01912_信頼していた従業員が、経営者の指示を無視したり、陰で経営者の悪口を言いふらしていることが判明したとき

まず、経営者がすることは、その従業員を、
「信頼する仲間」
と認識するのではなく、
「敵」
と、認識の転換をはかることです。

敵を信じて、敵に依存すること自体、思考としてやめるべきです。

まず、最悪を想定しましょう。

当該従業員が、何をしてくるか、何ができるか。

これを、当該従業員の立場や情調・感受性や利害を想像しながら、イメージします。

当該従業員が、経営者を、死ぬほど憎んでいて、いなくなっちまえばいいのに、と思っても、むちゃくちゃな攻撃をすると、従業員として、自分にも返ってきます。

その意味では、経営者への攻撃も自ずと限界があり得る、ということになります。

要するに、
・あからさまに敵意むき出しな攻撃をすると、自分の(生活)基盤を破壊させることになるので、これはできないし、しない(だろう)
・あからさまでない、嫌がらせはできる(だろう)
・自分にメリットがなくても、経営者にとって損害が出たり、不快な思いをさせることができるのであれば、目立たなければ何でもやる
と、イメージするのです。

経営者が、
「話せばわかる」
と言わんばかりに、当該従業員と話すのはいいですが、敵と交渉するのですから、主導権を取られたら負けです。

「主導権を取る=目的や予定や条件を相手に先に言わせる」
です。

相手の意図、目的、予定、妥協条件といった、脳の中身を、先に言わせましょう。

それができれば、その場で即答せず、持ち帰りましょう。

時間や、応答の冗長性の確保、が最重要課題です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01911_簡素な特別慰労給付金確認書サンプル

以下、確認書起案の参考としていただく趣旨で、記しておきます。

特別慰労給付金 確認書

 ●● 御中

私、●●は平成・令和●年●月●日に●●を退社致します。

在籍中の公休、有休などに関する清算を行う趣旨で、特別慰労給付金として、下記の金額を受領いたしました。

金 *******円

平成・令和●年●月●日の私の退職日において、上記特別慰労給付金をもって私と貴●●との間の清算が終了し、以後の請求は一切致しませんので宜しくお願い致します。

私と貴●●との間において、退職日時点で、本書記載の外、一切債権債務関係及び法律関係が清算され存在しないことも本書により厳に確認申し上げます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01910_不安の思考ループ

楽観バイアス・正常性バイアスが克服でき、不安を感じることができたとしても、問題が正しく認知できない相談者が少なくありません。

メタ認知ができず、状況評価、状況解釈、展開予測がうまくできないと、以下のような思考秩序のもと、思考ループに陥りがちです。

不安を感じる

問題を認知しようとする(問題認知の際に、主観ないしバイアスが邪魔して正しく認知できないので、外部専門家を活用して、メタ認知支援を受け、問題認知にはトライし、問題がぼんやりわかり始める)

問題認知して、状況解釈や展開予測にトライする(やはり外部専門家の支援を得る)

(何も手を加えずに状況放置した場合の)残酷な結末や不愉快な帰結が判明する

他方で、そこから何らかの状況改善のための資源動員をした場合の現実的な展開予測(シミュレーション)をしてみるが、「一発逆転」的な希望する解決を得られることはなく、「大事が無事に」「損害軽減」「将来的な改善」という成果がせいぜいである、という想定が判明する

結局、「何もせずに(あるいは外部専門資源を投入せずに、素人が手軽な対処をして)悲惨な大事に至る」か、「さんざん資源動員(コストのかかる外部資源動員)をして、大事が小事になったり、損害が軽減される程度の成果しか得られない」か、という選択(現実)を突きつけられる

「一発逆転」による主観的に希望する成果を得られる余地がない、ということを知らされる

不愉快になる

問題の認知が間違っている(専門家によりメタ認知や状況解釈や展開予測が狂っている)、と考え始める。そんな悲惨な状況ではないし、そんな悲観的なことにはならないし、相手もそこまで悪くないだろうし、神様はいるし、正義は勝つし、どこかでうまいことやってくれるお手軽で都合のいい専門家がいてくれるやずだ、自分たちは幸運なはずだ、絶対うまくいく、助かる、というやや強引な認知転換を試みる

展開予測や改善の営み(コスパが悪いし、自分の思い通りにならない)が気に入らないので、問題がなかった、問題が軽度で対処可能だ、と思い込もうとする

主観で思い込んで、一瞬、問題がなくなる

しかし、不安はなくならない

不安になる

最初に戻る

このようなループです。

この思考ループに陥ると、時間を浪費し、機会をなくし、最後はすべてをなくします。アナロジーとしては、下記のような事例がイメージできましょう。

CTスキャンで肺に真っ黒な影が映る

そういえば、調子が悪いし、何度も咳き込むし、血反吐が出る

不安になる

超高額のクリニックを勧められる

精密検査も超高額、手術や治療はさらに高額

「で、そんな高額な検査や高額な治療をやったら、完全に治るのか?」と質問する

「一定のステージまで進んだガンは治らない。ガンは絶対治らない。当院で『ガンの治療』と称しているのは、延命措置のこと。絶対死ぬが、死ぬ時期が、1ヶ月が半年、半年が1年になるのは、それなりの価値と意義がある。逆に言えばその程度の価値しかない。ただ、費用は超高額だ」と回答される

「高い金をかけて、調べて、体を弄った挙げ句、治らないし、せいぜい延命程度」という現実を理解する

不愉快になる

この医者はヤブだ、使えない、と思う

というより、そもそもガンではないし、ガンではない自分をガン呼ばわりする医者が狂っている、と思い込むことにする

そうすると、脳内から問題が消失して、なんだか元気が出てくる

その直後、咳き込む、血反吐が出る

CTスキャンの画像をみてみる

やっぱり肺が真っ黒

不安になる

このような事例において、
「一発逆転は可能です。信じる者は救われます。良き結果を信じて、私達と頑張りましょう」
という専門家がいたとします。

「ガンは治ります。末期でもステージ4でも治ると思います。いや、治るべきです。神様はいます。私にまかせてください。がんばります。治してみせます」
という医者がいたとします。

この専門家や医者は、バカか詐欺師のどちらかだと思いませんか?

末期ガンが治る、と心の底からそう考え、本気でいっているなら、その時点で、シビれるくらいのバカでしょう。

末期がんが治らない、という常識はわきまえていながらも、
「ガンは治るべきです。頑張って治しましょう」
なんて言うのは、詐欺師です。

仕事が欲しい、お金が欲しい、過酷な現実を見せたくない、夢をみさせてあげたい、気持ちよくさせてあげたい、希望をもたせたい、可哀想、つらそう・・・理由なんかどうでもいいです。

治らないガンを治ると誤信させて、治療費を頂戴して、治療という名のまやかしを行うのは、どんな理由があろうと、詐欺師です。

たとえ、資格ある医師が、治療行為とみえる営みをしていても、
「ガンが治る水」
「神の贈り物の霊水」
「聖人の恵みの聖水」
「ガン細胞を消すスーパー酵素」
を売り歩く怪しげな業者と、やっていることは変わりません。

結局のところ、現実は厳しい、ということです。

さて、誠意のある弁護士はどうするでしょう。

「状況認知選択課題」
「状況評価・解釈選択課題」
「展開予測選択課題」
「対処方針選択課題」
のいずれの選択課題においても、顧客が愚劣な選択(先延ばし、先送り、神頼み、性善説というコストのかからない妄想ともいえる選択)に固執する場合であっても、顧客の選択を最優先します。

顧客ファースト、という理念のもと、常に顧客の選択を尊重するのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01909_冷静な判断ができない状況に陥るとは(その2)推奨行動

「正解も定石もない事案対処」
において、もっともやってはいけないことは、
「正解」
を探したり、
「正解を知っていると称する(言葉のみならず、態度で示す者を含む)」
人間を探すような、愚考をやめ、目を覚まして、合理的な試行錯誤を構築し、実施することです。

引用開始==================>
訴訟や紛争事案対処というプロジェクトの特徴は、
・正解が存在しない
・独裁的かつ絶対的権力を握る裁判官がすべてを決定しその感受性が左右する
・しかも当該裁判官の感受性自体は不透明でボラティリティーが高く、制御不可能
というものです。
「正解が存在しないプロジェクト」
で、もし、
「私は正解を知っている」
「私は正解を知っている専門家を紹介できる」
「私のやり方でやれば、絶対うまくいく」
ということを言う人間がいるとすれば、
それは、
・状況をわかっていない、経験未熟なバカか、
・うまく行かないことをわかっていながら「オレにカネを払えばうまく解決できる」などというウソを眉一つ動かすことなく平然とつくことのできる邪悪な詐欺師、
のいずれかです。
そもそも
「絶対的正解が存在しないプロジェクト」
と定義された事件や事案については、
「正解」
を探求したり、
「正解を知っている人間」
を探求したりするという営み自体、すべてムダであり無意味です。
〜〜中略〜〜
「正解」
がない事件や事案 に立ち向かう際にやるべきことは、正解を探すことでも、正解を知っている人間を探すことではなく、まず、
・とっとと、正解を探すことや、正解を知っている人間を探すことを諦めること
と、
・現実解や最善解(ひょっとしたら、クライアント・プロジェクトオーナーにとって腹が立つような内容かもしれませんが)を想定・設定すること
です。
次に、この現実的ゴールともいうべき、現実解や最善解を目指すための具体的なチーム・アップをすること、すなわち、
・プロセスを設計・構築・実施するための協働体制を描けるか
・それと、感受性や思考や行動が予測困難なカウンターパート(相手方)である敵と裁判所という想定外要因が不可避的に介在するため、ゲームチェンジ(試行錯誤)も含めて、柔軟な資源動員の合意を形成できるか
という点において、親和性・同調性を内包した継続的な関係構築を行い、(おそらく相当長期にわたることになる)事件や事案を協働できるチーム・ビルディングを行うべきです。


<==================引用終了

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01908_冷静な判断ができない状況に陥るとは

法律相談にて、弁護士から現実をきかされたとき、パニックになって冷静な判断ができない状況に陥る相談者が少なくありません。

また、
「急がば近道」
の思考回路となり、
「急がば近道が正常」
という状況になる相談者もいます。

「特効薬」
「速攻で解決する方法」
を模索するあまり、
「冷静な状況認知・状況解釈・状況評価・課題整理・秩序だった選択肢抽出・合理的試行錯誤」というこの種の
「正解も定石もない事案対処」
において取られるべきステップが、頭に入ってこない状況のようです。

引用開始==================>
まず、持つべきは、未知の課題や未達成の成功に対する「謙虚な姿勢」です。
正解もなく、あるいは正解も定石も不明な課題です。

「こうやれっばいい」「こうすべきだ」「正解はこれだ」「絶対このやり方がいい」
とこの世の誰も断言できることができない課題です。
なぜなら「正解もなく、あるいは正解も定石も不明な課題」だからです。
<==================引用終了

著者は、企業法務を取り扱っていますので、当然ながら、相談者の多くはオーナー経営者です。

日頃、会社経営のかじ取りをしているのですから、さまざまな難局は乗り越えてきていることは想像に難くありません。

それでも、
「正解も定石もない事案対処」
おいて取られるべきステップが、頭に入ってこないのは、

左脳では、
・大事である=簡単にはいかない=専門家の動員も含めた相応の時間とコストとエネルギーがかかる
・正解や効果的な対処法がない=ありとあらゆる試行錯誤をやってみるほかなく、「専門家」に頼んだら、一瞬で解決するような安直な方法がない
ということは、理解できる。

他方で、右脳では、
・大事ではない(と思いたい)=簡単なこと=自分で何とかできるし、それほど、時間もコストもエネルギーもかからない
・探せば、どこかに、正解や安直な方法や、一瞬で都合よく解決できる専門家がいるはず
と思いたい、というバイアスが働くからでしょう。

作戦行動に必要なのは、ファンタジーではなく、リアリティです。

プロジェクトオーナーの脳内がファンタジーであれば、作戦はまともに構築できませんし、機能もしない、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01907_パワハラを理由に社員を降格する場合

たとえば、パワハラ等が起きたことを理由に、従業員を降格させようという場合、会社側として、
「パワハラ等が起きた」
ことをリーガルマターとして捉え、将来の訴訟を予知して、訴訟における論争や立証まで視野に入れて、状況をミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化 することが肝要です。

要するに、

1 「パワハラ等が起きた」という事実を、きちんと調査して、事実として確定済み
2 1をきちんと明確かつ具体的に、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化する
3 「パワハラ等を起こした」とされる従業員に告知聴聞の機会といった手続保障を与える
4 3において、当該従業員が認めている

1~4のようなものがなく、単に、一方的に、根拠もなく
「あいつはパワハラやった」
と言うだけ降格させると、
「理由なく降格している」
と争われる可能性があります。

言い換えると、
「降格が有効である」前提
が、容易に覆滅される危険を内包している、といえるのです。

たいていの企業は、 1~4のような手間や負荷を惜しみ、事態をリーガルマターではなく、ビジネスマターとして、甘く、軽く捉えて、乱暴な処分を一方的に行うことが多いです。

その当然の帰結として、多くの企業は、労働訴訟で負けて負けて、負けまくるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01906_労働契約について

従業員を雇うとき、オーナー経営者は、知っておくべきことがあります。

それは、契約書と契約とは概念として別物だということです。

契約書がないから契約が存在しない、という関係には立ちません。

もしも、労働内容や労働時間等、労働契約について、従業員と揉めるようなことになった場合、相手方との間の契約関係については、いくつか解釈が成立し得えることもあり、
「契約の解釈」
という作業が争点となります。

もちろん、この
「契約の解釈」
については、我が方の説、相手方の説と整合しない可能性があり、最終的には、裁判所が
「契約の解釈」
に関して公権的に確定する権限を行使することになります。

ちなみに、労働基準監督署の行政指導は、公権的に確定する権限をもたず、いわば、お節介や、つぶやきや、ノイズとかのレベルの話です。

三権分立の原理からすれば、司法権をもつのは裁判所という奉行所であって、労働基準監督署という奉行所には権限がなく、お門違いのお節介、という位置づけになる、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01905_社員を降格させることについて

経済社会の現実として、多くのオーナー企業では、
「降格させる」
「管理職の任を解く」
ということを、イージーに、平気で行います。

これは相手(従業員)がリーガルマターとして抵抗せず、泣き寝入りするから成立している話であり、リーガルマター化すれば、まったく通用しない話になります。

学校でも、普通は
「進級」
するものであって、問題があっても、せいぜい
「留年」
であり、
「降年」
というのは、聞きません。

すなわち、従業員において、一度、
「管理職に相当する能力あり」
と認定されながら、
「途端に、退嬰化して能力後退して、ヒラ社員になった」
という事態は、経験則上あり得ない話です。

頭を打ったり、精神を病んだり、障害を負ったり等、特異な事情があれば、
「 一度、管理職に相当する能力あり、と認定されながら、途端に、退嬰化して能力後退して、ヒラ社員になった 」
ことはあり得ましょうが、普通に仕事をしていて、
「突然、能力がなくなった」
というのは、明らかに無理のある話です。

とすると、
「降格させたい」
というのは、相当納得性と説得性のある事情と根拠が必要であり、企業側の立証責任は厳しいものになります。

要するに、オーナー経営者が、ある社員を
「降格させたい」
のであれば、その経緯と理由を、
「リーガルマター」
としての観察と検証に耐え得るようなものかどうかを検証する必要がある、ということなのでり、弁護士に相談したからといって簡単に実現できるものではないのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01904_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する6: 課題を突破し、ゴールに近づく方法を考案する(戦略を構築する)

現状が正しく認識され、正しいゴールが設定され(SMART基準を充足するゴールが発見・定義・デザイン・言語化・文書化され)、現状(スタート)から目標(ゴール)に到達する過程において立ちはだかる課題(障害)が余すことなくすべて発見・抽出・整理・定義されました。

ここで、当該課題を突破し、ゴールを達成、あるいはゴールの近づく方法論を構築する段階、すなわち戦略を策定する局面に至ります。

すなわち、現実的で達成可能なゴールデザインが共有でき、
次に、
「スタート(現状、as is)とゴール(目標、to be)との間に立ちはだかる課題」
を発見・設定・定義し、
当該課題が複数にわたる場合は優劣・先後等について相互の関係や関連性を整理できた後、
当該課題達成手段の創出・整理をすることになります。

戦略を構築する際、重要なことは、より多くの選択肢を抽出することです。

そして、より多くの選択肢を抽出するためには、タブーなき議論により、極論と、当該極論の対極に位置する対極論を探り当てることです。

この
「タブーなき議論」
を行う上では、
「結果がすべてであり、目的は常に手段を正当化する。必要であれば、明確な痕跡が残らない範囲で、あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技、すべてを駆使しても差し支えない」
というリテラシーを是として議論することが重要です。

戦略に
「正邪」
はありません。

戦略構築においては、ただ、作戦合理性があるだけです。

目的を達成するのは、
「正しい人間」
ではありません。

「強い人間」
すなわち、
「合理的で、(ズル)賢く、素早く、他人に期待せず、自分にできることに徹して、努力した、強い欲のエネルギーをもった人間」
です。

そして、
「目的を達成する人間」
とは、
「あの手、この手」
だけでなく、
「あの手、この手、奥の手に加え、禁じ手に、寝技、小技に反則技」
を使える人間(禁じ手や反則技を使うかどうかは別問題として、そのような手法を知っている人間)です。

自らを
「正しい」
と自認する人間が、ときに、正義に酔いしれ、自らを神聖視し、何もせずに天が味方すると漫然と考え、行うべき想定を行わず、行うべき対処を行わず、
「手段」
にこだわり、結果、当然のように、
「入念に準備し、あの手、この手、奥の手に加え、禁じ手に、寝技、小技に反則技を使える、合理的で、(ズル)賢く、素早く、他人に期待せず、自分に出来ることに徹して、努力した、強い欲のエネルギーをもった悪」
に惨敗します。

目的を達成するのは
「正しい人間」
ではなく、
より正確に状況を認知し、
より確実に状況を評価・解釈し、
より現実的で合理的な目的を策定し、
より広汎に課題を抽出し、
より迅速かつ入念かつ効果的に課題対処をした、
「強く、賢い人間」
です。

「展開予測を正確に行い、早く、入念に、的確な準備をして、結果、博打の要素をできるだけ排除し、目的を達成する」
ことが戦略においては最も重要です。

そして、このような
「タブーなき、常識に囚われない議論」
によって、極論と対極論という形で、大きな幅と広がりをもった
「戦略構想空間」
とも言うべき
「思考空間」
が現れます。

ここで、極論と対極論の間のスペクトラムにおいて、
各種「中間解」
が想定されます。

このようにして、なるべく多くの、ブレイクスルーアイデア(課題突破のための方法論)を発見・定義・抽出・整理していくことになります。

次に、各種戦略手法のプロコン分析を行います。

すなわち、
極論、
対極論、
中間解その1、
中間解その2、
という各ブレイクスルーアイデア(課題突破のための方法論) について、
プロス(長所)とコンス(短所)
を、いろいろな面(予算面、人材面、時間や機会の問題、成功蓋然性、リスクや失敗した場合のダメージ)から検討して、描き出していきます。

具体例を出して考えてみます。

例えば、契約の記載が曖昧で、権利や義務の存否や範囲、さらには契約違反の有無・程度について紛議になったところ、相手方が義務や責任を認めず、こちらが求める金を払わない状況を改善するためには、自己制御課題として達成・解決し得る課題、具体的には
「(何らかの)強制の契機を働かせ翻意させる」
という課題に再定義し、この課題達成を通じて、
「相手方が、義務や責任を認めさせ、我が方が求める金銭を支払わせる」
という目標を達成することが意識されました。

ここで、
「(何らかの)強制の契機を働かせ翻意させる」
という課題を達成するための手段としては、いくつかの方法論が想定されます。

方法論想定に、タブーを設定せず、モラルや法律はさておき、想像力を働かせて、違法・不当なものも含めて、極論も含めて、考えてみますと、

0 相手方が正義に目覚め、自発的に義務を認めて金を払ってくれるよう、神(か仏様)に祈る
1 電話をかけ説得する、面談して説得する
2 請求書や催告書を送り付ける
3 弁護士名の内容証明郵便による通知書を送付する
4 仮差押えを申し立てる
5 調停を申し立てる
6 訴訟を提起する
7 仲裁申し立ての仲裁合意を提案する
8 脅す
9 暴力に訴える
10 反社会勢力を使って説得する
11 詐欺だと警察に告訴する
12 米軍を動員して、核兵器を運び込み、攻撃態勢を整え、照準を相手方の会社本店と役員全員の自宅に合わせる

というものが考えられます(なお、冗談が通じない方もいらっしゃるので、注意しておきますが、思考訓練として想像力を働かせているだけであって、実行することあるいは実行を推奨することを意味していません)。

以上のように想像した方法論(課題解決手段)のうち、まるで無意味なもの、違法なもの、実現不可能なものを排除していきます。

そうすると、
3 弁護士名の内容証明郵便による通知書を送付する
4 仮差押えを申し立てる
5 調停を申し立てる
6 訴訟を提起する
7 仲裁申し立ての仲裁合意を提案する
11 詐欺だと警察に告訴する
というものが、
「相応に意味と価値があり、適法で実現可能で、取組価値ある選択肢」
と浮上してきます。

ここで、想定する方法論(課題解決手段・解決のための選択肢)は、多ければ多いほど、ダイナミックレンジ(範囲の広がり)が広ければ広いほど戦略構築の意味と価値が高くなります。

もちろん、違法、不当なものや、まるで無意味なものや実現できないものなどを議論の俎上に乗せるのは、常識を疑われますし、時間の無駄です。

しかし、そのようなものでない限り、選択肢は多ければ多いほど、個々の選択肢の偏差が大きければ大きいほど、プロジェクトマネージャーのスキルとマネジメントの価値が高いと認識されます。

プロジェクトマネージャーが、プロジェクトオーナーに対して、選択肢を1つしか出してこない、というのは、もはやプロジェクトマネジメントではなく、オーナーに指示・命令し、あるいは脅しているのと同じです。

助言者が
「訴訟提起しかありません」
といえば、それは、相談者に
「現状を改善したければ、訴訟提起をせよ。それ以外に現状を解決する方法は存在しない。オレにカネを払って、裁判を起こすことを決めろ」
と脅しつけているのとあまり変わりありません。

法律実務、紛争処理実務を含む「正解や定石のないプロジェクト」において発生する課題は、すべて
「自然科学上の課題」
とは違う
「社会上あるいは社会生活上の課題」
であり、
「この手段ないし方法を、この程度までやれば、絶対にこうなる」
という
「唯一絶対の正解としての選択肢」
が存在するわけではありません
(自然科学上の課題であれば、水を100度に熱すれば気化する、0度以下に冷やせば固体になる、といった形で「この手段ないし方法を、この程度までやれば、絶対にこうなる」という「唯一絶対の正解としての選択肢」が必ず存在します)。

対人課題としての他者制御課題を不可避的に内包する、法律実務、紛争処理実務等の
「正解や定石のないプロジェクト」
において、課題解決の方法論として浮上する選択肢は、どれも
「正解」
ではなく、すべからく
「最善解」「現実解」
であり、いってみれば、どれもこれも不正解であり、
「やってみないとわからない」
という程度のものです。

そうすると、多くの不正解から
「不正解の中でも、もっともマシな、最善解」
を探すためには、より多くの選択肢を比較検討して消去法的に候補を絞ることがもっとも有益なアプローチになります。

合理的なプロジェクトマネージャーないしプロジェクトオーナーほど、
「1つの選択肢しかないので、これを選べ」
と脅されることを忌避し、豊富な選択肢から自由に判断することを好みます。

このようにして、多くの戦略手法が、思考上のテーブルにずらりと並ぶことになります。

2016年から現在までの在任期間中一度も戦争を行わずに輝かしい外交成果を挙げてきた米国のトランプ大統領も、安全保障課題については、よく
「すべての選択肢はテーブルの上にある」
と述べていました。

要するに、国家の安全保障課題(外交課題、軍事課題)という、もっとも重大かつ困難な
「社会上の課題」としての「他者制御課題」
を内包する
「正解や定石のないプロジェクト」
の1つであり、
「判断の合理性を担保する」
ためには、どこまで判断の柔軟性や自由度を保てるか、という営みを徹底することこそが重要なポイントになります。

この点で、
「正解も定石も存在しない」紛争処理課題
について、
「こうなったら訴訟提起しかない」
「ここは刑事告訴でしょう」
「絶対仮差押から始めるべきです」
などと、一択しか提案できないプロジェクトマネージャー(弁護士)は、決定者・判断者を脅しつけて判断の自由を奪っているだけであり、あまり価値の高いプロジェクトマネジメントサービスを提供しているとは言い難い、と考えれます。

仮に、トランプ政権の外交アドバイザーや軍事顧問の中で、
「ここはミサイルによる先制攻撃しか考えられません」
「ここは妥協して戦争を回避すべきです。それしかありません」
などと、
「正解のない課題に対して、一択しか提示できない、視野が狭く、思考の柔軟性がなく、想像力が貧困で、助言者としての役割をきちんと認識していない愚劣な人間」
は、即刻解任されたであろう、と推測します(「愚劣な人間をゴミや汚物のように毛嫌いするトランプ大統領」のことですから、「正解なき課題に直面してより多くの選択肢を多面的に検証して最善解を探す努力をしている大統領」からの下問に対して、「狭い視野と貧困な想像力から陳腐な方法論を一択として押し付ける」ような愚劣な輩が、トランプ大統領から即時解任された例は少なからず存在するような気がします)。

このように、多くの選択肢が抽出され、整理され、さらに、プロコン情報が付加され、
「すべての課題突破のための方法論(戦略上の選択肢)がテーブルの上にある」
という状況まで成熟しました。

そして、戦略を選択する時機が訪れます。

では、数ある選択肢の中から、どのようにして実行・実施する戦略を選択するべきなのでしょうか?

この点、
「正解や定石のないプロジェクト」
を成功に導いた経験のあるプロジェクトマネージャーが一様に納得する、至言ともいうべき、戦略の選択・意思決定に関する格言があります。

「(選択に)迷ったら、苦しい方、負荷がかかる方を選べ」
「急がば回れ」
というものです。

すなわち、
「いくつか選択肢があるときは、より、(経済的、資源消耗的、精神的)負荷がかかり、目先、苦しさが訪れて、準備と段取りに手間取り、時間とエネルギーを消耗するような、そんな選択肢が、最善解に至る可能性が高い」
という経験上の蓋然性です。

逆に、迷った時に、簡単な方、楽な方、安直な方、手っ取り早い方、フィーリング的にフィットする方、自分の常識(という、偏見、思考上の偏向的習性)に適う方を選んだら、たいてい、泥沼にはまりこみ、あとで後悔する、ということも意味します。

特に、精神的負荷の楽な方を選んで失敗する、という例は、私の小さな経験上、よく見聞します。

具体的には、
「人間の善意」
「相手の思考における合理性に対する信頼」
を認識の根源的前提に置き、相手の善意や合理性に依拠して、
「相手が悪意で、期待と真逆の態度に出た場合の備え」
をすることなく、漫然と、安直に、軽い気持ちで、丸腰で、初手を打って、
「相手が悪意で、期待と真逆の態度」に出る、
という憂き目に遭い、そこで詰んでしまう、という状況です。

そして、
早期妥結が相互互恵の最善の結末という予定調和と勝手に夢想し、
相手の善意と理性を一方的に期待し、
交渉の初手で、具体的条件を示したり、さらには、闘争忌避を明示あるいは黙示に表明するなどという愚行をしでかす交渉担当者の失敗の根源も同様のものです。

例えば、交渉課題において、妥協内容を含む和解条件の提示するのは、1年かかろうが、10年かかろうが、100年かかろうが、絶対こちらからは切り出しません。

北方領土の返還交渉において、ロシア側は、10年たとうが、50年たとうが、妥協した条件をまったく示すことがないのは、まさしくこういう戦略的理性に基づく合理的態度決定の帰結なのです。

民事紛争・商事紛争においても、しびれを切らして条件を出し始めた側が交渉が不利に陥りますので、訴訟が始まり、裁判官が
「このくらいの金額で和解されたらどうでしょう」
という声が聞こえるまで、貝殻のように沈黙を守り通すのが、最も戦理にかなった態度といえます。

無論、支払うべき義務が明らかで、裁判になれば早晩不利な判決が出て、遅延損害金等を支払わされたりして、時間の流れがこちらに悪意に作用するような場合は別です。

しかし、そのような場合であっても、究極的には、供託するなり、債務不存在確認訴訟提起によって、こちらがイニシアチブを握って紛争フェーズを変えることもできなくはありません。

いずれにせよ、相手の理性や善意に漫然と依拠して、思考やメンタリティに負荷をかけずに、キモチがラクになるような方法選択は、プロとして取るべき態度ではありません(クライアントやプロジェクトオーナーが、不利を十分承知で、招来される悪しき結果に対する免責を明確に了解して、そのような愚策履践を求めるなら別ですが)。

以上のとおり、タブーなき議論によって、極論と対極論、さらにこの間の広汎なスペクトラムに存在する無数の中間解を発見・創出・抽出・整理し、これにプロコン評価を加えて、
「すべての選択肢がテーブルの上にある」状態
まで到達したら、最後は、
「(選択に)迷ったら、苦しい方、負荷がかかる方を選べ」
「急がば回れ」
という選択決定哲学で、戦略(方法論)を選び出すのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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01903_法律相談から時間が経過すると起こり得るリスク

法律相談に何度も来て、相談を重ね、弁護士において今後の展開を構築し提案したとたん、連絡が途絶える相談者がいます。

「すったもんだ」
が解決できたのであれば、問題ありません。

その後、うまく行っていないのであれば、以下のような原因が考えられます。

・作戦環境の認識・評価が誤っている(たいしたことない、何とかなる、という楽観バイアスによる環境誤認)

・作戦課題の認識・評価が誤っている(話してわからない相手ではない、話せばなんとかなる。常識で処理できる。法律問題ではなく、ちょっとしたビジネストラブルであり、弁護士など不要)

・作戦目標の設定の誤り(謝ればなんとかなる。カネがかかるような大事ではなく、ちょっとした行き違いなので、現状変えずにうまく行けそう)

・方法論の誤り(法律問題ではない、ちょっとした行き違いなので、弁護士マターではなく、ビジネスマナーだろう。だから、ノンプロの話し合いで何とかなる)

相談時から時間が経つと、状況がどんどん変化(良くも悪くも)します。

状況が悪化している場合、たとえ弁護士であっても軌道修正不可でお手上げ、ということも、現実的にはある話です。

1つ言えるとするならば、時間が一番貴重な資源であることは間違いありません。

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