02006_会社の借金について、名前だけの取締役は責任があるのか(教えて!鐵丸先生Vol. 14)

<事例/質問> 

会社経営していた主人が経営に失敗して、会社で多額の借金を作りました。

主人は借り入れの際に連帯保証をしております。

私は、一部出資して、名前だけの取締役にもなっていました。債権者から私にも責任がある、と言ってかなりきつく言われています。

どうしたらいいですか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

結論から言います。

取締役を辞任して、あとは放置するだけで大丈夫です。

一切、電話や債権者からの連絡に応じる必要はありません。

もし債権者がしつこく迫ってくるなら、警察に相談してください。

借金は会社やご主人の債務であり、あなた個人の債務ではありません。

ご主人の名義の財産は差し押さえられる可能性がありますが、あなた名義の財産には一切影響はありません。

エルメスやジミーチューのような個人所有の物は差し押さえの対象外です。

理論的には取締役として責任を問われる可能性はありますが、それも裁判で債権者が勝訴して初めて取締役責任を負うことになります。

単に
「商売に失敗した」
だけでは取締役としての責任は発生しません。

会社法における
「経営判断の原則」
によれば、経営者が必要な情報を得て、会社の最大の利益になると信じて行った判断については、後から責任を問われることはありません。

この法理は、取締役が経営判断において一定の裁量を持ち、結果的に会社が損害を負ったとしても、それが正当な判断であれば責任を問わないというものです。

これにより、取締役が責任を恐れて萎縮することなく、積極的に経営判断を行えるようになっています。

要するに、あなたが妻として責任を負う必要は全くありません。

役員としての責任もほとんど発生しません。

ご主人は連帯保証人となっているため債務の責任を負いますが、あなたは全く関係ありません。

実際に、同様の状況で会社とご主人が破産し、奥さんだけが無傷で、奥さん名義で新しい会社を設立しているケースもあります。

このような場合、奥さんは新しい会社を運営し、ご主人はそのサポート役として活躍することができます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02005_友人のベンチャー会社の負債について、株主は肩代わりしなければならないのか(教えて!鐵丸先生Vol. 13)

<事例/質問> 

友人が作ったベンチャーの株式会社に一部出資しましたが、これが経営に失敗して、多額の負債を背負い込んでしまいました。

株主の私は、負債を肩代わりしなければなりませんか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

結論から言います。

株が紙くずになるだけで、あなたは多額の負債を肩代わりする必要はありません。

株式会社には法理論上、責任者はおりません。

株式会社制度は
「誰も責任を取ることなく、好き勝手やりたい放題でき、金もうけができ、もうかったら分け前がもらえるオイシイ仕組み」
として誕生したものです。

出資者はやばくなったら合法的に堂々と逃げ出せるように設計されています。

例えば、
「株式会社とは、社会に散在する大衆資本を結集し、大規模経営をなすことを目的とする。当該目的を達成するためには、多数の者が容易に出資し参加できる体制が必要である。そこで、会社法は、株式制度(104条以下)を採用し、出資口を割合的単位として細分化した。また、出資者の責任を間接有限責任(104条)とし、社員は、債権者と直接対峙せず、また出資の限度でしか責任を負わないようにしたのである」
という説明があります。

これは、要するに
「デカい商売をするには少数の慎重な金持ちよりも、山っ気のある貧乏人の小銭をたくさん集めた方が元手が集めやすい。とは言え、小口の出資しかしない貧乏人に会社がつぶれた場合の負債まで負わせると誰もカネを出さない。だから『会社がぶっつぶれても出資者は出資分をスるだけで、一切責任を負わない』という仕組みにしたのが株式会社だ」
ということです。

「株主は有限責任を負う」
とは、社会的には
「無責任」
という意味と同義です。

ちなみに、
「有限会社」

「有限責任組合」

「無責任会社」
「無責任組合」
という意味です。

「ホニャララ有限監査法人」
とは、
「監査法人がどんな不祥事を起こしても出資した社員の一部は合法的に責任逃れできる法人」
という意味です。

ただし、連帯保証の念書などを差し入れてしまうと話は別です。

これは、株主として責任を負うのではなく、保証人としてハンコをついてしまった結果、自業自得で保証人として責任を負うことになります。

ですから、債権者から
「株主としての責任」
などと迫られても、絶対にハンコをついてはいけません。

そうすると有限責任から無限責任に変わってしまいます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02004_会社を作りたいが、その種類と選びかた(教えて!鐵丸先生Vol. 12)

<事例/質問> 

会社を作りたいのですが、どんな会社があって、どうやって選ぶんですか 

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

まず最もポピュラーなのが株式会社です。

株式会社は資本金1円から設立可能で、株主は出資金がゼロになればそれ以上の責任を負わない、つまり有限責任の会社形態です。

有限会社も同様に有限責任ですが、かつては300万円以上の資本金が必要でした。

現在は新規設立ができず、既存の有限会社がそのまま残っているだけです。

次に、合名会社という形態があります。

合名会社ではオーナーである社員が無限責任を負います。

会社の負債や賠償責任を個人の財産でカバーする必要があるため、リスクが高いです。

合資会社は無限責任社員と有限責任社員が混在するハイブリッド型の会社です。

このため、オーナーの中には無限責任を負う者もいます。

最後に、合同会社があります。

合同会社もオーナーは有限責任で、比較的新しい会社形態です。

株式会社に似た柔軟性を持っています。

有限責任とは、出資金の範囲内でのみ責任を負うことを指します。

つまり、出資金を放棄すれば、それ以上の負担はありません。

一方で、無限責任は会社の負債を無制限に負担することを意味します。

会社のトラブルが個人の財産に直接影響を与えるため、非常にリスクが高いと言えます。

会社形態を選ぶ際のポイントとしては、まずリスク管理が挙げられます。

リスクを限定したい場合は、有限責任の会社形態(株式会社、有限会社、合同会社)を選ぶと良いでしょう。

また、少額の資本金で始めたい場合は、資本金1円で設立可能な株式会社が適しています。

責任の範囲を明確に分けたい場合は、合資会社を検討するのが良いでしょう。

家族経営などで責任を共有できる場合は、合名会社も選択肢となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02003_個人事業を法人にするメリット(教えて!鐵丸先生Vol. 11)

<事例/質問> 

個人事業を法人にしようか、という話を聞きますが、なんで、法人にするんですか?

何かメリットとかおいしいこととかあるんですか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

法人とは、財産の集まりを人並みに扱い、取引や契約に参加できるようにする制度です。

個人事業主として商売をする際に会社を設立する義務はなく、屋号を使って商売する人もいます。

例えば、
「安田屋」

「成田屋」
といったビジネス版ペンネームのようなものです。

個人事業主として屋号を法務局に登記することも可能です。

例えば、
「8代目Jヒップヒップブラザーズ」
として歌と踊りの営業をしたい場合、登記できるのです。

もちろん、法人化することもできます。

司法書士に依頼して株式会社を設立し、そのオーナーや代表取締役になることも可能です。

資本金は1円でもOKです。

小学生が
「将来の夢は社長さん」
と言うように、理論的には1円持っていれば社長になれます。

しかし、実際には司法書士への報酬や登録免許税、ハンコの作成などの費用がかかります。

最も安く社長になるなら、7600円程度のプランもあります。

法人化のメリットはまず、事業や商売を子供に相続できる点です。

法人は
「継続企業の仮定」
に基づき永遠の生命を持ちます。

さらに、法人化することで責任の防波堤となります。

個人事業主が責任を負う場合、賠償や破産の可能性がありますが、法人にすると責任を法人に押し付けられます。

また、会社の社長という肩書きもかっこいいです。

税務面では、法人と個人事業主に大差はありません。

法人は収入が一旦法人に入り、法人税が取られます。

実効税率は34%弱で、そこから個人に給料や配当として渡される際に所得税が引かれます。

よって、税務的なメリットはどちらもどちらです。

最後に、弁護士法人についても触れておきます。

弁護士法人は法人化した法律事務所のことで、法人化していない法律事務所はトップが個人事業主となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02002_経験と実績のある企業法務弁護士の価値と意味~企業法務における問題解決や課題解決の可能性は、本やネットに載っている知識の有無ではなく、修羅場をくぐった数に依拠する~

企業が事業を進める上で、法律的な問題に直面することは避けられません。

多くの問題はネットで調べたり、一般的な弁護士に相談することで解決できるかもしれません。

しかし、実際には、本当に重要な問題ほど本に載っていないことが多いのです。

特に大手企業や先端企業が直面する法律的な障害は、一般的な解決策では対処しきれない場合が多々あります。

では、そうした問題にどのように対応すればよいのでしょうか。

1 一般的な法律相談の限界

まず、一般的な法律相談の限界について考えてみましょう。

ネットで調べれば、通り一遍の法的対処法はだいたいわかりますし、一般的な弁護士に聞けば、大まかな答えは想像できるかもしれません。

しかし、そうした情報はあくまで一般論であり、個々の企業の具体的な状況に適したアドバイスではないことが多いのです。

特に、複雑なビジネス環境においては、法律問題も一筋縄ではいかないことが多く、一般的な解決策では十分ではない場合がほとんどです。

2 経験に基づくブレイクスルー

企業が直面する法律的な問題を解決するためには、経験に基づくブレイクスルーが必要です。

大手企業や先端企業は、過去に数多くの法律的な障害を乗り越えてきました。

その経験を持つ企業法務弁護士は、一般的な解決策ではなく、実際に効果を発揮する具体的な打開策を提供することができます。

例えば、ある企業が法的紛議に直面した場合、一般的な弁護士は法律の範囲内での対処法を提案するでしょう。

しかし、企業法務の経験豊かな弁護士は、過去の経験から得た知識を基に、訴訟を回避するための交渉術や、訴訟になってもあの手、この手、奥の手、寝技、小技、裏技を駆使しながら、より実践的なアドバイスと解決を提供することができます。

3 法務戦略の重要性

企業が成功するためには、法務戦略が欠かせません。

法律問題に対処するだけでなく、予防的な措置を講じることで、問題を未然に防ぐことが重要です。

企業法務弁護士は、企業のビジネスモデルや業界の特性を理解し、最適な法務戦略を策定することができます。

これにより、企業は法律的なリスクを最小限に抑えつつ、ビジネスの成長を促進することができます。

4 経験の価値

企業法務弁護士の価値は、その経験にあります。

一般的な法律知識だけでなく、実際のビジネス現場で培った経験に基づくアドバイスは、企業にとって非常に貴重です。

特に、大手企業や先端企業は、法律的な問題に対処するためのリソースを持っていますが、そのリソースを最大限に活用するためには、経験豊富な企業法務弁護士のサポートが不可欠です。

5 まとめ

企業が事業を進める上で直面する法律的な問題は、形式知や理論に基づく一般的な解決策では対処しきれないことが多いです。

大手企業や先端企業が成功を収めるためには、暗黙知や経験知に基づくブレイクスルーが必要です。

企業法務弁護士は、その経験を基に、実際に効果を発揮する具体的な打開策を提供し、企業の成功をサポートします。企業が法律的なリスクを最小限に抑えつつ、ビジネスの成長を促進するためには、企業法務弁護士のサポートが不可欠です。

以上のように、企業法務弁護士の価値は、その経験と実績にあります。

一般的な法律知識だけでなく、実際のビジネス現場で培った経験に基づくアドバイスは、企業にとって非常に貴重です。

企業が直面する法律的な問題を解決し、成功を収めるためには、経験豊富な企業法務弁護士のサポートが不可欠です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02001_顧問弁護士を持つことの意味と価値

当弁護士法人(弁護士法人畑中鐵丸法律事務所)を含め、多くの企業法務系法律事務所は、
「顧問弁護士サービス」
を提供しています。

このサービスの内容は、例えば、

1)法律相談(「法律相談」とは、可否検証・作業見積もり・予算見積もりに至る、「取組価値検証」「案件化」「案件着手環境整備」作業を意味します。なお、複雑な事案や混乱した状況の場合、DD〔状況調査〕やアセスメント〔情勢分析・評価〕、ゴールデザイン、戦略仮説構築など、「『取組価値検証』『案件化』『案件着手環境整備』という営みそのものが「案件」になる場合もあります)がサブスクベース(定額・利用無制限)で受けられたり、

2)法律相談について優先的な予約が取れたり、

3)急ぎの場合、電話やメールやZOOMでの助言を受けれたり、

4)簡単なメールのやりとりや定型的な情報・書式提供など、「案件化」未満の軽微かつ細々としたサービスは顧問料の範囲で無償で対応してもらったり、

5)「案件化」する際、顧問先の信頼関係に基づく減額が適用され、事件対応の際に経済的利益を受けることができたり、

といった、各種ベネフィットを受けることが出来、この点において、純経済的な意義と価値が存在します。

ただ、顧問弁護士を持つことの意味は、それだけではありません。

それは、弁護士とすぐに繋がれる「安心感」、すなわちホットラインを構築することによる「不安の除去」があります。

例えば、現時点では法律面でのトラブルはなくても、今後何かあった場合にすぐに連絡取れる体制(ホットライン)を整えて、クライアントの安心感を高めることは、 クライアントの潜在的ニーズ(クライアントも普段意識しないニーズ)に応えるものとして、相当な意義と価値があります。

また、顧問弁護士を持っている場合、そうでない場合に比べて、解決の期待が格段に高まります。

法律的事件は、弁護士の介入が早ければ早いほど、解決の選択肢が広がります。

将棋の例で申し上げますと、「あと三手で詰む」という状況になってしまっては、藤井聡太棋士が介入しても絶対に勝てません。他方で、序盤戦や、中盤戦で、藤井棋士が介入・参戦すれば、いくらでも挽回可能です。

法的トラブルも同様で、法律専門家の早期介入が何より重要なのです。

以上の述べてきました、準経済的なサービス以外の「顧問弁護士サービスの意義と価値」を説明すると以下のようになります:

1 安心感の提供:
いつでも弁護士にアクセスできるホットラインの存在は、クライアントに大きな安心感を与えます。

2 迅速な対応:
法律問題が発生した際に迅速に対応できることで、問題の早期解決が可能になります。

3 見えていないリスクや課題の発見・定義化・特定・具体化・早期対処:
「見えない敵や討てない」
という軍事格言や、
「索敵」
という軍事活動があるように、ビジネス活動や法的紛議において、最大のリスクは、
「直面している課題やリスクが見えていない状況」
「課題やリスクをぼんやり、焦燥感や不安レベルでは感じているが、解像度が低いため、対処ができない状況」
です。
そのような、クライアントが漠然と感じているレベルの不安や焦燥感を、きちんと、ミエル化・カタチ化・言語化して、具体的なリスクや課題を迅速に提示できるのも、顧問弁護士のバリューです。
そして、そのことは、クライアントのビジネス活動に通暁している顧問弁護士との対話の中から発見・特定できるものであり、このような対話を可能する、深く、かつ恒常的な信頼関係を構築するのが法律顧問契約の役割です。

4 問題解決の選択肢の拡大:
そして、上記の見えていないリスクや課題の発見・定義化・特定・具体化は、早期対処、すなわち、コスパやタイパが圧倒的に高い対処行動につながります。
すなわち、早期の法的リスクの発見と、早期の法律専門家(しかも、クライアントのことをよく知る法的専門家)の介入により、問題解決の選択肢が広がり、最善・最適な解決策を見つけやすくなります。
このような、
「法的専門家の介入の時間と機会の前倒し」
に伴う
「打ち手の幅の広がり」
は、大事を小事に、小事を無事に近づけることを可能にします。

このように、顧問弁護士サービスはクライアントにとって、目に見えないながら、大きな価値を提供するものです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02000_就業規則には普通解雇ができるとあるが中途採用社員を解雇できるか(教えて!鐵丸先生Vol. 44)

労働契約法16条は、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用(らんよう)したものとして、無効とする」
と明文で規定しています。

この条文は、
「解雇権濫用法理」
と呼ばれる著名な判例法理が法律の明文となった(昇格した)ものです。

要すれば、
「解雇の権利は、形式上・字面上、企業側に認められてはいるものの、そう簡単に使うことはまかりならん。仮に、イージーに解雇の権利を振り回したら、濫用した、との理由で、一切その効力を認めてやらんからな。わかったな、覚悟しとけよ!」
という法理です。

突如、このような解雇に関する規制が登場したわけではなく、昭和の時代からすでに確立していたルールが、平成15年の労基法改正で一旦同法にとりこまれ、その後、労働契約法の条文となったわけです。

要するに、昭和の時代から一貫してこのルールを前提に解雇規制を行ってきた、ということなのです。

この条文の基礎となった最高裁判決「高知放送事件」(最高裁昭和52年1月31日判決)では、次のような事情のあった事件についてすら、解雇が無効とされました。

ラジオ放送のアナウンサーが、
1 宿直勤務で寝過ごし、午前6時からの10分間のニュース番組を放送することができなかった。
2 その2週間後、再度寝過ごし、午前6時からの10分間のニュース番組を、5分間放送できなかった。
3 2回目の寝過ごしの際、上司から求められた事故報告書に、事実と異なる内容を記載した。

このように、経営者目線で
「こんなにヒドイ労働者はいない!  給料ドロボーどころか、周りにとっても迷惑千万極まりない!」
というような場合であっても、
「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」
には、解雇は無効とされます。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/56149

「教えて!鐵丸先生」は、42分10秒~ です

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01999_辞めた従業員が「残業代を払え、(拒否したら)裁判する」と言ってきた(教えて!鐵丸先生Vol. 43)

「労働事件については当然企業側の言い分をしっかり聞いてくれるはず」
という思い込みをもつ経営者は少なくありません。

裁判官一般でいえば、割と保守的で権威や体制にシンパシーある行動をとる方が多い、とみて差し支えないと思われます。

また、裁判官は、多数の事件を抱え、労働時間や残業などといった概念すら吹き飛ぶほどの仕事漬けの毎日です。

友人関係では、行政官庁や一流企業に勤めたりしているような人間も状況は同じで、サービス残業など当たり前のカルチャーで過ごしており、割と企業寄りのブラックな考え方に馴染みやすい、とも思われます。

ところが、裁判所は労使問題において、
「常に、当然企業側に立つ」
とは言い難い、独特の哲学と価値観と思想を有しているような節があります。

私の経験上の認識によれば、裁判所には
「会社の得手勝手な解雇は許さないし、従業員に対して約束したカネはきっちり払わせる。他方で、従業員サイドにおいては、会社に人生丸ごと面倒みてもらっているようなものだから、配置転換や勤務地や出向についてガタガタ文句をいったり、些細なことをパワハラとかイジメとかいって騒ぐな」
という考えがあるようにみえます。

実際、未払残業代請求事件が労働審判や労働訴訟は、企業側が惨敗するケースが多く、ほとんどのケースで企業側の弁解は採用されず、払ってこなかった残業代を、耳をそろえ利息をつけさらには付加金というおまけまでつけて払わされています。

これは一体どういうことでしょう。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/54775

「教えて!鐵丸先生」は、31分10秒~ です

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01998_M&Aの「DD」「デューデリ」って何? (教えて!鐵丸先生Vol. 41)

「DD」「デューデリ」
とは、正式名称デュー・ディリジェンス(Due diligence)と呼ばれるもので、M&A実務の世界では、
「買収対象である企業の調査」
とほぼ同義のものとして使われています。

「買い手は常に注意せよ」という法格言がありますが、
「買い物に失敗したら、すべて買い手が悪い。買主の不注意がすべての原因」
というルールが極めてシンプルかつ劇的に作用するのが、M&A取引です。

デューディリジェンスに決まりはありません。

範囲、程度、対象、予算、動員資源たるプロフェショナル、かけるべき時間やコストやエネルギー等、特にこれといった決まりはなく、広汎な冗長性を持っています。

もちろん、デューディリジェンスをしない自由もあります。

ところで、M&Aは、たいてい急ぎますし、急かされます。

売る方はなるべく瑕疵や欠陥や粗が見つかる前に売り逃げしたいでしょうし、買う側も厳しい競り合いになるので早くまとめたい、という双方の思惑もあって、尋常じゃないスピードでまとめる“買い物(しかも、対象はあいまで、かつ高額な買い物)”となります。

このため、どんなに眼力のあるプロが鑑定しても、間違いや見逃しや漏れや抜けの1つや2つ、10や20、100や1000は普通に出てしまいます。

その際、さんざん急がされた担当者(プロジェクトマネージャー)が、あとから、スポンサーやプロジェクトオーナーから
「責任とれ」
などと詰め寄られたら、たまったもんじゃありません。

そこで、デューディリジェンスというプロセスを差し挟むことによって、仮にあとから
「間違いや見逃しや漏れや抜けの1つや2つ、100や1000は出てしまった」
としても、
「自分は自分なりに相当な注意を尽くした(デューディリジェンスを果たした)んだから、多少の間違いは勘弁してよ」
という、なんとも志の低い、見苦しい責任逃れのための言い訳(デューディリジェンスの抗弁)を機能させて、営みを前にすすめていくということになるのです。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/53095

「教えて!鐵丸先生」は、 32分35秒~ です

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01997_M&Aって何? (教えて!鐵丸先生Vol. 41)

M&Aは、チョーわかりやすく言うと、企業そのものを取引対象とする売買、すなわち
「買い物」
の一種ということです。

企業が普通に買い物をする場合、ヒト、モノ、カネ、ノウハウといった形で、個別経営資源毎にバラバラで調達します。

他方で、
「これをいちいちやっていると面倒くさくてしょうがない。ヒト・モノ・カネ・ノウハウが統合的にシステマチックに合体して動いている、人格そのものを取引しちゃった方がいいんじゃね?」
ということで、
「企業まるごと買っちゃえ」
という趣で形成されてきたビジネス分野です。

M&Aのどこがどう問題か、といいますと、
「企業の価値がはっきりわからない」
ということにつきます。

普通の取引をする際は、土地であれ、車であれ、機械であれ、だいたい相場というか時価というか、値段というものは
「世田谷のこの駅の近くにあるこの住宅地のこの土地であれば、だいたい坪これくらい」
「レクサスのこの型式の3年落ちの車輌であれば、だいたいこのくらい」
「このコピー機はだいたいこんなもの
といった具合に想像がつきます。

値段がわからず、お互い値段をめぐって七転八倒するような厳しい交渉を延々する、なんてことはありません。

ヒトも同様です。

「こういう学歴・経歴で、こういう職歴のヒトなら、だいたい年俸これくらい」
ってことは、ある程度わかります。

ノウハウやソフトも同様です。

無論、ヒトやノウハウ等については、多少、一義的でないこともありますが、それでも、共通のモノサシがなく、お互い言っていることが噛み合わず、長期間かけて交渉するということは稀です。

ところが、同じ買い物であっても、買う対象が
「企業」
という一種の
「仮想人格を有する有機的組織」
となると、なかなかそういうわけにはまいりません。

詳細は、以下をお聴きください。

https://audee.jp/voice/show/51861

「教えて!鐵丸先生」は、 31分55秒~ です

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