00119_企業法務ケーススタディ(No.0073):消費者団体からの差止通知への対応

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
木村絨毯株式会社 社長 木村 銀治(きむら ぎんじ、33歳)

相談内容: 
うちの会社が昨年売り出した「健康絨毯」という商品名のカーペットなんですが、当社の営業部の者が
「お肌に優しく、毛玉が立たない、ペルシャ猫のような魔法の絨毯!」
っていういい加減なキャッチコピーを考え出し、これで営業を始めたら、世間のおばあちゃんたちに大ウケして、売上もぐんぐん上がったんです。
もちろん、ただの化繊絨毯ですし、ペルシャ絨毯というわけでもありませんので後で問題にならないように、包装のすみに
「本商品はペルシャ絨毯ではありません」
って小さく書いておきました。
確かに、買った後でクレームがきたことはありましたけど、ウチも面倒は嫌なので、クレーム言ってきたところにはその都度返金して対応しています。
そしたら、「内閣総理大臣認定消費者団体 悪徳企業排除機構」っていう、おっかなそうな名前の団体から通知書が届いて
「ペルシャ絨毯ではないタダの化繊の絨毯を、ペルシャ絨毯と偽って消費者に売りつける行為を1週間以内にやめよ。
さもなくば訴えを提起する」
と言ってきました。
5~6年前に先生にお世話になった事件の際には、確か、
「消費者団体は原告になれないし、ほっとけばいい」
というアドバイスを受けて、ほっておいたら、そのうち鎮静化しましたが、今回も適当にあしらっておけば大丈夫ですよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:民事訴訟における当事者とは
民事訴訟においては、争いを解決するための手段である
「判決」
に実効性を持たせるために、自分の権利の実現を求める者本人が
「原告」
となり訴えを起こす必要があります。
すなわち、可哀そうで見ていられないという理由で、見ず知らずの第三者が
「原告」
となり、民事訴訟を提起するということは原則としてできません。
民事訴訟法においては、これを
「当事者適格」
と言い、民事訴訟を適法に進めるための条件のひとつとされていますので、当事者適格を有さない者が
「原告」
となったり、当事者適格を有さない者を
「被告」
として訴訟を提起した場合、当該訴訟は、不適法なものとして
「却下」
されることになるのが原則です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:消費者団体訴訟制度
しかしながら、社会的強者である企業と社会的弱者である消費者との格差が顕著となった現代社会において、このような民事訴訟上の原理原則を形式的に貫くことによる不都合が生じました。
すなわち、企業などが消費者契約法に違反する営業行為を行い、これによって被害を受けた個々の消費者が個別に解決を図ろうとしても、情報力や交渉力に圧倒的な差があるため、また、このような営業行為の被害者となる消費者にはお年寄りなど、訴訟遂行費用すら賄えない社会的弱者が多いということもあり、泣き寝入りしてしまうケースが常態化したのです。
そこで、法改正により、消費者問題に関し、当事者適格に対する例外が設けられるようになりました。
これが、消費者契約法に基づき設けられた消費者団体訴訟制度と呼ばれるものです。
この制度は、消費者全体の利益を守ることを目的として、
「消費者のことをよく理解し、利益を代弁することが客観的に期待でき、かつ、組織的にも堅実と認定された消費者団体」
に対し、
(1)消費者契約法に違反する営業行為に対して、書面にてそのような営業行為をやめるよう請求する権利と、
(2)当該書面でも是正されない場合に、民事訴訟の例外として、消費者に代わって、消費者契約法に違反する営業行為をやめることを求めて訴えを提起する権利を、
それぞれ付与しているのです。

モデル助言: 
確かに、法改正前までは、企業としては、個々の消費者の情報力、経済力、交渉力などを甘く見て、あまり真剣に対応せず、また、消費者団体から苦情申入れなどがきても、どうせ、当事者適格もないから訴えも提起できないだろうとタカをくくった対応がなされてきました。
しかしながら、この消費者団体訴訟制度が導入され、個々の消費者とは異なる、知識と専門性を有する強力な団体組織に、消費者契約法に違反する営業行為を是正するための有効な手段が付与されるようになり、これまでの企業の姿勢に牽制が加えられるようになったのです。
もちろん、事前の通知もなく、いきなり訴えを提起されるということはありません。
ですが、違反行為の是正を求める旨の書面が届いた場合には、事態を甘くみることなく、まず、事実の有無に関する徹底した社内調査を行うとともに、適格消費者団体と誠実な話し合いをして妥協点を見いだす努力をすべきと考えますし、法律上も、まずは企業と消費者団体との話し合いによる解決を推奨しています。
逆に、いい加減な態度で放置した場合、訴えを提起されて営業行為を差し止められ予想以上の大きなダメージを被る可能性もありますし、それ以上に報道等を通じて企業イメージの低下や顧客離れといったリスクが発生しかねませんので、慎重に対応すべきでしょうね。
とにかく、これまでのようなナメた対応を取らないようにしてください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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