企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
株式会社市原玩具 社長 小野 米助(おの よねすけ、58歳)
相談内容:
先生、大変ですよ。
パクられちゃいましたよ。
いえ、この前先生にもご紹介しました
「突撃シャモジくん」
のことなんですよ。
これは、ウチの常務、甥の米太朗のアイデアだったんですが、
「ママゴトが好きな女の子とメカが好きな男の子の両方へのウケ狙い」
ということで、ラジコンで動くシャモジ形ロボットを作ったんですよ。
ま、正直、私も絶対売れないと思ったんですが、昨年、冗談でシャモジくんの歌を作ってCMで流したら小学生の間でたちまち話題になり、商品もバカ売れし続け、当社の数年ぶりのヒット商品になったんです。
そうしたところ、大手の玩具メーカーが、ものすごく似た商品を売り始めたんですよ。
「隣のシャモジマン」
とかなんとか言うらしいんです。
ウチの商品は、木のシャモジをモチーフにしており、競合品はエンボス加工したプラスチックのシャモジをモチーフにしており、よくみれば違うといえば違いますが、明らかなパクリ製品。
実際、競合品のユーザーから当社のカスタマーサポートに何本も電話がかかってきたり、問屋さんから
「隣のシャモジマン1000個至急納品されたし」
なんて連絡来たり、当社は大混乱です。
大手食品メーカーの知的財産部出身の当社の総務部長は、
「意匠登録していないから、裁判したってムリですよ」
と、なんともつれない意見です。
これ、なんとかなりませんかね、先生。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:パクリ商品撃退にも使える、闇鍋・坩堝・雑食的法律インフラとしての「不正競争防止法」
原則論をふりかざせば、総務部長のおっしゃるとおりであり、こちらの商品も意匠登録しておくべきでしたということになります。
すなわち、意匠登録していれば、侵害の停止や予防のための措置、損害賠償請求に加え、謝罪広告等も求められたところです。
とはいえ、自動車なんかとは違い、おもちゃなんて突然どんな商品がどんなキッカケでヒットするかどうかわからないわけですから、長期の戦略にしたがって販売を取り組む主力商品でもない限り、逐一、意匠登録するなんて現実的ではありません。
すなわち、意匠制度は、登録費用や手間の負担があるため、おもちゃのように多品種少量生産品で、はやりすたりの激しい(商品ライフサイクルの短い)ものには、マッチしない制度です。
とはいえ、意匠登録をしていなければすべてのパクリ商品を黙ってみていなければならない、というわけではありません。
すなわち、不正競争防止法という法律があり、模倣品を売るような連中に対しては、この法律にもとづいてヤキを入れてやることができます。
今回のケースの場合、相手方は、市原玩具の販売する商品の形態を模倣して製造販売したものと考えられます。
不正競争防止法は、商品の最初に販売の日から3年は、当該商品の形態を保護しており、形態模倣をされた被害者は、差止請求、損害賠償請求が可能です。
さらに、平成17年改正に刑事罰も導入され、商品形態の保護が強化されております。
モデル助言:
ま、とりあえず、不正競争防止法の商品形態模倣を理由として相手方会社にヤキ入れできないか、検討してみましょう。
今回の模倣はデッドコピーというわけではありませんし、
「印象として似てるから」
というだけでは法的請求をおこなうには不十分です。
外観と内部構造双方において同一性を比較して模倣かどうかを検証しましょう。
2つの商品の外観を比較すると、
「木のシャモジ」
と
「プラスチックのシャモジ」
ということですから、
「実質的に同一の形態」
とはいえるでしょうね。
あとは、内部構造の比較ですが、動き方についてはこちらの商品の方がダサイ動き方で、競合品の方が優れているようです。
とはいえ、動力部の格納方法や動力の伝え方までほぼ同じですし、外観の形態の酷似性とも併せ考えると、法的には模倣と認定できそうですね。
相手方の出方にもよりますが、会社としての規模や商品人気の沸騰ぶりから考えると、相手方は弁護士費用には糸目をつけず争ってきそうですし、示談での解決は困難かもしれません。
即座に訴訟に移行することを見越して、十分な準備をしていった方がいいでしょう。
ある程度事件が進行すると、相手方からは競合品の販売を認めることを前提とした和解が申入れられるかもしれませんが、これは
「毒饅頭」
ですね。
相手方の規模を考えると、競合品の販売を認めたら最後、相手方の販売力に駆逐されてしまいますことは明らかです。
ま、腹を括って、ガチンコ勝負ですね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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