00062_企業法務ケーススタディ(No.0020):敵対的買収防衛を導入する場合の考慮事項

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社幸福ラーメン 社長 小島 卓造(こじま たくぞう、59歳)

相談内容:
鐵丸先生、今日はいつも帯同させる専務を連れずに参りました。
ウチの専務はメーンバンクから来たのですが、当社上場後も役員として居着いてしまったんです。
東大出ということもあり、総務・法務や経営企画等の小難しい管理系業務は、事実上彼がすべて仕切っています。
先日の役員会で、専務が、いきなり
「わが社は敵対的買収の危機にさらされている」
と切り出し延々と話し出しました。
どれも新聞に書かれている程度の情報でしたが、最後に、
「我が社は買収防衛策を導入すべきである。
出身元の銀行傘下のコンサルティング会社にコーディネイトをお願いし、著名法律事務所に依頼し、事前警告型の買収防衛策を導入したい。
上限予算1億円で、私に全権をゆだねていただきたい」
という話になったんです。
古参の役員はどいつもこいつも小難しい話はからきしダメで、賛成しそうになりました。
ですが、私はコンサルティング会社なんてこれっぽちも信用していないし、第一、額もべらぼうに高い。
「とりあえず顧問の鐵丸弁護士にも話を聞いてからにしたい」
といって継続審議としました。
専務は、同じ東大出の鐵丸先生に妙な対抗意識があるようです。
さて、今日は、専務抜きで忌憚のないご意見を頂戴したいと思います。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:敵対的買収防衛策の本質とメカニズム
今ではすっかり下火になりましたが、村上ファンドや、スティールパートナーズといった敵対的買収を本気でやるだけの資金力(というか調達力)と度胸があるファンドが活躍していた時代、どの上場企業も真剣に検討し、実際、少なくない企業が導入しました。
無論、今では、ただでさえ株価が低迷している、IRもほったらかしの、地味で目立たない
「やる気のない、なんちゃって上場企業」
の株価がさらに無視され、株価がさらに低迷しかねませんので、最近では、この種の敵対的買収防衛策はすっかり下火になりましたが。
ところで、”敵対的買収防衛策バブル”当時、敵対的買収というのは、
「キャッシュをため込んだ脇の甘い上場企業が、カネを山のように預かった、おそろしくアタマの切れる連中により、(どこまで本気かわからない)経営改善のための支配移転を標榜して行われる」
というのが常道でした。
ところで、このような投資目的のファンドによる敵対的買収防衛だけでなく、まともな事業会社がまともな事業シナジー創造を目的として、仁義を切らず、ある日突然買い占めをはじめる例も出てきました。
このような
「まともな事業会社がまともな事業シナジー創造を目的とした敵対的買収」
となると、いかがわしさもなく、目的において経済的正当性をもつことから、排除する論理も見出し難く、世間や裁判所の支持も得やすく、成功確率が格段に上がるため、敵対的買収がリアルな恐怖となって上場企業の不安の種となることもあるかと思われます。
こういう不安を解消するためのツールとして、コンサルタントや
「M&Aの専門家」
と称する一部の弁護士が
「買収防衛策」
と称するものを企業に対して活発に売り込むケースもあるようです。

モデル助言:
事前警告型の買収防衛策というのは、株を大量に買いたい者を、買い占められた側の企業が
「俺たちの質問に誠実に答えろ。答えないと、お前たちを乗っ取り屋と認定する」
と脅しつけ、独自の主観的判断で
「乗っ取り屋」
と認定した後は、
「乗っ取り屋」
と認定した株主とそうでない株主を露骨に差別する、というようなものです。
要するに、特定の外国人を差別するのと同じ発想に基づくものであり、健全な法律家が冷静に判断すれば、株主平等原則に真っ向から反するとしか思えないような代物です。
とはいえ、法的有効性はないとしても
「無断駐車は罰金50万円」
「入れ墨した外国人は銭湯に来るな」
と書いておくと、萎縮効果で事実上無断駐車やタトゥーをした外国人の入湯者が少なくなるということもあります。
これと同様の効果を狙い、裁判で無効と判断されることは百も承知の上、この種の下品なお触れを出しておくことにもそれなりの意義があると思います。
その程度のものに1億円出すかどうかは御社の判断です。
もちろんウチでもそんなアホみたいなコストを頂戴せずできますが、別に仕事に困っていないのでやりたくもありません。
敵対的買収を防ぎたいのであれば、そういう小手先のことに走らず、きっちりとIRをし、余分なキャッシュをため込まず適正な投資をしたり自社株買いをしたりして株価を高め、健全な安定株主を増やすことで乗っ取り屋の意欲を削ぐことですね。
さらにいえば、乗っ取られるのがイヤなら上場なんかやめてしまえばいいんですよ。
「誰でも株を買ってください」
といって上場しておいて、
「特定の方には非売品です」
だなんて、どう考えてもおかしいですから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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