00061_借りた店舗に抵当権が付いているケースで、オーナーが返済事故を起こした場合のリスク

物件を賃貸するときに当該物件の登記簿謄本ってチェックされる方は少ないと思います。

しかし、賃貸物件に多額の設備投資をするのであれば、必ずチェックしておくべきです。

もちろん、宅建業免許を有する仲介業者が仲介する場合は、重要事項として賃貸物件の権利内容等を説明してくれることになっています。

とはいえ、彼らは
「賃貸物件が担保に入っている」
事実を事務的に伝えてくれるだけで、その意味内容やリスクまできちんと教えてくれるわけではありません。

「所有物件を担保に入れたまま、第三者に貸すのは自由」
ということは意外と知られていない事実です。

抵当権その他の担保物権(質権は除く)は、
「不払になったときに売り飛ばすことができる権利」
にすぎないので、不払にならない限りにおいて、所有者が、抵当権がくっついたままの物件を使ったり、貸したりすることには何の制約も存在しません。

ビルオーナーが期限内にローンを返済すれば抵当権が抹消されますし、本ケースのように返済ができずに抵当権が実行されれば、後は、抵当権と賃借権の優劣の問題になります。

そして、抵当権が賃貸借契約より前に設定された場合、抵当権の効力が優先し、テナントは退去を余儀なくされます。

これを称して、抵当権を賃貸借を破る、と言います。

無論、賃料月5万円、敷金1カ月のワンルームマンションを借りるようなケースにおいて、賃貸物件の担保設定状況を調べてごちゃごちゃ交渉するなんて無駄もいいとこです。

ですが、高額の保証金を取られ、設備費や内装も数千万円ないし数億円の費用をかけるというような場合、賃貸物件の担保実行リスクはきっちりと管理しておかないと、いざ、オーナー(賃貸人、家主)が支払事故起こしたら、大変な目に遭うリスクが出てきます。

高額の保証金や内装・設備費負担は、一定期間賃貸物件を安心して利用できることが前提となっていますが、賃貸物件に担保が設定されているとうことは、この前提が簡単に崩れてしまう危険が内在することを意味します。

したがって、担保に入っているような物件を借りるにあたっては、大家に対して、債務の内容、返済の状況(リスケジュールの状況等を含む)を確認し、抵当権により覆滅させられる危険が具体的にあるのであれば、保証金を減らすとか、保証金返還請求権に担保を付けさせるとか、賃料を減額させるとか、内装・設備費の一部を負担させるとか、交渉によって適正なリスク回避策ないし逓減策を求めるべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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