとらわれない極論やアングルや時間軸や空間軸を一変させた考え方を含め、より広汎な選択肢の形で提示することが、クライアントの意思決定に資するものと考えます。

多様な選択肢を提案するには、判断の前提となる事実認識と情報は不可欠であり、過去のディールの議論をすべて把握し、評価・意見の欠落部分を補完するために、すべての資料分析・必要に応じたヒアリングが必要となります。

もちろん、そのためには、時間的冗長性は必要不可欠であり、クライアントの理解がなければ、前にすすみません。

さて、社会科学を用いて問題を解決する、という手法を取る際、
「人間の想像力や、状況認識能力には、限界があり、常に不完全である」
という前提に立ちます。

言葉を変えると、法律問題を解決する際は、常に、
「不完全な情報と、不完全な能力を前提に、不十分な選択肢を、不完全に選択する、ということの連鎖」
で、最善解に近づけていくことになります。

それには、うまくいかないことが判明した時点で、
「総括と振り返りと反省」
が必須のプロセスとなるのです。

「反省」
には、倫理的な意味や、非難の要素を含みません。

「いかに反省できるか」
は、
「いかに最善解に近づけるか」
ということになります。

「一切、反省しない」
「というか、そもそも反省が許されない」
ということになると、
「正解か破滅か」
という二者択一に陥ります。

情報が不足した状態では効果的にサポートできないのと同様に、
「総括と振り返りと反省」
がなければ
「正解か破滅か」
に陥り、すなわち、失敗のリスクが増大する、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02069_弁護士として、リスクの特定と初期対応の基本的な考え方

リスクとは何かを正確に把握し、その性質や大きさを特定・提案することが重要です。

その上で、そのリスクが顕現しないようにするための予防ないし改善する合理的方策を、クライアントに提示して、実施することになります。

リスクや目的をどう捉えるかによって、選択肢は変わってきます。

たとえば、
「道義的なリスク」

「法的なリスク」
とでは、選択肢は異なります。

それだけではなく、提示されたクライアントの反応も全く違ったものになります。

「道義的に、マナーやエチケットの面で後ろ指を刺されるリスクがありますよ」
と説明されたクライアントは、そのアドバイスを無視するか、軽視する傾向にあります。

他方で、
「これを行うと、刑務所に行くことになります」
と言われると、クライアントは、助言どころか弁護士に判断に仰ぎます。

ここで重要なのは、
「何を目的として」
という前提を、まずは、きちんと確定・確認することです。

そのうえで、
「大事を小事に、小事は無事に」
という考え方で、予防策や改善策を適切かつ具体的に提示することです。

既に発生したリスクについては、根本的な改善策を含みます。

何を最優先するかによって選択する対策が異なることは、理解できないクライアントも少なからずいます。

事件の性質によっては、即座の応対を求められることもありますが、その場合でも、弁護士として、クライアントにしっかり確認をとる姿勢が求められます。

まずは、
「所内で協議確認しますが、さしあたって、お急ぎということであり、担当の一次判断ということでご承知おきいただく前提で、コメントないしご助言申し上げます」
という留保がありうべきでしょう。

逆に、
「何とかします」
「何とかしなければ」
というような脳内環境を無自覚にもつ弁護士には、クライアントは不安を感じ、
「こんな弁護士には絶対に頼らない」
と、思いかねません。

このように、リスクの特定、予防策の提案、そしてその実行には、冷静で論理的なプロセスが必要です。

クライアントの立場を重視し、信頼を得るための対応ができる弁護士こそ、結果的にクライアントから認知性を高めることができるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02068_弁護士の役割とクライアントの協力体制その1_「最善解模索アプローチ」

弁護士として、クライアントとプロジェクトとの関係を構築する際に重要視している点がいくつかあります。

まず、弁護士が関与する前に生じた不利な状況に対して、クライアント自身がどの程度反省し、その原因を整理して総括しているか、ということです。

これに加えて、弁護士のアプローチである
「正解探求ではなく、最善解を模索する」
という考え方をクライアントが十分に理解しているか、ということが重要です。

また、有事に対応するためのチームの構成や役割、運用の在り方についても、クライアントが理解することが重要です。

弁護士としては、問題が発生した際に迅速に対応できるよう、適切な体制チームを整えます。

そのためにはクライアントも、チームの構成や役割分担についてしっかり理解していなければなりません。

そうでなければ混乱が生じ、スムーズな対応ができなくなるからです。

さらに、弁護士が提供するサポートについて、クライアントが費用面でも適切な負担をできるかどうかも大切です。

弁護士は、リスクを十分に勘案した上で、現状に基づいた選択肢を提案します。

この際、リスクが
「存在しない」
と仮定するのではなく、リスクが常に潜在的に存在していることを前提にした選択肢となります。

弁護士は、都度、腹案をクライアントに伝えることもありますが、最終的な意思決定はクライアントが行うべきものです(弁護士が意思決定を代理するのは、かえって無責任となります)。

そのため、クライアント側も十分な情報を整理して弁護士に提供し、共に判断環境を整えていくことが求められます。

判断環境の構築は、主に資料分析やヒアリングにて行います。

このプロセスでは、唯一無二の選択肢にすべてのリソースを投入するのではなく、状況に応じて最善の選択肢を選択し、もしうまくいかなかったた場合には、その経験からさらに賢明な判断を行い、よりましな選択肢や新たな修正案を加えつつ、次のステップを考える
「最善解模索アプローチ」
が基本となります。

このアプローチは、状況の変化に応じて柔軟に選択肢を変える必要があり、クライアント側からすると、まどろっこしく感じることもあるでしょうが、状況不安性を考慮し、相手の動きに合わせて柔軟に対応していくことで最善解に近づくことができます。

また、戦略的な意思決定のフェーズにおいては、弁護士としては、常識にとらわれない極論やアングルや時間軸や空間軸を一変させた考え方を含め、より広範な選択肢を提案することがクライアントの意思決定に資するものと考えており、これが誠実な対応と心得ております。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02067_企業法務ケーススタディ:特許侵害訴訟_現状の整理と問題点の認識

<事例/質問>

特許出願をしたところ、特許庁から拒絶理由通知書が届きました。

拒絶理由が解消されるべく、手直しと反論をすることにしました。

手続補正書で権利範囲を修正することに加え、さらに、その補正によって拒絶理由を解消したことを意見書として提出しました。

しかし、再度、絶理由通知書が届きました。

今度は、前回の通知とは異なる新たな理由が示されました。

今回の新たな比較的理由は、前回とは異なり、主に明細書に関するものです。

そうこうしているうちに、競合のB社が、わが社の特許に抵触するような製品を販売しはじめました。

そこで、B社に対して訴訟を起こしましたが、B社は特許庁に特許無効審判という暴挙にでました。

わが社は、特許の訂正審判を請求する一方で、裁判でもやり取りが続くことになりました。

裁判所は、わが社の抗弁が筋違いと考えているように感じられますし、特許庁の訂正審判の手続は、なかなか進まず、まるで時間稼ぎをしているようにも感じられます。

どうも特許庁と裁判所の判断が一致しないようで、わが社は混乱し、今後の対応に慎重にならざるを得ません。

どうしましょう? と言う前に、何がどうして、どうなったら、こんなことになったのでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

メタファーを使い、簡単に状況を整理してみましょう。

相談者をA社、競合をB社とします。

A社は、奉行所その1(特許庁)に私設関所(特許)申し出た

奉行所その1(特許庁)は私設関所(特許)を許可した

私設関所破りの不届き者(B社)登場

A社は、私設関所破りの不届き者(B社)の処罰を、別の奉行所その2(裁判所)に申し出た

不届き者(B社)は、
「そんな、関所(特許)なんぞ、もともと認められないもの。天下の公道を歩いて何が悪い。何が、関所(特許)だい、このすっとこどっこい!」
と反論

別の奉行所その2(裁判所)は、
「その方らの申し出、それぞれにごもっともじゃのお。ま、すぐには決めれんのお。難儀じゃのお。ほれほれ、もそっと、議論を尽くしてみい」

不届き者(B社)は、奉行所その1(特許庁)に、
「お奉行さん、あのA社の私設関所(特許)、そもそも、お許しなさること自体、おかしいでしょ。お奉行様、目が節穴じゃあ、ござあせんか。お免状のお取り消しを」
と申し出た

私設関所設置者(A社)は、
「確かに、調子に乗って、本来認められる広さを超えて、たいそう広い範囲に関所を作っちまいました。へえ、分際はわきまえておりますです。はい、お奉行様。関所は、もう少し、慎み深く、せせこましく、小さくしますので、何卒、よしなに」

奉行所その1(特許庁)は、
「その方(A社)の申し出、わしゃ知らんし、受け入れん」

別の奉行所その2(裁判所)が、
「これ、A社よ。何やら、関所、関所と、えらい剣幕で申し出ておったが、どうやら、その関所とやら、果たして、どうやら、何がしかの手違いがあり、もめているようじゃのお・・・・・・奉行所その1(特許庁)の方でも何やらいろいろと策をろうじておるようだが、ま、それはそれ、これはこれ。当方では、当方にて、そのようなごつい関所が果たして、公儀の判断として、市井の民のそなたらに開設を許すべきかどうか、ま、公儀としての考え方で判断するだけじゃな。ま、奉行所その1(特許庁)でのゴタゴタも、斟酌せんではないが、ま、ゆるりと、拝見するかの」

A社は、
「奉行所その1(特許庁)様、ひらに、ひらに、ひらに~。まあ、そう、つれない態度で、そっけなくされず、まあ、手前どもの話を、よーく聞いていただけませんか。確かに手前どもの申出書に、やや曖昧な記述がございましたが、それにはふかーいワケがございまして、ま、膝詰めでよーくご説明させていただければ、きっと、きっと、きっと、お奉行様にも、かーんたんに理解いただけるかと・・・・・」

これで、かなり、状況がみえるようになったのではないでしょうか?

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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