00132_企業法務ケーススタディ(No.0086):会計検査院が襲来した!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
シュール・ゲイ&スベール証券株式会社 COO 深井亮(ふかい りょう、35歳)

相談内容: 
リーマンショック以来、ウチの会社も、個人の有価証券取引が冷え込んじゃって、大変ですよ。
そうそう、それでなんですが、ちょっとやっかいな話がありまして。
一昨年、高校時代からの友人で、独立行政法人で退職積立金の運用責任者やっている山崎って奴から
「ウチの退職積立金を運用してみないか」
って相談があったんです。
まぁ、おカタい法人らしくて、あまりハイリスクの投資はできないから手数料なんかはそんなに稼げないんですけど、金額もそれなりに大きかったから、喜んで引き受けさせてもらったんです。
そしたら、例のリーマンショックですよ。
投資先として組み入れたところがポシャって、元本が欠けちゃった。
そうしたら、山崎、パニックになって
「なんとか取り戻せ。
オレをクビにする気か!」
なんて言い出す。
仕方がないから、当初の運用ポリシーに抵触するリスクのある投資を提案したら、山崎は
「契約はオレが口頭で許可する。
イチイチ文書巻きなおすと3カ月かかる。
とにかくやってくれ」
と必死になって頼むんで、やってはみたものの、これもダメで、結局、また損が増えちゃった。
悪いことしたなあ、なんて思ってたら、昨日、いきなり、灰色のスーツを着てしかめっ面をした連中がウチの会社にやってきて、
「御用だ、御用だ。会計検査院だ。独立行政法人との取引に関する帳簿を一切合切提出しろ。
拒むようなら強制的に持っていくぞ。問題があったら、ただちに刑事告発するからな。覚悟しとけ」
なんて言い出すんです。
とりあえず、
「責任者の深井は、具合悪くなって早退して病院に行った」
ことにして、お帰りいただきました。
どうなんですかね?
私、牢屋に行くんですかね?
もう怖くて怖くて。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会計検査院法の改正
日本国憲法第90条は
「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない」
と規定しており、これを受けた会計検査院法第20条は
「会計検査院は、日本国憲法第90条の規定により国の収入支出の決算の検査を行うほか、法律に定める会計の検査を行う」
と規定しております。
このように、国の会計が会計検査院検査の対象となるのはもちろんですが、会計検査院法は、会計検査院が必要と認めるときには、
「国が直接又は間接に補助金、奨励金、助成金等を交付し又は貸付金、損失補償等の財政援助を与えているものの会計(例:日本放送協会の会計)」
「国が資本金の一部を出資しているものの会計(例:日本郵政株式会社の会計)」
なども検査ができる旨を定めております。
さらに、平成17年の会計検査院法の改正で、
「国もしくは国が資本金の二分の一以上を出資している法人の工事その他の役務の請負人もしくは事務もしくは業務の受託者又は国等に対する物品の納入者のその契約に関する会計」、
すなわち、国などに対し、業務サービスなどを提供する業者や、備品などを納入する業者などの会計内容に対しても検査を行えるようになりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:会計検査院による検査方法
前記改正により、会計検査院の検査は、官庁などに出入りする文具品などの納入業者らにも及ぶこととなり、会計検査にとっては検査遂行上、大きな武器を手に入れることになりました。
会計検査院は、会計検査院法に基づき、会計検査院の検査を受けるものに対し、帳簿、書類その他の資料若しくは報告の提出を求めたり、関係者に質問したり、出頭を求めることができますし、必要な場合には会計検査院の職員を派遣して、実地検査をすることもできます。
会計検査院の検査を受けるものは、このような検査に対し、
「これに応じなければならない(会計検査院法25条、26条)」
とされております。
しかし、会計検査院は捜査機関ではありませんので、捜索や差押さえといった強制捜査はできません。
また、検査に従わなかったとしても罰則が課されるわけではありませんので、不必要な検査や過剰な検査に関しては、きちんとした理由を述べてお断りすることも不可能ではありません。

モデル助言: 
当該独立行政法人が、国から補助金をもらっていたり、国から資本金の一部を出していたりしている場合、その取引先である御社も、会計検査院法上の会計検査の対象となります。
もっとも、前記のように、会計検査院には強制の捜査権限があるわけではありませんし、脅しつけるような検査手法はそれ自体大きな問題です。
「拒むようなら強制的に持っていくぞ」
「告発するから覚悟しておけ」
などと発言していたのなら、これは大きな問題ですので、この点はキチンと釈明させるべきですし、場合によっては、正式な苦情申入れも検討すべきです。
まあ、
「威嚇されっ放し」
というのもケッタクソ悪いので、会計検査院長宛に苦情の内容証明でも送りつけ、反撃し牽制しつつ、調査手法をソフトなものに変更させましょう。
あとは、適切な落とし所をさぐりながら、話をうまく丸めて行きましょうかねぇ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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