企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
株式会社ビバリーヒルズ青春出版社 難儀 隆志(なんぎ たかし、37歳)
相談内容:
今度、ウチの会社で、懐かしの青春モノドラマを集めたDVDボックスシリーズを発売する企画が進行していてですね、これ、今のタイミングだったら、実現すると間違いなくドーンと売れるちゅうわけですよ。
これで悲願の上場にも1歩近づくんですわ!
この企画には資金が2億円ほどすぐにでも必要で、株主たちに追加増資をお願いしたのですが、
「支援したいが、この不況の中、手元不如意でお役にたてへん」
と増資には応じてくれません。
それでも、
「新株予約権という形であれば、今すぐに支配比率が薄まるわけでもないから、既存の株主以外の投資家たちに発行していい。
詳細は社長に任せる」
とゆうてもらいました。
ウチに出入りしている証券会社OBのコンサルタントに相談したところ、
「新株予約権やったら、会社が傾いたら権利行使せんとほっときゃいいだけで、投資家の方も株そのものを引き受けるよりリスクが少ないし、小銭持ってそうなヤツをギョーサン集めるにはもってこいやないか」
ゆうてます。
取りあえず、役員や従業員の親戚とか知り合いとか、とにかくこの話に乗りそうな山っ気のある連中を片っ端からかき集めて、新株予約権を発行してしのいどこか、ゆう話になってますねん。
ゆうても、証券を売るんで、証券取引法にも気はつけんとあかんわと思うとるんですが、法務のことも担当やらせてる信用金庫OBの役員は、
「当社は未公開会社やから、金融商品取引法なんて関係おまへん。登記だけ気ぃつけとけば何も問題ありませんわ。あーはははは」
ゆうて気にしてない感じなんですわ。
でも、いつやったか、増資したときに登記すんのも忘れてたくらいアバウトなヤツなんで、心配ですわ。
先生、ウチみたいな非公開会社やったら、証券取引法とか一切無視しといて、バンバン新株予約権発行しても問題ないゆうことでええでっしゃろか?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:金融商品取引法(金商法)
まず、従来の
「証券取引法」
は2007年改正により
「金融商品取引法(以下、「金商法」)」
という新しい法律に生まれ変わって施行されています。
金商法は、金融市場における取引が適切な情報に基づき公正に行われるようにするため、金融市場というインフラを用いる企業に厳格な情報開示を求めています。
金商法は、
「金融市場というインフラを用いる企業」
すなわち株式公開企業を主な規制の対象とし、当該企業に適切な情報を開示することを要求しています。
株式公開企業にとっては、金商法違反を犯すと刑事罰・行政処分に加え上場廃止というペナルティーが課される可能性があることから、金商法は
「“御家おとり潰し(=上場廃止)”にならないようにすべき、死んでも守るべき法律」
として重要視されています。
この意味では、
「当社は未公開会社やから、金融商品取引法なんて関係おまへん」
という法務担当役員の発言は、一見正しいようにも思えます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:未公開会社にも適用される金商法
とはいえ、金商法は、
「上場会社向けに限って適用され、株式を公開していない会社には一切適用されない」
というものではありません。
金融商品取引法は、個人投資家等を保護するため、金融商品について幅広く横断的なルールを規定する法律でもあり、すべての会社が発行できる株式の取引を規制しているため、一定規模以上の非公開会社の増資や新株予約権発行に関しても規制を及ぼします。
すなわち、未公開会社であっても、発行価格の総額が1千万円を超え、かつ、50名以上の者を相手方として、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を行う場合などには、有価証券通知書や、有価証券届出書の提出をすることが義務づけられる場合があります。
モデル助言:
法務担当役員の方のおっしゃるとおり、一般的には、
「未公開会社は会社法だけ考えておけばよく、金商法は公開会社や市場で社債を発行するような会社だけが気をつければよい」
と考えられております。
しかしながら、金商法をよく読んでもらえばご理解いただけるとおり、金商法は、上場・未上場問わず、金融商品取引に関する規制を広く行っており、未上場会社でも一定規模の増資等には規制が頭をもたげてきますから、よく注意しておく必要があります。
今回の場合、2億円という調達規模で新株予約権証券を発行するため、かなりの数の方々に対して勧誘をするとのことですので、
「有価証券届出書」
を提出すべき可能性が出てきます。
この手続を怠ったまま勧誘を行うと、金商法違反となって、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が課されるリスクもありますが、それ以上に、金商法違反でミソをつけると株式公開(IPO)が永遠に出来なくなる可能性もありますので、IPOを目指される以上、軽微なルール違反も厳禁ですよ。
コンプライアンス体制を整えるまで、当面、今回の勧誘を中止するように、ストップをかけてください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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