00111_企業法務ケーススタディ(No.0065):業務委託契約相手のすり変わりにご用心

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
京阪神電鉄株式会社ホテル 事業部担当取締役 渡辺 亜斗夢(わたなべ あとむ、39歳)

相談内容: 
昨今の景気低迷の影響もあり、ウチのようなぱっとしない電鉄系ホテルグループは、生き残るのが大変です。
お客様のアンケート等をみても、
「洗練されていない」
「カタい」
「つまんない」
と散々な評価で、正直、限界を感じておりました。
そんな中、昨年秋頃に世界的ホテルチェーンのピンドン・ホテル・グループ(ピンドン・グループ)から、
「日本進出を考えているが、自社でホテルを建築するのはコスト的に無理なので、御社のホテルのマネジメントを受託する形で進出したい」
というオファーが舞い込んできました。
社長は非常に前向きで、話はトントン拍子に進みましたが、今年に入ってイヤな噂を耳にしたんです。
ピンドン・グループは、地味で客足の悪いホテルを、プロパティ・オ-ナーの経費をふんだんにつぎ込んで大々的な改装や宣伝を行って一見ホテルを建て直したように見せ掛け、その後即座に、マネジメントの権利を高値で第三者に売り抜けるという
「焼き畑農業」
のようなことをしているとのことなんです。
当社としては、そんなことをされても困りますし何とも不安なのですが、この話に乗り気な社長は、
「結婚した後、旦那が知らない間にいつの間にか女房が入れ替わるか!
それと同じで、業務提携をしておいて、肝心の提携相手が別の会社になるなんてことがあるはずがない。
常識で考えてみろ。
つまらん話をして水を差すな」
という態度で、基本的に先方の言うなりに交渉が進んでしまっています。
私が心配しすぎなんでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約上の地位の譲渡
設例のケースのような契約上の地位の譲渡については、一般に他方当事者の承諾が必要とされており、基本的には、社長のおっしゃるとおりで、ピンドン・グループが勝手に業務提携契約を第三者に売ることは困難です。
しかしながら、方法を工夫すれば、京阪神側の承諾なくして、ピンドン・グループがホテル・マネジメントの権利を売却することは可能です。
例えば、ピンドン・グループが京阪神電鉄保有ホテルの運営を受託するための100%出資会社を設立し、京阪神電鉄との運営受託主体を当該子会社として、業務受託契約を締結します。
そして、マネジメントが軌道に乗った段階で、当該子会社の株式全部を第三者に売却してしまえばいいのです。
自社で保有する当該子会社の株を誰に売ろうがピンドン・グループ側の自由ですし、株主に移動があっても京阪神電鉄との契約当事者が当該子会社であることに何ら変わりはありませんので、京阪神電鉄としては一切文句が言えません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:東京ヒルトン事件
事例はやや異なりますが、設例のような事件が裁判で争われたことがあります。
ヒルトングループが、東急グループとの間で業務委託契約を締結したのですが、その後、ヒルトン側が当該契約当事者の地位を東急グループに無断で譲渡したため、
「契約上の当事者たる地位」
の譲渡の有効性等が争われました。
東京地方裁判所は、東急グループに無断で行われた
「契約上の当事者たる地位」
の譲渡を有効と判断しました。
事件自体は非常に込み入った事情があるため、当該裁判例を判例法理として一般化するのは困難ですが、少なくとも、
「業務委託契約が、一方当事者の同意なく、突然第三者に売り渡されることがある」
という事態をリスクとして想定し、契約上の手当てをしておくことは重要です。
特に、グローバルに展開する海千山千の企業との契約では、道義や仁義もなく、
「契約に定めなきことはすべて自由にやっていいこと」
という単純なルールが支配しますので、想定されるリスクはきちんと文書で予防しておくことが推奨されます。

モデル助言: 
ま、ピンドン・グループと言えば、短期間で急成長し、世界規模に展開している企業グループとして有名であり、営利・功利に徹底した海千山千の商売人です。
渡辺さんが耳にした噂については、真偽如何にかかわりなく、リスクとして認識し、契約上の予防措置を講じておくべきですね。
まず、相手が業務受託に当たって改装を要求してくるのであれば、その一部を相手方に負担させるとともに、上限予算を明確にしておくべきですね。
あと、設計業者や施工業者を選定する権利を京阪神電鉄側が留保しておくべきです。
でないと、ピンドン・グループの息のかかった業者に好き放題ふっかけられかねません。
ピンドン・グループが京阪神電鉄からのホテル運営を受託するに際して、専用の会社を設立するのであれば、その会社のガバナンスに目を光らせるべく、京阪神電鉄も出資参加・役員派遣を要求すべきですね。
最後に、ご懸念の契約上の地位の譲渡ですが、
「契約上の地位の譲渡」

「丸投げ行為(再委託)」
を業務受託契約上明確に禁止しておくとともに、子会社を株ごと売り払うことを予防するために、チェンジ・オブ・コントロール(チェンジ・イン・コントロール)条項、すなわち
「受託会社の株主その他同社を実質的に支配する者が変更したときは、京阪神電鉄はいつでも契約を解除できる」
という条項も入れておくべきしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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