00152_企業法務ケーススタディ(No.0107):整理解雇のお作法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
特命パートナーズ 社長 杉下 左奇男(すぎした さきお、58歳)

相談内容: 
先生、ひとつよろしいですか?
最近の不景気について、先生はどのように分析しておられますか。
私は、調査分析を経た結果、この不景気をひとつの好機と捉え、
「不景気を理由として人員削減を進めたほうが良い」
という結論に達しました。
わが社では、若手はよく働いてくれます。
現場にも始終出ますし、何より熱心です。
一方、中間管理職の連中は
「穀潰し(ごくつぶし)」
といわざるを得ません。
彼らは、働きが悪いばかりか、私の指示にも盾突く始末。
この間などは、私が、
「長嶋茂雄を崇拝する、“大”の付く巨人ファン」
であることを知りながら、暑気払いの終わりに、タイガースファンの亀山課長が筆頭となって、六甲おろしを皆で合唱する、なんてことをしましてね。
このことからも、私への敬意を欠いていることが明らかであるといえましょう。
さて、先生、私は、前から、こういう使えない輩を一掃してリストラを進めたいと考えているわけですが、不景気は渡りに船。
同業他社はどこもリストラしており、業界ではプチリストラブームです。
私もブームに乗って、
「業界全体どこも大変で、もうリストラもやむを得ないから」
という空気感を作って、ダメな連中をクビにしたいのです。
新聞でも
「不況下ではリストラ解雇は認められる」
と書いてましたし、解雇は問題なくできますよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:整理解雇
会社が人を雇うという行為は結婚に、解雇は離婚に例えることができます。
すなわち、
「結婚は自由だが離婚は不自由」
と言われるように、採用は非常にイージーにできますが、離婚(解雇)は大問題になります。
例えば、裁判離婚(強制離婚とも呼ばれます)では、裁判所が相当と認めない限り離婚が認められることはありませんし、解雇についても、従業員側に相当な非違事由がない限り、裁判所は、解雇をほとんど認めてくれないのが現状です。
もっとも会社が存続しなくては雇用関係も意味がなくなってしまいます。
そこで、会社がつぶれそうな場合には、従業員側に非違行為がなくても、次の要件を満たすことで特別の解雇(整理解雇)が認められています。
すなわち、
1 人員削減の必要性
2 解雇回避努力義務の履行
3 人選の合理性
という整理解雇理由の要件と
4 解雇するに際して説明・協議等をしたか
という手続要件の計4要件です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:4要件の検討
整理解雇の各要件について詳しくみていきます。
まず、
1 人員削減の必要性について
は、人件費削減の必要性や業績悪化などという抽象的な理由では足りません。
もっとも、裁判所が、人員削減の必要性の有無について検討する際、使用者の経営判断(裁量)が尊重される傾向にあるため、人員削減の必要性がないことが明白な場合を除き、当該要件自体は認められることが通常です。
次に
2 解雇回避努力義務
については、新規募集の停止、ボーナスのカット、希望退職者の募集などの手段を尽くす必要があります。
このような努力義務を尽くすことなくいきなり整理解雇という強硬な手段に出た場合には、解雇権の乱用と判断されてしまいますから十分な留意が必要です。
さらに、
3 の人選基準
については、人員削減基準が客観的かつ合理的である必要があります。
整理解雇は、決して恣意的な解雇を認めているわけではありませんから、後日の訴訟をも見越して、客観的な基準を整備しておくべきでしょう。
最後に
4として、十分な手続・手順を踏むことも求められます。

モデル助言: 
御社がどれほど経営危機に陥っているかという点は別途調査するとしても、2の解雇回避努力義務と3の人選基準は問題になりそうですね。
話を聞いていますと希望退職者の募集も行っていないようで、
「社長の主観面においてキライな中間管理職を一斉に解雇したいだけ」
という印象を受けます。
このような場合には、整理解雇の要件の充足はキビしいと思われます。
「デキナイ」
人間について、クビにしたいのであれば、単純に普通解雇ができるかどうかを個別に検討すべきです。
無論、
「解雇権の濫用」
などといわれないように、いかに
「デキナイ」
人間かを慎重に調査・裏付けすることは必須の前提です。
もちろん、従業員が自分の意思で辞めていただく場合には、理由など問われませんから、まずは、事実上の退職勧奨を行い、従業員から辞表を出していただくことを行うべきですね。
手間は掛かりますが、世間でいわれている
「リストラ」
とは通常はこの手法を意味します。
とにかくあせりは禁物です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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