00592_企業法務ケーススタディ(No.0200):裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース7:裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?!をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社雅・コーポレーション 代表取締役社長 富井 雅(とみい まさ、55歳)

相談概要:
雑貨を扱う商社を経営する相談者は、爆買いツアーを企画した旅行会社に広告費用などを貸し付けました。
利益は7対3で合意、貸し付けも含め書面にはしませんでした。
見込みどおり商品は相当売れ、軌道にのったので、分割でいいから貸した金を返してほしいといいました。
しかし、旅行会社は、返金せず、ツアー客を連れてこなくなったばかりか、
「外国人観光客をだまして高値で売りつけている」
風評を触れ回るようになりました。
以上の詳細は、 ケース7:裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?!【事例紹介編】 をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:裁判所からみた民事紛争の正体
当事者にとってみれば、
「それぞれが認識している真実があり、それぞれに言い分があり、それぞれが固く信じる『民事上の法的正義の実現』なるものを求めて、裁判所という公的機関の判断ないしお墨付きを求め」
ていると思われます。
しかし、通常の裁判紛争については、(少なくとも裁判所の目線からは)
「ほとんどの事件には絶対的な正義などというものは存在せず、くだらない意地の張り合い、エゴのぶつかり合いでしかない」
とみられています。
以上の詳細は、ケース7:裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?!【裁判所からみた民事紛争の正体】 をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:裁判で問われるのは「事実」と「証拠」であり、「意見」ではない
裁判は、事実と証拠に基づいて行われ、当事者の責任と役割は、事実と証拠を提示することに尽きます。
裁判所は、提出された事実と証拠に基づいて、中立的かつ独立的な観点から解釈を加え、一定の結論を出します。
裁判に時間がかかるのは、当事者・弁護士が主義主張をわめきたてたり、あるいは、ロクな証拠もなく、推論だけで話を創ろうとしたりして、前に進まないからです。
以上の詳細は、ケース7:裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?!【裁判で問われるのは「事実」と「証拠」であり、「意見」ではないその1】ケース7:裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?!【裁判で問われるのは「事実」と「証拠」であり、「意見」ではないその2】 をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「証拠がなければ寝言扱いされる」ことに注意すべし
「契約があっても契約“書”がない、というストーリー」

「記憶があっても記録がない、というストーリー」
については、裁判所においては、
「寝言」
「妄想」(もしくは、より端的に言えば「ウソ」)
として片付けられる、というのが訴訟の現実です。
以上の詳細は、ケース7:裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?!【「証拠がなければ寝言扱いされる」ことに注意すべし】 をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:民事紛争のスマートでエレガントなススメ方
民事紛争の当事者として採るべき対応姿勢としては、相手が否定し得ない事実(わかりきっていること)の事実照会をし続け、相手方としても争い得ない事実関係を積み重ねていくことによって、後日の裁判で、裁判所が好意的に評価してくれるような証拠を獲得していくことが、戦略的に正しい行動である、といえます。
以上の詳細は、ケース7:裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?!【民事紛争のスマートでエレガントなススメ方】 をご覧ください。

モデル助言:
まずは、民事上の貸金返還の問題をスタンドアロン化して、事務的に、かつ冷静に、民事訴訟を提起し、解決を求めることが適切です。
一方、誹謗中傷等に関しては、別問題として、前述のように事実照会の文書を幾度も送付し続けることになります。
裁判所としても、このような地味で堅実な努力を怠らない勤勉な当事者を、
「救済に値するお品の良い被害者」
として扱ってくれる方向に流れやすく、そうすると、貸金合意に関しても、
「借用書その他決定的証拠に乏しいとはいえ、主張する事実は確実に存在していたのであり、富井さんはだまされた、気の毒な被害者なんだろう」
という心証を形成しやすくなります。
以上の詳細は、ケース7:裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?!【今回の経営者・富井(トミイ)社長への処方箋その1】
ケース7:裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?!【今回の経営者・富井(トミイ)社長への処方箋その2】 をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00591_企業法務ケーススタディ(No.0199):トップの公私混同取引が発覚した!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース6:トップの公私混同取引が発覚した!をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社コンドー商事 代表取締役 甲子 昆堂(こうし こんどう、84歳)

相談概要:
家電量販店をチェーン展開する会社を一代で築き上げ、東証一部に上場するにいたった相談者は、社外取締役をつとめる別会社が所有している土地を借用しています。
メーンバンクが送り込んできた社外取締役の弁護士から、
「会社法に違反しているから、会社を代理して訴える」
といわれました。
相談者としては、納得がいかず、
「今までは自分がすべての取引を決裁してきたし、それについて問題視する者は誰一人いなかった。小さな取引に、いちいち取締役会を開くことこそ無駄。 新参の社外役員に『会社法違反だ、訴える』と急にいわれても」
と、憤っています。
以上の詳細は、ケース6:トップの公私混同取引が発覚した!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 未上場企業はやりたい放題!
創業者が100%の株式を所有している未上場企業においては、基本的に、きちんと利益を出している限り、オーナー社長はやりたい放題です。
会社の資金繰りが厳しくなれば代表者個人の財産から会社の決済に必要なお金を融通してもらいますし、自宅賃料や税金の支払いなど個人的な使途に充てるために代表者個人が会社のお金を借りることもフツーに行われています。
銀行から事業資金を借りていても、きちんと儲けて返済さえしていれば、銀行もとやかく口を出すことはありません。
以上の詳細は、ケース6:トップの公私混同取引が発覚した!【未上場企業はやりたい放題!】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 上場したら無視できない「利益相反取引規制」
会社法においては、取締役は株主に対して
「善良なる管理者( “自分の利益を犠牲にしても尽くす立場”を表す法律用語)」
として
「会社の私物化につながるような、自分や関係者の利益を優先しがちな取引」
を原則として禁止するとともに、実行する場合には取締役会において議論し承認をさせる取り扱いとし、賛成取締役には
「(そのような危険な取引において万が一会社に損害が生じた場合)ケツを拭かせる」
という
「利益相反取引規制」を定めています。
前述した
「創業者が100%の株式を所有している未上場企業においては、オーナー社長はやりたい放題」
とは、
「(取締役全員のクビをすげ替える権限を有する)株主全員がその場で承認している以上、取締役会においても文句いえるやつはいない」
という趣旨において、利益相反取引の逐一の承認が不要とされることを意味します。
ところが、上場して、(たとえ特定株主が実質支配しているとはいえ)少数株主が厳然と存在する場合には、利益相反取引規制は厳しく作用することになります。
以上の詳細は、ケース6:トップの公私混同取引が発覚した!【上場したら無視できない「利益相反取引規制」】その1ケース6:トップの公私混同取引が発覚した!【上場したら無視できない「利益相反取引規制」】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 利益相反取引規制違反のペナルティやリスク
利益相反行為が取締役会の承認なく行われた場合、その取引は無効(法律上効力を有しない取引)となります。
所定の取締役会承認手続きを経由せず利益相反取引を敢行した取締役は、
「任務を怠った」
と推定され(会社法423条3項)、原則として、会社の被った損害を賠償しなければならない立場に追い込まれます。
規制に違反した場合には、民事上の責任のみならず、
「特別背任罪」
という刑事罰を受け、
「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」
に処される可能性があり、懲役と罰金を併科されることもあります。
以上の詳細は、ケース6:トップの公私混同取引が発覚した!【利益相反取引規制違反のペナルティやリスク】をご覧ください。

モデル助言:
相談者は会社法の規制に違反しており、賃貸借契約は無効、会社に生じた損害は弁償する必要があります。
加えて、この話が公になれば、取引所からお叱り、マスコミやネット掲示板でバッシング、株主総会で質問攻め、さらには株主代表訴訟といった事件に発展し、取締役の立場から引きずり降ろされることにもなりかねません。
さらに、特別背任罪に処される可能性もあります。
自身の置かれた状況をきちんと理解し、早期に社外取締役の弁護士と話し合って、あまり大事(おおごと)にならない処理スキーム(上場企業である以上、開示規制その他はきちんと守らなければなりませんが)を検討してはいかがでしょうか。
以上の詳細は、ケース6:トップの公私混同取引が発覚した!【今回の経営者・甲子(こうし)社長への処方箋 】その1ケース6:トップの公私混同取引が発覚した!【今回の経営者・甲子(こうし)社長への処方箋 】その2をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00590_企業法務ケーススタディ(No.0198):取締役会でのクーデターに注意せよ!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース5:取締役会でのクーデターに注意せよ!をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社升岡コーポレーション 代表取締役社長 升岡 十三(ますおか じゅうぞう、47歳)

相談概要:
上場株式会社のオーナー社長である相談者は、過半数とまではいかないまでも、ほとんどの株を有しています。
最近、13人いる取締役たちのなかで、会社方針に反乱する話が水面下で飛び交っていることを知りました。
相談者は、取締役会でねじ伏せようと息巻いています。
以上の詳細は、ケース5:取締役会でのクーデターに注意せよ! 【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 意外に簡単にできる会社のクーデター
取締役は株主総会で
「選任」
され、代表取締役は取締役会において取締役の中から
「選定」
されます。
代表取締役から代表権を引き剥がすこと(「解職」といいます)も、法律上は、取締役会で行われることになります。
代表取締役が
「解職」
されると、代表権を有しない
「ただの取締役(平取締役、ヒラトリなどといわれます)」
になります。
「ただの取締役」
をさらに
「ただの人」
にするには、自ら辞任してもらうか、株主総会でクビを宣告する(「解任」といいます)必要があります。
以上の詳細は、ケース5:取締役会でのクーデターに注意せよ!【意外に簡単にできる会社のクーデター編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 特別利害関係を有する取締役
取締役会で、審議するテーマ(法律では「議案」と呼びます)に個人的な利害関係を持つ取締役がいることがあり得ます。
そこで会社法では、特別利害関係のある取締役は、当該議案に関して議決権をもたない、と定めています。
以上の詳細は、ケース5:取締役会でのクーデターに注意せよ!【特別利害関係を有する取締役】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 代表取締役を解職する場合は、「欠席裁判」OK
「代表取締役の解職に関する議案」(代表取締役から代表権を引き剥がし、タダの取締役にする議案)
が取締役会で出された場合、 判例は、原則どおり、当の代表取締役は議決権なし、としました。
代表取締役が務める取締役会の議長の権限や、取締役会に参加し発言する権利については、明確かつ決定的な裁判例はまだないものの、実務においては、取締役会の公正を期すため、代表取締役は議長の座から降り、取締役会からの退席を要求された場合、退席しなければならないという扱いが多いようです。
以上の詳細は、ケース5:取締役会でのクーデターに注意せよ!【代表取締役を解職する場合は、「欠席裁判」OK】をご覧ください。

モデル助言:
取締役会でねじ伏せるなどというのは、対処として無意味です。
代表取締役の経営方針に反対し、社長の交代にまで言及があるということは、単なる経営方針の相違にとどまらず、
「社長の解職」
を巡る取締役会の騒動に発展する可能性が十分にあり得、非常にリスキーな状況といえます。
取締役会そのものを開かせないという方法をとることはできません。
取締役会において代表取締役解職議案が出された場合、法律上も実務上も、代表取締役自身は、なすすべはありません。
したがって、事前の対応が何よりも重要になってきます。
取締役会が開かれてしまう前に、代表取締役解職に賛同する取締役がどの程度いるのかを探り、きちんと説得することが何よりも重要です。
以上の詳細は、ケース5:取締役会でのクーデターに注意せよ!【今回の経営者・升岡(ますおか)社長への処方箋】その1ケース5:取締役会でのクーデターに注意せよ!【今回の経営者・升岡(ますおか)社長への処方箋】その2をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00589_企業法務ケーススタディ(No.0197):名板貸し(ないたがし)リスクにご注意を

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース4:名板貸し(ないたがし)リスクにご注意ををご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社三屋根屋 代表取締役 三屋根 誠一(みやねや せいいち、51歳)

相談概要:
相談者は、製造委託先から社名変更の申出を受けました。
その社名が相談者の会社名と酷似することについては、恩も名前も売れるからと快諾しました。
ある日、見知らぬ会社から、製造委託会社に納入した調理機器代金を請求したが連絡がつかないから、代わりに支払うよう請求されましたが、 断りました。
しかし、請求してきた会社は、
「たとえ別の事業者であったとしても、『三屋根屋』という名称を使用させていた以上、御社にも支払う責任がある」
と、いいます。
以上の詳細は、ケース4:名板貸し(ないたがし)リスクにご注意を【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 名板貸し(ないたがし)とは
「自己の商号の使用を他人に許諾すること」

「名板貸(ないたがし)」
といい、商号使用の許諾元を
「名板貸人」
許諾先を
「名板借人」
と呼びます。
名板貸人の商号に
「支店」

「出張所」
等のような語が加えられたとしても、同一性を害しない範囲であれば、名板貸の責任が生じるとされています。
以上の詳細は、ケース4:名板貸し(ないたがし)リスクにご注意を【名板貸し(ないたがし)とは】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 「名板貸し責任」発生の要件
名板貸人は
「無条件で責任を負わせられる」
というわけではなく、次の要件が要求されます。
1 虚偽の外観の存在(名板借人による商号の使用)
2 当該外観への信頼(第三者が名板借人を名板貸人であると信じたこと)
3 当該外観作出についての名板貸人の帰責性(名板貸人が自己の商号を使用して事業を行うことを自ら許諾していたこと)
悪意や重過失など第三者側に落ち度がある場合は、名板貸人に責任は発生しません。
以上の詳細は、ケース4:名板貸し(ないたがし)リスクにご注意を【「名板貸し責任」発生の要件】をご覧ください。

モデル助言:
2つの商号は酷似しているうえ、商号を作出する際に許諾を与えていることから、
「名板貸としての責任」
を回避しにくい状況といえるでしょう。
とはいえ、無関係の会社に代わって代金を支払うのも馬鹿らしいですよね。
別事業者であることは地元では有名だったようですので、請求会社も知っていて当然であったとの反論を準備しましょう。
相手の要件の不備を突きつつ、安めの解決金で示談して、訴訟を回避しましょうか。
有名になったのをいいことに、コマーシャルを打つよりも安い! などと考えて、あっちこっちに商号の利用を許可するなんて安易なことをして、名板貸し責任を追及されてしまったら、こんなに高いコマーシャルはありませんからね。
以上の詳細は、ケース4:名板貸し(ないたがし)リスクにご注意を【今回の経営者・三屋根(ミヤネ)社長への処方箋】その1ケース4:名板貸し(ないたがし)リスクにご注意を【今回の経営者・三屋根(ミヤネ)社長への処方箋】その2をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00588_企業法務ケーススタディ(No.0196):下請法? んなもん、守ってられるか?!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズのケース3:下請法?んなもん、守ってられるか!?をご覧ください。

相談者プロフィール:
スーパー・ツキナミ株式会社 代表取締役社長 月並 邦正(つきなみ ほうせい、46歳)

相談概要:
相談者は、祖父が興した小さなスーパーを引き継いだ後、 資本金1500万・従業員数100名を超す規模にまで大きくしました。
このたび、新規事業としてプライベートブランド商品(PB商品)を作ろうと計画を立てたところ、取引業者が
「安くするので是非やらせてほしい」
と、いってきました。
そこで、
「試作させ、出来が良ければ買い、悪ければ買わなければいい」
「PB商品売り出しを『特売日』にし、取引会社の従業員に手伝いに来てもらおう」
「たとえ、下請法に違反したとしても、50万円払えばすむのだから、問題はない」
と考えましたが、本当に問題はないのでしょうか。
以上の詳細は、ケース3:下請法?んなもん、守ってられるか!?【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 下請法の適用範囲
下請法(下請代金支払遅延等防止法)が適用されるのは、取引当事者の資本金(出資の総額)の額と取引内容で決まります。
1 資本金の額(出資の総額)が3億円以上の事業者が、個人または資本金の額(出資の総額)が3億円以下の事業者に対し、製造委託等をする場合
もしくは、
2 資本金の額(出資の総額)が1千万円を超え3億円以下の事業者が、個人又は資本金の額(出資の総額)が1千万円以下の法人たる事業者に対し製造委託等をする場合
のいずれかが原則です。
取引内容に関しては、 物品の製造加工や修理、映像コンテンツやデザインの作成、運送等のサービス提供を他の事業者へ委託する場合に限定されています(単に自社の引越しを外注する、などといった場合は、下請けさせているわけではありませんので交渉等は原則自由です)。
以上の詳細は、ケース3:下請法?んなもん、守ってられるか!?【下請法の適用範囲】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 下請法の禁止行為
下請法は、親事業者が下請事業者に対し、買いたたきや下請代金の減額、下請代金の支払いを遅延すること、作らせておいた商品の受領を拒否すること、不当に返品すること、物を強制的に購入させたり、下請事業者の従業員を強制的に働かせたりすること等を、禁止しています。
また、親事業者は発注にあたっては、
1 親事業者と下請事業者の名称
2 委託を行った日付
3 下請事業者による作業内容
4 納入日
5 納入場所
6 納入物の検査をする場合はその検査が完了する日
7 下請代金の額
8 下請代金の支払期日(手形決済等特別の約束がある場合には金額や期日等をさらに明記)
これら、発注内容を明記した書面を交付しなければならないと定められています。
以上の詳細は、ケース3:下請法?んなもん、守ってられるか!?【下請法の禁止行為】をご覧ください。

モデル助言
相談者の会社の資本金は1500万円、自社で販売する商品の製造を外注しているのですから、PB製造の委託先業者が資本金1000万円以下の会社であれば、下請法の適用範囲内ということになります。
また、独占禁止法に該当する恐れまではらんでいます。
下請法違反の制裁が50万円という罰金自体はそれほど恐ろしいものではないかもしれません。
しかし、独占禁止法違反の可能性まである上に、独占禁止法の適用が見送られたとしても、下請法違反を行えば、公正取引委員会や中小企業庁によって社名が公表がされることになります。
スーパーは一般消費者を相手にする商売ですから、評判が何よりだと思いますし、法令違反を冒すリスクは決して罰金の多寡だけで判断できるものではないと思いますね。
以上の詳細は、ケース3:下請法?んなもん、守ってられるか!?【今回の経営者・月並(つきなみ)社長への処方箋】その1ケース3:下請法?んなもん、守ってられるか!?【今回の経営者・月並(つきなみ)社長への処方箋】その2をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00587_企業法務ケーススタディ(No.0195):従業員の過労死で、役員個人が賠償させられる!?

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズの ケース2:従業員の過労死で、役員個人が賠償させられる!?をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社Arimama.comアリママ・ドット・コム 代表取締役社長 慈英芽衣(じえい めい、26歳)

相談概要:
相談者は、優秀なシステム・エンジニア(SE)を少数精鋭で囲い込み、高い給料を払い、缶詰めにして働かせています。
以前、SE が過労で倒れたことがありましたが、見舞金を払って許してもらったうえ契約のなかに守秘義務条項をつけたため、まったく表沙汰になりませんでした。
このような経験から、相談者は、
「何かあれば会社から見舞金を払えばいい」
と考えていますが、本当にそれだけで済まされるのでしょうか。
以上の詳細は、ケース2:従業員の過労死で、役員個人が賠償させられる!?【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 残業にまつわるリスク
労働基準法(労基法)32条は、
「週40時間以上労働させること」
を禁止しています。
例外的に残業を労働者にしてもらうためには、いわゆる36(サブロク)協定、労基法36条に基づいた協定を労働者側と締結したうえで、さらに労基署長に届け出る、という手続きが必要です。
また、その場合、割増賃金(最高で60%増しとなることがあります)を支払わなければなりません。
サブロク協定を締結しないで残業をさせたり、残業代を払わなかったりした場合には、
「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」
の刑事罰が定められています。
たとえ、法令の手続きに従って手続きを履践し、所定の残業代を払っていたとしても、過重な労働によって労働者が過労死してしまった場合には、会社は、労働契約法第5条に違反したものとして、損害賠償責任を負うこととなります。
以上の詳細は、ケース2:従業員の過労死で、役員個人が賠償させられる!?【残業にまつわるリスク】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 過労死が社内で発生した場合の法的責任
過労死事案が生じた場合、
「会社が安全配慮義務違反で損害賠償の支払いを命じられることはあっても、経営者が責任を負うことはないだろう」
と考えられがちです。
しかし、実際には、従業員の過労死が発生した当時の代表取締役、取締役4名に賠償責任を負わせた裁判例(大阪高裁2011年5月25日、その後、最高裁2012年9月24日決定で上告が棄却され、確定)があります。
以上の詳細は、ケース2:従業員の過労死で、役員個人が賠償させられる!?【過労死が社内で発生した場合の法的責任】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3: 過労死事案で取締役個人も被告として訴求されるリスク
中小企業で発生した過労死事件において、地裁レベルで、会社のみならず役員個人に対しても責任を負担させる判決が出始めました。
今後は、前述の最高裁決定が追い風となり、企業の規模を問わず、会社のみならず関係する取締役個人をも被告とする訴訟が増えるもの、と推測されます。
以上の詳細は、ケース2:従業員の過労死で、役員個人が賠償させられる!?【過労死事案で取締役個人も被告として訴求されるリスク】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4: 「過労死を防止する社内体制構築」義務の明確化
前述最高裁の原審である大阪高裁判決は、その理由のなかで、
「取締役は会社に対する善管注意義務として、会社が使用者としての安全配慮義務に反し、労働者の生命、健康を損なう事態を招くことのないよう注意する義務を負い、これを懈怠して労働者に損害を与えた場合には会社法429条1項の責任を負うと解するのが相当」
「責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し,長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明」
と述べています。
以上の詳細は、ケース2:従業員の過労死で、役員個人が賠償させられる!?【「過労死を防止する社内体制構築」義務の明確化】をご覧ください。  

モデル助言
過労死事件その他過労に関する事件について、会社だけではなく、取締役個人をも被告に加える動きが一般化しそうです。
司法が過労死の防止について厳しい判断をするようになった一方、立法においても、2014年11月1日から
「過労死等防止対策基本法」
が施行されます。
今後、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションなどの導入により、残業代を抑制する制度が整備されることが予測されます。
合理的な業務シフトを作り、過労死を出さない環境にしたほうが、能力の高い労働者が集まりやすくなりますし、会社にとってもプラスです。
以上の詳細は、ケース2:従業員の過労死で、役員個人が賠償させられる!?【今回の経営者・慈英(じえい)芽衣(めい)社長への処方箋】その1ケース2:従業員の過労死で、役員個人が賠償させられる!?【今回の経営者・慈英(じえい)芽衣(めい)社長への処方箋】その2をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00586_企業法務ケーススタディ(No.0229):痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズの ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社カソリーヌ 代表取締役社長 山岡 しおり(やまおか しおり、43歳)

相談概要:
痴漢をして捕まった幹部社員が弁護士をとおして次のように連絡してきました。
「自白を撤回し冤罪(えんざい)として裁判で争うことにした。捕まっているので出社できず年休を消化する。 勾留が長引くようであれば欠勤扱いにしてもいい。 保釈になり次第、仕事に復帰し定年まで勤める。 とはいえ、今後裁判を戦う上でカネに困っているので、創業当初からこれまでの勤務に応じた退職金相当額をくれるなら退職に同意してもいい」
会社としては退職金はおろか今月の給料すら払いたくありませんし、すぐにでも懲戒解雇したい、損害賠償請求したいくらいです。
以上の詳細は、ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:逮捕された従業員を解雇できるか
逮捕を理由に、定年まで勤めたいという社員を、本人の意に反して、簡単に解雇できるわけではありません。
無罪を主張する人間に対して、いきなり解雇するのは、無罪推定原則にも反し人権上も問題になります。
以上の詳細は、ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【逮捕された従業員を解雇できるか】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:起訴休職 
起訴休職制度というものが就業規則上定められています。
本来的な休職制度とはまったく異なり、
「従業員が何かの刑事事件で起訴・拘留され刑が確定されるまで休職扱いとする」
のが趣旨で、起訴により企業の社会的信用が失墜し職場秩序に支障が生じるおそれがある、といった合理的要件の充足を前提とします。
労働者自らの帰責事由による労務提供不能という状況であれば賃金は発生しませんが、
「混乱を避けるため、自宅待機あるいは当面は出社及ばず」
などと、いい加減な命令をすると、会社は賃金を払わなければなりません。
以上の詳細は、ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【起訴休職】その1ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【起訴休職】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:推奨されるソリッドな対応法 
勤続20年の社員が痴漢行為を行い逮捕された事件では、逮捕拘留後、迷惑防止条例で略式起訴され20万円の罰金を納めて釈放されました。
この社員は、3年前にも痴漢行為により罰金刑に処せられていたことがわかったため、会社は、賞罰委員会を開催し、昇給停止および降職処分としました。
そして、社員はその後また痴漢行為をはたらき、逮捕拘留後、迷惑条例違反で起訴されました。
会社は、拘留中の社員に数次にわたる面会を行い、その過程で、
「この痴漢行為についての事実を全面的に認めるとともに、会社のいかなる処分に対しても一切の弁明をしない」
と署名捺印された自認書を作成交付させ、これを前提に、賞罰委員会の討議を経て、この社員を懲戒解雇とし、さらに就業規則にしたがって退職金を不支給としました。
にもかかわらず、この社員からは
「“自認書”については、内容を検討するゆとりも与えられずに、すぐに署名を求められたものだから、自由意思にもとづいて署名したとはいえない」
「痴漢自体は重大な犯罪行為であることは認めるが、業務には関係しない私生活上のこと」
「会社にも具体的な不利益や損害もない」
「懲戒解雇にしても、退職金の不支給にしても、ペナルティとして尋常ではなく重すぎ、違法で無効」
という訴えが起こりました。
裁判の結果、東京高裁(平成15年12月11日判決)は、懲戒解雇は有効としたものの、退職金の不支給については、全額不支給は会社の行き過ぎであって3割は払ってやれ、という判断をしました。
以上の詳細は、ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【推奨されるソリッドな対応法】をご覧ください。

モデル助言
「痴漢なんて1回でもしたら、即懲戒解雇で、退職金もナシ」
というのは一種の都市伝説で、社員側が必死に争って裁判までもつれ込めば、
「会社の方が行き過ぎ」
といわれかねない法的環境があります。
就業規則も適当に作っているとなると、起訴休職命令すら難しいかもしれません。
落としどころとしては、退職を認め、退職金を一部減額して、とっとと会社を辞めてもらうことでしょうね。
とはいえ、相手方が、あまりに強気なことをいうようであれば、労働契約関係は存続した状態で従業員に対する損害賠償請求を起こし、当該社員を二正面作戦の状態に追い込むと同時に、
「若い女性を守り、痴漢を撲滅する」
という大義名分で、検察側に協力して彼に不利な悪しき情状をどんどん情報提供して、厳罰を求めるスタンスも辞さない、という姿勢が自然に伝わるようにしてもいいでしょう。
以上の詳細は、ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【今回の経営者・山岡社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00585_英文契約書のドラフトを受け取った場合の認知・解釈課題の対処手順

英文契約書のドラフトを受け取った場合、企業ないし企業法務部において、どう対応していいかわからない、という悩みをもつ状況が生じることがあります。

特に、
海外法務の経験がない、
あるいは、
海外法務については、深く考えず、見よう見まねと、知ったかぶりで法務対応をしてこれまでやり過ごしてきた、
といった方々にとっては、不安と悩みの尽きない対応課題です。

こういう場合、まずは、因数分解的に、不安の根源を分類し、特定することが有効です。

「見えない敵は討つことができない」
という言葉がありますが、英文契約書の対応課題云々という行動選択課題の前に、まずは、認知課題をクリアする必要があります。

すなわち、相手方やドラフトにどのように働きかけるか以前の問題として、目の前の英文契約書をしっかり理解把握できていない可能性がありますが、まずは、これを克服する必要があります。

英文契約書の認知課題として、いくつかのレベルに分類されている不安や悩みが生じるものと考えられますが、これには、

1 言葉の壁:(外国語で書かれてあるため)言葉がわからず、何が書いてあるかわからない
2 意味の壁:(言葉はわかるが)意味がわからない
3 演繹的推論の壁(解釈の壁・言葉の意味はわかるが、話がよく見えない):(言葉や意味は理解できるが、概念や状況の意味を論理的に推定把握したり、合理的な展開予測をする、といったスキルが欠如しており)言葉の意味する状況や環境を具体的にイメージして理解したり、展開予測をすることができない
4 帰納的把握の壁(実感の壁・話はわかるが、自分の身に置き換えた形で、具体的に体感することができない):(言葉や意味はわかるし、状況や環境も理解できるし、状況や環境が我が身に及ぼす影響も解釈し一定の理解はできているが、経験を前提として理解できる事柄について経験がないため)理解したり、イメージしている事柄が、実務経験上あるいは現実的相場観として、具体的に生じうるのか、確認してほしい

と、段階的に分類されるべき各要求課題が看取されます。

まず、1のレベルの課題は絶対クリアすべきです。

意味がわからない、
展開予測ができない、
ダメージ推定が不能、
さらには、
校正をこうしたい、
カウンタープロポーザルをああしたい、
といった遠大な将来課題を議論する前に、まずは、言語の壁を乗り越えるべき必要があります。

そして、英文契約書の対処課題で途方に暮れてしまう担当者は、たいてい、1のレベルがしっかりとできていないにもかかわらず、いきなり校正や修正提案をしようとして、基本的なところや、構造的な部分において、大きな漏れや抜けを生じさせてしまいがちです。

1に関してですが、単純な話、契約書の和訳をすればいいだけです。

この課題は、あまり専門性を要求されない反面、誤訳や言語のチェックなども含めますと、膨大なルーティン遂行負担が生じ、多大な時間や労力という資源が投入されてしまいます。

企業によっては、この1の課題について、内製化したり、外部専門家に依頼するところもありますが、実務担当者にとっても、外部専門家にとっても、本来の能力を無駄に費消することになりかねません(なお、中小零細企業の多くが、費用や時間や手間を惜しみ、あるいは課題の重大性を無視ないし軽視し、1のレベルの課題すら懈怠し、内容や意味はおろか、言葉すら把握しない文書に署名して、自らを重篤なリスク状況に陥れる愚劣な行為に及ぶところが少なくありません)。

したがって、1の課題については、信頼関係が構築でき、守秘義務契約その他情報漏えい防止措置も整えた専門翻訳業者にアウトソースしてしまった方がはるかに安上がりです。

その上で、(一定のスキルある翻訳業者により適切に)和訳された英文契約書を読んでもなお、意味がわからない、論理的解釈が不能である、状況が具体的に推定できない、といった2以下の課題を特定し、そこに、社内法務人材や外部の顧問弁護士といった高単価のリソースを投入していくべきと考えられます。

なお、このような
「対応課題云々という行動選択課題の前に、まずは、認知課題をクリアする必要がある」
という実務手順は、和文の契約書でも同じであり、英文との違いは、前記1の課題がクリアされている点だけで、他の2以下の認知課題は、クリアすべき課題として存在します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00584_企業法務ケーススタディ(No.0194):個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズの ケース1:個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!をご覧ください。

相談者プロフィール:
(株)寸銅講(ずんどうこう)教育出版 代表取締役社長 永川 きよし(えがわ きよし、36歳)

相談概要: 
相談者の会社では、ユーザー情報を派遣従業員に盗み取られ、売り飛ばされてしまいました。
社内の役員は、
「直接謝罪したほうがいい」
「誠意を見せるべき 」
といいます。
個人情報漏洩の場合の賠償額の相場というものはあるのでしょうか。
以上の詳細は、ケース1:個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1: 個人情報保護法とは
個人情報保護法が制定施行され、個人情報保護の問題は、単なるマナー、エチケットといった努力指針ではなく、適切な保護を懈怠した場合、法律問題とされるようになっています。
以上の詳細は、ケース1:個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!【個人情報保護法】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2: 個人情報保護法違反事件における侵害論と損害論
個人情報保護法に違反した事件が生じた場合の被告側(企業側)としては、侵害論と損害論を検討することになります。
個人情報保護に関する侵害行為があったとしても、それによって具体的にどのような損害が発生し、当該損害が金銭評価としていくらになるか、というのは別問題であり、裁判所の判断を待たないと明確にはなりません。
(社会的、道義的な話はさておき)法的に賠償義務を負担しない状況において、自発的に損害賠償義務を認めるのは、道徳的・倫理的には立派でも、戦略的・功利的には愚かな行動といえなくもありません。
以上の詳細は、ケース1:個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!【侵害論と損害論】をご覧ください。

モデル助言
漏洩された被害者から賠償請求されたわけでもありませんので、この段階では、法律上、賠償義務は観念し得ません。
個人情報が漏洩した場合の賠償問題について法的に確定したルールがない以上、
「リーガルマター」
ではなく
「ビジネスマター」
として対応すべきであると考えます。
損害賠償請求を受ける前に、例えば、受講割引券を配布するなり、通常であれば有償のテキストや特別講義のDVDを無償で配るなどして、
「顧客の怒りを静めつつ、これによって新たなビジネスを開拓する」
意気込みをもって対応し、ちゃっかりビジネスチャンスを創出するのもアリだと思いますよ。
以上の詳細は、ケース1:個人情報がダダ漏れ状態になってしまった!!【今回の経営者・永川(えがわ)社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

00583_控訴審における訴訟弁護活動のポイント

みなさんは、小さいころ、社会科で
「日本は三審制であり、1つの事件を、地方裁判所、高等裁判所、そして最高裁判所の3つの裁判所で慎重に判断してくれます」
ということを習ったかもしれませんが、これは民事・商事実務では事態を正確にあらわした表現とはいえません。

現在の民事・商事実務においては、最高裁で審理されることはほとんどなく、高等裁判所が事実上の最終審となります。

じゃあ、事実上の最終審である高等裁判所で地方裁判所での一審同様、いろいろ話を聞いてくれるか、という点についても、これもNOです。

一審での判決が極端にひどいものであった場合等を除き、高等裁判所で一審の判断がひっくり返ることはまずありません。

ですが、高等裁判所においては、ほとんどといっていいくらい、和解を勧めてくれますし、高等裁判所における和解は非常に重みがあり、かなりの割合で高裁における和解はまとまるのです。

高等裁判所の裁判官は、いうまでもなく地裁の判事よりも権威がありかつプライドも高く、また、彼ら・彼女たちが勧める和解内容は一審の審理や判決を前提としている点で合理的な提案が多いといえます。

その意味で、高裁判事から勧められた和解を、当事者が不合理な理由で拒否すると、いたく彼ら・彼女たちの権威やプライドを傷つける結果となります。

特に、
「いろいろ主張に問題はあるが、どっちかというとこっちに証拠があるから負けさせるのもどうかと思うので、とりあえず勝たせてあげる」
みたいな判決内容で一審勝訴した当事者が、勝った余勢をバックに、
「和解? うるせーバカ。早く控訴棄却判決(原審維持判決)出せ、このタコ」
みたいな態度で不合理に提案を拒否すると、逆転判決を食らうことも結構な割合であったりします。

すなわち、我々民事・商事実務弁護士の間では、
「高裁の和解提案は意味なく蹴るな」
という暗黙のルールがあり、そういう点で、高裁での和解提案拒否は勝った方も負けた方もリスクがあるため、高裁で和解が成立する可能性は地裁に比して格段に高いといえるのです。

逆にいえば、一審での和解交渉に失敗し、敗訴判決を食らっても、めげずに高裁に控訴し、高裁判事に再度言い分を切々と訴えると共に、少しでも有利な和解を勧めてもらえるよう粘ることで、何らかの状況改善を図れるチャンスがある、ということもいえるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所