企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
ワンタッチャブル株式会社 社長 大山崎 大成(おおまやざき ひろなり、34歳)
相談内容:
あざ〜っす!
今度当社で新しくやっちまおうとしているのが、究極のネット通販なんです。
ネット通販とかやっていると、ショッピングカートとか何回も出てくるじゃないですか!
もう、いいーつぅーの!
買うのわかってんだから!
って、いいたくなりません?
で、考えたのは、5分以上見ていると、自動で知らない間に注文しちゃってるっ、っていう画期的な仕組なんです。
もう、ショッピングカートとか面倒くさいもの使わないで、欲しいものがたちまち、バンバン買えちゃう通販システムです。
すごいでしょ。
ところがね~、なんていいましたっけ?
特商法?
よく分からないんですが、通販やる上ではそういう規制があるって聞きまして、慎重にいきたいわけなんですよ~。
で、当社の法務部長に調べさせているんですが、
「今回のネット通販の仕組は、特定商取引法14条、同法施行規則16条の『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』としてNGのような気がしますが、でも、確認画面もあるし、キャンセルもできるし、どっちともいえません」
なんて言い出して、はっきりしないんです。
当社も安穏としてられるような状況じゃないですし、できる限りアグレッシブな営業戦略を取りたいんですが、他方で営業停止とかなんてされちゃったら大変ですから、もうどうすればいいのか全然分かんなくって・・・。
あ~、考えてたら胃が痛くなってきた。
こういうのって、どっかちゃんとしたところからお墨付きとかもらえないもんなんでしょうか?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:新規事業の立ち上げ
企業が新規事業を検討する際、
「いかに儲けるか」
という積極的な検討課題とともに、
「儲ける仕組が法律によって禁止されていないか」
という保守的な検討課題が必ずつきまといます。
「これって、なんか儲かりそう!」
という魅力的な事業であればあるほど、企業が行き過ぎた営利活動に突っ走らないように、必ず周到に規制の壁が用意されているものです。
このようなことから、新規事業の立ち上げに際しては、法令適合性を事前に調査する作業が非常に重要となります。
この作業において、企業は2つの問題にぶつかります。
ひとつは
「新規事業に関連する規制法令と該当条文を漏れなく全部ピックアップできるか」
という問題(法的リスクアセスメントの問題)、もうひとつは
「当該新規事業について、ピックアップした法令や条文に違反することがないかを正確に見極められるか」
という問題です(規制解釈の問題)。
法的リスクアセスメントは
「星の数ほど存在する法令から、特定の事業に関係するものを漏れなく抜き出す」
わけですから、これ自体相当大変です。
ところがさらにやっかいなのが、見つけ出した規制をどう解釈するかという問題です。
設例のケースの場合、ショッピングカート機能を省略したネット通販システムが
「意に反して契約の申込みをさせようとする行為」
に該当するか否かという判断をしなければなりませんが、必ずしも白黒がはっきりするわけではなく、極めて微妙な判断とならざるを得ません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:ノーアクションレター制度
ビジネススキームが法令に違反するのかどうかが判断できないような状況であるにもかかわらず、これを確認する手段が一切存在しないとすれば、企業は法令違反を必要以上に恐れてしまい(萎縮効果)、積極的な経済活動が阻害されかねません。
こうした事態を回避するために、規制緩和政策の一環として、ノーアクションレター(法令適用事前確認手続)という制度が整備されました。
ノーアクションレターとは、
「具体的な事業内容を明らかにすることにより、当該事業が法令に違反するかどうかを事前に官庁に問い合わせることができる」
制度です。
企業は、違反するかどうかを確認したい法令と条文、具体的な事業の内容、自社の法令適合性に関する見解、連絡先などを記載した照会書を当該規制法令の所管官庁の担当窓口に提出することにより、多くの場合30日以内程度で、当該官庁からの回答を得ることができます。
モデル助言:
ノーアクションレターの回答結果は、司法判断や捜査機関等を拘束する効力はなく、ノーアクションレターで法令違反とならない旨の回答が得られた場合でも、後に、裁判手続等において絶対に違法と判断されないことが保証されるわけではありません。
ですが、微妙な法律判断において、事実上の
「行政のお墨付き」
がもらえることは、非常に心強いものといえますから、ぜひとも活用したいところです。
ノ-アクションレター制度においては、照会事項や回答内容が当該官庁のウェッブサイトで公表されることとなっていますので、公表したくない事柄については当該制度を利用できないという難点があるにはありますが、合理的な理由を示せば、希望する時期まで公表を延期してくれる制度もあります。
まずは、非公式な相談をしてみた上で、それでもなお、お墨付きが必要というのであれば、ノーアクションレターを採取する方向でやってみましょうか。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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