00089_企業法務ケーススタディ(No.0043):不良債権償却による節税の極意!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ドンダ化粧品 社長 鈍田 恵(どんだ けい、46歳)

相談内容: 
先生、んもうっ、どんだけぇー、って感じ。
実はね、友人で
「マスコ・ゴージャス」
ってふざけた名前の美容院を経営している益子ってヤツがいるんだけど、昨年5月に改装費用で3千万円貸したわけ。
当初の益子の話だと、既に銀行融資のめどが付いているらしく、
「つなぎでカネ貸してよ、オネエ様。
銀行ローンの手続きが終わってお金が入ったら、すぐ返すから。
改装工事の業者の人がさすがに待てない、ってせっつくのよ」
なんてことだったわけ。
ところが、夏が来ても、秋が来ても、うんともすんとも言ってこない。
さすがに年越えちゃいそうになったので、店に行ってみたら全然別の人間が別の名前の美容院やっている。
で、いろいろ調べたら、店の改装はして当初は順調だったらしいんだけど、新宿2丁目に出入りしている悪いのに入れ揚げちゃって、店のお金全部もっていかれたらしい。
後は、高利貸しに手を出して、転落人生。
益子を絞り上げても一銭も取れっこないし、警察に相談しても詐欺とかにはならないらしいし。
当社は今期絶好調で相当税金払わなければならないから、せめて、不良債権ってゆうことで償却したいわけ。
ウチの税理士さんは
「そんなの督促状出して、届かなかったら貸し倒れってことでいいよ」
なんて調子のいいこと言ってるけど、税務調査ではしょっちゅうヘマやっているし、なんか心配なっちゃって。
先生、大丈夫かな?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:債権の貸倒れについて
公開企業や公開に興味のない企業(要するに、税金の支払いを極力抑えたいと考えている非公開企業)においては、決算期末が近づき、当期に多くの利益の計上が見込まれると、何とかかんとか税務上認められた方法で損金を大きくして、無駄な税金を払わない方索を思案します。
損金計上による節税手法の中で、債権貸し倒れによる損金経理というものがあります。
債権の貸し倒れとは、借金や債権が踏み倒されたことを言いますが、法人税法基本通達では、法的な整理の開始に伴う債権の消滅や長期債務超過の状態に伴う債権放棄により債権が消滅したと認められる場合(通達9ー6ー1)や、債務者の資産状況、支払能力等から見てその全額が回収できないことが明らかになった場合(通達9ー6ー2)に損金経理を認めてくれます。
今回のケースでも、益子さんがお金を返さないのは、返したくてもスッテンテンになってしまってお金が返せないわけですから、無駄な回収努力を続けるよりも、貸し倒れに基づく損金経理をして、その分法人税の支払いを減らしたほうが容易かつ賢明な選択と言えます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:節税の規模に応じた税務対策
それでは、一体どこまでのことをすれば、税務当局として
「債務者の資産状況、支払能力等から見てその全額が回収できないことが明らかになった」
と認めてくれるのでしょうか。
もし、簡単に巨額の貸し倒れが認められるとすると、役員・家族・友人・知人にどんどんお金を貸し、片っ端から貸し倒れということにしてしまえば、寄付や賞与認定を免れる不当な脱税が横行することとなります。
とはいえ、夜逃げした零細業者に対する数十万円の債権にまで、逐一面倒くさい手続きを要求されたらたまったもんじゃありません。
つまるところ、税務当局をしかるべき形で納得させる状況を作っておくべきというほかなく、現実には
「損金処理を考えている債権額の規模に比例して、適正と考えられる、回収行動や債務者の資産状況検証を行う」
ということが推奨されます。
設例のケースですと、3千万円という規模の大きい債権で、しかも貸し付け年度内に貸し倒れたことにするわけですから、単に、
「夜逃げしたようです。
督促状が届きません」
というだけでは、税務当局が損金経理を認めてくれない可能性もあります。

モデル助言:
ま、一番いいのは、益子さんに、破産とか民事再生とか、きちんとした法的整理の手続きを取ってもらうことでしょうね。
とはいえ、事実上夜逃げしちゃっている状況であれば、そもそも連絡が取れないでしょうし、弁護士を雇うカネすらないかもしれません。
また、破産者扱いを嫌がる場合も考えられます。
益子さんの協力なく、こちらの都合だけで進められる方法としては、とにかく、訴訟提起をして、欠席判決でも何でもいいから、まず判決を取ることです。判決をもらったら、相手方会社本店近くの金融機関の口座を片っ端から差し押さえ、また、会社本店に動産執行をやりましょう。
どうせ、金融機関の口座は空っぽで、会社本店も既に第三者の名義になっていて、執行なんかできっこありませんが、これはこれでいいんです。
お金を回収することが目的ではなく、合理的回収行動をしたことと、益子さんの会社に財産がないことを、裁判所という国の別の機関からお墨付きをもらうことが目的なわけですから。
ここまでやっておけば、これだけの額の債権とはいえ、税務当局としても期中貸し倒れによる損金経理を認めてくれるでしょう。
いずれにせよ、期末が近づいていますから、早急に着手しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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