00063_敵対的買収防衛策の有効性

「敵対的買収防衛策」
と呼ばれるものですが、このスキームを売り込む側は、スキームの完全性・有効性を盛んに喧伝する傾向にあるようですが、売り込む側が言うほど完全で有効なものではない場合もあります。

かつて、ライブドアがニッポン放送を乗っ取ろうとしたとき、
「M&Aに詳しい」
はずのニッポン放送側の弁護士が、
「敵対的買収防衛策」
と称してフジテレビに対して露骨なまでに大量の新株予約権を発行したことがありました。

無論、この新株予約権発行ですが、
・導入提案した弁護士が絶対的に自信があったのか、
それとも、
・不完全性・欠陥性は十分承知していたが、他に方法がなく、窮余の策として採用せざるを得ない状況に陥ったが、交渉政策上「法的に問題はあるが、他に方法がないので、相手から突っ込まれないことを期待して、ダメ元でやってみました」とも言えないので、ハッタリ・カマシとして、厚顔無恥の誹りは覚悟で自信満々ぶりを演じた、
ということなのか、はっきりしないところがあります。

いずれにせよ、裁判ではライブドアに惨敗し、当該新株予約権発行は違法と判断されました。

裁判所で違法とされるような代物を
「敵対的買収防衛策」
などと言い切る大胆さも相当なものですが(小心者で度胸がない私には到底できません)、ここでリテラシーとして抑えておくべき重要な企業法務上の知見は、
「M&Aの専門家と称する弁護士等が提案する敵対的買収防衛策なるもののすべてが適法有効なものではなく、後に裁判所で違法とされるような代物がある」
という厳然たる事実です。

証券取引所や経済産業省あたりも買収防衛策の指針と名のつくものを発表していますが、この手の指針も、立法機関の制定した正式な法律ではなく、立法権限のない組織が得手勝手に作ってみた
「つぶやき」
程度の意味しかなく、裁判所になっても絶対完璧に有効性を認めてくれる完全無欠なルールであるとは認められません。

すなわち、日本では、法律の最終解釈権は裁判所が握っており、裁判所の下した判決やそこから合理的に推察されるルールが全てに優先します。

在野の弁護士や、決められたルールを執行する機関に過ぎない役所や組織が、何を言おうが勝手ですし、そういう人たちの言ったことを企業が信じるのも勝手ですが、法律の文理や判例理論に反するような行為はすべて違法と判断されることになります。

事前警告型の買収防衛策というのは、株を大量に買いたい者を、買い占められた側の企業が
「俺たちの質問に誠実に答えろ。答えないと、お前たちを乗っ取り屋と認定する」
と脅しつけ、独自の判断で
「乗っ取り屋」
と認定した後は、
「乗っ取り屋」
と認定した株主とそうでない株主を露骨に差別する、というようなものです。

要するに、特定の外国人を差別するのと同じ発想に基づくものであり、健全な法律家が冷静に判断すれば、株主平等原則に真っ向から反するとしか思えないような代物です。

だからといって、
「無駄で無意味だから、最初からそんなもの導入するのはやめとけ」
などという書生論を言うつもりはありません。

法的有効性はないとしても
「無断駐車は罰金50万円」
「入れ墨をした外国人は銭湯に来るな」
と書いておくと、萎縮効果で事実上無断駐車やタトゥーを入れた外国人の入湯者が少なくなるということもあります。

これと同様の効果を狙い、裁判で無効と判断されることは百も承知の上、この種の下品なお触れを出しておくことにもそれなりの意義があると思います 。

要するに、効果のほどをわきまえて導入し、ガチンコで争われた場合の脆弱性をリスクとして認識し、その場合の対処法も考えておいた上で、導入するならアリ、ということです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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