労働債権は比較的短期の時効に服します。
すなわち、労働基準法115条で、賃金債権(残業代請求権を含む)は2年で時効になりますので、2年(*)より前の債権の請求をされたら、すかさず時効を主張(時効を主張することを、法律用語で「援用」といいます)すべきです。
(*法改正により、2020年4月1日以降に支払日が到来した賃金請求権(残業代請求権を含む)の消滅時効完成までの期間は、3年に変更されています。2020年3月31日までに支払日の到来した賃金請求権(残業代請求権)については、2年の消滅時効が適用されます)
なお、時効が完成した債権であっても、承認したり、その一部でも支払ったりすると、時効が援用できなくなります。
この
「時効」や
「時効の援用」や
「時効援用権の喪失」
といった制度ないし法理は、紛争法務の実務担当者にとって、すべての民事紛争において常に念頭に置いておくべき最重要なものです。
時効の利益を援用する権利を喪失してしまうと、
「2年待って、せっかく完成した時効の利益をフイにして、2年より前の未払残業代の支払いを余儀なくされる」
ということになりますので、労働債権に関しては、不利益を被る側(債務者側、企業側)として、十分な注意と警戒が必要となります。
流石に、プロの弁護士で、
「時効が完成して消滅させられる債務をわざわざ承認したり、一部弁済したりして、時効の完成した債務を復活させてしまう、愚劣極まりない失態」
に及ぶような手合はいないと思います。
ただ、このあたりの法律の仕組みをよくわかっていない、
「法律の素人」
の企業の人事担当者・労務担当者が案件を取り扱う場合や、企業が弁護士ではない非資格者(行政書士等)からアドバイスを受けたりしている場合等においては、
「お金に困っていて可哀相なので、少しだけ払っておきました」
などという愚劣な行為に及び、
「万事休す」
の状態に陥るケースがあったりします。
そうなると、一部弁済を理由に、せっかく完成した時効の効果を援用する権利を喪失して、かなり前にさかのぼって全額払わされる、ということも生じ得ます。
時効の取扱は、かなり慎重さを要しますので、面倒臭がったり、素人や非資格者が生兵法で適当な対処をするのではなく、しっかりとしたプロの弁護士のアドバイスに基づいて適切に対処することが推奨されます。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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