00087_企業法務ケーススタディ(No.0041):並行輸入品の修理を拒否したい!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社マッサル・バイク 社長 浜田 勝(はまだ まさる、35歳)

相談内容: 
当社が長期間かけてイタリア製レース自転車
「ハマ・グッチ」
の日本総販売代理店の権利を獲得し、5年前からディーラー網を整備してきたことは先生もご存じのことと思います。
ところが、昨年から、
「ハマ・グッチ」
の並行輸入品が出回るようになりました。
現在のところ、先生のご指導を受けて、当社が許諾を受けている
「ハマ・グッチ」
のロゴをネット上で勝手に使用している並行輸入業者に対して片っ端から内容証明郵便による通知書を送り付け圧力をかけています。
ま、こちらはこちらで効果が出ているようで、ネット上での大々的な並行輸入品販売は少なくなりました。
ところで、今、頭を悩ましているのは、並行輸入品の修理依頼なんです。
「ハマ・グッチ」自転車は、特殊な部品を使っていて、修理の際には、これら特注の部品を使用する必要があるのです。
無論、当社は、正規ディーラーとして、正規品を購入したお客様からの修理に対応すべく、全部品について常に一定量の在庫を持っています。
しかし、ウチとしては、
「並行輸入品を買った客の面倒まで見る必要なし」
という態度を貫いており、ユーザー登録していただいている正規販売品ユーザー以外の方からの持ち込み修理依頼は一切お断りしています。
そうしたところ、恐らく並行輸入業者が、裏で動いている嫌がらせだと思うのですが、昨年修理をお断りした並行輸入品ユーザーの方から、
「並行輸入品の修理拒否は、独占禁止法違反だ」
という内容証明郵便による通知を出してきたんです。
一体、何なんですか、これは。
こんな理屈がまかり通るんですか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:公正取引委員会は並行輸入をどうとらえているか
海外商品を輸入・販売する場合、一般的には、メーカーの現地法人や、メーカーと正規の販売契約を結んだ代理店によって、輸入・販売されます。
しかし、商品の内外価格差が大きい場合、本ケースのように他の業者や個人輸入代行等が海外から商品を直接輸入し販売するという方法が取られることがあります。
これは、複数の輸入ルートが並行することから、並行輸入といわれます。
並行輸入品は、その安い価格の代償として、返品や購入後のメンテナンスなど、アフターケアが不十分な場合があることはよく知られていますし、並行輸入品を買っておいて、正規代理店に持ち込んで修理を依頼しようなんて、随分図太い話です。
しかしながら、公正取引委員会としては、
「並行輸入品は価格競争を促進させる効果を有する」
との思想を有しており、その意味では並行輸入を保護するスタンスを取っております。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:並行輸入品のメンテナンス拒否
公正取引委員会としては、並行輸入を保護する観点から、
「並行輸入品を排除しようとする正規代理店」
サイドを厳しく取締まろうとしております。
そして、そのひとつの表れとして、公正取引委員会は
「正規代理店が並行輸入品をメンテナンス拒否など差別的に取り扱う場合、独占禁止法上違法となり得る」
などとしています。
すなわち、公正取引委員会が作成する流通取引慣行ガイドラインには、
「総代理店以外の者では並行輸入品の修理が著しく困難である場合において、正規品でないことのみを理由として修理拒否することは、正規品の価格維持のために行われている不公正な取引であり、一般指定15条に定める競争者に対する取引妨害として、違法」
であるという趣旨のことが書かれています(第3部第3―2(6))。
浜田さんのような正規ディーラーにとっては噴飯ものの話ですが、内容証明を出してきた並行輸入品ユーザーの言い分は、公正取引委員会の示す独禁法運用に則ったものであり、十分な法的根拠があるということになります。

モデル助言: 
公正取引委員会は、並行輸入業者や少しでも安く買いたい消費者の味方ですので、慎重に対応する必要があります。
とはいえ、原則には常に例外があるように、先程の公正取引委員会のルールにも例外があります。
公正取引委員会としても
「合理的理由があれば、正規代理店が並行輸入品の修理を拒否し得る」
としています。
具体的には、
「代理店の社内資源の制約上、自社販売品の修理対応だけで手いっぱいで、並行輸入品の修理の対応は現実問題としては困難である」
あるいは
「メーカーは、修理部品や修理マニュアルを海外ユーザー向けにも提供しており、並行輸入業者や個人ユーザーがこれらを入手して修理することは、面倒くさいが、困難というほどではない」
から
「修理を拒否するのは合理的理由に基づくもので独禁法違反ではない」
というロジックが成り立つような状況を整備しておくことでしょうね。
と言いますか、思い切って価格を下げるとか、正規品ユーザーならではの付属サービス特典を強化する(オーナークラブのサービス内容の充実)とか、商売面でガチンコ勝負し、価格競争・品質競争に勝って並行輸入業者をビジネス面で駆逐することを考えたほうがいいですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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