企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
松竹梅食品株式会社 営業部長 蟻野 晋也(ありの しんや、39歳)
相談内容:
ちょっと前まで、アメリカのCMを勉強しに、アメリカに出張していたんですよ。
勉強になることばかりだったんですけど、一番驚いたのが、アメリカでは、商品のCMなんかで、他社製品によく似た映像を堂々と流して自社製品と比較したり、
「あなたはそれでも○○を選びますか。
それよりも△△をどうぞ!」
といったように、具体的な他社製品との比較を宣伝に利用したりしているんですね。
やっぱ、アメリカって国は自由の国ですよね。
さっそく、出張の成果を社長に伝えたら、よし、うちもやるぞってことになって、うちの主力商品のレトルト食品
「松竹梅カレー」
と、ライバルのナンバ食品株式会社の
「ナンバ・グランドカレー(NGカレー)」
を比較した広告を作ろう、ってことになったんです。
でも、正直なところ、カレーの味なんてそんなに変わるもんじゃないし、どうせやるなら、消費者が
「オッ」
思ってくれないと意味ないじゃないですか。
それで、社内で知恵をしぼった揚げ句、
「安いだけのカレーを食べると脂肪が増えてNG。
松竹梅カレーを食べてみんなもスリムになろう」
ってキャッチコピーにしようということになったんです。
そしたら、これが、大当たりして、
「松竹梅カレー」
の売上はぐんぐんのびて、社長は大喜びです。
ところが、先日、ナンバ食品の顧問弁護士から、
「貴社のキャッチコピーは、当社のNGカレーについて、虚偽の事実を流布している。
キャッチコピーの使用を直ちに中止するとともに、損害賠償として1億円を支払え」
って内容のごつい文書が届いたんです。
たかだが、キャッチコピーぐらいで目くじらたてて、まったくジョークがわからない会社なんだから困りますよね。
ホントに。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:比較広告と景表法
日本では、憲法21条で表現の自由が保障されていることもあり、名誉棄損罪や侮辱罪といった犯罪に該当する場合を別として、キャッチコピーにどのような文句を使用したとしても、使用差し止めや損害賠償を請求されるいわれはないとも考えられます。
しかしながら、景表法(景品表示法)第4条は、
「自己の供給する商品等の内容や取引条件について、実際のものまたは競争事業者のものよりも、著しく優良または有利であると一般消費者に誤認される表示」
を不当表示として禁止し、公正取引委員会は、これに違反する行為の差し止めなどの命令を行うことができると規定しております。
この規定ゆえ、日本では、長年、競合する他社商品と比較して自社商品の優位性をアピールするいわゆる比較広告の手法については忌避されてきました。
しかしながら、昭和62年4月21日に公表された公正取引委員会の比較広告に関するガイドラインにより、
1 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
2 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
3 比較の方法が公正であること
といった3つの要件を満たすことを条件として、行政解釈により、比較広告が許容されるようになりました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:比較広告と不正競争防止法との関係
ところで、不正競争防止法2条1項14号は、前記景品表示法とは別個に、
「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為」
を不正競争と定義し、被害者は、違反者に対しては当該行為の差し止めや損害賠償を求めうるものとしています。
これは、
「虚偽の事実を告げるなどして他社(商品を含む)の信用を害する営業行為は自由競争としての保護に値しない」
との趣旨によるもので、景表法がBtoC規制とすれば、本規定はBtoC規制として、別個に規律されるべきものです。
最近でも、
「ある企業の自社商品の説明会などで他社商品の材質や品質に関し虚偽の事実を告げて自社商品をアピールした行為」
が、不正競争防止法2条1項14号に該当するとして、東京地裁は、当該行為の差し止めと損害賠償の一部が認容するとともに、信用回復措置として当該説明会に出席した業者に対する訂正文の送付などを命じました。
モデル助言:
松竹梅食品株式会社の場合も、前記のキャッチコピーのうち、
「NGカレーを食べると脂肪が増えてNG」
との部分については、そもそも、客観的に実証されたデータが存在するのかどうか不明ですし、同じレトルトカレー食品である
「松竹梅カレー」
と
「その他のカレー」
との間に、材料や成分に顕著な違いがあるのかすら怪しいところです。
もとより、
「比較」
とは、
「2つ以上のものを互いにくらべ合わせること(小学館『大辞泉』)」
ですので、松竹梅食品株式会社は、前記のキャッチコピーを使用する前に、きちんと両者の含有成分や効果を検証しなければなりませんが、どうせ、そんな面倒臭いプロセスも経ずに、適当に考えたキャッチコピーなんでしょう。
まぁ、1億円という損害賠償については半分牽制でしょうし、こちらは適当にあしらってうやむやにするとして、大至急、キャッチコピーを変更することをお薦めします。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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