00064_企業法務ケーススタディ(No.0021):財務報告に係る内部統制報告制度(J-SOX)の導入

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ヒコマロン 原 義彦(はら よしひこ、41歳)

相談内容:
鐵丸先生、どーもー。
お蔭さまで、我が社洋菓子が好調で、株式公開準備も佳境に入って参りました。
とはいえ、先日、監査法人から
「内部統制しっかりしないと公開できないぞ」
と厳しくいわれたんです。
J-SOXとかいろいろおっしゃっていたのですが、会計士の先生も知ったかぶりしているような感じでした。
よく分からないので適当に聞き流していたら、最後に、
「最近、飲食業に対する取引所の目は厳しいから真剣に取り組んでください」
といわれ、コンサルティング会社やらシステム会社とかをご紹介いただきました。
ご紹介いただいたコンサルティング会社からは
「お前の会社は、経理もいい加減で、文書管理もなっていない。
年間500万円のコンサルティング契約をしろ。
しないと公開できないぞ」
って脅され、システム会社からは
「御社のIT環境は貧弱すぎます。
当社の、J-SOX法対応の一式3000万円のシステムをお買い上げいただいたら、もう安心。
これで、御社も、IT革命や!」
などといわれました。
だいぶ前になりましたが、個人情報保護法施行騒動のときには先生に
「とりあえず、ウィルス対策ソフトとシュレッダー買って、従業員と出入業者から誓約書取っておけば十分。
そのうち、こんなアホな騒動、すぐ鎮静化する」
とアドバイスいただき、無駄な費用を使わずに済みました。
今回の内部統制についてはどのように対応したらいいのでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:
2000年代に入り、米国のエンロン事件やワールドコム事件、日本の西武鉄道事件、カネボウ事件やライブドア事件など、公開企業の粉飾や有価証券報告書虚偽記載事件が多発しました。
また、粉飾以外にも、食品産業における賞味期限切れの食材利用等企業の存続に影響を及ぼしかねない不祥事も増えています。
そこで、
「会社内部の統制を強化させればこういう不祥事は減るはずだから、法律を作って強制的に内部の統制しっかりさせよう」
ということになりました。
アメリカでは、SOX法(サーベインズ・オクスレー法)により、公開企業に内部統制構築義務が課されました。
日本でも、新会社法で内部統制構築義務が定められたほか、金融商品取引法により公開企業に対して財務内容の信頼性確保にフォーカスした内部統制構築義務が定められるなど、アメリカに後追いする形で内部統制構築義務化が進められてきました。
会社法対応の内部統制については具体的なペナルティーはありませんが、金融商品取引法の内部統制については下手な対応をすると監査法人が意見を出さなかったりして上場廃止に追い込まれかねません。
そんなわけで、上場企業の間では
「内部統制への対応」
が喫緊の経営課題として取り沙汰されるに至ってます。
企業が内部統制を強化すること自体結構なことですが、J-SOX 法が登場した当時、内部統制が本質や実体とかけ離れて、誤った理解が広がりを見せ、
「内部統制バブル」
ともいうべき現象が発生したことがあります。
設例のとおり、個人情報保護法施行当時も
「個人情報保護法バブル」
ともいうべき状況が生じましたが、騒動に踊らされ、ゴミのような図書を多数買わされたり、無駄なコンサルティングを受けた企業もあったと思います。
内部統制についても、理解できていない監査法人の言うなりに踊らされたり、業者の口車に乗せられたりすると、無駄な費用を費やすことになります。
ちなみに、コンサルティング会社は財務や法務の専門家ではなく、法令対処課題に適切に対応できる公的保証があるわけではありませんし、内部統制構築を支援するための法令上の知見や解釈レベルの能力においてすら同様です。
J-SOX 法施行当初、
「IT ガバナンス」
という言葉が独り歩きして、ずいぶん盛り上がりましたが、同法において求められているのは
「IT 環境に適切に対応すること」
であって、
「高価なIT システムを構築すること」
が求められているわけではありません。
また、システム屋さんが企業会計審議会内部統制部会の最新の議論をフォローしているとは思えず、
「このシステムを買いさえすれば、J-SOX法完全対応」
等とうたうのは、宣伝文句ということを割り引いても、非常に問題があるといえます。

モデル助言:
会社法や金融商品取引法が、御社に対して具体的にどのような内部統制の構築を求めているかを把握しておくべきです。
今度、企業会計審議会内部統制部会が公表している基準等を役員の皆さんに詳しくレクチャーしますよ。
御社の場合、監査法人の担当会計士が不勉強で適当な話をしている可能性がありますね。
御社の問題点を具体的に指摘することなく、
「とりあえず、コンサル契約をしてシステム購入しとけ」
なんて助言はひどすぎます。
監査法人に対しては、
「当社のゴールは、御社から頂戴すべき統制監査報告書において無限定適正意見を頂戴することです。
その上で、現状の当社の内部統制について具体的にどのような問題があるか、企業会計審議会内部統制部会の基準に即してご指摘いただきたい」
という質問を投げかけ、具体的な回答をもらうべきです。
その上で、当該問題に対して、コンサルティングやシステム購入が有効と判断されればそういうものを買えばいいだけです。
いずれにせよ、今度、監査法人の担当会計士とのミーティングもセットしてください。
そこで、きっちりと議論して、必要十分な統制構築の範囲を決めてから実施しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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