00112_企業法務ケーススタディ(No.0066):内部通報の放置・もみ消しはNG!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
浦川銀行 内部監査室室長 大和 裕之(やまと ひろゆき、64歳)

相談内容: 
先生、ご無沙汰しております。
当行は、昨年来、頭取の浦川雅彦の指揮の下、役員や従業員の不正を通報する窓口として、当行内部監査室内に内部通報窓口を設置し、私がその責任者となりました。
とは言っても、その実は、窓際族と言われて久しい私の定年前の花道のためにわざわざ設置したような部署ですので、本当に内部通報があった時に、きちんと対応できるかどうかとても心配していたところです。
そんなある日、当行融資課の担当者から、頭取が中心となって行われた暴力団関係者に対する不正な無担保融資をの件について、調査を求める内容の通報がありました。
実際に通報があったのは初めてでしたので、この通報にどう対処すべきかと、頭取に相談に行ったところ、頭取はとてもバツの悪そうな顔をしながら、
「そんなくだらん話、ウソに決まっておるだろう。銀行員というものは高度の守秘義務を負っておるんだし、どうせ誰にも相談できずに勝手に収まるわ。ほっておけ」
という態度で、私も何ともしようがなく、この通報は放置しておきました。
それから1ヶ月後、頭取の不正を通報した当行担当者がマスコミにリークし、当行と暴力団関係者との関係が新聞にすっぱ抜かれてしまったんです。
頭取はカンカンに怒って、
「就業規則で顧客の情報について守秘義務を負っている従業員が機密を漏らしたんだろ。就業規則違反でそいつをスグにクビにしろ」
と言うんです。
通報を放置したのは悪かったですが、銀行員が守秘義務に違反するというのはそれ以上にいけないことですから、今回は、コイツをクビにしてしまっていいですよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:公益通報者保護法の趣旨
2006(平成18)年4月1日に施行された公益通報者保護法は、公益目的で企業内部の非違行為を外部公表した従業員(公益通報者)を企業が不当に解雇することを禁じています。
この法律は、公益通報者を企業の報復的な解雇から保護することにより、従業員等が、解雇などの不利益を恐れずに企業の内部の不正等を通報することを可能としていますが、この法制度により、企業内で発生した問題が重篤化する前に早期に是正されるべきことが期待されています。
例えば、
「基準値以上の毒性を含む廃液を排出している工場がある場合、重篤な公害問題に発展する前の段階で通報を行う機会が保護されていれば、初期の段階で公害対策に取り組むことが可能となり、国民の健康を守ることができる」
といったものが公益通報者保護法の意図するところといわれています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:内部通報と外部通報
公益通報者保護法は、
「従業員等が、企業が設置した内部通報窓口等に通報すること」
を保護するだけではありません。
せっかく通報者が公益通報をしたにもかかわらず、一定の期間が経過しても通報先が何の調査も行わないような場合などには、通報者が
「その者に対し通報対象事実を通報することがその発生、またはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」
に通報することを認めています。
要するに、企業内部の通報窓口に通報しても放置されたり、取り合ってくれなかったりした場合、
「企業の不正等により発生する被害やその拡大を防止するための一定の影響力を有する者」、
すなわちマスコミや政治家や圧力団体等に駆け込んで、企業内部の不正をベラベラしゃべっても問題ない、と法が積極的に認めているのです(これらを「内部通報」に対し、「外部通報」と呼ばれております。公益通報者保護法3条3号等)。
無論、法は
「外部通報を行ったことを理由とする解雇」
も禁止することで厚い保護を図っております。
なお、通報先が何の調査も行わない場合のほか、通報先から解雇などの不利益な扱いを受ける可能性が高い場合や、証拠の隠滅がされてしまうなどの危険性が高い場合には、即刻
「外部通報」
することも許されています。

モデル助言: 
浦川銀行の場合、せっかく内部通報センターを設置したものの、形だけのもので、しかも、法律上の期間内(20日以内)に、適切な調査をしなかったというのですから、外部のマスコミに通報されても文句は言えませんね。
名目上は就業規則違反であったとしても、このような
「外部通報」
を行ったことを理由に解雇した場合、当該解雇の無効を巡って労働訴訟や労働審判を起されたり、また、労働組合から団体交渉を求められるなど、争議に発展する可能性もあります。
とにかく解雇は難しいと思ってください。
今後は、内部通報に対し、一つひとつ誠実に対応することを心掛けなければなりません。
経営者の指示で
「もみ消す」
など、外部へのタレコミを促すようなもので、有害無益です。
内部通報窓口が企業の
「内部」
にあっては、経営者の干渉を完全に排除した対応を行うことができない場合もありますので、内部通報窓口を
「社外」
に設置することも検討すべきでしょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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