00057_債権譲渡を実施する上で踏むべき手続き

債売買や譲渡というと、土地・建物(不動産)や車・船・設備(動産)など
「物に対する所有権」
のやり取りが定番ですが、法律上、売り買いできるものには制限がなく、金銭債権も譲渡が可能です。

しかし、弁護士や事件屋やプロの金貸しの方は別として、債権譲渡に複雑な作法があることは意外と知られていません。

事例の長谷川さんのように
「金銭債権を譲り受けるには、借用書や金銭消費貸借契約書等の契約証書を取り上げれば大丈夫」
などという考えや、
「債権譲渡契約を公正証書で交わしたから大丈夫」
などという考えをされる方が多いのですが、いずれも法的には誤りです。

債権譲渡を行うために、債権をもっている売り主と契約書を交わしただけでは、全く不十分なのです。

債権譲渡を完全ならしめるには、債権を譲渡した人から譲渡された債権の債務者(第三債務者)宛に
「債権は、私が買主(債権譲受人)に譲渡したから、以後は私(債権の売主、債権譲渡人)ではなく、 買主(債権譲受人) に払ってくれ」
というお知らせ(債権譲渡通知)をしなければなりません。

債権の売主(債権譲渡人)と買主(債権譲受人)との間の債権譲渡契約自体、別に口頭でやっていいことですし、債権譲渡通知によっても立証可能ですので、この契約にあまり神経を使う必要はありませんが、債権譲渡通知は絶対欠いてはなりません。

以上のとおり、 買主(債権譲受人) としては、売主(債権譲渡人) に
「債権を買主(債権譲受人) に譲渡した」
旨の第三債務者宛通知書を書かせて、第三債務者に送りつける必要があります。

なお、この通知書は、内容証明郵便で郵送すべきです。

すなわち、借金でクビが回らなくなった人間が債権者から追い込みをかけられると、1通だけでなく、2通、3通と債権譲渡通知を書かされることになり、ひとつの債権をめぐって譲受人同士の激しい争奪戦となります。

法律上、このような
「1つの債権を巡って何人も買受を名乗り出る、かぐや姫状態」
ともいうべき事態になった場合、
「内容証明郵便以外の通知方法をした譲受人」
は債権争奪戦の参加資格がないものと扱われます。

すなわち、最後まで確実に債権をわが物にするのであれば、内容証明郵便で債権譲渡通知をしておく必要があります。

そして、内容証明郵便で債権譲渡通知した譲受人が複数いる場合通知到達順で勝敗が決せられます。

従って、送付する際は速達扱いとしておき、また、到達が争われる場合に備えて配達証明も付けておくべきです。

ちなみに、あまり知られていませんが、債権譲渡通知以外の方法として、譲渡対象債権の債務者(第三債務者)に債権譲渡を承諾させる文書を差し入れさせ、これに確定日付を付しておくという方法も可能です(民法上、債権譲渡の対抗要件具備の方法として、通知または承諾が必要とされていますが、後者の方法による、というものです)。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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