00065_企業法務ケーススタディ(No.0022):公正証書作成が困難な場合に、確実な債務負担をさせるための手法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社岡村書店 店長 岡村 孝(おかむら たかし、38歳)

相談内容:
ご無沙汰しております。
岡村書店、岡村孝です。
いやー、また谷部にやられました。
当社が展開するグラビアアイドル写真集専門店
「めちゃめちゃ問題!」
の秋葉原5号店がこの間ようやくオープンさせていただいたんですわ。
この店は、びっくりカメラ秋葉原店の7階ワンフロアを使って展開するということで、当社古参の店舗開発部長の谷部に仕切らせたんです。
谷部は10年前に歌舞伎町風林会館前店の店長だった頃に、店の商品をヤクザに横流ししていた前歴のある奴なんですわ。
当時は、
「ヤクザに脅されまして、すんません」
とか泣いて謝ってましたが、後から調べたらパクッた金の一部をホステスに貢いどったり、結構小狡い奴なんですわ。
とはいえ、仕事はようできるし、その後は改心して頑張ってましたから、店舗開発のトップに立たせてやったら、また、これですわ。
調査したところによると、店舗設計とかいう名目で知人の会社に架空発注したり、写真集を横流ししたり、やりたい放題やっとったみたいで、損害は2千万円ほどです。
警察に突き出そうかと思ってますが、その前に損賠の話をきっちり詰めなあきません。
谷部自身はあまりカネを持っていませんが、親父は公務員で、それなりに収入はあるようですので、親父にも謝罪に来させます。
ただ、谷部は妙に知恵があって、10年前のときにも公正証書を作成しようとしたら、公証役場に行くことは頑として嫌がったくらいで、抵抗は予想されます。
とはいえ株式公開も控えているので裁判してまで身内の恥をさらしたくありません。
鐵丸先生、なんかいい方法ありませんか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:
一般的に手形というと、銀行に当座預金口座を作って、統一手形用紙が綴られた手形帳もらわないと発行できないと思われてる方も多いと思います。
しかし、手形法上
「手形は、金融機関の作った統一手形用紙を使って作成すべき」
などと書いてあるわけではなく、藁半紙に書こうが、紙ナプキンに書こうが、手形法に定める要件が記載している限り、手形としての効力が生じます。
すなわち、
「何時何時までに金いくらを払います」
という約束を記した手形を交付したら最後、どういう理由で作成したかを問わず、約束どおり、期限までに耳をそろえて支払いをなすべき義務が生じます。
手形の約束を反故したら、通常の民事訴訟のように和解手続きを含めチンタラ1年かけて裁判するのではなく、1回の期日で強制執行できる状態に持っていけます 。
公正証書(金銭の支払いに関するもの)は確定判決と同一の効果を有しますし、その意味で裁判外で作成するものとしては、最強の法的書面ですが、相手が公正証書に任意に応じることが前提となります。
すなわち、いかに公正証書作成の段取りを万全にしても、相手方がすっぽかしたり作成を拒否したりすると、公正証書の作成は不可能です。
本ケースの谷部のように、不正を追求した段階でしおらしくしていても、公正証書作成を嫌がり、公証役場で
「あっかんべー」
されると、どんなに段取りを充実させても、公正証書は永久に完成しません。
こういう場合に私製手形の活用が可能となります。
すなわち、不正を自白し、賠償義務を異議なく認めた場合に、こちらが用意した手形にすかさず署名させてしまえばいいのです。仮に難癖つけて支払を拒否するようなら、手形訴訟に持ち込んでしまえば難癖をすべて遮断して判決を得ることが可能となります。

モデル助言:
谷部はかなり知恵が回る人間ということですから、どんなに深々と謝罪しても、公正証書の作成には応じないでしょう。
谷部が御社の秘密を深く知る立場にあったということも考えると、裁判でどんな議論を展開しだすか読めません。
応訴に借口して、御社のとんでもない秘密を暴露する危険もあるので、御社が株式公開を控えていることも前提とすると、最初から裁判前提で追い込むことを考えるのも厳しいですね。
今回は、谷部と谷部の父を呼び付け、しおらしく謝罪し賠償を認めた状況において、詫び状と一緒に、私製手形に署名させましょう。
谷部を振出人とし、谷部父に裏書きさせた形にしておけば、手形法上、裏書人である父は自動的に谷部の連帯保証人となります。
谷部親子が支払いを拒むようであれば、谷部本人を無視して谷部父のみターゲットにして手形訴訟を提起しましょう。
谷部父は、御社の機密や内情を知る立場にありませんので、通常訴訟に移行してつまらぬ弁解を始めたところで、御社の内情が議論の対象になることはありませんから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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